第一節 オランド号を紹介し糸作り会が始まった
「やっぱりオランド号の航海は気持ち良いね」
ルクレイはレベナの港を出港したオランド号の船首区画で風を受けていた。その隣にはメダル船長と妻のリアンが並び優しい目でルクレイを見ていた。
「リアンさんも来てくれてとっても嬉しい。昨日は時間は少し短かったけどレベナの浜焼き場を見せる事ができました美味しかったよね〜」
振り返ったルクレイが笑みを見せて二人に話しかけた。
「美味しかったわ。まさかルクレイが獲ってくるとは思わなかったけど獲るの上手なのね。海に入っても全く濡れていなかったのもびっくりしたのよ」
リアンは獲物を持ってきたルクレイの顔を思い出しクスッと笑った。
先日にレベナに入港したオランド号から降りてきたメダル船長にルクレイは飛び付いた。出迎えたヴィオナと降りてきたリアンは挨拶して二人を見ていた。
ルクレイは二人を馬車に押し込んで浜焼き場に直行した。既にルクレイが来ると噂が流れ工房の人たちが夕食を兼ねて浜焼き場に集まって騒いでいた。
イゴルト工房主やベリーナ工房主たちにメダル船長たちを紹介して浜焼き宴会が始まった。リアンはレベナの変化に目を丸くして驚いていた。
夕陽が沈む時間にルクレイはメダル船長も誘った。
「海の上から一緒に日が沈むところを見ようよ。階段は広めに出すし灯光魔道具があるから暗くても降りてこれるよ。僕とヴィーは毎日デートしてるよ」
ルクレイは空に向かっていつもよりかなり広い階段を水壁で展開した。灯光魔道具をメダル船長に渡しルクレイはヴィオナをエスコートして登り始めた。
「凄いわね。これは良い機会ですからルクレイの招待を受けますよ。怖かったらメダルは下で待っててくださいね」
リアンは目をキラキラさせて階段を登ろうとした。慌てたメダル船長が手を差し出し灯りを持ち上げた。リアンは手を取り二人は楽しそうに階段を登った。
登り切ると煌めく水壁の床にルクレイとヴィオナが肩を寄せ合い座っていた。振り向いたルクレイが「いらっしゃい」と声をかけ誘った。
メダル船長とリアンも座り沈みゆく夕陽に見入った。見慣れた夕陽がなにか特別なものに見えた。流れる時間を四人は楽しみ雑談をして過ごした。
日が沈み周囲が暗くなった。手元の灯光魔道具の灯りに照らされました水壁の階段は仄かな光を返し踏むたびに灯りがゆらゆらと波打った。
帰路の海岸沿いは所々に灯光魔道具が置かれ小道を指し示していた。合流したユミナも含め五人はテクテクと小道を歩いてオランド号に戻った。
◇ ◇ ◇ ◇
今回の海岸航路に領地を持つ貴族家訪問は根本的にかなり異例である。三歳の時に王都で王宮茶会が開かれるが普段は領地にいてそれほど交流を持たない。
子ども同士の交流はあったとしても貴族家当主に挨拶回りをする事はない。
今回は訪問団の責任者がルクレイとなっている事からルクレイが主導していた。当主に会うのも目的の一つだが他領を見る機会を作りたくて企画していた。
訪問団はルクレイとヴィオナが率いる。主役はマルセリオとフィリクスの二人。リドルは見聞を広めるためルクレイに預けられた形になっている。
レグルスたちは『涼風の旋律』メンバーの子どもたちだがルクレイの提案に巻き込まれて同行している。レグルスはアルフォンスなので少し立ち位置は違った。
九名の訪問団に加え専属侍女のユミナと侍女としてアユナを含め三名に加え騎士が三名となって総勢は十五名となっていた。
これはオランド号が使えると分かり増員された結果である。馬はニロンとナンニに加え双子たちの四頭と騎士の三頭で九頭とかなりの大所帯だった。
「ルクにぃーオランド号を案内してー」
マルセリオがルクレイに声をかけた。ルクレイは振り返り「いいよー」と答え双子とクラムとエグリアのところに歩いていった。
メダル船長はリアンを船首室に連れて行った。
船首室には女性陣が集まり双風魔道具で涼んでいた。サイドスリットは全て開き灯光魔道具で明るさを確保していた。
船首室には双子やリドルとレグルスの相棒たちが寛いでいた。リドルとレグルスはアルフォンスから風寛魔道具をもらっていたのでそれを展開していた。
ヴィオナはメリアとレジン小物を相談しながら作っていた。リンダから染料を貰ったので色を付けて遊んでいた。そこにリアンが加わり雑談の花が咲いた。
甲板ではルクレイが船上の案内をしていた。リドルとレグルスも暇なので加わっていた。最初はマスト甲板に向かいながら説明した。
「オランド号は最初に乗り込んだ下甲板と今いる上甲板があるでしょ。最初の見どころはこの柱……船首係留柱という物で港に接岸したときに係留索を繋ぐとこ」
ルクレイは歩きながら指を差したり触ったりしながら説明を行った。マスト甲板は船首室に入る通路を作るために作られたといった工夫も話した。
将来的に付けられるジブやガフの説明もした。これは実物がないので軽く流した。ガフに関しては上帆桁と下帆桁は既に付いてるので役割を説明した。
操船台は双子も興味津々で操舵手がメダル船長に視線を回すと頷きが返ってきたので実際に触ることができた。双子より大きい舵輪に目を輝かせていた。
船尾楼に上がると「うわー高い!」と双子が駆け出したのでルクレイが捕獲した。落水すると助けられるけど皆に迷惑が掛かると諭した。
「ルクレイ、そういえばアルフォンス殿が作って置いていった釣りの道具があるぞ。その隅に置いてある箱に無造作に入れてたから見てみたらどうだ?」
メダル船長がルクレイにアルフォンスが残した遊び道具を教えた。
「釣りの道具?」
ルクレイはつい尋ねながら隅においてあった箱を開けた。中には130cmぐらいの棒と先端に結んだ糸と釣り針だった。
「あーまさに暇潰し……というより糸を垂らす行動に何となく意味のあった釣り竿かな。この糸の長さだと船尾付近で海面に釣り針を入れるぐらいですよね」
ルクレイは糸も見て『既存糸だな』と作った時期はかなり前と判断した。全体的にメンテナンス不足で放置された感じの痛み方だった。
「よくばっと見で分かるな。大体は糸を垂らしてテーブルで何かしてたな。釣れたのはリューウェンの近くで一回だけだぞ」
「これで一回でも釣れたら運が良いかな。表層でこの仕掛けだと釣れても小さいシイラぐらいかな。もう少し糸が長ければ……切られて終わりか」
ルクレイは首を傾げ考えたが糸が切られる未来しか見えなかった。
「ルクにぃーそれで遊べる?」
「んー、これはアルフォンスさんのだから僕たちは別に作ってみよう。釣り針は手持ちがないけどかなり箱に入ってる。これだけもらっちゃおう」
「「つくるー!」」「えっ? これから作るの?」
双子は即賛成しリドルは呆れ顔になった。レグルスだけはルクレイを見ていた。
「棒を作るのも面倒だしレジン糸を作って釣り針を投入しちゃおう。ある程度の長さを作るからリオとリクで掻き混ぜてね。よーし、用意開始ー」
ルクレイは開始を宣言すると少し遠回りの階段に向かった。双子は「「まてー」」と声を上げながら最短ルートの階段に向かった。
「走ると危ないから歩いて移動だよー。必要なのは過熱魔道具と鍋が二個で一つは小鍋だよー。あとは撹拌棒だけどコロコロ棒でも良いからね」
ルクレイはのんびり歩いて船首室に向かった。前方を双子が階段を降りて船首室に向かっていた。ルクレイは別に競争するつもりは最初からなかった。
「「先にとうちゃーく」」「われわれは」「まけない!」
突然入ってきた双子にヴィオナたちは目を丸くした。双子が「鍋どこー」「加熱ー」と船首室内の荷物から目的の物を探し始めた。
「コロコロ棒!」「鍋!」
マルセリオが鍋を見つけフィリクスがコロコロ棒を見つけ掲げていた。ヴィオナは何となく状況が分かり双子を見ながらくすくす笑った。
「見つかった?」
ルクレイが入ってきた。ルクレイは双子を見て「後は加熱魔道具か」と備え付けの棚に向かい二台取り出した。隅に積んであるレジン粉の袋も持った。
「転ばないように船尾楼に戻るよー」
ルクレイが双子に声をかけヴィオナに笑顔を向けて軽く手を振った。
ルクレイは双子を促して船尾楼に向かった。マルセリオとフィリクスは首を傾げ「「はかられた?」」と微妙な顔をしてルクレイを追って船首室を出た。
◇ ◇ ◇ ◇
船尾楼にテーブルを出してルクレイはレジン糸を作る準備を済ませた。中鍋に水を造水で流し込み目分量でレジン粉を投入し加熱魔道具を起動した。
小鍋にも水を流し込んで比率的には柔らかい方に寄せてレジン粉を投入し同じように加熱魔道具を起動した。
「分量はきちんと覚えてなかったので適当だよ。ちょっと溶かしきって見本のレジン糸にしてみるよ。硬いと糸でなくて棒になっちゃうからね」
ルクレイはコロコロ棒を二本とも受け取り二つの鍋を掻き回し始めた。掻き回しながら今回の釣りチャレンジの方法を全員に説明した。
「基本的に釣り針を海に入れて待つだけだよ。釣るのはクラムとレグルスは一人でエグリアは僕が補助に付くね。リオとリクはリドルが補助に入って」
ルクレイは簡単に組み分けを決めた。リドルは補助と聞いて頷いた。クラムは少し不安そうな顔をしてレグルスは肩を竦めて頷いた。
ルクレイは試しに二つの鍋に魔力照射を行なってレジン糸の硬さを確認した。小鍋には少し水を足し中鍋はそのままとした。
そこからルクレイはエグリア用の見本となるレジン糸を作り出した。目標は長さを50mとして太さは1.5mmにした。ぐるぐると掻き混ぜてレジン糸を作った。
「太さと長さはこんな感じで作るよ。最初に作るのは誰かな?」
ルクレイが聞くと「「はーい!」」と双子が揃って手を挙げた。ルクレイは首を傾げクラムを指定した。目を丸くした双子が抗議した。
「まぁまぁ、ここは年上のクラムに任せようね。リオとリクは作った事があるでしょ? まずは初めて作るクラムを応援しよう」
ルクレイは双子に説明してクラムにコロコロ棒を渡した。双子は「「クラム頑張れー」」と声援を送ることにした。
クラムは諦めてコロコロ棒で掻き混ぜ始めた。
レジン糸作りは大騒ぎとなった。初めて作ったクラムのレジン糸は太さがガタガタだった。掻き混ぜた水流が全く安定せず不揃いの枠を超えていた、
そこからお互いに話し合いながら水流を安定させる方法を話し合った。一人が挑戦している間に話し合い交代交代で作り続けた。
ルクレイはレジン液の準備を侍女に頼んだ。ヴィオナたちも見学に来て掻き混ぜ方を教え始めた。それっぽいレジン糸を手にする頃には昼食の時間だった。




