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海の落とし者と釣り竿  作者: うにまる
第十七章 女神様の長話とマシュマロと楽しい交流

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第四節 夫人たちの王都行きと鍛錬という名の悪戯

 メルカド伯爵邸マナーハウスにある池の畔に多くのヘキサタープが張られていた。ルクレイがちょこちょこ回ってタープを張る位置の指定をしていた。


「今日はタープを張り巡らせて野外食堂を試験的に設営します。サイドポールの使い方も考えて設置してください。焚き火もしますので配置も工夫してね」


 ルクレイが大まかな位置を指定した場所にヘキサタープを仮設置していた。灯光魔道具も設置して暗くなった後の灯りの取り方を執事長と相談した。


 ルクレイは小島を照らす灯光魔道具も起動した。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 夕食の時刻になり伯爵夫妻たちも野外食堂に顔を出した。バルテア伯爵は野外食堂を見て回り執事長と話した後にルクレイたちがいるタープに入った。


「レベナからホルンの骨が届いたからカリスタが料理長にスープの煮出しを指示してたぞ。ルクレイはあの骨は使わないのか?」


 バルテア伯爵は席に着きルクレイに話し掛けた。


「ゼラチン粉はまだあるので活用法を調べる方が有益です。料理長にお茶用の設定以下で煮出した骨は分けてゼラチンの方も追加でお願いしてあります」


 必要な手配はしてあるとルクレイは答えた。


「ホルンの骨に関しては王都とリューウェンに手紙を出しました。ルクレイが骨を確保してくれたので検証を進めお義母様とマティルダ様に会おうと思います」


 カリスタ伯爵夫人は決まった方針を伝えた。


「カリスタにドレス風乗馬服の件も持ち出されちゃ行くしかなかろう。ヴィオが二歳の時に一度訪問してるんじゃが……ヴィオは覚えとるか?」


 久しぶりに王都行きが決まったイゼルダ前伯爵夫人は肩を竦めた。


「えっとね……お祖母様とお出かけしたのは覚えてるの。ただ……どこに行ったのかは……フィアに招待されて公爵邸に行くまでは知らなかったわ」


 少し目が泳いだヴィオナは公爵邸に入ることで思い出したと言葉にした。門の前で記憶に引っ掛かり広い庭園を見て思い出した。


「あと凄く大きなお庭でとっても優しいおばさまだった事も覚えてます。ただ……頭を撫でられてる時に笑顔で『迷うからダメよ』って言われたのは……なぜ?」


 気まずそうな顔で記憶の欠落部分を尋ねた。


「そりゃあのタウンハウスで『冒険したら楽しそうです』って笑顔で言ったからじゃろ。あそこは王宮の最終防衛拠点じゃから大人でも迷うわ」


 イゼルダ前伯爵夫人の答えはヴィオナの予想通りで頬を真っ赤にして俯いた。三歳の王宮の出来事は覚えていたが二歳の公爵邸は記憶が曖昧だった。


「フェリアは王都なので明日には出ます。リオとリクは訪問に向けた作法を引き続き覚えなさい。ヴィオたちは時間のある時にリランの手伝いをお願いね」


 カリスタ伯爵夫人はヴィオナの羞恥心を気にせず王都に行っている間の指示を出した。マルセリオとフィリクスは少し頬が引き攣っていた。


「まだリランが求めてる細さにはなってないの。鍛錬は続けるけどしばらくは今の太さです。魔道具の改良はお願いしてますし今を固めるべきでは?」


 ヴィオナは鍛錬は続けるがそれを前提にするのは良くないと指摘した。あくまでもヴィオナの予定はヴィオナの意思が優先されると暗に告げた。


「それも一理ありますね。二本と三本の撚り合わせを今の太さで検証するのを進めさせましょう。撥水加工にも手を出してますし少し地歩を固めさせます」


 カリスタ伯爵夫人もヴィオナの言い分を認めた。


「そういえば日傘の支柱ってどうなりましたか? ブカゾールさんが支柱を大量に作っているのって日傘の件も関わってるかなって思うのですが」


 ルクレイは少し気になっていた事をカリスタ伯爵夫人に尋ねた。


「日傘は順調と聞いています。試作を取りに行かせて確認しましたが色合いは良いですし前よりもだいぶ軽くなっていました」


 カリスタ伯爵夫人は日傘の試作は順調に進んでいると答えた。ルクレイはその話を聞いて『色合いは出たんだ』と少しだけホッとした。


 カリスタ伯爵夫人は日傘も試作を王都に回して完成させる方向で考えてると話した。髪留めのレジン糸も大量に作ったからと笑顔で報告した。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 夕食も終わり野外食堂として設置していたタープは回収され池の畔にはルクレイたち用のタープだけが残されていた。


「なんかレベナに浜焼きしに行っただけのはずなのにバタバタになったね」


 ローチェアに座り焚き火をしながらルクレイとヴィオナは温かい紅茶でのんびりとしていた。浮かび上がる小島が静かに佇んでいた。


「そうですね。マシュマロから骨のスープに話が飛んでお母様とお祖母様が王都に向かうとか想像もできなかったわ。そういえばマシュマロはどうします?」


 ヴィオナは小島を眺めながらルクレイに尋ねた。


「そうだった……ゼラチン粉はあるから明日にでも作ってみようか。あれって卵白をメレンゲにするところだけが大変だからそこを僕がやってみんなで作ろう」


「それは楽しみですね。個性的なマシュマロができそうです」


 ルクレイの返答は全員参加のお菓子作りだった。


「メレンゲに溶かしたゼラチン粉と砂糖を加えながら作ってもらうね。僕が基準になる量を用意してみんなはそれを見て真似しても良いし工夫してもいい」


 ルクレイはお菓子作りの分量を変数にして結果を楽しむ事にした。それを聞いたヴィオナは味で騒ぐ双子たちの姿を思い浮かべくすくす笑った。


 その後も少し小島を見ながら軽い会話を続けた。時間も少し遅くなったのでルクレイは焚き火の後を始末してヴィオナをエスコートして本館に戻った。


 寝る前にもイヤーカフで二人は雑談していた。女神様の話題一覧で気になる事を思い付いたら話そうと約束して二人は眠りの世界に入っていった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 早朝の鍛錬場でルクレイとヴィオナは久しぶりに鍛錬していた。ここ数日はフィオと鍛錬していたヴィオナの動きはかなり洗練されていた。


 身体の使い方やフェイントといった主導権を取る動きをフィオから吸収していた。その動きを身体に馴染ませるため積極的に使い模擬戦を展開していた。


『熟練の動きはその人の歴史そのもの。人はそれを見て理解して取り入れようとする。ヴィーは取り入れるための試行錯誤を一心にして……めちゃ凛々可愛い』


 ルクレイは雑念しかなかった。自身の身体の動きを捉えながらイメージと現実のズレを補正し続けているヴィオナの真剣な表情に見惚れ続けていた。


 昨日の女神様との会話で分かった事の一つがルクレイの身体能力である。身体が作られ転生するため全体的に頑丈になると理解できた。


 頑丈になるのが転生の負荷というか転生礎石の場所に出現するための安全対策かまでは分からなかった。何となく雑に扱えるための措置のような気がしていた。


 視界の隅から差し込まれたヴィオナの右膝をそっと逸らしルクレイは身体の軸を意図的にズラした。瞬間眉を寄せたヴィオナはそれを無視した。


 右膝を逸らされズレた重心を左手を引くことで相殺し右足の踏み込む位置に風壁を出した。右足を軸に左拳を最短距離でルクレイに突き刺そうとする。


 ルクレイは引っ掛けを無視したヴィオナの反応に目を細めヴィオナの左拳を右肘で弾いた。右肘には小さな水壁が抵抗なしで展開されていて拳が滑った。


「あー、抵抗を操作するのはずるーい」


 攻めきれないと判断したヴィオナは二つのステップで距離を取り苦情を声に出した。ヴィオナとしては思考を切り替えるための発声である。


「だって抵抗あるとヴィーの拳が速すぎて吹っ飛んじゃうよー」


 ルクレイは軽く返した。実際のところヴィオナの拳は速度だけでなく威力も乗っているため受け止めると行動の制約が生まれリズムを潰されると分かっていた。


「ほぉ、そろそろイチャイチャ時間になったか。ここ数日を同じ拳士と鍛錬したのは随分と良い経験だったみたいじゃな。動きがかなり変わっとるぞ」


 ガゼボで紅茶を飲みながらイゼルダ前伯爵夫人が楽しそうに観戦していた。


「寝る前に軽い鍛錬をしていますが動きの復習もしてました。フィオ様の動きはとても合理的でヴィオナ様も身体を無駄に使っていたとボヤいてました」


 ユミナはヴィオナが行っている試行錯誤をこっそりと伝えた。


「それに気付けるのが凄いんだがヴィオは気が付いてなさそうじゃ。ルクレイと模擬戦をしないと言ったがヴィオとの模擬戦も危なそうじゃな」


 イゼルダ前伯爵夫人はクククと笑みを零し逃げを打つ算段に入った。


「ヴィオナ様は槍との模擬戦はしてません。その点では大奥様が指導されると伸びそうに思います。槍の間合いを教えるというのはどうでしょうか?」


「一理あるのぉ。ユミナのそういう気付きはヴィオには必要なものじゃ」


 イゼルダ前伯爵夫人はユミナの指摘を褒めた。ユミナは「ありがとうございます」と頭を下げて感謝を伝えた。


「ただな、ヴィオの動きは槍程度の間合いは間合いにならんだろうな」


 イゼルダ前伯爵夫人は間合いがある故に槍士はヴィオナと戦ったらボコられる未来しかないと笑った。槍を振り回す速度よりヴィオナの方が速かった。


「お祖母様、僕たちの鍛錬も見てください」


 鍛錬場の隅で鍛錬していたマルセリオとフィリクスがイゼルダ前伯爵夫人に自己主張した。鍛錬場の隅はルクレイによって少し長めの芝生になっていた。


「さっきからヨロヨロしとったろ。目に頼りすぎじゃ。足元が見え難くなっただけでよろけるようではまだまだじゃな。まぁ……ルクレイが酷いんだがな」


 ルクレイは鍛錬場の端を地面をうねらせ足場訓練用に変更していた。足場の変化そのものに双子が反応できるようにするための鍛錬である。


 鍛錬空間が芝生なのは安全性のためではくうねりを隠すためだった。


 双子は植えられた芝生を見て「「ふさふさー」」と喜んでいた。しかし実際に鍛錬を始めると見えないうねりに足を取られて二人ともよろよろになっていた。


「「ルクにぃにはかられたー」」


 二人が苦情を声に出すと上空から「プフッ」と笑い声が聞こえた。そんな出来事が起きてから二人は芝生のうねうね地面の攻略を二人で考えていた。


 しかしここで発生した問題は「毎日うねりの形が違う」という事だった。見えないウネリを覚えようとしたが次の日には変わっていて結局よろよろした。


 ルクレイは早朝にガゼボで創世の女神に祈りを捧げている。転生できたお礼とヴィオナに出会えたお礼の二本立てで基本的に毎日お祈りをしていた。


 お祈りが終わるとルクレイは「鍛錬しないとー」と毎日鍛錬場の芝生区画だけうねりの形を変えていた。土属性の鍛錬と本人は考えているが行動は怪しかった。


 双子は鍛錬場の片隅で毎日よろよろしながらそれでも鍛錬していた。


 朝食も終わりカリスタ伯爵夫人とイゼルダ前伯爵夫人は一台の馬車と二台の荷馬車で王都に向かった。護衛に十名の騎士と三名の戦闘侍女がついた。


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