第三節 子どもはサップに乗り女性陣は真剣なお願い
メルカド伯爵邸のラウンジに多くの人が集まっていた。
「人数も多いですし池の畔に移動しましょうか」
ルクレイがフィオに声を掛けヴィオナの頭を撫でた。ヴィオナは頷きフィオたちに移動を促した。ルクレイは侍女に拠点の拡張を頼んだ。
池の畔に向かいゾロゾロと大勢で歩いていた。ルクレイとヴィオナは『涼風の旋律』メンバーと挨拶しメンバーの旦那と紹介された二名と挨拶を交わした。
「クラムとエグリアは久しぶりだね。たぶん二人が喜びそうな物があると思うから楽しんでいってね。池もあるし小山も作ったから遊び場もあるよ」
ルクレイは並んで歩いている二人の男の子に声を掛けた。もう一人の女の子はヴィオナ側でヴィオナと挨拶をしてお洒落の話をしていた。
「ルクにぃは小山を作ったの?」
剣士カノンの息子であるクラムがルクレイに尋ねた。
「作ったよ。これから行く池も作って完成したばかりだよ。二人は初めてお迎えするお客さんだからね。池で遊ぶ道具はまだそろってないけどサップはあるよ」
ルクレイの話に「「サップ?」」と二人は首を傾げた。
「ねえねえ、ルクにぃの言ったサップって何?」
斥候ミモザの息子であるエグリアがルクレイに尋ねた。
「それほど凄いものではないけど大きな水に浮かぶ木の板だね。池に浮かぶから遊べるよ。二人だけで遊ぶのは危ないから大人も一緒でないとダメだけどね」
「うわーすごーい! おっきな池だねー」
魔法士ルナリエの娘であるメリアが池を見て声を上げた。クラムとエグリアも池を見て「「デッカ」」と目を丸くした。
「ふふ、大きいでしょ? レイがさっき話した庭園の話を聞いて作ってくれたの。あの畔にある拠点でお茶をしたり工作したりしているのよ」
ヴィオナがメリアに池の説明をしていた。
「あの小島もルクにぃが作ったの? 凄く自然にあるから元からあるみたいなんだけど……それに砂浜も凄いよね。あの砂ってレベナから運んだの?」
クラムはキョロキョロと池を見てルクレイに尋ねた。
「あの砂は魔法でズルして作ったよ。水面に見える石もだしこの池は土属性の土木魔法で作ったからね。小島の手前は底が小石だから明るくて水も綺麗だよ」
クラムに答えルクレイは土木魔法の成果を自慢した。
「ふふ、待ち切れずにレイは水も張っちゃいましたよね。楽しそうにサップに乗ってる姿はとっても素敵でしたよ。二人もサップで楽しんでね」
ヴィオナが横から揶揄ってきた。それでいて甘い空気にメリアの瞳がキラキラしていた。ヴィオナの手をツンツンと引きヴィオナの注意を引いた。
「サップってわたしは乗れないのかな?」
「どうでしょう。メリアは大丈夫だと思うけどルナリエお母さんに聞いてみて許可が出たらかしら? 安全性はレイが整えてくれるから危険はないわよ」
ヴィオナの答えに「聞いてくる」とメリアは母親のルナリエに突撃していった。突然襲撃されたルナリエは目を丸くして二人で話始めた。
「わたしも早くレイと二人で乗りたいわ」
ヴィオナがルナリエに顔を近づけて小さく囁いた。
「任せて。明日にでもお義父さんに試乗してもらうから。お義母さんとお祖母様にも見てもらわないとね。仕上がりは問題ないからリゾリカさんも呼ぼう」
「もうサップの簡易版を工房にお願いするの?」
ヴィオナはポンポンと話を進めるルクレイにくすくすと笑った。
◇ ◇ ◇ ◇
従僕たちがテキパキと拠点を拡張し三つのテーブルと三張りのタープを張った。男性陣と女性陣に別れて取り合えず座り冷やした紅茶が振る舞われた。
「凄いですね。聞こえた話だとルクレイさんがこの池を作ったんですよね。周囲に溶け込んでますし作られたばかりの池だとは気が付かない出来栄えです」
狩人をしているミモザの旦那であるエザンが感心していた。森林の中など自然に溶け込む職業をしているエザンの目からも作りたてには見えなかった。
「風景に溶け込んでるのは庭師の腕です。周囲の景観も池に合わせて手入れしてます。短期間で風景を書き換える腕は驚嘆に値します」
景観の変化の速度はルクレイ自身も驚いていた。
「植えてある草や花たちや灌木もなかったんですよ。木々の高さも変わってます。みんな元からそうであったような顔してますが引っ越してきたばかりです」
見える風景が庭師の手で作られた事を自慢気に話した。
「それは凄い。狩人という職業柄から自然の中に長くいますが調和に破綻がありません。池を中心に時間を掛けて作り上げた庭園にしか見えません」
「ルクにぃ……あそこに置いてあるのがサップ?」
クラムが畔に置かれたサップに気が付きルクレイに尋ねた。
「そうだよ。あれは木製で中をくり抜いているから見た目より軽いんだ。あれは大人が二人乗っても沈まないよ。クラムなら四人は乗れる」
ルクレイはクラムとエグリアを誘って席を立った。エザンとルナリエの旦那であるリグも誘った。リグは興味深そうにサップに近寄り触り始めた。
「見た目の大きさだと一人で持ち上がる大きさではないですね。この厚さの板など見たことがありません。長さは四単位で木材の標準ですが幅は倍はある……」
リグが興味深そうにサップを持ち上げ目を丸くした。確かに重量はあるが持てない重さではなかった。リグは視覚と重量に乖離を感じた。
「単位を使うって事は製材関係ですか?」
ルクレイは何気なくリグに問い掛けた。
「いやっ、リアマスで造船技師をしています。専門は河川船ですが海洋船もやっていました。最近は河川船に竜骨を組み込んでみたりしてましたね」
東方街道の東部にあるリアマスはイグリアス伯爵領の領都である。
「あー、大型でも河川船は平底でしたね。大型化するには強度的に難しいですよね。もしかしてセトリアナ大河とか大型河川に向けた仕様ですか?」
「そうです。リアマスは歴史的に東部の河川船をかなり建造してます。セトリアナ大河の王都からメドゼクトの間の遡上船はリアマスで建造してます」
リグの言葉にパッとは地理が浮かばなかったがイグリアス伯爵領の領都がリアマスという事は覚えていた。位置的にセトリアナ大河の上流と理解した。
「遡上船については後で教えてください。折角なので二人をサップに乗せてみますね。……いいかい、とにかく急に動かない事が重要だからね」
ルクレイはクラムとエグリアを手招きして注意事項を伝えた。ルクレイはサップをヒョイっと持ち上げて畔に近寄り水壁を展開して水面を歩いた。
ルクレイは岸の近くにサップを浮かべて二人を促して乗せ軸線上にセンターを空けて座らせた。ルクレイはパドルを従僕から受け取りセンターに立った。
「揺れに慣れるまでは動かないで挙動を覚える事に集中してね。動きが分かれば身体がバランスを取ってくれるよ。自分の身体を信じて色々と感じてね」
こっそりと発動していたサップのバウとスターンを止めていた水壁を解除して岸をパドルで軽く突いて離岸した。無理に推力を与えず離岸だけを進めた。
岸から少し離れたので左側にパドルを刺して支点にして足裏でサップを進める。数回パドルを左側に刺すとそのまま右後に挿し込んでパドルを軽く外に押した。
刺したパドルを舵のように操作してサップを右に回頭させた。
「どうだい? 僕が持ってるのはパドルと言うんだけどサップを操作するのに使う櫂のようなもの。板の上に身一つで浮かぶ感想はあるかな?」
「「すごいー」」「とっても気持ちいい」
ルクレイの問いかけに二人は声を揃えた。
「それじゃ戻るよ。リグさんがめちゃ乗りたそうな顔してる。簡単に乗り方を話すから二人も聞いておいてね。簡易版は売り出すから買えるようになるよ」
「「たのしみー」」
岸に戻ったルクレイは水壁でサップを固定すると二人を降ろし陸に引き上げた。そして男性陣にサップの操作を簡単に説明し陸上で練習させた。
「教えた事は基礎的な事ばかりです。水上で立ちパドルで漕ぐ時の考え方のみ。大事なことは体験する事なのでリグさんとエザンさんは少し練習してみて」
ルクレイは軽く練習を投げた。クラムとエグリアには外から見て思った事をどんどん投げかけるように頼んだ。男性二人には落ちても足が届くと伝えた。
「お疲れさま。ここから見ていて楽しかったわ。メリアが乗りたいみたいだからあの輪に加わっても良いと思うけどルナリエさんはどうですか?」
ヴィオナがルクレイを労いルナリエに声を掛けた。
「そうですね。とても安定した板ですからリグもいることですし良いでしょう。メリアも参加してきなさい。ルクレイくんの説明は聞いていたでしょ?」
ルナリエの許可が出て「聞いたよー」と席を立ちクラムたちに合流した。二人に説明で聞いて体験した事を聞き出し同じように陸上で練習を始めた。
ルクレイはヴィオナの横に座っていたメリアの席に座り侍女から冷えた紅茶を受け取った。軽く喉を潤して改めて簡単に挨拶をした。
「訪問の本題は聞いた感じ?」
ルクレイがヴィオナに尋ねると「えっ?……本題?」と首を傾げた。
ルクレイはヴィオナの頭を撫でるとフィオに視線を向けてニコッと微笑んだ。
「ヴィーに会いに来たのは違わないけどそれだけではない。少し困った事があってヴィーを頼るために訪問したと思うんだよね。ヴィーは力になりたいよね?」
ルクレイが聞くとヴィオナは「当然です」と胸を張って答えた。
ティアーヌとルナリエは目を合わせ肩を竦めた。ルクレイは言い出しにくいお願い事を簡単にヴィオナの望みに形を変え引き出す段取りを整えた。
ヴィオナはキラキラした目でフィオを見つめ話し出すのを待っていた。
「えっと……実は俺とカノンとミモザはアイテム袋が使えないんだ。魔力を流すというところで躓いて手袋も出たけど……使えなくて……助けて欲しい」
フィオはバツが悪そうな感じでヴィオナにお願いした。
「魔力ですか! わたしもどうすれば良いのか分からずレイに頼りました! レイは優しく『ヴィーなら出来る』って言ってくれました! 素敵過ぎます!」
ヴィオナのテンションにルクレイは「えっ?」と目を丸くした。
ティアーヌとルナリエは「良いわねー」とニヤニヤと眺めていた。ミモザも真剣な顔で聞いていたがヴィオナの言葉を理解して少し吹き出した。
「その方法を教えてもらっても良いかな?」
フィオは真剣な顔のままヴィオナに教えて欲しいと頼んだ。




