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海の落とし者と釣り竿  作者: うにまる
第十五章 旋律の鍛錬と小山に置かれた石の壁

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第四節 ボルダリングは横壁移動して魔道具の試運転

 メルカド伯爵邸マナーハウスの小山に人だかりができていた。遅れて到着したルクレイとヴィオナは思ったよりも人がいることに驚いた。


 パット見た限り騎士や執事に加えて侍女たちも集まっていた。


「あっ! ルクレイ様。この石の壁はどうされたのですか? これももしかして鍛錬に使えるものなのでしょうか? とっても大きくて圧倒されます」


 人だかりの中から服飾師のリランが飛び出してルクレイに質問を飛ばした。人だかりの人たちもルクレイの存在に気が付いて注目していた。


「そうだよ。この石壁はどっちかっていうと身体的な能力で不足している部分を確認するのに使えるんだ。筋力だったりバランスだったり柔軟性だったりね」


 食い気味のリランに押され気味ではあったがルクレイは答えた。身体を壁で保持するには筋力も必要だがバランスが悪いとグラつき消耗が大きい。


 今は単なる壁だがホールドが設置されればホールドを使って横移動を軸とした鍛錬となる。使うホールドの判断や柔軟性も必要となってくる。


「直ぐには完成しないけどコツコツと仕上げて行く予定だよ。手掛かりや足掛かりの位置が結構重要だから騎士や侍女に手伝ってもらう事になると思う」


 どうしても体格差はホールドの選択肢に影響してくる。その辺りのバランスを取るのに侍女たちの協力も必要だった。


 ふとルクレイは最初からホールドを使わずに棒を差し込む案を思い付いた。


「ちょっとだけ試しますか。最初の位置は入口側の方が良さそうなのでそっちに最初の取っ掛かり付けてみよう。ヴィーに協力してもらって良いかな?」


 ルクレイがヴィオナに尋ねると「いいよー」と軽く笑顔で返してきた。


 ルクレイとヴィオナは石壁の入口側に移動した。ルクレイはちょっと首を傾げて『1m四方で厚さ20cmの安山岩で』と魔力くんに伝え「造石」と呟いた。


「ドスーーン」


 安山岩の石板が現れて地面に落ちた。ちょっとした振動も生まれ周囲にいた騎士や侍女たちは驚きの顔で目を見開いていた。


 ルクレイは『20mmの円柱で』と考え水壁のブラグソーを発動した。安山岩の石板をプラグソーで切り抜いた。横から押すと円柱状の石柱を取り出した。


「これぐらいの太さの円柱を作ってもらって良いかな?」


 ルクレイから石柱を受け取ったヴィオナはジッと見て頷いた。


 ルクレイは足場になる石棒をヴィオナに任せて壁に向かった。騎士を一人呼び寄せて壁の前で足を上げて貰った。何度か足踏みのようにしてもらい観察した。


 目処感を覚えたルクレイは『21mmで』とドリルビットを発動し感覚的に10cmぐらいの穴を開けた。従僕に石柱を運んでもらい一本目の石柱を挿し込んだ。


「さすがヴィー作った石柱は綺麗に挿し込めたよ」


 ルクレイは笑顔をヴィオナに向けて魔法の精度を褒め称えた。褒められたヴィオナは頬を少し赤くして「任せて!」と更に石柱を作り始めた。


『あれってやってる事は分かるんだけど……なんで石が突然出てきたんだ? それにどうやって石柱にしてるんだろ……意味が全然分からないんだけど』


 フィオが隣にいたカノンに小さな声で尋ねた。


『俺に聞くのが間違ってるだろ。俺がこんな奇天烈な状況を解説できるとか本気で思ってるのか? せめて聞くならティアかルナにしろよ』


 カノンは呆れた顔でフィオに突っ込みティアーヌに視線を向けた。


『ルクレイくんが使ってるのは水壁だと思うわ。ヴィオナちゃんは風壁ね。あの使い方はアルたちもしてなかったからどうやってるかは分からないわ』


 ティアーヌはカノンの視線に仕方なく分かった範囲の話をした。


「あれは工作魔法なんだよ! ルクにぃが見せてくれたけど凄いんだ!」


 カノンの横にいたクラムが目をキラキラさせながらルクレイの魔法を母親のカノンに伝えた。カノンも「あれが工作魔法……なの?」と首を傾げた。


 ルクレイは騎士用の足場を適当に2mぐらいの区間に挿し込んでいった。次に侍女に同じように踏み込みと歩幅を見せてもらい侍女用の石柱も挿し込んだ。


 上に登るルートは作らずに手で掴める石柱も埋め込み石壁を公開した。


 地上から30cmぐらいの位置を数mだけ横移動できるだけの岩壁である。ルクレイとしては面白さは少ないし単調な鍛錬という感想であった。


 それでも簡単に落ちてしまう騎士たちは落ちない工夫を話し合い始めた。早朝にルクレイが少しずつ石柱を増やし数日で30mが全て使えるようになった。


 単調だが距離が延びると難易度が上がった。それにより筋力だけで石柱を掴んで進む方法が見直され移動方法に工夫が生まれていった。


 そしてルクレイはクリートを設置するようになり一部の石柱を間引いた。抜き挿しできる事から騎士や参加が許可された侍女たちにより姿を変えていった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 伯爵夫妻は本館に戻りフィオとカノンは魔力を手袋に流す鍛錬のため池の取水口に向かった。やはり取水口近辺はとても落ち着いて集中できるようだった。


 ティアーヌは調合しようと工房に向かいメリアはリアンが戻るのについていった。ルナリエもメリアを見てるために一緒に本館に向かった。


 リグが「小型推進魔道具を見てみたい」とルクレイに頼んだ。ルクレイは試作品がいくつかあるので池で試そうと池に向かう事にした。


 エザンは少し考えミモザとクラムとエグリアを連れてルクレイたちを追った。


「そういえば、朝からバタバタしちゃったから聞きそびれでたんだけど……ユミナは戦闘侍女の認定って受け取れた感じ?」


 ルクレイはバタバタしていて聞きそびれていた事をユミナに質問した。


「実はまだ認定を頂いていません。……朝のバタバタで侍女長も慌ただしくなり結果がまだ出ていません。昼食の頃には決まると思われます」


 ルクレイの質問に少し答えにくそうにユミナが答えた。


「あー、ごめんね。結果を聞かないと落ち着かないのにほんとごめんねー」


 ルクレイはユミナに謝罪いするとユミナは居心地が悪そうに身動ぎした。


「ユミナは認定を取れるから大丈夫ですよ。鍛錬した期間を考えればユミナは十分に努力しましたし昨日の騎乗試験も戻った時刻は結構早かったと聞いてます」


 ヴィオナはちょっと唇を尖らせてユミナは大丈夫とルクレイに伝えた。


 池に到着するとユミナが従僕たちに声を掛け小型推進魔道具を工房から運ぶように指示を出した。


「ちょっと小型推進魔道具を試すから検証中はサップはダメだからね。準備に時間が掛かると思うからそれまでは遊んでて良いよ」


 ルクレイが子どもたちに許可を出すと「わーい」とクラムたちはサップに群がった。エザンがリグに頷くとリグが子どもたちの補助で向かった。


「ルクレイ殿、ちょっと考えてましてミモザの魔力の鍛錬が終わりましたので森林に入ろうかと思います。ディアが多いと聞きましたので見てみようかと……」


 狩人として森に入ることが日常のエザンは森林地帯の確認に出ると申し出た。


「あー、ディアかー。なぜかこの辺りはディアが多いんだよね。でも問題行動が少なくて優先順位が下がってたんだ。エザンさんたちに頼んで良いかな?」


 ルクレイは取り敢えずディアを減らす方策は動かし始めてはいた。しかし手が足りずにディア肉の供給が増えている程度で根本は手付かずだった。


「大丈夫です。私とミモザは森林の中が好きなので少し回ってきます。ただ運べないので討伐はしません。その辺りは別途手配いただければと思います」


 エザンの申し出にルクレイは許可を出した。本来ならばバルテア伯爵の役割だがこの場合は断る理由もないので代行としての許可となる。


 横に座るヴィオナはニコニコとルクレイを見ていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 池で遊んでいたクラムとエグリアとリグに集まるよう声を掛けた。


「それでは全員集まったので小型推進魔道具を一緒に検分してみようね」


 畔にあるタープに集まり六台の小型推進魔道具を並べてルクレイが説明を始めた。この六台は全てリューウェンのベリアード造船工房で作られた試作品である。


「基本的に魔道具としては同じ物だよ。ベリアードさんたちが取水口の形で工夫した物なの。魔道具はこういった外装も重要になる見本みたいな物だね」


 ルクレイは簡単に六台の取水口を見せながら違いをクラムたちに見せた。


「これらは外洋で使われる想定の物ですよね? 河川で使う場合はルクレイ殿ならどうなると思いますか?」


 リグは念入りに取水口を確認した。リグは原型である大型外洋船に付けられた補助推進魔道具を見た事があったがその巨大さに驚いた記憶しかなかった。


「初期段階として考えるのは遡上優先順位ですね。その場合は河川の流れに相対するので取水口自体は水流を基準に取り込みたい量で大きさを決める感じ?」


 河川は外洋に比べて流れが分かりやすい。一方で中心部と縁では流れの性格が違う二面性が強かった。つまり遡上優先で航路を設定する点も指摘した。


「この小型推進魔道具は最弱設定なら水遊びに最適なんだ。ベリアード工房のダニエルさんは毎回水浸しで試運転して楽しそうだった」


 ルクレイは『誰得?』とダニエルがびしょ濡れになりながら試運転していたのを見て笑っていた。ベリアードさんも笑っていたから酷い工房主である。


「あと僕なら船尾寄りでなく船首の方に付けてみるかな」


 ルクレイは取水口をかなり絞っている小型推進魔道具を手にして池に向かった。試験場所は手前の浅い側から深い側に向けてみようと浅い側に歩いていく。


「真っ直ぐ進もうとするのは舳先の形と竜骨です。遡上だと水流を変に受けると向きが変わりますよね? 平底は多少横を向いても帆の推進力で誤魔化せます」


 ルクレイは船尾に付けると船首側の喫水が上がり回りやすくなり過ぎる可能性を指摘した。回頭し始めると後ろから押される形で暴れるとリグに話した。


「帆の場合は確かに喫水は上がりません」


「中心部に配置した横帆は船首側を押し下げる力が働くので喫水は下がる傾向ですよ。帆が押される方向に向きたがると思いますが当て舵は簡単です」


 ルクレイの言葉をリグは咀嚼して納得した。ルクレイは小型推進魔道具を水面下に沈めた。足場の水壁を踏ん張りやすい位置に展開した。


「それでは池で初めての小型推進魔道具の試験を始めるよ。水が飛ぶと思うからヴィーは軽く風壁を展開しておいて。拠点が水浸しになると怒られそうだから」


 ルクレイがヴィオナに拠点の防御を頼むと「わかったー」と広めの風壁を拠点前に展開した。ルクレイはそれを確認すると「起動!」と魔道具を起動した。


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