第六節 双子の帰還と同行したレグルスの悩み
メルカド伯爵邸に作られた池の畔では多くの人が集まり昼食を取っていた。各自が思い思いのテーブルで雑談しながら楽しそうに食事をしていた。
多くの竈ではディア肉のステーキやウルフ肉のコネ焼きが焼かれスープや果実水なども用意されていた。竈は従僕たちが組み上げ数を増やしていた。
これはルクレイが自然石風の花崗岩を竈用にかなりの数を造石していたからだった。希望があれば土木魔法の固着で運搬もサポートしていた。
なぜかメルカド伯爵邸には多くの野外調理場が生まれていた。従僕だけでなく騎士や侍女たちも増える野外調理場を愛用し始めていた。
「それじゃユミナの戦闘侍女の試験は問題なくて認定を受けれたんだね?」
早朝にルクレイがやらかす事で認定が後回しになってしまったユミナの認定は問題なく侍女長に認められた。
「これでユミナも冒険に出る時に一緒に来れます。もちろん、これから魔物の討伐といった部分をナンニと一緒に経験していってもらう必要がありますよ?」
ヴィオナは澄ましながらも嬉しそうにユミナに声をかけた。
「はい。ヴィオナ様の専属侍女として同行できる場が増えました。これからも頑張ってヴィオナ様とルクレイ様のお世話をさせて頂きたく思います」
戦闘侍女の認定を必要としたのは冒険の場についていくのに必要だったからである。単なる専属侍女では同行できないのがユミナには悔しかった。
「基本的には馬車を使うから拠点と見做されるから同行できた。でも騎乗移動する時もユミナがヴィーに同行してくれるのは心強いからよろしくね」
ルクレイはヴィオナとユミナの関係性も考え一緒にいるのは好ましかった。
「ルクレイくん、俺とカノンの魔力を流す方だけど手応えが出てきたよ。手袋が微かに光って何かを持っていかれる感じになってきてる」
フィオが移動してきてルクレイに進捗を話し始めた。
「少しするとめちゃ疲労感を感じるんで休憩しながらだけど先に進めそうだよ」
「迷いが取れたからですかね。あの取水口って良い場所でしょ? ヴィーも好きな場所ですが落ち着きますし集中するには最適な場所だと思いますよ」
フィオとカノンの表情は明るくルクレイも進捗を聞いて笑顔を向けた。
「あの場所は景色も素敵だけど目を閉じて小川の音を聞くのも素敵ですよ。同じ音のようでいて音がずっと変わり続けていて引き込まれる感じがします」
ヴィオナも早朝の散歩でルクレイと取水口に行くのは好きだった。
「取水口の周辺は薬草も少し濃いわ。そう考えると地面も魔力の通りが良くてちょっとした魔力的に良い場所になってるかもしれないわね」
ティアーヌは調薬師として少し違う方向から取水口を評価した。感覚的にミルド村に多く見られた群生地のような雰囲気を持った場所だった。
「そうするともう直ぐ皆さんはリューウェンに戻りますね。僕から言うのも変ですがフィオさんとリグさんはバストリア向かうのが良いと感じてます」
ルクレイの話にティアーヌとルナリエが「「えっ?」」と驚いた顔をした。
「フィオさんの剣は僕の見立てだと限界です。僕のコロコロ棒で簡単に折れそうな程に劣化してます。フィオさんには伝えてあるので相談してみてください」
ルクレイは外からだから言えると剣の更新に関して話題に出した。
「リグさんは河川船です。小型推進魔道具はバストリアで作られた物です。河川船に付けるならバストリアの魔道具工房の助力が必要になると思っています」
加えて河川船の改良は必須と考えてリグにお願いしようと考えていた。
「試したい魔道具があるので目処がついたらバストリアに送りますね」
「んー、リグを一人でバストリアに向かわせるのは無理だわ。カノンも一緒なら迷わないで済むけど……カノンはリグをバストリアまで連れて行ってもらえる?」
ルナリエはリグが迷う点は確信していた。王都からバストリアは北方街道で一本だが東方街道で迷ったのでカノンに送り届けてもらおうと考えた。
「それは大丈夫だけどルナは来ないの?」
「移動していると魔法の鍛錬が遅れるわ。私も手袋を出して強化しないといけないし活性化させてないティアにも活性化させないといけないのよ」
ルナリエとしては全体の戦力増強を考えると分かれた方が良いと判断した。
「えー、手袋の活性化は終わらせてるよ! 治癒の命中率ぐんぐんだよ!」
ルナリエたちは「「「「えっ?」」」」とティアーヌを見て目を丸くした。
「失礼しちゃうわ!って言ってなかったっけ?」
「あー、活性化してますね。ティアーヌさんの手袋って『投擲補助』だったんですね。どうやら何かを投げる時に意図した場所に飛ばすのを補助するようです」
ルクレイは説明しないで効果に気が付いてる点が凄いとティアーヌを絶賛した。
「あら? 投擲はアルが得意なのよ。あの子は小石で魔物を倒してたみたいだし。私も何か投げる物を考えようかしら。そう言えば短剣とか面白そう」
ティアーヌが考え始めると「小石にしとけ」とフィオたちが慌てて説得を始めた。涼風の旋律メンバーはティアーヌの説得のため移動していった。
ルクレイは首を傾げヴィオナはくすくすと笑っていた。
本館から従僕が駆けてくるのに気が付いた。
「あら……リオとリクが戻ってきたわ。リドルくんもいるけど知らない子も一緒みたいね。……ユミナ、アユナも戻ってるから顔を出してきなさい」
ヴィオナも気が付き探知で状況を確認した。そしてユミナに妹のアユナがリューウェンから戻ったので報告のやり取りをしてくるように指示した。
ユミナはニコッと笑顔を見せて「畏まりました」と本館に向かって移動した。
「このタイミングだと昼食は食べてないと思うので追加で準備をお願いね」
ルクレイが昼食の準備を従僕や侍女たちに頼んだ。従僕や侍女たちも入れ替わりで少し離れた場所で昼食を取っていた。
ルクレイはクラムとエグリアとメリアを呼び寄せて子どもたちが到着した事を伝えた。年代的に近いので顔合わせさせようとルクレイは考えた。
◇ ◇ ◇ ◇
池の畔まで案内されたマルセリオとフィリクスはリドルと一緒に呆然と池を眺めていた。三人がリガレアを出る時には存在しなかった池に固まっていた。
「三人ともどうしたの?」
同行して始めてメルカド伯爵邸を初めて訪問するレグルスは三人が目を丸くして固まっている理由が分からなかった。
「「ルクにぃ! なんで池があるの?」」
マルセリオとフィリクスはルクレイに視線を向けて声を上げた。
「えつ? ヴィーと話して庭園だし池を作ろうて話したから?」
「「作った!」」「えー無茶だよそれ……」
ルクレイの返事に双子は驚きリドルは呆れた。
「これが王都で生まれた」「土木魔法の救世主!」
双子は直感的にリューウェンで仕入れてきたルクレイに関する新しい噂話に直結すると気が付いた。リドルは「あー」と目を手で覆った。
「「土木魔法の救世主?」」
ルクレイとヴィオナは双子の不穏な言葉に二人で首を傾げた。
「王都で流れてるルクにぃの新作噂」「新たな二つ名は土木魔法の救世主!」
「きゃぁ、素敵。レイの新しい二つ名なのですね! これは土木魔法に新たな発動言語をもたらした救世主という事ですね!」
双子の説明にヴィオナのテンションが跳ね上がった。ルクレイは「やられた」と少しだけ頭を抱えたが喜ぶヴィオナをチラッと見て諦めて頭を撫でた。
「凄いです! これで五つ目の二つ名です。『愛し子』『申し子』『英雄』『賢者』に続いて『救世主』です! 被りもなくとても良い流れですね!」
ヴィオナのキラキラした目に「そうだね」とルクレイは優しく撫で続けた。
◇ ◇ ◇ ◇
「ちょっと目を離したら工房の裏が庭園になって池がある風景というのは想定外すぎますよ。この日除けも普通に何張りも設置されてますし風景が違いすぎます」
リドルの苦情にルクレイは苦笑し「まぁまぁ」と頭を撫でた。
「リドル紹介して」
「あっ、ごめんごめん。ルクにぃ、彼はレグルス。アル兄さんの弟なんだ。今は僕たちと行動を共にしててリガレアにも一緒に来てもらったんだ」
「レグルスです。ルクレイさんの事は王都で噂を聞いていました。こうして会える機会があるとは思わなかったのでとても楽しみにしていました」
レグルスがペコリとお辞儀して握手を求めてきたのでルクレイは応じた。
「アルフォンスさんに双子の弟と妹がいるのはリドルに聞いてた。レグルスくんも聡明って感じだね。僕はルクレイで彼女が婚約者のヴィオナ」
ルクレイはレグルスにヴィオナを紹介した。
「あときちんと挨拶できてないみたいだから僕から紹介するね。クラムは八歳だから年長さんだね。エグリアは三歳で年少さん。メリアは四歳で同い年だね」
ルクレイは『涼風の旋律』メンバーの子どもたちを紹介した。
双子たちが昼食に取り掛かるとクラムたちはリグを誘ってサップで遊び始めた。泳ぐことが得意な従僕を紹介しもらい補助に入ってもらっていた。
「あれってバストリアでアル兄が遊びで作ってもらった板に似てる?」
池で遊んでいる姿を見てレグルスがバストリアで見た光景に似ていると思った。
「実物は見た事ないけど少し違うかな。水に浮かべるという点は一緒だけどね。立って乗る前提だからあの板は中が空洞になってて大人が二人でも浮いてるよ」
「凄く楽しそうだね」
ルクレイの簡単な返事を聞きながらレグルスは楽しそうと感じた。
「泳ぎが得意な従僕さんに見てもらえるから皆も遊んでみなよ。鍛えたバランスを生かせる遊びだし足りない部分も見えてくるよ。あれも鍛錬の一種だね」
ルクレイの鍛錬という言葉に反応して双子は「やるー」と駆け出した。
「リドルも行っておいで。あれはサップという名前なんだけど海で使う道具になるから知っていて損はないよ」
リドルは肩を竦め「行ってくる」とルクレイに答えて池に向かった。
「レグルスくんも――「呼び捨てで良いよ」……ふふ、レグルスも身体のバランスを鍛えてるよね。歩き方でそれとなく分かる。後で試してみると良いよ」
「楽しそうだから試してみる」
ルクレイが悪戯ぽくレグルスにサップを勧めた。
「僕ってふわっとだけど人の気持ちが分かるんだよね。レグルスは何か悩んでる雰囲気を感じるよ。深刻ではないけど悩みは深いってそんな風に感じる」
ルクレイはレグルスだけになったので感じていた事を話しだした。
「気持ちが分かるんだ。それってどんな感じなんだろう。……僕は自分が何をやりたいのかが分からないんだ。リドルや双子を見てると少し焦りが生まれた」
悩みを持つ事を知られていると知ったレグルスは悩みを口にした。
「レグルスは四歳だよね。普通なら『まだ早い』なんだけど回りがあれだと辛いところか。ひとつの結論は色々なものを見る事から始めるしかないかな」
ルクレイはひとまず一般的な方向から話を進めてみた。
「それはアル兄に言われた。アル兄からはリドルたちがしている事を見る事を勧められた。だから見に来たんだけど……」
兄のアルフォンスと同じ話を聞きレグルスは行動の結果に少し言葉を濁した。
「焦りが生まれたと。でもね、三人がやってる事は関わる切っ掛けがあったのは確かだしリドルは明確に家を継ぐと決めてるけど今はやりたいからやっている」
三人はひとつの目標を見つけ興味と行動力で前に進んでいると話した。
「やってみたいと思った事に理由を付けずやってみる事が良いと思う。レグルスは内陸にいたんでしょ?……だったら折角だから海を見てみると良いかな」
やらない理由を作るのは簡単とルクレイはレグルスに言葉を渡した。だからこそ興味が生まれたらまずは考えずに挑戦してみるのも良いと話を続けた。
「僕がやりたい事はヴィーと一緒に冒険する事だな。婚姻式の後は二人で海を旅したいと思ってる。見た事のない風景を二人で見つけていくのが楽しみ」
ルクレイが言葉の中でヴィオナに視線を向けると「とっても楽しみよ」とヴィオナもニッコリとルクレイに答えた。
「冒険かぁ。海と言うことは帆船で度に出る感じなの? アル兄たちも婚姻式の後はオランド号で度に出ると言ってるけど……旅に出たくなるものなの?」
レグルスは将来にやりたい事を持つその気持をもっと知りたいと思った。




