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海の落とし者と釣り竿  作者: うにまる
第十四章 お洒落は危険で旋律が遊びに来た

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第八節 バレル研磨機の誕生と小島に夜景を仕込んだ

 メルカド伯爵邸マナーハウスに作られた池の畔にある拠点は工作基地となっていた。ガラスを研磨する横でルクレイが木で台を作っていた。


「ルクにぃのその工作って魔法だよね。なんでそんなに簡単に工作できるの?」


 クラムは不思議そうにルクレイが台を作るのを眺めていた。エグリアも骨組みの構造だがヨルダムが使っている台に似たものが出来るところを見ていた。


「簡単に言うと魔法というのは発動言語は入口なんだよ。クラムたちも言葉を習い始めてから随分と多くの言葉を使うようになってるでしょ?」


 ルクレイは取り敢えずひとつの例を持ち出した。


「自分を指す言葉も僕や俺とか私という風に増えていく事になる。発動言語も似た感じで発動言語は入口の初歩であって魔法の全てではないって事さ」


 工作を続けながらルクレイはクラムの質問に答えた。


 鍋を斜めに置く台は出来たので追加で簡単な仕組みを組み込み始めた。クルクル回る滑車を作り鍋を置いた時に当たるように四個ほど配置した。


 ヨルダムが予備として持ち込んでいた鍋を置きクルクルと回し滑車の滑りを見て少し首を傾げた。思ったよりも回り過ぎと感じた。


「鍋を回転させるとして……鍋に細工すると面倒だから台の方で回せるようにするか。とするとローラー的な抵抗のあるもので回転を伝える感じか……」


 ルクレイは取り敢えず歯車基盤を埋め込める円柱を木材で作った。スイッチは面倒なので回転する回数を設定する歯車基盤を埋め込んだ。


 レジン液を『かなり柔い』の配合で作り木材で作った幅広の板状に固化した。木材とレジンは結合しないので円柱にキツめに巻いて土木魔法の固着を試した。


「おお……固着した。正式な固定方法はリゾリカさんに相談しよう。確か木材同士の接着剤はあるみたいな話をしてた……ような気がする」


 ルクレイは呟きながらカレットを鍋に流し込み水を張った。歯車基盤には固定していない軸を持って鍋に押し当て歯車基盤を起動した。


「ガラガラガラ……」


 少し回転速度が速かったが鍋はクルクルと回った。


「「すごーい」」


 興味深げにルクレイの作業を見ていたクラムとエグリアが声を上げた。鍋を回しているヨルダムも目を丸くして勝手に回る鍋を見ていた。


 ルクレイは回っている歯車基盤をクラムに渡して持ってもらった。そして固定するための軸受けなどを作り台にどんどん埋め込んでいく。


 ルクレイはヨルダムにおおよその回転数を教えてもらい設定部分を削り新しい設定値を書き込んだ。最後にローラーを固定して再度固着を発動しておく。


「これはちょっと手抜きで回転する回数が固定になってる。でも入れるガラス片と水の量を一定にして回転数を固定にした方が放置できるかな」


 ヨルダムが終わらせた研磨したガラスを取り出した。ヨルダムに二台目の方を使ってもらい稼働確認を頼み研磨したガラス片をメリアと検分した。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 ルクレイがさっき思い付いたミキサーを作ってみるため『かなり硬い』配合のレジン液を用意した。板状にしたレジンを丸めようと力を加えた。


「パキン」


 レジンの板はルクレイの力に負け割れた。


 ルクレイは別の小鍋に『普通』配合のレジン液を作り板状にして丸めるとやはり割れた。仕方がないので『かなり柔い』配合のレジン液を試した。


「まぁ割れないよね……これ糸に使って布にしてるやつだし。いくらなんでも布でミキサーの外側にするのは無理しかない」


 ルクレイは腕を組んで考えひとつの可能性を思い付いた。少し大きめの鍋でお湯を沸かしながら『かなり硬い』のレジン液で再び板を作りお湯に投入した。


 クラムとエグリアはブツブツと独り言を言いながら作業しているルクレイを見ていた。二人には試行錯誤しているルクレイの姿は初めて見るものだった。


 ルクレイは躊躇いもなくお湯に手を入れた。二人は「「あっ!」」と声を上げたがルクレイは気にせずお湯の中でレジン板を丸めようとしていた。


「この感じだと折れるな……沸騰させよう」


 ルクレイは加熱魔道具の設定を最大にした。鍋のお湯はあっと言う間に沸騰しグラグラと煮立っていた。そこにルクレイはまた手を入れ丸め始めた。


「うそ……」「熱くないの?」


 クラムとエグリアは口に手を当て目をパチパチと忙しく瞬いた。


「おっ……これならイケる。レジンはどこに溜めるのか分からないけど吸水性はあるんだよね。沸騰していれば取り敢えず柔軟性が生まれるのが分かった」


 ルクレイは丸い筒状にしたレジン板を取り出しカットソーで形を整え下端を絞った筒にした。形を整えた後はレジン液を塗り付けて固化させた。


 ルクレイはさらにカットソーで全体の形をミキサーのように整え乾燥魔道具で乾燥させた。そのまま刃が付く土台の部分に着手した。


「難しい刃の形や固定方法はブカゾールさんと相談するとしてミキサーを何に使うかな……。単なる粉砕は粉砕魔道具に任せられるし……ミルクセーキか?」


 ルクレイはミキサーを思い浮かべたが何を作るために必要としたかという点は抜けていた。ただクルクル回る鍋を見て連想しただけだった。


「ルクにぃ……さっき沸騰したお湯に手を入れたよね?」


 クラムが空気感が緩くなったルクレイに尋ねた。


「ん?……あぁ、この手袋は基本機能として美肌効果と耐熱耐寒が付いてるんだ。魔力を流して登録すると耐熱耐寒は活性化するようになってるんだよ」


 ルクレイは手袋の機能をクラムとエグリアに説明した。


「ちなみに美肌効果は登録不要で活性化してる」


 そして手袋で一番不思議で人気になってる『手がすべすべ』は驚く事に魔力登録が不要だった。まるでたくさん出させるための罠のような機能だった。


「僕たちも小箱から出た物を持ってるよ! 小さなナイフの遊び道具なんだよ。ちっちゃいけどとにかく本物そっくりでカッコ良いの!」


 エグリアが首から下げている紐を引っ張り出した。小さなフワフワした袋の中に精巧に作られたナイフというより小剣が入っていた。


 ルクレイはジッと見て小さく首を振った。そして『かなり柔い』レジン液でレジン糸を作った。そのレジン糸で剣と鞘の部分を固定した。


「油断すると鞘が行方不明になるよ。この結び方は外すのは簡単なんだ。でも鞘から剣を抜こうとしても抜けないでしょ? 簡単だから覚えてみる?」


 「「覚えるー」」


 クラムとエグリアは声を揃えルクレイに応えた。ルクレイは木材で色々な形の物を作りレジン糸で結ぶ方法を二人に教えた。


 クラムとエグリアは糸結びに集中した。ルクレイが作った小物類は二人にあげて練習して広める事をお願いした。ロープ結びを遊びとしてルクレイは広めた。


 二人が遊び始めたのでミキサーの台座部分を仕上げていった。単なる木製なので実際には使えないが土台部分はブカゾールさんに頼むつもりだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 ふとヨルダムを見ると自動で鍋が回るのでサップで遊んでるリグとエザンとメリアを見ていた。その目には興味が渦巻いているのが一目瞭然だった。


「ヨルダム、ここは貴族区画だから遊びに来ることはできない。でも今日は実演で招いてるから加わっても良いよ。あれはサップという浮かぶ板ね」


 ルクレイから許可が出たヨルダムはルクレイに深く頭を下げて感謝を伝えた。ルクレイは呼び止め防寒魔道具を投げ渡し「楽しんで」と笑顔で声を掛けた。


 ルクレイは完成したミキサーの見本を起動した。


「恐ろしくやっつけだけどミキサーが出来たな。ブカゾールさんに刃とか金属製にして貰うとして……後は用途か。そこはヴィーに相談しよう」


「あら……何かあったんですか?」


 背後から涼やかで耳障りの良い澄んだ声がルクレイの耳に侵入した。ルクレイは満面の笑みで振り返り席を立ちヴィオナを席に誘った。


「お疲れさま。リランたちから解放されたんだね。ヴィーに相談しようと思ったのはこの魔道具なんだ。まだ木製だから見本なんだけどね」


 ルクレイはヴィオナにミキサーを見せて操作方法と簡単な構造を説明した。ヴィオナが起動すると「カラカラ……」と中の部品が回った。


「レイの話だと撹拌しながら粉砕するんですよね。という事はやはり液体ですね。筒になってるレジンは撥水加工するとして……使い道は飲み物ですね」


 ヴィオナは少し考えて飲み物に落ち着いた。


「これはヨルダムが帰る時に渡してお願いすれば良いね。飲み物ならユミナが……あれ? ユミナがいないね。……騎乗試験だっけ?」


「午前中にわたしがお母様に捕まったので試験を実施してるところね。試験はレベナとの往復で行いますから夕方には戻ります」


 本来の予定では午後にレベナに向かい一泊して戻るのだが一日で往復という課題に変わっていた。これは斥候というより伝令の試験に近かった。


「ナンニは王都からの移動で全然余裕だったから問題ないね。ユミナ本人も夜にヴィーと鍛錬してるし魔力の制御も続けてるから心配はないね」


 ルクレイが笑顔で話すとヴィオナも笑顔で頷いた。


「そうだ! 小島をライトアップしようと思ってたんだ。小島の周りに灯光魔道具を隠して設置するの。で、暗くなったら起動して夜景を楽しめるの」


 ルクレイの提案にヴィオナは「素敵ね」と目を細めた。


 ルクレイはヴィオナが喜んだので工房に灯光魔道具を取りに向かった。ヴィオナを楽しませたくてコソコソと外装をバラして準備していた。


 ヴィオナは頬杖をついてルクレイが水壁で小島の周りに灯光魔道具を設置していく姿を見ていた。まだ午前中なのにルクレイは急いで設置した。


 そんな事をしていると昼食の準備が始まった。


 魔力を渡す試みをしていたフィオたちは監視役のルナリエに連れてこられた。ティアーヌも調薬していた工房から池の拠点に顔を出した。


 リグとエザンはメリアを連れて工房の湯殿に向かいヨルダムはルクレイにお礼を述るとミキサーを渡され驚きながら伯爵邸マナーハウスを後にした。


 バルテア伯爵はカリスタ伯爵夫人とリランを連れて現れイゼルダ前伯爵夫人もふらっと拠点に集まった。自然と池の畔は人が集まる場所になっていた。


 そこに従僕が現れルクレイにレベナから荷物が届いたと伝えられた。木箱を開けると家庭用の製糸魔道具が入っていた。午後は拉致される事が確定した。


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