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海の落とし者と釣り竿  作者: うにまる
第二章 祝福されて王都で面接することに

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第四節 レオナールと邂逅してノルド子爵邸に突入

「あー、先ずは謝らせてくれ。うちの工房でトラブルに巻き込ませてすまんな」


 バルモン工房主が頭を下げた。


「では、バルモンさんは責任を果たしたという事にして話を進めましょう」


 ルクレイは、バルモン工房主の謝罪を全員が受けた事にして話を進める。


「最初に、これが終わらないと今日の予定が色々とまずいです。なので、すみませんが先に片付けさせてください」


 バルモン工房主がルクレイに渡そうとして渡し損ねていた基盤を受け取る。


 ルクレイは基盤に魔力を流し込んでいく。基盤に描かれた陣図が仄かに光り、そして光は基盤の中に吸い込まれていった。


「んっ、問題ねえな。いや四日でここまでってのはおかしいんだが……。本当はこの後の作業として外装に着手するんだが、明日、王宮で面接なんだろ?」


「はい、面接して処理が終わったら、産業局に何とか繋いで、陣図をメルカド領に送ってもらいます。そしたらリューウェンを経由して戻ります」


「外装は地元で習え」


 ルクレイは「はい」と答え、レオナール伯爵子息に視線を向けた。


「ん? こっちで司会した方がいいのか」


 レオナール伯爵子息はルクレイの意図を理解し、場の会話の内容を変えた。


「俺の用件は、巻上魔道具の事を調べたくて、バルモン工房主を訪ねました」


 ルクレイは「巻上魔道具?」と小さく呟いた。


「ただ、先に君のことを確認したいのだけど、ほんとに『落とし人』なの?」


 ルクレイは「はい」と答え、ここまでの状況を説明する。


 ルクレイは海上でメルカド伯爵家の連絡船に拾われ、マナーハウスで厄介になり、名前が分からないため規則に則って王宮の面接を受けに来た事を話す。


「なるほど、オランド号のメダル船長と約束したからリューウェンを経由するのか。オランド号は今ごろアルデン領に向かってるから、たぶん不在だな」


 ルクレイは「残念です」と肩を落とす。


「とりあえず、ノルド子爵家のタウンハウスに顔を出すといい。嫡男のリドルがいるから話を通しておけば繋ぎになる」


 ルクレイは「分かりました」とレオナール伯爵子息に感謝を伝えた。


「さっきの貴族子息に対するあの詰め方は、随分としっかりしてたのは?」


「えっ? あの指摘した内容は四歳で習う座学の情報です。リオとリクも理解してましたから、普通の内容だと思うのですが……」


 レオナール伯爵子息はレーネ男爵令嬢を見ると軽く頷かれた。


「あとは産業局か。産業局が管理してる魔道具の陣式を回すって話だよね? 産業局間でやり取りしてるはずだけど、必要なんだよね?」


「伯爵様に頼まれました。伝はありませんが何とか話を持っていこうと思います」


 レオナール伯爵子息は頷いた。


「バルモンさんと話した後に、産業局に顔を出すので、僕の方から陣図を送る件は伝えておこう。付き合いがあるから問題ない」


 レオナール伯爵子息は自己紹介していないことに気がついた。


「自己紹介がまだだったな、俺はレストール伯爵家のレオナール、彼女はブリスティア男爵家のレーネ嬢だ。これも縁だし、よろしく頼む」


「僕はルクレイ、彼女はメルカド伯爵家のヴィオナです」


 チラッとヴィオナ伯爵令嬢を見ると、嬉しそうにニヨニヨしながらルクレイに笑顔を向けていた。


「先ほど、巻上魔道具と言ってましたが、それはロープとかを巻き上げるための魔道具ですか?」


 ルクレイは話の切れ目を感じ質問をした。


「現在はセトリアナ大河の遡上補助で使われてる魔道具だ。アル兄さんから丸投げされて調査してる。地上で馬車を引く形にしたくてね」


 ルクレイは「馬車……」と呟き言葉を続けた。


「坂道とかの登坂補助ですか?」


「馬車と聞いてすぐに繋がるのは凄いね。丸太の輸送で障害になっているものを潰したいんだ。北部と北西部は積み出しが難しい」


「あー、北方の木材は重要ですね」


 ルクレイは腕を組んでうんうんと頷いた。


「えっ? そうなの?」


「ん? 北方の木材は船で使用されます。積み出せるなら船の建造で消費されます。確か、三年以上は乾燥させるので、置き場とか大変ですよね」


 ルクレイには、木造ヨットに興味が出たとき調べ目が痛くなる金額に驚いた前世の記憶があった。木材も枯渇状態で調べてみたら乾燥が大変で納得していた。


「それって、毎年丸太を積んでなければ……」


「数年は丸太の在庫不足で何もできませんね」


 ルクレイはお手上げのポーズをした。


「ちょっとその辺りは確認する。いや、マジでヤバそうな気配が……してきた。もし、聞きたいことが出たら聞いても良いかな?」


「ほとんどメルカド領から出ないと思いますから気軽に聞いてください。実務のお手伝いは難しいですが、一緒に悩むことはできます」


 ルクレイはにこやかに応じた。


 その後は、巻上魔道具の陣図を見せてもらった。陣図を覚える許可をもらい陣図をなぞったり、レオナール伯爵子息の話し合いを聞いていた。


「そう言えば、巻き上げ機の本質は軸を回転させてロープをぐるぐる巻きますよね? あれって、馬車の車輪の軸を回しても良くないですか?」


 ルクレイは車輪に、魔道具で駆動力を付ければと提案した。


「何となくですが、平地で少しでも補助すれば馬も楽にならないかなと思いまして。坂の登坂と降坂はロープとかで補助してあげた方が良いと思います」


 レーネ男爵令嬢が目を輝かせた。


「その発想は面白いわ。本質は軸を回す……アルフォンスも気がついていなかったわ。レオ、こっそり軸を回す方もバストリアで相談しましょう」


 レオナール伯爵子息は「良いよ」とにこやかに答えた。


『この二人はアルフォンスさんの関係者か。さっきのアル兄さんってのが……近しいから、今は距離を取っておいた方が無難だな。巻き込まれ注意ってね』


「ヴィオナ、そろそろ戻ろうか?」


 ヴィオナ伯爵令嬢は「はい!」と、頬を薄く染め嬉しそうに答えた。


『気恥ずかしいが、ここで下手に呼び方を固くするのは良くないと思ったが……自分にダメージがきた……可愛すぎるだろ』


 ルクレイは席を立ち、別れの挨拶をしてヴィオナ伯爵令嬢をエスコートして工房を後にした。


 伯爵邸タウンハウスに戻る道すがら、二人は会話を弾ませていた。


「工房で会った二人は、アルフォンスさんの関係者みたいだね。レーネ嬢がごく自然に呼び捨て、レオナールさんは兄さん呼びだった」


「異変の英雄でアルフォンスさんと公爵家三男のシグヴァルド様は友人で、婚約者はレストール家のマリナ様です。マリナ様の弟であれば近しいですね」


「なるほど、オランド号と関わって縁が生まれたかもしれないね。悪い縁とは思わないけど、英雄との縁はまだ距離があった方が良さそうな気がする」


「わたし、ヴィオナって呼ばれて嬉しかったです! ほんとは……ヴィーの方が……もっと嬉しい……」


『うーん、可愛いしかない子だよね……』


「そう? じゃ、これからはヴィオナって呼んでいいかな?」


 ヴィオナ伯爵令嬢は「はい!」と満面の笑みで答えた。


「そうだ、ちょっとノルド子爵邸に寄ってみよう」


 ヴィオナ伯爵令嬢は「先触れは?」と答える。


「メルカド伯爵家に厄介にはなってるけど、僕の立場は『落とし人』だから、逆に先触れはそぐわないと思う。門で聞いて先触れ必要ならお願いするね」


 ヴィオナ伯爵令嬢は「任せて」と笑顔で答えた。


 通りをゆっくり移動してルクレイたちはノルド子爵邸タウンハウスに到着した。


「すみません、以前、オランド号のメダル船長にお世話になった『落とし人』です。レストール伯爵家のレオナール様に聞き、伺いました」


「おっ、君がメダル船長が絶賛してた『落とし人』の少年か! 話通りの風貌だし、よく来たな! ちょっとだけ待ってくれ! 声掛けてくる!」


 門兵は同僚に声を掛け、敷地の奥に駆けて行った。


『メダル船長! 何をどう言ったの? 明らかに、門の人の行動、おかしいよ?』


「さすがルクレイね。メダル船長から話が広がるくらい、好かれてるのね。ちょっと焼けるけど、とても誇らしいわ」


『うわっ、ヴィオナの評価もおかしくなってる』


 門にいた数人の兵士が近づき、口々に救助された強運を褒められた。なぜか、握手を求められた。静索の異変に気がついた点まで褒められた。


 本館から執事が駆けてきて先導してくれ、そのまま連れ込まれてラウンジに座っていた。


「なんか、当初考えていた流れから逸脱して、激流くだりしてる気分なんだけど大丈夫かな」


「ラウンジまで通してそれはないから大丈夫よ」


 ヴィオナ伯爵令嬢はくすくすと笑い出した。


『あっ、だいぶ通常に戻ってきた。まだ、甘い寄りだけど』


 扉がノックされたので二人は立ち上がる。


 扉が開き入ってきたのは双子より少し大きい感じの男の子だった。男の子は席の近くで止まった。


「ノルド子爵家の嫡男リドルです」


 男の子はリドルと名乗った。


「メルカド伯爵領で保護された『落とし人』のルクレイと申します。以後、お見知りおきのほどよろしくお願いします」


「メルカド伯爵家のヴィオナです。以後、お見知りおきのほどお願いしますわ」


 二人は軽く礼をとる。


 三人が着席すると侍女がお茶を配膳し、壁際で静かに待機した。


「この度、突然の訪問を受けて頂きありがとうございます。先ほど、バルモン魔道具工房で偶然レオナール様にお会いして、挨拶を勧められ参りました」


「レオ兄さん? えっ、こっちに来てたんですか?」


 リドル子爵子息は予想外の話に、素が漏れてしまった。


「はい、工房で会いまして、色々と助言頂けて助かりました」


「そうですか。それで本日のご要件は?」


 リドル子爵子息は気を取り直して本題を確認する。


「はい、先ほど名乗らせてもらいましたが、ヴィオナが名付けてくれ正式に名前が決まりました。それで、メダル船長に伝えたいと思いました」


 ルクレイは落ち着いた声で話し始める。


「その話をしましたら、レオナール様にオランド号は出ていると聞きました。合わせて、こちらに訪問し用件を伝えれば不義理にならないと教えて頂きました」


 少し伺う視線をルクレイはリドル子爵子息に向ける。


「実はその話はメダル船長から聞いていました。念のためと確認しました。船長には戻ったときに話を通しておきます。名は伝えてよろしいですか?」


「はい、お手数をお掛けしますがお願いします。次にお会いする機会のとき、ルクレイと呼んで欲しいのです。とても素敵な名前なので楽しみです」


 ヴィオナ伯爵令嬢は頬を薄く染めながら微笑んでいた。


 リドル子爵子息は少し考えて提案を持ち出した。


「戻る時にリューウェンを経由して戻られませんか?」


 ルクレイは「えっ?」と驚きを見せた。


「何となくですが、ルクレイさんにリューウェンを見てもらいたい、そう思いました。連絡船は定期的に出してますし、レベナまで出しましょう」


 リドル子爵子息はこの提案が正解と感じていた。


「ぜひ、リューウェンを見て再会のときに、船長にリューウェンで感じたことを話してください。これも縁ですからお願いします」


 ルクレイは「お願いします」と自然体でリドル子爵子息の提案を受けた。


「では、戻る時に教えてください。もし気が向いたら、船止まり宿で小ボア肉、リューウェンでホルン肉をお土産で買うと良いかと思いますよ」


 リドル子爵子息は目を細めてお土産の提案をした。


「ヴィオナは食べたことある?」


「小ボア肉は王都で流通してます。ホルン肉は聞いたことがありませんわ」


 ヴィオナ伯爵令嬢は嬉しそうに答えた。


「もし可能であれば、ホルン肉を王都に届けて頂けると嬉しいです」


 ルクレイの提案にリドル子爵子息はクスッと笑った。


「失礼、ホルン肉はうちに在庫がありますので、メルカド伯爵邸に届けさせます。ウル粉や魚粉も入れておきますので、ぜひ楽しんでください」


『リオとリクとほとんど同い歳だよね? めちゃ大人っぽいな。アルフォンスさんの関係者はやっぱり少し異質感があるな』


 ルクレイは丁寧にお礼を述べ、ノルド子爵邸タウンハウスを後にした。


「アルフォンスさんに関わる人たちって、何ていうか違和感があるかな。リドルくんはリオやリクと同い歳ぐらいなのに、かなり大人びてるよね」


「そうですね、アルフォンスさんの影響だと思いますけど」


 メルカド伯爵邸タウンハウスに戻り、ルクレイはニロンとナンニの手入れをした。ヴィオナ伯爵令嬢は先に身支度で本館に戻った。


「ニロン、今日はありがとうね。あと、ナンニはちょっと不安げだったよね? やっぱり圧を感じたのかな?」


 ルクレイはナンニの手入れをしながら話し掛けた。すると、ニロンがブルルと応えた。ルクレイは思案顔でナンニの手入れを続けた。


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