第三節 小島を二人で整備したら浜焼き大会が決まった
メルカド伯爵邸にある池の中心に小島が浮かんでいる。池の浅い場所ではマルセリオやフィリクスたちがサップを中心に水遊びしていた。
子どもたちの喧噪を耳に入れながらルクレイは小島に芝生の種を埋めていた。
「何かの若芽が出てきたし友達代わりに芝生を植えるのはアリだよね? 短い芝生……っていうか地面に生える短めの草が全部芝生ってなってないか?」
ルクレイが石の補充を済ませ冷たい果実水で喉を潤していると庭師を見かけた。声を掛け短めの芝生の種があるか聞くと「あります」との答えだった。
小島の若芽を見て芝生にしようと思ったルクレイは種を頼んだ。しばらく休憩していると種が届いたので小島に渡り種を埋め始めた。
「元気に育ってね」
急いでいないルクレイは種に声を掛けながら一粒ずつ埋めていった。少し埋めると休憩してを繰り返していた。半分くらい埋めて休憩しようと立ち上がった。
「レイー、ただいまー」
池の畔からヴィオナが小島にいるルクレイに声をかけた。ルクレイは顔を向けると笑顔で「おかえりー」と返し池を渡ってヴィオナの横に並んだ。
ルクレイは手を差し出してヴィオナをエスコートしてテーブルに誘導した。
「調薬師さんはどうだった?」
「元気にしてたよ。腰痛の話をしたらとっても興味を持って聞いてくれたの。視力が回復する方も気になるって言うから連れてきちゃった」
ヴィオナは興味を持って聞いてくれたメリンドを焚き付けて連れ帰っていた。メリンドはそのまま工房に入りティアーヌと話始めたのでヴィオナは池に来た。
ルクレイは小島に転生礎石を仕舞った事を話した。加えて中心に若芽が出ていた事と芝生の種を埋めてる事を話さて聞かせた。
「みたーい」
ヴィオナは席を立ちルクレイの手を取って池に向かった。風壁を並べ二人で池を渡った。小島に降りると「整備したのね」とヴィオナはキョロキョロした。
ルクレイは30cm四方ぐらいの花崗岩の石板を作り正面とした場所に置いた。少しずつ小さくした石板を置きながら中心に向かった。
ヴィオナは敷石になった石板を歩きルクレイについていった。ルクレイは若芽を中心に直径1mぐらいの位置に自然石風の石を並べていった。
「この芽が生えていたの?」
ヴィオナはしゃがんで芽をまじまじと観察した。芽は魔力を纏っていたのでルクレイに聞くとルクレイは気が付いていなかった。
「これはレイが言ってた女神様がこっそりと造土の土に混ぜたのかもしれませんね。ふふ、この地に根付いて元気に育ってくださいね」
ヴィオナとルクレイは創世の女神にお祈りも行った。
その後は二人でコツコツと芝生の種を埋めていった。埋め終わったところでルクレイが空中から散水で小島全体に水を巻きヴィオナがそよ風で舞わせた。
サップで遊んでいた双子たちもその景色に見惚れていた。
◇ ◇ ◇ ◇
子どもたちはサップを終わらせ身支度のため本館に向かった。
ルクレイとヴィオナは散水で空気が冷えたので温かい紅茶を楽しんでいた。本館から執事が来てブカゾール工房主とリゾリカ工房主の訪問を伝えた。
ルクレイは少し首を傾げ案内するように指示した。
「二人揃ってというのは珍しいですね」
ルクレイは軽く握手して挨拶を交わした。
「私の方から。トイレを帆船に持ち込む件は問題ありません。試作を依頼られただけですのでルクレイ殿の御心のままにお使いください」
リゾリカ工房主はルクレイに頭を下げた。
「ひとつお願いしたい事があります。作って検証している者たちが家族にも使わせたいと許可を求めてきました。まだ試作だからと止めています」
少し心苦しそうにリゾリカ工房主がお願いを口にした。
「それは嬉しいですね。家族にも使わせたいと思う物が作れ始めた証です。どんどん家族たちに贈ると良いですね。ただ家族以外は金額を計算するように」
話を聞きルクレイは笑顔でリゾリカ工房主に許可を与えた。
「職人は出来た物に金額がつく職業です。趣味ではないからね。金額はリゾリカさんが確認してね。広まれば当分は忙しくなってしまうよね」
ルクレイは趣味と職人に線を引いた。また家族に渡せば若手の職人には家族に誇れる事にもなるから推奨するとルクレイは考えを伝えた。
「続きの話は私から話します。ガラスを研磨する魔道具ですが支柱は私がつくりリゾリカのところで滑車をカンコールに歯車基盤を出させます」
ブカゾール工房主は担当を分ける手筈まで進めていた。
「えっ?……それだと持ち運びが楽になりそうだね。ヴィー、名前なんだけど『バレル研磨魔道具』と言うのを考えたんだけど、どうかな?」
思ったよりも前に進んだ話にルクレイは目を丸くした。そして魔道具として整うのであればと名付け案をヴィオナに確認した。
「バレルですか? 聞いた事のない名前ですが覚えやすそうで『バレル研磨』は響きも良いですね。その名前は素敵だと思うわ」
ヴィオナからお墨付きがついて名前が決まった。
「バレル研磨魔道具で承りました。試作品が出来ましたら届けます。あと……ミキサーでしたか。あの土台の部分ですが外装はリゾリカが試作しました」
ブカゾール工房主がさらに試作品をぶち込んできた。
「こちらも絵にあった形でカンコールに歯車基盤を作らせたのでスイッチも入れて試作したので持ってきました。あの透明なのは無理なのでお願いします」
しかもまた三工房の合作という暴挙だった。
「えぇー……ミキサーも試作したの? しかもリゾリカさんやカンコールさんも入ってるの? ちゃんと休んでる? リゾリカさんはサップもやってるでしょ?」
流石にルクレイも驚いた。お願いしたばかりでルクレイもそのうち試作品が出来るかなと待つ物リストに追加した物である。
「サップはルクレイ殿から図面を頂いておりますので若手が試行錯誤してます。あれは良い鍛錬になっております。見て考え作り比べるのは効果が高いですな」
リゾリカ工房主の返事は少しルクレイが考えていたものと違った。
「えぇ……そう? カンコールさんは弟子を育ててるしブカゾールさんとリゾリカさんに沢山頼んでる身で言うのもあれだけど……身体は大事にね」
ルクレイは少し諦めを感じたが健康に関する念押しはした。
「ミキサーの正式な名前はどうします?」
ヴィオナが話の流れで出なかった名前をルクレイに確認した。
「あー、そうだなぁ……粉砕して撹拌するけど粉砕魔道具はあるから名前をバラして『粉撹魔道具』なんてどうかな?」
ルクレイは使われている言葉を改造して固有名にする案を提示した。
「なるほど……粉砕と撹拌を組み合わせて『粉撹魔道具』ですね。確かに緩風や風寛といった名前もあるので良さそうです」
ヴィオナがアユナに目配せしてメモを促した。
◇ ◇ ◇ ◇
夕食の時間になりいつの間にか全員が集まっていた。お洒落組は集まりお洒落談義をして男の子たちも集まり鍛錬談義をしていた。
「俺とカノンの手袋がめちゃ光ったから活性化できたみたいだ」
フィオがルクレイに活性化の報告をした。
「それは良かったです。……どちらも活性化してますね。フィオさんの手袋は『物理耐性』と『筋力強化』でカノンさんのは『斬撃強化』ですね」
ルクレイは二人の手袋を分析して活性化を認めた。
「カノンさんのはかなり限定的です。剣で斬ることに特化してるみたいで常時発動してます。これ……自動的に少ないですが魔力を消費する機能ですね」
「常時で魔力消費してるのか?」
ルクレイはカノンの手袋に付いた機能が剣技に近いのに常時発動という説明に違和感を覚えて確認を進めた。言葉にはしなかったが魔力蓄積の記載もあった。
「ですね……魔力を渡して使う感じの機能なのに常時って……これナイフとかも対象になる可能性があるので食事の時とか注意してください」
ルクレイの言葉にカノンは眉を寄せた。
「フィオさんの『物理耐性』と『筋力強化』は殴る系の標準的な機能かもしれませんね。物理耐性があるので殴っても痛くないという方向性です」
ルクレイの説明にフィオは頷いた。
「あっ……カノンさんの剣ですが斬撃強化の出方が不明です。剣はあり物で斬撃強化との相性を見た方が良いと思ます。常時発動なので常に影響してきます」
ルクレイの指摘に「確かに……」とカノンは答えた。
「ルクレイくんとヴィオナには突然押しかけたのに本当に世話になった。カノンは剣を新調するから本格稼働は少し先だが洞窟に戻ろうと思う」
「フィオ様……頑張ってください」
ヴィオナがフィオたちの旅立ちが来た事が寂しかった。それでも前に進むために訪れた事は理解していたし朝の鍛錬で多くを学べたと思っていた。
「まぁ……子どもたちが引き続きお世話になるからまた会えるよ。明日の朝の鍛錬と朝食が終ったらレベナに移動しようと思う」
フィオがヴィオナに会える機会はまだあると伝えた。
「お昼には浜焼きを予定してるもんね!」
そこにティアーヌが浜焼きネタをぶち込んだ。
「ちょっ……それは言わないでいいのに……」
出発の時間調整が浜焼きのためとバラされたフィオは眉を落とした。
「あぁ、それだったら明日は行ける人はレベナに向かって浜焼きをしましょう。お義父さんたちはどうしますか?」
ルクレイがちょっと散歩にといった調子でバルテア伯爵たちに尋ねた。
「土産をたんまり頼むぞ」
イゼルダ前伯爵夫人はお留守番を選択した。
「えっ?……参加しよう」
バルテア伯爵は焦ったがカリスタ伯爵夫人が頷いたので参加を表明した。
「それではユミナとお義母さんの侍女も参加ですね。騎士はお義父さんにお願いします。クラムたちで騎乗移動ができない子は前席に乗ってね」
ルクレイはどんどんと陣容を固めていった。
「ヴィーは僕と一緒にナンニに乗せてもらおうね」
ヴィオナには笑顔で同乗する形での移動を伝えた。ヴィオナはニコニコしながら「楽しみ!」と弾んだ声で応えた。
あっと言う間にレベナでの大浜焼き大会が開催される事になった。話が聞こえていた侍女や従僕たちの動きが慌ただしくなった。
双子たちもクラムたちに浜焼きの話を得意げに話していた。




