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海の落とし者と釣り竿  作者: うにまる
第十六章 旅立ちの準備は結局日常の繰り返し

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第一節 先触れの長いリストと出発前の色々な準備

 バルテア伯爵は眉を寄せ「むむむ」と唸った。


「なんか訪問者のリストが長くなってるんだが……代表はルクレイにしとくぞ。で、補佐にヴィオを入れてリオとリクが我が家からの訪問になる」


 夕食の終ったらテーブルでバルテア伯爵たちはそのまま訪問に向けた先触れの内容を詰め始めた。訪問目的は顔合わせだが訪問者と同行者の人数が多かった。


「リストとしてはリドルくんの次は……やっぱりレグルスくんだよな。で……クラムくんエグリアくんメリアちゃんと……半数以上が平民なのが凄いな」


「代表が家名なしな時点で気にするだけ無駄ですよ」


 バルテア伯爵の呟きにルクレイが身も蓋もなく突っ込んだ。


「まあ……そうなんだけどな。あー……クラムくんたちのところは『涼風の旋律』と入れておいた方が良いな。レグルスくんはたぶん気が付くだろ」


 訪問者が多い上に平民が多いので注釈的な情報を加えた。


「そうなんですか?」


「稲粉の件でアルデン侯爵家と縁があるしハールベン伯爵家はアルフォンス殿が関わって爵位凍結中だ。代官を夫人がやってるからたぶん気が付くだろ」


 レグルスの注釈は難しかったのでバルテア伯爵は諦めた。


「そう言えばハールベン伯爵家の事は聞いた記憶があります。中央南部の魔物討伐の時に呼び出されたんですよね?」


 ルクレイは凍結期間が長いなと考えていた。


「あの呼び出しはバタバタしなかったから茶番だな。騎士団はうちに組み込んで戦ったぞ。練度はイマイチだし忠誠心が低そうだったからビシビシやったな」


「メルカド家騎士団のビシビシなら効きそうですね」


 ルクレイはバルテア伯爵がニヤッと笑ったのを見て苦笑を浮かべた。


「アルフォンス殿が来なければ崩壊してたのは確かだが南部は軟弱でいかんな。まあ……南部は基本的に平和というのはあるな……ノルド家が強すぎる」


 武門貴族から見れば軟弱に見えるだろうなとルクレイは思った。


「海の上ならグレアルさんたちは生き生きと戦いそうですね。海から来るなら僕も頑張っちゃいますよ。メルカド領には絶対に入れません」


「ゆっくりヴィオとイチャイチャできなくなるからな」


 ルクレイが防衛に意欲を見せるとバルテア伯爵が揶揄ってきた。


「絶対に邪魔はさせません。船影が見えたら全部沈めます。と言っても攻めてくる相手って現時点ではいないですよね。西方だけが可能性ある程度ですよね」


 揶揄りを真っ向から受け止めたルクレイが現状の話を混ぜ込んできた。


「そんなもんだな。南方諸島とは良い関係で続いてるからな。こっちと付き合いがあるのはあそこぐらいだから悪くなりようが今んとこないな」


 南方諸島から来る商人たちにリューウェンの魔道具やガラス製品が大人気になっていた。特に防寒魔道具はカンコール工房主も手伝わされていた。


「そういえばリューウェンから数名の魔道具師見習いが戻って来てるんでしたっけ? 最近はカンコールさんと会う機会がなくてご無沙汰中です」


 ふと小耳に挟んだ話をルクレイはバルテア伯爵に確認した。


「そう聞いてるぞ。リオたちと別便で先に戻ったのはその辺りを親御さんと話すためだったらしい。魚粉の方も戻ってきて工房の場所を探してるらしい」


 リューウェンで大量に出された求人でメルカド領から向かった若者がリューウェンの工房で説得されメルカド領に戻り始めていた。


「魚粉は広げる予定ですが防寒魔道具も話としては出しますか。グレアルさんなら考えてはいると思うけど僕がポロっと言った方が話を軽くできますね」


「貴族間の綱引きを考えるとその方が楽だな」


 バルテア伯爵も貴族間で動かすより『魔道具の申し子』という謎の二つ名を持つルクレイがポロっと広げた方が貸し借りもなく進むと認めた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「やはり製糸魔道具は一番細くしても少し太いのは問題があります。ルクレイ様からレオナール伯爵子息に細くならないかの打診をお願いしたいです」


 翌日の朝食の場にリランが顔を出した。最近は騎士団長と近くで食べている事が多いため毎日のように朝の挨拶を交わしていた。


「それは良いですが改造費の扱いが微妙になる点が気になるんですよね。可変にした物を販売してくれれば少しは罪悪感はなくなりますけど……」


 ルクレイは可変を頼んで細さを頼むのはちょっと気が引けた。それもあってヴィオナと一緒に細さの見本を渡したが見本は効果を出さなかったようだった。


「うーん、ここはレオナールさんではなくグラナートさんに手紙を書くか。説明書をグラナートさんが書いてくれてるし話は通る……と考えよう」


「「えっ?」」


 ルクレイの思い切りにヴィオナとリランが声を上げた。


「ちょっと巻上魔道具を放置してたのにレオナールさんに頼むのも微妙でしょ。何となくロープを整えて巻き取る仕組みが思い付きそうだからそっちを考えよう」


 ルクレイはユミナに後で『普通』配合のレジン液を用意するように頼んだ。朝食後はグラナートに手紙を書き細いレジン糸を同封して配送の手配をした。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 昼食まで時間があったのでブカゾール鍛冶工房に顔を出した。


「こんにちはー」


 ルクレイはいつものように工房で声を掛けた。工房で作業していたブカゾール工房主と挨拶を交わし顔を出した本題に入った。


「リオとリクの顔見せでレンデールまで回るからしばらくリガレアを留守にします。色々とお願いしてるけど間が空くので伝えに来ました!」


 ルクレイが笑顔で伝えるとブカゾール工房主は頷いた。


「分かりました。試作品など出来たものは工房に運んでおきます。戻られた時に声を掛けて頂ければ顔を出しますのでよろしくお願いしますぞ」


「でね……ちょっと忘れてたのがあってお願いしたいんだ」


 ルクレイは頭を掻きながらメモを取り出した。忘れていたのは『シャワー室』のタンクとシャワーヘッドだった。タンクは簡単な絵と話で伝わった。


 シャワーヘッドはやはり伝わらなかったので木材をもらって工作を始めた。


 厚めの木の板に大きなドリルビットでギリギリまで掘り込んだ。残った薄い部分に細いドリルビットで適当に穴を空けていく。


「これって水が入ってくると小さな穴から出ていくという簡単な構造です。これを……こんな感じでさっきのタンクと繋げて細い水流で出す道具です」


 ルクレイは造水で水が細い穴から分かれて出てくるところを実演した。そしてメモに本来の形と間にホースのような管を書き込んだ。


「なるほど……タンクの空気穴を付けることでタンクの下から水を出すのですな。その水を細い穴から出す事で水浴びの効率を上げると……なるほどー」


 ブカゾール工房主と近寄ってきたヨルダムが冷却設備の水を使って検分し始めた。ヨルダムが「水撒きに良さそうですね」とボソッと呟いた。


「えっ? ヨルダムは水撒きするの?」


 意外な一言にルクレイが目を丸くした。


「一日に何回か工房内と外に撒きます。鍛冶工房は暑いので水を撒いて涼しくしてます。あと花壇も作りましたから毎日水を撒いてます」


 花壇と聞いたルクレイはスッと視線をブカゾール工房主に向けた。見ると腕を組み目を瞑ったブカゾール工房主がうんうんと頷いていた。


「水撒きに使うなら……こんな形も良いと思うよ」


 ルクレイはメモにジョウロをサラサラと描き込んだ。何も考えてなかったルクレイは手持ちなども描き込んで普通のジョウロを描いていた。


 後でルクレイは気が付くが給水魔道具と一体化すれば魔石がなくなるまで延々と水が撒ける散水魔道具になっていた。それに気が付くのは随分先だった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「取り敢えず完成してたDリングとクリートにローチェア支柱は貰ってきたけど……ホントに寝てるのかなぁ。でも二人とも眠そうではなかったから大丈夫か」


 リガレアの街中を歩きながらルクレイは呟いていた。来る時は手ぶらに近かったが帰りには大きな木箱を頭の上に置いて歩いていた。


 前から歩いてくる人がギョッとして立ち止まる風景が普通になっていた。運んでいるのがルクレイと分かるとホッとした顔で挨拶して通り過ぎていった。


「なんか巻上魔道具の外装が並んでたから何個か貰ったけど……なんで試作だったのを微妙に量産したんだろ。ブカゾールさんは楽しかったってそういうもの?」


 ルクレイはブカゾール鍛冶工房の生産力の底が分からなかった。


 ルクレイが池の畔に着くとヴィオナはレジン糸を作っていた。まだ細くという圧力に負けて鍛錬として作り続けていたとのことだった。


「あっ、アユナ久しぶりー。リューウェンの同行お疲れさまだったね」


 今日はユミナは不在でアユナがヴィオナのお世話をしていた。ルクレイの専属をしていた頃は見習いだったが見事に見習いが取れ正式な侍女になっていた。


 アユナはルクレイにペコリとお辞儀した。


 原則として侍女はほとんど会話をしない。仲が悪いわけではないが専属侍女でない場合は会話は控える事になっていた。


「レイは随分とお土産を貰ったみたいですね」


 頭の上から木箱を降ろすルクレイをくすくすしながら見ていたヴィオナが声をかけた。


「そうなんだよねー。ブカゾールさんたちって絶対に寝てる時間が少ないと思う。ピカピカのDリングは絶対に怪しい。ヨルダムは眠そうじゃなかったけど」


「それだと追及は難しいですね。わたしたちがレンデールまで行ってる間に期待するしかありませんね。たぶん無理な気がしますけど」


 睡眠時間まで管理する事は無理とヴィオナは暗に伝えた。


 ルクレイは木箱を隅に寄せると席に着いた。もう直ぐ昼食の準備が始まる。昼食を取るためにあちこちに散っていた人たちが池の畔に集まってくる。


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