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海の落とし者と釣り竿  作者: うにまる
第十七章 女神様の長話とマシュマロと楽しい交流

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第六節 貴族家訪問の準備と移動時の構成は悩ましい

 メルカド伯爵邸マナーハウスにある池では男の子たちが泳いだりサップに乗って遊んでいた。畔のタープの下ではルクレイとヴィオナがローチェアで寛いでいた。


「お疲れさまでしたね。リオとリクもみんな楽しそうでした。マシュマロもみんな作れて交換したのも面白かったですね。かなり甘かったですけど……」


 ヴィオナが横目でルクレイに話しかけた。


「ちょっと砂糖が多かったかも。結論としてはリクのマシュマロが一番評価が高かったね。クラムのマシュマロも甘さがかなり控えめで評価が高かった」


 ルクレイはささやかな非難の目は気にせず評価が出た事に少し驚いていた。確かに100g全部入れれば甘すぎるとルクレイは知っていた。


「リクは感覚的に一番良い加減を選んでた。あれはそういった感性を持っていて感性を信じてるからだろうね。今回の驚きはそこに尽きるかな」


 悪戯で多めの砂糖を配布したルクレイの思惑をフィリクスは回避していた。


「まぁ……リクは照れてましたけど嬉しそうでしたね。それはそうと後から作ったメレンゲを焼いたものは何だったのですか?」


 ヴィオナは照れていたフィリクスを思い出してクスッと笑った。


「あれかー。あれはメレンゲを焼いただけなんだけどボーロって言うみたいだよ。王都とかにあったりしないのかな? 卵だからないのかもしれないね」


 ルクレイは素材としてメレンゲはあったから作られていると考えていた。


「王都にあるかは分かりませんねぇ。面白い食感ですし作るのも難しくないので流行りそうな気もしますが露店で売りやすいかは難しいところです」


「まぁ……卵だからね。しかも卵白だけで黄身を使わないのはもったいない。いちおう、黄身の使い道を料理長には伝えてあるから夕食に出るかも?」


 王国は卵の扱いがお菓子に寄っている点をルクレイは不思議に感じていた。


「料理長といえばあの石窯はどこに運んだんですか?」


「取り敢えず石置き場の傍に置いたよ。再現して固着を使わなくても組めるようにするんだって。窯があると野外調理で作れる物が増えるって張り切ってた」


 ルクレイはステーキやコネ焼きは好きなので窯の恩恵がピンと来なかった。ホルンミルクはあるがチーズがないと知っていたのでピザは諦めていた。


 そのホルンミルクもフィオたちからティアーヌの魔法で討伐はしたが三層から撤退したと聞いていた。カノンの剣が出来たところで再挑戦するとの事だった。


「マシュマロは夕食の後に焚き火で炙るんですよね。みんな楽しみにしてましたよ。わたしも楽しみです。ところで訪問の準備で不足はありませんか?」


 ヴィオナが貴族家の訪問で不足している点がないかルクレイに確認した。


「持ち込むのは特産ではないけど『爽快の実』とその乾燥果物で準備は問題ないよ。即席魚粉は資料を執事長さんにお願いしてるからこっちも問題ない」


 ルクレイはヴィオナに準備している内容の摺合せをした。基本的に一緒にやっているのでヴィオナも知らない内容は存在しなかった。


「製糸工房でのコロコロ実演と製材工房での乾燥実演は相手の出方次第だけど大丈夫だと思う。厄介草と生木の間伐材はレベナにあるから持っていくかな」


 実演物は現地にもあるとは思うが持ち込み品で見てもらう場合も想定していた。繊維を取り出す工程が楽になれば糸にする部分に余力が回せると考えた。


「悩んでるのは馬をどうするかだよね」


 ルクレイの一言に「そうですね」とヴィオナも難しい顔になった。今回は港町のみの訪問なので連れて行かない方向で検討を進めていた。


 ただ双子やリドルたちからは連れていきたい空気が漂っていた。ルクレイがニロンに聞いた限りでは馬のバルムたちも行きたいようだった。


「ある意味で意思の疎通が出来てる証なんだけどバルムたちにお出かけがバレてるんだよね。これでニロンは連れて行くだと拗ねるよね」


 ルクレイが眉を下げると「拗ねますね」とヴィオナがとどめを刺した。


「とはいえ連絡船に馬が九頭は乗るけど狭いよね。ニロンの風寛魔道具を増やすにしてもちょっと厳しい。ナンニ用も必要だから増やすけど……狭いよなぁ」


 20m級の一本マストで横帆の平甲板なので空間は確保できる。船首にある錨の巻き上げ機が場所を取っているがブレースの邪魔さえしなければ許容範囲だった。


「重心を考えると船尾側に僕たちがいた方が良いけど連絡船は舵柄棒だから舵柄甲板は危険だし。これはちゃんとグレアルさんに確認しないとダメだな」


 脳内で乗れると判断できるが色々と無理が大きかった。ノルド家の連絡船に強要できる範囲を流石に逸脱しているとルクレイは判断した。


「それほどギリギリなの?」


 ルクレイの結論にヴィオナが首を傾げた。


「空間的には入るんだけどバランスが完全に崩れるから操船が難しい。こういう場合はバランスを取るのに重しを船尾側に入れるけど船長判断では拒否だよね」


 船長は船に責任を持つため権限は強い。ここまでギリギリだと安全を優先するため拒否するのが当然とルクレイは話した。判断ミスは船と人を失うと加えた。


「なるほど……バランスを崩すと危険なのは分かります。手当するなら船主であるグレアルさんに聞くしかないですね。うちの連絡船だったらどうです?」


 ヴィオナはルクレイの考えを聞き人の船でなく自前だったらと尋ねた。


「僕なら拒否するかな。まずはそういった操船をした事があるかを確認してからだけど。経験してないとしたら絶対に拒否かな。だってギリギリだからね」


 ルクレイは迷うことなく拒否を前提とした。


「ノルド家はとにかく多くの連絡船を動かしてるからね。たまたま同じような条件で操船をして経験済みかもしれないという期待でその辺りを確認するぐらい」


「難しいものですね」


 ルクレイの判断を疑う気がないヴィオナは考える事が多いなで流した。


「感覚的には馬が五頭で人も五人辺りが重しも少なく安全に航海する限界って気がするかな。馬が一頭で人なら二人で計算する感じなのかな」


 ルクレイは人であればマスト付近に集まってもらい状況次第での移動も楽だから結構な人数でもイケるとヴィオナに話した。


「ただねー、人が増えると一人ぐらいは落水するかも?」


 人は人で違う意味の計算違いが出るとルクレイは笑った。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 昼食が終わるとマルセリオとフィリクスが連行されていった。執事長の訪問の作法教室ということでルクレイとヴィオナは「頑張ってー」と声援を贈った。


 クラムたちは騎士に馬に乗らないかと誘われていた。ここ最近になって子どもに乗馬を習わせる事が流行り始めていた。


「騎乗指導の方法がルクレイ殿とニロンのおかげで固まりました。次の段階として子どもに教える手順を作る事になり子どもを乗馬に誘っています」


 ルクレイが不思議に思い聞いた返答が手順作成のためだった。子どもを相手に試行錯誤する事が元の手順の見直しになる可能性を騎士団長が指摘していた。


「僕は最初がリオとリクだったからその発想はなかったなぁ。たぶん騎士向けの手順は所々に抜けがあるって騎士団長は気が付いたんだろうね」


 ルクレイとヴィオナはクラムたちを見送って畔の拠点には二人とユミナだけになった。急に周囲が静かになりルクレイとヴィオナはくすくす笑った。


「そうだ、前々から試そうと思ってた事があるんだ。あのコロコロ棒が頑丈で軽量な理由の再現確認。サップを軽量にできるか試してみるね」


「あら……サップをコロコロするのですか?」


 ルクレイのやる事を聞いてヴィオナがしれっと揶揄り始めた。


「いや転がさないよ? あれはなんていうか棒だったから無意識で転がしてただけだよ。それもリドルに指摘されてからは転がしてないよ?」


「それなのにリオたちにコロコロ棒って名付けられてましたね」


 経緯を知ってるヴィオナは揶揄った反応が面白くクスッと笑った。


「それではわたしも細いレジン糸の鍛錬をしますね。今より細くはとても難しいです。それでも製糸魔道具には負けませんよ!」


 ヴィオナは席を立ちフンスと気合を入れた。ユミナが「端ないわよ」とヴィオナを揶揄ってレジン液の準備を始めた。ヴィオナはユミナに苦情を上げていた。


 ルクレイは二人のやり取りを横目にサップを取りに動いた。ふと思い立ってルクレイは「取水口に行かない?」とヴィオナに声をかけた。


 ヴィオナは「いいよー」と答えユミナが従僕に声を掛けてローチェアや鍋などを運び始めた。ルクレイは反応の早さに慌てて後を追った。


 池に続く水路の横に用意した小道をルクレイはヴィオナをエスコートして取水口を目指した。水路には花崗岩の小石が綺麗に沈んでいた。


「この水路は綺麗だよね。庭師さんが同じ小石で統一感を出せば綺麗に整うって言ってたけどほんとに整ってる。小道は転圧しただけだけど花が植えてある」


 ルクレイはできて間もないこの小道が少しずつ変化しているのが楽しかった。


「この水路は侍女たちにも評判が良いですよ。レイが小石を補充してるからあちこち綺麗にしてるみたいです。花崗岩の人気は留まるところがないですよ?」


 レベナでもあったがとにかく花崗岩は部分的にキラキラしているので女性受けが良かった。石置き場はほぼ花崗岩の専用空間になっていた。


「安山岩や玄武岩は華やかさがないからねぇ。華やかな石って何か……そういえば石灰岩は白くて綺麗だよね? あれって人気出ると思う?」


「真っ白ですよね。綺麗だとは思いますが華やかではないですね」


 安山岩と玄武岩は無視して石灰岩の評価だけをヴィオナはルクレイに告げた。無慈悲な事に石灰岩も乙女心には響かなかった。


『最近、黒曜石って思い出したんだけど……あれも真っ黒だよね。前世では鏃とかに使ったと習った記憶はあるけど……出したら呪われる扱いだよなー』


 ルクレイは受けの良い石をたまに考えていた。ただ宝石に寄せて作れると問題になりそうなのでルクレイ的に普通の石で考え行き詰まっていた。


 溶岩石を出している時点で普通という基準に問題があるとは思ってなかった。


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