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海の落とし者と釣り竿  作者: うにまる
第十六章 旅立ちの準備は結局日常の繰り返し

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第四節 浜焼き場は混乱し子どもたちは海に挑む

 メルカド伯爵領の領都リガレアからレベナに向かう街道を馬たちが駆けていた。十六頭の集団を前後に二人ずつ騎士が護衛として駆けていた。


「思ったより多かったね」


 ニロンの後席からルクレイが前席に乗るヴィオナに声をかけた。


「それは……流石に『涼風の旋律』とお父様とお母様と侍女で既に十頭です。この時点で多いですよ? リオたちで四頭にニロンとナンニですから……」


「確かに。そうだよねー浜焼き参加者が二十名だから多くはなるね。ふふふ、これだけの人数で浜焼き場に行けば楽しそうだ」


 ルクレイは海に入りそうな男性陣はバルテア伯爵を除いた九名と踏んでいた。女性陣は水遊びになるのでメリアも恐らく不参加と考えた。


 合間合間に休憩を挟みお昼前にはレベナに到着した。


 騎士の一人を代官屋敷に派遣してそのまま浜焼き場に向かった。先導を浜焼き場を知っている騎士に任せルクレイはゾルバン造船工房に立ち寄った。


「こんにちはー、ゾルバンさんいる?」


 工房では数人の子どもたちがサーフボードの仕上げをしていた。話を聞くと工房の人は全員昼食で浜焼き場に行った事が分かった。


 ルクレイがタープの話を聞くと二張を持ち込んでいる事が分かった。追加で必要と伝えるとタープ置き場に案内してくれたのでルクレイは二張り持ち出した。


「悪いんだけど三張りほど運んでもらっていいかな? ちょっと二十名の大所帯なんだよね。君たちは大きいからそのボードに細工してあげるよ?」


 ルクレイが悪い顔で子どもたちにお願い事をした。子どもたちはルクレイの頼みを断る気もなく「良いよー」と荷車にタープとサーフボードを乗せ駆け出した。


「細工って何をするの?」


 前席からヴィオナが振り向きルクレイに尋ねた。


「レジンで作ったディーリングだね。あの子たちぐらいなら大人が見ていれば帆走しても大丈夫だと思う。風を受ける楽しさを知る感じ?」


「つまり遊び道具の仲間を集めるのですね」


 ルクレイの答えは遊び一択であり呆れ顔になったヴィオナがクスッと笑った。


 浜焼き場に着くとヘキサタープを張ったり竈の場所を空けたりと大騒ぎだった。突然の領主来訪ではある意味仕方のない光景であった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「あっ! ゾルバンさーん。タープが足りなそうだったので造船工房にあったの借りてます。これ、そのまま代官屋敷の備品に組み込んでください!」


 ルクレイは動き回るゾルバン工房主を見つけ声を掛けた。ゾルバン工房主はルクレイを見つけると手を振り「分かりましたー」と返事を返した。


 ルクレイは早速空いた場所に花崗岩の竈用の石を大量に作った。それを見た子どもたちが「石が一杯!」と叫び群がって石を運び始めた。


「あれ?……この辺りの自然石って枯渇した感じなのかな。リューウェンは枯渇したから土属性の魔法師が定期的に作ってるって言ってたよ」


 ルクレイが飛ぶように消えていく石に首を傾げた。


「違います。単にレイが花崗岩で出したからです。明らかに堆積岩でしたっけ? あれよりも綺麗だからですよ。女の子も手頃なのを集めてますよ?」


 ヴィオナはくすくす笑いながら理由を教えた。


「えっ?……ほんとだ……。マナーハウスでも花崗岩が妙に人気なのはそれ? 色々と混ざってるから部分的にキラキラしてるのが良いのかな」


 ルクレイは堆積岩の人気のなさの理由を知った。ルクレイは竈用の石を追加しその横に30g程度の使い勝手のよい小石を「ザラザラザラー」と小山にした。


「「「きゃぁー綺麗な小石だわー」」」


 女の子たちに受けた小石は誇らしげに佇んでいた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「よーし! 食べる物を集めるよー。集めたい人は海に向かうよー」


 ルクレイが声を掛けるとメリアを除く子ども組が集まった。ルクレイはうんうんと頷きリグとエザンを手招きして監督者として強制連行した。


「狙いはエビとカニです。そして捕れるならタコと気合があればカイです。タコ以外のプニプニしているのは女性陣に人気がないので捕まえないこと」


 ルクレイが獲る対象の名前だけを羅列した。プニプニした物というのはアメフラシやナマコである。特にナマコは絶対禁止を通達した。


「ちなみにエビとカニはハサミがあります。エビにはハサミのないのもいるのでハサミを避けたい場合はハサミのないエビを狙うように」


 ルクレイは「あれ?」と海に入る場所が作られていたので全員を誘導した。そしてこっそりと狭い水壁を自分に紐付けて展開した。


「海上にプカプカ浮いてるのがサーフボードなので掴まれば浮いてられます。困ったら子どもたちに聞けば色々と教えてくれるので仲良く漁をしてください」


 ルクレイはそのまま海に飛び込んだ。


「「あっ! ルクにぃずるい!」」


 真っ先にマルセリオとフィリクスが反応した。続いて「「あー!」」とクラムとエグリアが反応し海に刺さっている梯子から海に入った。


「あっ! ちょっ……」


 リドルが四人を止めようと身体を動かした。


「「「「ぎゃぁー目がいたーい!」」」」


 マルセリオたちが塩水に目をやられて海面から顔を出した。


「あー間に合わなかった」「まぁ……そうなるよね」


 リドルは目を覆い顛末を見ていたレグルスは肩を竦めた。水面下からルクレイがぬっと現れ四人を回収してサーフボードまで引っ張っていった。


「「ルクにぃにはかられたー」」


 双子が抗議の声を上げるがルクレイはあまり気にせず造水で四人の目を洗ってあげた。サーフボードの近くにいた子どもたちがわらわらと近寄ってきた。


「この四人は見ての通りで海は初めてなんだ。みんなも経験してるから四人に海で安全に楽しむ方法を教えてね。あとエビとカニを中心にお願い」


 ルクレイが頼むと子どもたちは「「いいよー」」と四人に話し掛け始め目の開け方や潜り方を教え始めた。サーフボードに置いてある道具も紹介していた。


 ルクレイは水壁を階段状に展開し岸に戻った。


「リドさんとエザンさんも監視を兼ねて漁をお願いします。タコはくっつくので注意してください。あと大きな魚も当たると危険なのでお願いします」


 ルクレイはリグとエザンをしれっと巻き込み海に送り出した。ルクレイはユミナにレジン液の用意を頼みDリングの型を安山岩で作り始めた。


 完成した型にルクレイがレジン液を注ぎ横で見ていたヴィオナがニコニコしながら魔力を照射して固化させた。Dリングと収納ケースを組み立てた。


「海の方から『はかられたー』って聞こえましたよ?」


 ヴィオナが工作しているルクレイに尋ねた。


「あー……初めて海に入ると海水って目にしみるんだよね。それほど痛くないんだけど想定していないからビックリしちゃうんだ」


「それを伝えなかったのね」


 ヴィオナは目を細めふっと笑いくすくすと肩を震わせた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 竈に火が回る頃には子どもたちが入れ替わりでエビやカニを運んできてくれた。ルクレイは侍女に種類と個数をメモするように頼んだ。


 レベナの浜焼き場はリューウェンより規模も利用者層も違うため料金体系は未整備だった。立ち遅れ感はあるがその辺りは代官に任せていた。


 調理は近くにいた人たちも参加した。ユミナはリューウェンで経験済みだが人数も多く初体験のカリスタ伯爵夫人の侍女もバタバタしていた。


 とはいえ武闘派で遠征好きな伯爵夫妻とベテランの冒険者たちである。勝手が分かればガンガン焼き始めた。唯一タコだけは途方にくれ調理してもらっていた。


 ルクレイは造船工房にいた子どもたちを手招きして呼び寄せた。持ち寄れるなら布とロープも頼んでサーフボードを持ってきてもらった。


「帆船って湾内に浮いてるでしょ? あれは帆で進むのは知ってると思う。ここに付けたのはディーリングという物でロープとかを留めるのに使うんだ」


 ルクレイはひとつのサーフボードにドリルビットで埋め込む穴を開けてレジンで作ったDリングを埋め込んだ。リング部分を出し入れして子どもに返した。


 残りの二つのサーフボードにも取り付ける。


「布は四隅にロープを付ける。今回は簡単に縛る形にするね。ここはお母さんに相談すると綺麗に仕上げてくれるかもしれないね」


 ルクレイは四隅に四本のロープを結びつけた。


「そして二本をディーリングに縛るんだけどロープの縛り方は分かる?……あまり知らなさそうだね。結ぶのは簡単だから覚えちゃおう」


 ルクレイは子どもたちにロープを持たせロープワークとして一巻二回半結びを教えた。何回か繰り返させると子どもは簡単に覚え結べるようになった。


 ルクレイはそのまま『もやい結び』や『引き解け結び』の結び方や『鎧結び』といった小技の結び方を実演しながら子どもに教えた。


 いつの間にか周囲に人が集まり遠目で真似をしている人もいた。ルクレイは教えた子どもたちに「教えておいで」と送り出しヴィオナと食べ始めた。


「ふふ、エビはそのまま焼いても乾燥させて焼いても美味しいです。お土産のために多めに乾燥させないといけませんね。……お祖母様の話ですよ?」


「お祖母様がお土産を沢山って言ってたよね」


 ヴィオナがエビを嬉しそうにもぐもぐしている姿をルクレイは堪能していた。


「タコも食感が良いよね。いくらでも食べられそうなんだよね。でも結構お腹にたまるから食べ過ぎには注意だからカニを食べよう」


 ルクレイは焼けたカニの爪をバキバキ割って身をヴィオナのお皿にも置いていく。カニミソは好みが分かれるのでしれっと脇に避けておいた。


 ルクレイはある程度食べると近くの漁師を呼んだ。


「子どもたちと沖合に出るからサーフボードに乗り慣れた人を紹介して」


 漁師にお願いをすると「お待ちください」と断りを入れて漁師たちの中に飛び込んでいった。少しざわざわした後にビットが顔を出した。


「あれ? ビットこっちに来てたの?」


 漁師たちのまとめ役をしながら即席魚粉にも関わっている漁師のビットが現れルクレイは目を丸くした。


「代官屋敷に先触れが来ましたので代官と顔を出しに来ました。代官は領主様に挨拶をしています。魚粉はロックに任せてるので最近は海にも出てます」


 ルクレイは席を立ちビットと握手し挨拶を交わした。ルクレイはビットに席を勧めるとビットは周囲に自己紹介して席に座った。


「ルクレイ殿が沖合に出ると聞きましたので手を挙げました。ルクレイ殿は沖合に子どもと出るそうですが何をする予定なのですか?」


 ビットは魚粉を持ち込み漁船を作るといった想像もしていなかった事をするルクレイが次に何をするのか興味があった。


「子どもと遊ぶだけですよ。子どもたちが風を掴めるかをちょっと見てみたいなって思ったんだ。ただ沖合に子どもだけは危ないから呼んだんだよ」


 ルクレイは言葉に少し分かり難い言い回しを含めた。種明かしはパドルを立てた時にその目で見た方が楽しいと悪戯顔でビットに伝えた。


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