第五節 マシュマロを作って石窯も作ってみた
メルカド伯爵邸の池の畔でお菓子作り大会が準備されていた。作る物はマシュマロなのでそれほど大規模な大会でなく単なる遊びだった。
ルクレイは料理長に声を掛けて低温で煮出した骨を拠点に回してもらった。それを煮出す拠点としてタープを張った。
従僕に骨を運ばせた料理長は頼まれた卵や砂糖を持参してそのまま居残った。
「えー、それではマシュマロ作り会を始めたいと思います。審査は料理長が行ってくれますが優劣がそもそもないので料理長は味見するだけです」
ルクレイが参加者に料理長を紹介したがグダグダな感じしかなかった。
「マシュマロの作り方はみんなに配ったメモを見てね。メレンゲというのを作る部分はかなり大変なので希望者だけ体験する形にして僕が用意します」
ルクレイが簡単に説明を行った。そしてルクレイが用意した見本はゼラチン粉が10gで溶かす水を50gで用意した。砂糖は100gほど積み上げた小皿にした。
「これが卵をひとつ使った時のおおよその目安です。手順に書いたように水にゼラチン粉を入れて溶かしておいてください。砂糖は好みなのでお任せです」
ルクレイは最初の試作となるので卵は各自ひとつで行うことを宣言した。
マルセリオとフィリクスはクラムたちと相談して材料を集めた。端的に目分量で10gのゼラチン粉は難しいため各自で少しずつズレが生まれていた。
入手したゼラチン粉を侍女が用意したカップに入れてカチャカチャと掻き混ぜ溶かしていく。加熱魔道具で少し温度を上げたりと各自が工夫していた。
ルクレイがうんうんと頷いて大きな深皿を取り出して十個の卵白を入れてカシャカシャと掻き回し始めた。掻き回しながら侍女に次の指示を出した。
子どもたちに加えて料理長とヴィオナと巻き込まれたユミナもゼラチン粉を水に溶かしていた。全員に砂糖が配られ一緒に溶かし甘味を付けていった。
ルクレイは各自の小皿に砂糖を100g程度入れておいた。
シャカシャカと卵白がメレンゲになったところでルクレイは手を止めた。そして用意してもらった人数分の深皿にメレンゲを取り分けていく。
侍女に配ってもらっている間にルクレイもゼラチン粉と砂糖を溶かしておく。
「それではマシュマロ作りです。配ったメレンゲに溶かしたゼラチン液を少しずつ入れながら掻き混ぜてください。自信がなければ侍女さんに手伝ってもらって」
ルクレイが軽く説明すると右手でカチャカチャと掻き混ぜながらゼラチン液を少しずつ入れていく。周囲からカチャカチャと音だけが響いていた。
「これで良いと思ったところで冷却保管箱に入れる入れ物に移して冷やしてくださいねー。これも自信がなければ侍女さんが手伝ってくれますよ」
メリアとエグリアが侍女に手伝ってもらって作業していた。
全員が冷却保管箱に仕舞いルクレイを見た。ルクレイはうんうんと頷いた。そしてメレンゲ作りに挑戦したい希望者を募った。
双子とクラムとヴィオナが手を挙げた。
「それでは参加者は四名ですね。ヴィーは大丈夫だけどリオとリクとクラムは侍女さんからコツを聞いて頑張ってください。ユミナも一つお願い」
ルクレイが侍女に指示して双子たちのサポートに入ってもらった。ヴィオナとユミナは楽しそうにメレンゲを作り始めた。
ルクレイは造石で竈用の石を作り竈を組み始めた。普段は焼くために上部は開口部になっているがルクレイは石窯の形でどんどんと組み上げていく。
土木魔法の固着も使い石窯を作ると料理長が「これは窯ですな」とルクレイが作った石窯をしげしげと観察した。厨房で使うが屋外で見た事がなかった。
「ここまで石で組むと重いからね。屋外に石窯を組んだら移動させるの困難だし普通は作らないのは理解できるよ。竈も移動させるのは楽じゃないし」
竈の移動は楽ではないと言ってはいるが伯爵邸では多くの竈が作られ色々な場所に運ばれ野外調理場が爆発的に増えていた。
これを機に石窯も作られ始め野外調理場の定番になっていく。
「メレンゲはだいぶ出来てきましたね。ヴィーとユミナの分は完成してるから砂糖を少し溶かして加えてみて。初めてだから分量は覚えておいて」
ルクレイは小皿に100gの砂糖を置いて二人に渡した。
ルクレイがテーブルを見ていくとフィリクスとクラムの砂糖が残っているのに気が付いた。クラムは半分の50g程度が残っていてルクレイは意外に思った。
二人に聞くと「甘いのが苦手」とクラムが答え「甘すぎそうな気がした」とフィリクスが答えた。フィリクスの砂糖は30gほど残っていた。
「ふふ、二人は同じ残したけど理由は違うんだね。食べ比べが楽しみだよね」
ルクレイはクラムの手順書に50と砂糖の横に書き加えフィリクスの手順書には70と書き込んだ。二人は書き込まれた文字を見て首を傾げていた。
「レイ、砂糖を混ぜたけどどうするの?」
ヴィオナがルクレイに声をかけた。ルクレイはヴィオナのところに駆け寄りメレンゲの状態を確認した。綺麗なメレンゲを見てヴィオナを褒め称えた。
ルクレイは従僕に声を掛けて石窯に火を入れてもらった。高温にする必要はなかったのでほどほどの火力で頼んだ。
「ヴィーとユミナはメレンゲをスプーンで掬って鉄板の上に並べて。掬ってポイって感じでポンポン置いていく感じで良いよ。終わったら窯に入れるからね」
ヴィオナとユミナは首を傾げたが「分かったー」と二人でメレンゲをポイポイと鉄板に落とし始めた双子がやりたそうに二人を見ていた。
「リオとリクもやってみたかったらメレンゲを完成させれば出来るよ。砂糖を入れなくても大丈夫だし入れるなら量も任せるから自由に決めちゃって」
ルクレイの声に「「やったー」」と気合を入れてメレンゲの仕上げに入った。ついてる侍女に砂糖を溶かす作業を頼みカチャカチャと掻き混ぜていた。
石窯を確認したルクレイは下の火を維持するように従僕に頼んだ。そして燃えている薪をひょいひょいと掴んで窯内の隅に置いた。
石窯の中を見ていたルクレイは「100度は超えたか」と呟き石窯の中に入れた薪を少し間引いて下の火室に戻してヴィオナたちのところに戻った。
「この鉄板を窯の中にいれてメレンゲを焼こうね」
ルクレイは鉄板を持つとヴィオナと一緒に石窯の前まで行き窯の中に鉄板を入れた。分析で内部の温度を再度チェックして置いた薪の位置を調整した。
「卵白と砂糖しか使ってないのに焼くの? 料理長はこれって知ってます?」
ヴィオナは単純すぎる作業に首を傾げて料理長に確認した。
「王都から幾つかお菓子のレシピが流れて来ましたがこれはなかったと思います」
料理長もルクレイが作り始めた物がなにかよく分からなかった。材料はお菓子用ではあるが子どもたちが作れる物だけに何が出来るのか想像できなかった。
「そろそろ冷えたと思うから各自で取り出して適当に切り分けで食べてみて。食べ比べると面白いと思うから交換してね。侍女さんは手伝ってあげて」
ルクレイはマシュマロの試食を勧めた。鉄板にメレンゲを落としていた双子も侍女に任せて自分の分が入っている冷却保管箱を取りに行った。
ルクレイも自分の分を取り出し切り分けてお皿に並べた。ひとつ摘んで食べてみると懐かしいマシュマロの感触が口の中に広がった。
『ふふ、旨味成分は取り切れないから少し牛骨スープの風味が残ってる。それでも甘味が誤魔化してるからお菓子と言われれば納得する範囲かな』
ルクレイはゼラチンに残っている牛骨の旨味成分がマシュマロに出ている事に気が付いた。ちょっと違う感はあったが別に困らないから気にしない事にした。
「うわー、甘くて美味しいー」「めっちゃ美味しいー」「美味しい」
双子たちは自分の分を食べて食感と甘味を楽しんでいた。交換した後にクラムとフィリクスが「「甘すぎるー」」と妙に揃っていてルクレイは笑った。
子どもたちの喧騒を聞きながらルクレイが石窯を覗き込むと良い具合だった。鉄板を取り出してテーブルに水壁を展開して鉄板を置いた。
スプーンで鉄板の上の焼いたメレンゲを拾い集めて平皿に並べていく。ヴィオナとユミナが近寄ってきてスプーンで拾う手伝いをして全て拾った。
「少し冷ましてから味見してみて。リオたちの鉄板を石窯に入れてくるね」
ルクレイはまだ熱い鉄板と双子が並べていた鉄板を持って石窯に向かった。熱い鉄板は石窯の上に置いて窯の中に新たに鉄板を入れて温度を調節した。
料理長は石窯の中の温度などを経験から確認しメモに書き起こしていた。
『温度計がないから経験だけが頼りだよね。逆に言えば経験でその辺りが分かるんだから凄い。窯の温度を数値化する方法は知らないから経験頼みだよね』
ルクレイの前世の記憶だと溶解する温度が分かっている部材で温度を見る方法も浮かんでいた。しかし普及させる土台がないので経験頼みで済ます事にした。
「ルクレイ殿、この石の窯を調べて良いでしょうか?」
料理長が真剣な眼差しでルクレイに尋ねた。
「この石窯は土木魔法の固着で誤魔化してるけど役に立つかな?」
「役に立つというよりも組み方は理解できています。これをいくつか試作して野外での利用方法を考えてみたいです。完成品があるととても助かります」
野外で石窯を活用する道筋を料理長は調べたかった。
「ふふ、料理長も新しい道具を見るとワクワクする方だね。野外調理が流行ってるみたいだしちょっと楽しくなってきた。この石窯は自由に使っていいよ」
ルクレイは笑顔で料理長に許可を出した。実際のところ野外の石窯はどこかにあるだろうと考えていた。でもこの地になかったなら新しい道具である。
窯自体は厨房に設置されている。単にそれが屋外に置かれただけではあるがルクレイは屋外で調理と食事を楽しむ文化が進むのは楽しいと感じていた。
テーブルの方から歓声が上がった。ヴィオナとユミナが作ったボーロが子どもたちに受けたようだった。ルクレイの口角が少し上がった。
ルクレイの前世の記憶ではマシュマロはキャンプの時の暇潰しであった。でも少し状況が変われば交流であり遊びでとして成立すると確信した。
「ふふ、みんなが笑顔で楽しそう。この瞬間がやっぱり好きだな。……あっ、食べ切られちゃうと夜の焚き火で楽しむ分が……まぁまた作ればいいか」
ルクレイは焚き火でマシュマロを焼く遊びもやってみようと考えていた。
特に深い意味を考えずに作り始めた池だったが人が集まり記憶に残っていく場として定着し始めていた。
ルクレイは野外の食事場も素敵にしたいと考えを進めた。




