第二節 整備される庭園と小島に出てきた若芽
メルカド伯爵邸では最近は池の畔にある拠点が食堂となっていた。いつの間にか全てのタープがヘキサタープになり五張り設置されていた。
少し離れた場所には侍女や従僕たちの拠点も設営されちょっとしたキャラバンのようになっていた。竈も大量に設置されていた。
そして少し離れた食事場の整備も始まっていた。テーブルの配置が検討され芝生や花壇が作られ小道も整備され始めていた。
庭園の造成としては破格に速い速度で整いつつあった。いつの間にか竈用に出していた花崗岩は小道や花壇にも流用され石置き場に堆積岩も置かれていた。
ルクレイは石置き場に隙間が出来ると自然石風の石に加えて小石も造石して隙間を埋めていった。ルクレイはこの隙間が埋まるのが楽しく出し過ぎだった。
この追い立てられるように石が増えるため従僕たちが石運びを鍛錬に位置付けてしまった。競うように運び出す事で庭園の整備がどんどん進む結果となった。
「レイが楽しいのは分かります。ここ数日で出した石があちこちで使われてますよ? 既存の小道とかも整備が入って従僕たちが楽しそうに駆け回ってます」
昼食の準備が進み始めたのでヴィオナはレジン糸を作るのを終わらせた。冷えた紅茶を口にしてルクレイに最近の石事情を伝えた。
「えっ?……そういえば隙間が良くできるなーって思ってたんだ。隙間が埋まるとスキッとするからついつい出してたけど……まずかった?」
言われてルクレイはかなり造石で石や小石を出していた事に気が付いた。特に小石は凄い勢いで減るため大量に振り注いで遊んでいた。
「まずくはないわ。ただ……庭師が忙しそうに駆け回っていたのよね。普段はどこにいるのか分からない感じなのにここ数日はここから見える場所にいました」
ヴィオナは本館の服飾室に拉致されるか池の畔で活動していた。池の畔にいる間に普段は見掛けない庭師を何度も目撃し首を傾げていた。
気が付いた時に観察したら従僕たちに石の置き方を指導していると気が付いた。そこから従僕たちが楽しそうに石を運んでる姿が視界に入るようになった。
「まぁ……石は配置し切れば需要は落ち着くから大丈夫だよ。石を敷けば泥濘みも減るから移動しやすくなると思う……たぶん……砂もいるかな?」
「庭師に聞いてください」
ルクレイがさらに出そうと画策したのでヴィオナは呆れ顔になった。
◇ ◇ ◇ ◇
「もう少しだと思うんだけど……魔力量があればサクッと終わるのかな?」
昼食が始まると思い思いに雑談が始まる。
フィオとカノンは池の取水口に帆布を敷いて手袋に魔力を渡していた。二人は魔力の事をほとんど知らないため集まった時にルクレイに尋ねた。
「たぶんとしか分かりません。僕とヴィーは魔力が不足した事がないので不足という点は未知です。ティアーヌさんは何か知ってますか?」
魔力に関してはこの場ではティアーヌかルナリエの役割となる。ルナリエはメリアと一緒にリランとお洒落談義をしていたのでティアーヌに質問が向いた。
「んー魔力量? 足りなかったら魔力回復ポーション飲めば良いと思うわ。疲労を感じたら疲労回復ポーションなんだけど……薄めないと元気になり過ぎるわね」
ティアーヌはポーションで賄えと軽く答えた。
「「えっ?」」
ティアーヌの意見にフィオとカノンは目を見開いた。
「あれ?……渡してなかったっけ? 薬草があったからついでに作ったけど」
「聞いてねー」「またこれかよ!」
首を傾げるティアーヌにフィオとカノンが声を上げた。
「えー、そんな事は聞けばいいのに! 失礼しちゃうわ!」
ティアーヌはプンプンと頬を膨らませた。
『涼風の旋律って基本的にこのパターンが多いよね』
ルクレイは既に風物詩のようになっているティアーヌとフィオたちのやり取りを眺めていた。普段ならここにルナリエの微妙な突っ込みか揶揄りが入る。
「そういえばティアーヌさん。出してもらったポーションで腰が随分と楽になったよ。事務仕事が増えると本当に腰が辛くて助かった」
バルテア伯爵が横からティアーヌに感謝を伝えた。
「伯爵様に出したのは炎症をかなり抑えられるポーションです。これが効くのは腰痛の初期から中期ぐらいだから姿勢を工夫すれば楽になると思います」
ティアーヌがバルテア伯爵に答え改善案を提案した。
「あれ?……腰痛のポーションってあるんですか?」
ルクレイは記憶にかすりティアーヌに質問した。
「腰痛は初期から中期は主に炎症で痛むの。後期になると炎症に加えて慢性化した身体の損傷で治すことが難しくなるのよ」
ティアーヌは腰痛の簡単な説明をルクレイに話した。
「あーそういう事ですか。お義父さんはまだ炎症が主だから炎症に効くポーションで改善したんですね。その炎症に効くポーションは作るの大変なんですか?」
ティアーヌの説明が分かりやすくルクレイは理解した。そこでふと流通してない気がしたので製造に関しての疑問を聞いてみた。
「難しくはないわよ。基本は回復ポーションだから調薬師なら誰でも作れるわね。材料はディアの角だから入手しやすいと思うし……あっ王都に伝え忘れた」
ティアーヌは薬効を王都に伝える予定だった事を思い出した。
「ディアってその辺にいるディアの角ですか?」
あまりに身近なディアと聞いてルクレイは首を傾げた。
「あー、その辺にいるディアの角は薬効が低いの。だからあまり作られないわ。洞窟のディアから取った角は薬効が高めなの」
ティアーヌは洞窟のディアは角を落とさないので角を刈り取って手に入れると教えてくれた。なぜか切り落とした角は残ると不思議現象を語った。
「角持ちから角を刈り取るというのは凄いですね」
「洞窟のディアは小さいのと普通のと大きいのがいるの。大きい方が薬効が高いのよね。大ディアの角も試してみたいけど手持ちがないのよね」
ティアーヌは肩を竦めた。
「あと三層で手に入れた赤い実は視力を改善する薬効みたいなのよね。正確な分析は王宮に任せようと思ってたんだけど……送るの忘れてたのよね」
ポーションは作ったが検証が出来ないので王宮の治療局に丸投げするとティアーヌは話した。纏めて送るために侍女たちにお願いした。
「お父様、ティアーヌさんに少しお願いして炎症に効くポーションを分けてもらいませんか? 腰痛で困っている人は結構いるので効果の確認ができます」
前に引退した調薬師から話を聞いたヴィオナがバルテア伯爵に提案した。メルカド伯爵領には調薬師がいないため新しいポーションはほぼ入手できなかった。
「調薬レシピは提供できます。ディアの角は検証用に集めますので多少は回せるでしょう。工房に置いてあるポーションは自由に使って構いませんよ」
ティアーヌは現時点で出来る協力内容を提示した。
「感謝します。前に聞いた話で対処できなさそうで断念していたのです。改善できるならポーションを回したいのです。お母様にもお願いしたいです」
ヴィオナはカリスタ伯爵夫人にも協力を要請した。
「治療局の局長は私よ? この件は私が引き取りますからヴィオはメリンドにこの話を伝えてあげて。彼女も腰痛は気にしてたでしょ?」
カリスタ伯爵夫人はヴィオナに高齢で引退した元調薬師のメリンドにヴィオナから腰痛に関する話を伝えるように指示した。
小さい時から懐いていたヴィオナは「伝えます!」と力強く答えた。
昼食が終わるとヴィオナはルクレイに「行ってくる!」と元気よく伝えアユナと一緒に用意した馬車に乗り街中に向かった。
ルクレイは「まだ馬車縛りなんだね」とヴィオナが出掛けるのを見送った。
◇ ◇ ◇ ◇
ルクレイは木箱からクリートを取り出して石壁に固定する方法を考えた。分析で固定に使う足の部分にある穴は15mmだった。
「たぶんこのサイズは固定するボルトが15mmなんだろうな。んー、これに合うボルトをお願いするか。ほんとはネジ切りしたボルトが欲しいけど……」
ルクレイはため息を吐いた。ネジを切る道具は前世の記憶にある。塩害で錆びたネジはヨットではよく見る光景だった。
「道具は知ってるけど作れる自信は欠片もない。ブカゾールさんにネジの見本を見せてとなると作る必要があるけど……面倒すぎる。ネジは保留のままだな」
ルクレイは従僕に声を掛けクリートを見せて固定する部品の名前を確認した。確認に走った従僕を見て「一般的ではないのか」と再びため息をついた。
戻ってきた従僕から『固定棒』と普通すぎる名前を教えてもらい礼を伝えた。そのまま固定棒をブカゾール鍛冶工房に頼むように頼んだ。
岩壁にクリートを付けるのは後回しになったのでローチェアに座りし忘れている事がないかメモを確認した。メモを見ていて気が付いたのはトイレだった。
「レンデールに向かう時にトイレを積み込むか。ただノルド家の連絡船になるからお義父さんとリゾリカさんに確認はしておこう」
ルクレイはメモに用件を書いて従僕に声を掛けてリゾリカ木工工房に届けて返事を聞くように頼んだ。判断に迷うようなら伯爵邸まで来るように言付けた。
ふと思い出し従僕を呼び止め用件を追加した。
またローチェアに腰を据え池を眺めていて「しまった!」と声を上げルクレイは立ち上がり工房に駆け出した。
「転生礎石を仕舞い忘れてたよ」
ルクレイは工房に置いてあった転生礎石を持ち出して小島に駆けて行った。池の上も水壁を展開して一気に駆け抜け小島に降り立った。
「これって玄武岩に慌ててきちんと見てなかったけど……なんで三枚も入る構造なの?……おまけに最初の一枚目なのに真ん中でなくて右端にしか入らない」
ルクレイは『三枚集めるの?』と少し嫌な考えが過ぎった。明らかに何らかの意志が介入して三枚収納になったと確信していた。
「たぶんひとつは僕の転生礎石だろうな……。そうすると後のひとつはどこにあるんだろ。まぁ女神様からの連絡待ちなのは変わらないから仕舞っとこ」
ルクレイは収まる場所に転生礎石を置いた。安山岩で蓋になる石板を作り造土で埋めた。小島を見て回り小石を出したり土を出して整えていく。
「あれ?……なんで芽が出てるの?」
ルクレイは小島の中心に土の中から芽が出ている事に気が付いた。
「造土の中に女神様がこっそり種でも入れたのかな? でも芽が出るには早くね? 取り敢えずお水を撒いておくか。あっ! ヴィーに見せないと!」
ルクレイは「散水」と発動言語を口ずさみ若芽の周囲に水を撒いた。
「ふふ、女神様の加護はあると思うけど元気に育ってね」
ルクレイはニコニコと若芽を眺めると水壁を展開して拠点に戻った。ヴィオナが早く帰ってこないかなとソワソワしながら造石で石を補充していた。




