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海の落とし者と釣り竿  作者: うにまる
第二章 祝福されて王都で面接することに

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第三節 魔道具工房での卒検とトラブルとやらかし

 ルクレイは王都リヴェルナの街中をゆっくりとニロンの背に乗り移動していた。隣には、借馬のナンニに乗ったヴィオナ伯爵令嬢がニコニコしていた。


 ルクレイがバルモン魔道具工房の扉を叩いてから今日は四日目である。バルモン工房主は、メルカド伯爵領の魔道具工房の話を聞くと受け入れてくれた。


「いやマジで助かる。消臭や調湿は見習いが育って落ち着いたんだ。代わりに、船主から防寒と風壁の引き合いが増えやがった」


 訪問初日はバルモン工房主が半分愚痴を話したが、端々にアルフォンスという名が出てきた。バストリアが魔道具都市と呼ばれているのも興味深かった。


 簡易防寒魔道具はこの工房作らしいが、簡易の名が外れ、産業局に渡したはずの陣図の権利が戻ってきて押し付け合いをしてると聞いて悪いけど笑った。


 早速、見習いの中に交じり消臭魔道具の基盤を習い始めた。綺麗な魔法陣だなと思ったら『陣図』と言うらしい。陣図を見て基盤に描いていく。


『なんか、陣図は覚えるのが楽だな。規則性はあるし、瀬戸内やマラッカより頭に入りやすい。初めてマラッカ抜けたときはマジ涙目だったな』


 ルクレイは陣図をなぞって覚えようとしたときに、線が一杯の海図に苦しんでいた時のことを思い出した。


『海図は地獄だったが、瀬戸内は良かったな。あとは、奄美とか諸島も漂流するようにヨットでフラフラしてたのも楽しかった』


 陣図の線を指先でなぞり覚えながら、思考はヨットの航海に船出していた――。


 面接が五日後と決まり、それまでの時間をルクレイはバルモン魔道具工房で過ごしていた。そして、今日は最終日の予定である。


「ルクレイ、今日は時間があるの。邪魔しないから、魔道具工房について行って良い?」


 ヴィオナ伯爵令嬢は、ここ数日、母親のカリスタ伯爵夫人と進路の情報収集でお茶会三昧の日々で疲弊していた。憩いを求めルクレイに話しかけた。


「基盤作ってるときは見た目からしても、かなりつまらないと思いますよ? 試験的に動かすときは動きがありますが……大丈夫ですか?」


 ヴィオナ伯爵令嬢は「大丈夫!」と両拳をギュッと握りうるうる視線でルクレイを見つめた。


『可愛いんだけど、ヴィオナが拳握ると防衛本能が動くんだよねー』


「まぁ、今日は帆船風壁の基盤で卒業検定みたいな感じだから、午前中には終わる予定だし良いよ」


 ヴィオナ伯爵令嬢は「やったー」と両手を挙げ喜んだ。


 ルクレイはスッと立ち位置を無意識に移動していた。


『おっと、ヴィオナと武術鍛錬してるから、ついつい身体が反応しちゃった。伯爵夫人は冒険派と言ってたけど、武術は武闘派としか思えない件』


 ヴィオナ伯爵令嬢はかなり武術が上手く、ルクレイもかなり真剣に立ち会わないと危なかった。なぜかスタイルが拳士だったのは驚いた。


 最近は、双子と同じく棒術を始めていて、ルクレイと形のようなもので打ち合いをこなしていた。拳術と棒術の組み合わせは油断できない組み合わせだった。


 バルモン魔道具工房に到着し、ニロンとナンニを裏手の空き地に引き入れる。いつものように、お水と沢山の乾燥果物を用意して工房に入る。


「ルクレイはニロンに優しいよね。乾燥果物を沢山用意してたわ。そういう気遣いを忘れるから、わたしって馬と相性が悪いのかな……」


 ヴィオナ伯爵令嬢はショボーンと項垂れた。ナンニが借馬なのも、相棒とするには信頼度が低く許可が出ないためである。


 ルクレイは『相性とは違うみたいだから……』と、ヴィオナ伯爵令嬢が馬と上手くいかない理由を何となく感じ取っていた。


「その結論は少し違うんだ」


 ルクレイの言葉にヴィオナ伯爵令嬢は目を丸くした。


「まだ、はっきりした結論が僕の中で出てなくて。時間を取って説明するから、僕の検証に今度付き合ってくれる?」


 ヴィオナ伯爵令嬢は「うん!」と満面の笑みで答えた。


『好意はガンガンに感じる。問題は身元不明の落とし人が、貴族家の令嬢と仲良くしすぎて良いかどうかって話だよな』


 多少、あざとさは感じていたが、ヴィオナ伯爵令嬢自身はとても表裏なく可愛い少女なので、ルクレイも好ましさを感じていた。


 バルモン工房主とヴィオナ伯爵令嬢が挨拶を交わす。ルクレイはふと気になったことを尋ねた。


「バルモンさんは貴族令嬢を相手に自然体ですね。メルカド領の工房主さんはガチガチでしたよ?」


 ルクレイは、メルカド領のカンコール工房主は、無礼から騎士に剣を突きつけられガチガチになっていた事実から、素で剣の部分が欠落していた。


「まぁ、アルフォンス殿との付き合いがあります。彼が来るときは、婚約者殿も一緒が多いので……慣れました」


「えっ? 工房にアルフォンスさんが来るんですか?」


「アルフォンス殿が魔道具を作りますからね。最初はガラスの不純物を確認したくてうちに来ました」


 バルモン工房主は苦笑いを浮かべたが、目はとても懐かしい色を帯び、良い記憶なんだとルクレイは感じた。


「アルフォンス殿との付き合いが始まってから、工房は不夜城になりましてな、公爵様に随分とお手数を掛けてしまいました」


 バルモン工房主はガハハと笑い出した。


『やっぱり、ガハハが標準に近そうだな』


 少し長い挨拶も終わり、ルクレイは作業台に座り記憶した船舶風壁の陣図を基盤に描き込んでいく。ヴィオナ伯爵令嬢は向かいに座って作業を見学していた。


『うわうわ、真剣に作業してる姿が可愛くてカッコ良すぎ。見本を用意してないって凄いよね? いや、凄いのよ! さすがレイは素敵だわ〜』


 真剣に陣図を描き込んでいる姿にヴィオナ伯爵令嬢はノックアウト寸前にまで追い込まれていた。初日から観察できなかったことを嘆いていた。


 鐘がひとつ鳴るまでもない時間で仕上げたルクレイは基盤の最終確認を行った。


「バルモンさんに確認をもらったら伯爵邸に戻りますので、魔道具の展示場所で待っていて貰って良いかな?」


 ヴィオナ伯爵令嬢は「はーい」と返事をして手を振りながら作業台から離れた。


 ルクレイはバルモン工房主を探し、仕上げた基盤の確認をお願いした。


 バルモン工房主は陣図を丁寧に確認していく。風壁型の陣図は、よほど間違えない限り危険性は薄い。しかし、魔道具として機能するか確認していく。


「なんだな、ルクレイはとにかく器用で丁寧だな。始めて四日で綺麗に描けるのが凄い。集中力の切れ目がないのはワシでも難しいぞ」


 バルモン工房主は陣図の確認を終え評価を口にする。


「アルフォンス殿もとにかく綺麗な陣図を描くが、何気に気を抜く癖があるからたまに笑えるぞ。リュミエール殿がバラす失敗話も笑えるしな」


 バルモン工房主は基盤をルクレイに渡し、魔力を流すよう促そうとしたら工房内に声が響いた。


「俺の専属侍女にしてやるんだ、大人しく付いてこい!」


 ルクレイは瞬時に思考を切り替えて、展示場所に向かって駆け出す。


 展示場所に着くと、腕を組みながら冷たい目で男性を見つめるヴィオナ伯爵令嬢がいた。ルクレイは姿を隠すように前に立つ。背は少し低いが……。


「貴方たちは魔道具工房で何をしているのですか?」


 ルクレイは表情を意図的に消して男性を見つめる。背後にいた騎士が剣を抜く動作に入った。


「そこの騎士さん、僕を斬ったら主家を潰した騎士としていい笑いものです。主家を潰す愚行をする騎士など、ゴミ以下の存在ですよ」


 剣を抜こうとした騎士の動きが止まる。


「アルフォンスさんと縁の深い魔道具工房で、女の子に専属侍女にしてやるとか、貴方、下位貴族の子息ですね。在地なら教育が邪魔して、バカは言えません」


 男性が真っ赤になり剣に手が伸びる。


「このバカを止めない騎士も、クズと笑いますよ?」


 背後にいた騎士が男性を羽交い締めにした。


「賢明です。僕は『落とし人』の面接で王都に来てます。王宮が保護をうたっている対象を、面接前に傷付ければ貴族家の当主は窮地に落ちますよ」


 男性と、羽交い締めしている騎士は目を見開いた、


「あと、下位貴族の子息ごときが、伯爵家の令嬢に専属侍女? 笑わせます。というか、貴方が上位貴族の出なら宣戦布告として見なされますよ?」


 ルクレイは男性に近寄り冷たい声で告げた。


「こんな理由では、王家の仲裁が入ったとしても、貴方は廃籍で済めば御の字、まぁ、死罪として公開処刑です。こんなの、伯爵家だと四歳で習いますよ?」


 ルクレイは冷たい視線を騎士に向けた。


「申し訳ございません。伯爵家のご令嬢に対する無礼、止められなかった責は全て私にあります」


「貴方の責任などどうでもいい。そのゴミを連れ帰り、当主に報告を上げるのが、貴方の義務であり職責です。当主の権利を貴方は侵害してますよ」


 騎士は目を伏せ「畏まりました」と静かに答え、男性の鳩尾に剣の柄を叩き込み、意識を奪い担ぎ上げた。深く礼を取り工房を後にした。


「バルモンさん、少し話がありますが良いですか?」


 バルモン工房主は「ええぞ」と手招きして移動しようとしたら声が掛かる。


「用事もあるので、僕たちも一緒で良いですか?」


 ルクレイが振り返ると入口付近の男の子と女の子がこちらに視線を向けていた。


「俺はレオナール、彼女はレーネ。バルモンさんに聞きたいことがあって来たんだ。今の件で話すなら、僕たちも参加した方が良いかなって思った」


 ルクレイはヴィオナ伯爵令嬢をチラッと見た。彼女はキラキラした目でジッとルクレイに見惚れていた。


『あっ、これ吊り橋的なやつ! やっちまった……』


 ルクレイは男の子に「僕は問題ありません」と答え、ヴィオナ伯爵令嬢に声をかけエスコートしてバルモン工房主について行った。


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