表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海の落とし者と釣り竿  作者: うにまる
第十四章 お洒落は危険で旋律が遊びに来た

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

108/132

第四節 サップの追加ギミックとサップの披露と展望

 メルカド伯爵邸マナーハウスのガゼボで今日もルクレイはお祈りを捧げた後は工作を始めていた。作っているのは昨日も作ったレジン製のDリングである。


 すでにサップには取り付け用の穴が空けてあった。


「お試しならレジンでも十分にイケそうな気がしたんだよね。壊れても帆走が解除されるだけだから安全性に問題はない……むしろ脆くした方が安全?」


 ルクレイの頭の中ではなぜかサップが帆走していた。ルクレイが持っているイメージはセイルボードといった帆を付けたボード類である。


「帆の展開を人が維持する必要がある形に落とし込めばフェイルセーフになる。帆をスピネーカー風にすれば結構簡単に仕組みとして成立するかな」


 型の中に『ちょう硬い』配合のレジン液を流し込んで魔力で固めた二個のDリングが完成した。サップに空けた穴にDリングをグイグイと押し込んだ。


「んー、悪くはないかな」


 ルクレイは満足そうにDリングの出し入れをしてうんうんと頷いた。


 荷物から四角い布と細いロープを取り出した。


「布の四隅にロープを繋げるところはレジンの板を縫い込めばできるけど……ヴィーに聞いてからやろう。もっといい方法があるかもしれない」


 独り言を呟いていたら「何を聞くの?」と問いかけられた。


「あっ、おはよー」「おはよー」


 ガゼボに入ってきたヴィオナにルクレイは朝の挨拶をしてサッと席に誘導した。


「この布の四隅にロープを繋げたいんだ。ある程度は頑丈にしたいんだけどいい方法が分からなくって。布の扱いはヴィーがよく知ってるから聞こうかなって」


 四角い布をヴィオナに渡してロープを見せた。


「四隅を補強してロープが結べるようにしたいのね。この布は標準の糸で織ったものですね。針子に頼めばあっと言う間にやってくれますよ」


 ヴィオナはロープも一本手に取り布とロープをユミナに渡した。受け取ったユミナはガゼボを出て近くで作業していた従僕に指示を出した。


「ありがとう?……そこまで急いでいたわけではないけど助かった。作業としてやり方は何となく覚えてるんだけど……何となくなんだよね」


 ルクレイはヴィオナに感謝を伝え頭を掻いた。


「あの布とロープは何に使うのですか?」


「サップに付けてみようと思ったんだ。サップに結ぶところを付けたから実演してみるね。それほど大がかりでなくて……こんな感じ」


 ルクレイはサップに付けたDリングにロープを一回巻き半結びを二つ作って固定した。二本のロープをサップに繋ぎ別の布の端に軽く結んだ。


 残りの端にもロープを結び両方ともパドルのブレードの近くに同じ手順で二本とも繋いだ。ルクレイはサップのセンターに座りパドルを立てた。


「こんな感じを考えてるよ。布が風を受けると帆船と同じように前に進むと思うんだよね。パドルと倒せば帆の役目を潰せるから強風が吹いても暴走はしない」


 ルクレイがヴィオナに目配せするとヴィオナはニコッと笑い「そよ風」と発動言語を口にして布に向って風を起こした。布はパタパタとはためいた。


「なるほど……サップを帆船に見立てたのですね。風任せではありますが面白そう。午前中のお披露目で試してみますか? 布は間に合いますよ」


 ヴィオナはニコニコし風役をやりたそうだった。ルクレイはニコッと笑い返して「やろう」とヴィオナに答えた。風役はヴィオナに最初から決まっていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 朝食が終わるとゾロゾロと池の畔に移動し始めた。昨日のメンバーに加えて伯爵夫妻と前伯爵夫人が加わった。イゼルダ前伯爵夫人はティアーヌと話していた。


 工房に着くと誘っていたリゾリカ工房主が待っていた。ルクレイが近寄り挨拶を交わし池の畔まで一緒に向かった。


「ルクレイ殿、トイレの新作が出来ましたぞ。最初の五人に図面を描けた者を加えて八人に作らせました。中の木屑を掻き混ぜる仕組みも許可しました」


 ルクレイにトイレの進捗をリゾリカ工房主が説明した。


「図面を描かせたの? リゾリカさんも中々に難しい課題を出すね。リゾリカさんから見て良さそうなのを何個か持ってきて。従僕たちが検証の手伝いしてる」


 ルクレイは検証を進めていると伝えた。リゾリカ工房主は従僕たちから後で話を聞いてみると頷いた。そして話は馬車に移った。


「外板は確認中です。内装も始めて若手を指導しながら収まりなどを勉強させてます。進捗としてはあまり進んでいません。トイレの小部屋も設置中です」


 進捗状況をリゾリカ工房主はルクレイに伝えた。


「ふふ、若手の人たちが頑張ってるんだね。トイレの小部屋は『シャワー室』って名前にしようと思う。水浴び場も兼ねさせるから固有名を付けとくね」


 馬車の作製からルクレイは手を引いたので経過の確認だけになっていた。


「レイ、名前を付けるなら先に教えて欲しいです。最初に聞くのが楽しみなのよ? 次からは先に話してくれると嬉しいわ」


 ヴィオナが口を尖らせてルクレイにお強請りをした。


「分かった。ヴィーに名付けは相談するね。後でサップに付ける帆とかいくつか相談させてね。それと午後からのフィオさんたちに話す件も流れを考えようね」


 ルクレイは笑顔をヴィオナに向けて約束を取り付けた。新しい約束にヴィオナは「うん」とはにかんで応えた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「今日はサップのお披露目をします。これを使ってヴィーと『深緑の湖』を渡る予定なので安全性などをお義父さんたちにも見てもらいます」


 ルクレイは軽く趣旨を全員に伝えた。


「タープとテーブルなどは多めに設営しましたので好きな場所で見てください。飲み物は侍女たちに声を掛けてください。それでは軽く実演しますね」


 ルクレイはなぜか起きた拍手に手を上げてサップを水面に浮かべた。サップのリーシュコードを足に結びパドルのコードを手首に結んだ。


 サップのセンターに乗りパドルで岸を押してサップに推進力を渡した。そして左側にパドルを刺して漕ぎ右と漕ぐ動作を繋げていく。


 派手なターンは行わずパドルを舵のように刺して池の上を自由に移動した。小島を一周してルクレイは岸に寄りサップを止めて陸地に足をつけた。


 再び拍手が鳴り響きルクレイは礼を取った。


「驚いたな。木の板であのように水面を動けるとは思わなかったぞ。まるで水面の上に立っているようで頭が混乱した」


 バルテア伯爵は木の板と少し軽く考えていた。しかし実際に見ると水面を自由に動ける事に驚いた。危なげなく動いていたが難しい事は何もしていなかった。


「教える前に昨日やった事をもう一度やりますね。クラムとエグリアは一緒に乗ってくれるかな。複数の人が乗るところもお義父さんたちに見せるよ」


「「はーい」」


 ルクレイが片足をサップのセンターに乗せて揺れを抑えた。そしてバウ側にクラムを乗せる。抑える位置をスターン側に移してバランスを取る。


 次にエグリアがスターン側に乗り込む時はパドルも使い重心のバランスを取った。パドルの感触でセンターの位置を決めてルクレイが乗り込んだ。


 バルテア伯爵たちは三人も乗って沈まないサップに感嘆の声を上げた。実際のところ全長4mで全幅80cmのサップは400kg程度の浮力を持っていた。


 ルクレイはパドルで岸をゆっくり押した。


 岸から離れたらパドルで漕ぎ出しルクレイは小島を一周して戻ってきた。


「凄いな……子どもとはいえ三人は結構重いぞ。少なくとも大人が二人乗っても余裕があるな。バランスさえ取れればフル装備の騎士でも乗れそうだ」


 バルテア伯爵はカリスタ伯爵夫人とイゼルダ前伯爵夫人と三人で話していた。少なくともルクレイは特別な事をしていないことを確認し合っていた。


 そこからルクレイは操作方法の説明をバルテア伯爵たちにした。リグやエザンにクラムたち子どもも説明を再度聞き扱い方を覚えようとしていた。


 ルクレイは男性陣と子どもたちに防寒魔道具を配布した。これを身に着けていれば落水しても寒さに震えることはないのでルクレイが作っておいた。


 ルクレイはさらに工房にある湯殿を準備するように従僕たちにお願いしてあった。濡れて本館よりは工房の方が片付けも楽になると計算していた。


 説明と陸上練習が終わるとルクレイは自由時間にした。


「あれは面白い道具じゃな。リゾリカを呼んだのは作って売るつもりなんじゃろ。リゾリカは見てどう思った? あれを作れると思うか?」


 イゼルダ前伯爵夫人が目を細めリゾリカ工房主に尋ねた。


「ルクレイ殿から工房で作る時の図面を頂いております。基本的に板を組み合わせ隙間は船と同じように樹皮で埋め中の水は排出できるようになっております」


 構造の確認は済んでいることをリゾリカ工房主は伝えた。


「加えて調湿魔道具を入れる事も視野に入ってます。木工職人として挑戦したい製品ですし作れるという感触がありますので是非ともやらせて頂きたいです」


 リゾリカ工房主はその場で頭を下げた。


 リゾリカから視線をバルテア伯爵に移しイゼルダ前伯爵夫人は「バルはどう思う?」と伯爵家の当主に考えを問うた。


「答えは明確ですよ。サップは必ず使われる道具になるのは確実だ。ルクレイが許すならサップに関しては王宮に送り基本的な製造方法を開示したいと思う」


 バルテア伯爵はサップの道具としての将来性を感じていた。そして貴族家として抱えるのは得策でないと考えていた。


「それで問題ないですが王宮に送るのは少し後にしましょう。僕の図面はあくまでも図面です。リゾリカさんたちの手が入ってから王宮に上げた方が良い」


 ルクレイは手順として王宮を後回しにする案を提示した。


「あと、時期を見てリューウェンに送って生産を手伝ってもらおうと考えてます。一番使うのは港町ですから先に広げて王宮には後出しでも良いと思います」


 そして先に広める方を優先した方が良いと話した。


「王宮を後にするのか?」


 バルテア伯爵はルクレイの王宮を後回しにする案に驚いた。


「海沿いは直ぐに用途が分かります。王宮というか王都では通達で広げるぐらいです。使い方をそれから考えてるのでは時間の無駄でしかありません」


 王宮で動きが止まれば時間だけを浪費するとルクレイは考えを話した。


「くく、ルクレイの言うとおりじゃな。王宮には使い方も付けて渡した方が喜ばれるじゃろ。まずはここで作れる道筋を整えろ。リゾリカ頼むぞ」


 イゼルダ前伯爵夫人が結論をまとめた。そしてリゾリカ木工工房に製法の改善を指示した。これによりサップの量産が確定した。


「お任せください」


 リゾリカ工房主は新しい製品に取り掛かる許可を得て胸が高鳴った。しかも創意工夫をルクレイが真っ先にリゾリカ工房主へ無条件で渡したことが嬉しかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ