閑話 双子のリューウェンデビューと交差する出来事
メルカド伯爵領の港町レベナにある代官屋敷に双子とリドルに加えカンコール魔道具工房のカンコール工房主がラウンジで今日の状況整理をしていた。
「製糸工房で魔道具を使うのは大丈夫だな。乾燥魔道具は現状だと過剰になっちまったが問題はねえ。加熱魔道具も煮た後の作業が楽になってるぞ」
カンコール工房主はイゴルト製糸工房で大型乾燥魔道具と大型加熱魔道具の稼働試験をした結果を双子とリドルに伝えた。
「厄介草は在庫切れ!」「入荷はもうすぐ!」
マルセリオとフィリクスは魔道具試験とは別に厄介草や煮た後の繊維の在庫状況をリドルと確認していた。こちらも状況はとても良かった。
「という事は魔道具をリューウェンに持ち込んで先に進めても良さそうだね。僕は明日の船でリューウェンに入るからリオは伯爵に手紙を出してね」
「任せて!」「リューウェンへの旅立ち!」
マルセリオはリューウェンに向かう許可を父親であるバルテア伯爵にお願いする手紙を書き出した。フィリクスが横に座り書く内容を相談し合っていた。
「カンコールも許可が出たら頼む。侍女でアユナはいるけどカンコールに保護者をお願いするしかない。アユナは二人から絶対に離れないこと」
リドルの指示に「はい!」とアユナが答えた。アユナは見習いだったがルクレイの専属を通して実績が出せた事で正式な侍女となっていた。
『正式な侍女になれたのは嬉しいですが……最初の担当がマルセリオ様とフィリクス様の他家訪問というのはスパルタ過ぎます……』
アユナはほぼ空元気だったがルクレイの横でやりようを見ていた事が多少の経験になっていた。ルクレイには笑顔は人を前向きにすると言われ実践していた。
「早ければ明後日には許可が出る。明後日の連絡船は出港を遅らせる手配はしておく。荷物は纏めておくように。散らかしてたらダメだからね」
「「かしこまりー」」
本当の兄のようなリドルの言葉にカンコールは横で苦笑していた。
◇ ◇ ◇ ◇
「われわれはー」「リューウェンにきた!」
連絡船から桟橋に降りたマルセリオとフィリクスは手を挙げて上陸の掛け声を上げた。連絡船の船員は楽しそうに二人を見下ろしていた。
桟橋にはリドルと騎士二名が出迎えに来ていた。
「「リドにぃひさしぶりー」」
双子の挨拶にリドルは「久しぶりって……」と苦笑いを浮かべた。
そのまま子爵邸まで移動となった。双子は騎士の前席に座りアユナは女性騎士の前席に座った。カンコールには馬があてがわれた。
「初めてお目にかかります。メルカド伯爵家長男マルセリオと申します」
「初めてお目にかかります。メルカド伯爵家次男フィリクスと申します」
「「これからよろしくお願いします!」」
グレアル子爵とフェリア子爵夫人は双子の挨拶に相好を崩した。リドルから聞いていたよりも何倍も可愛い子供たちだった。
「俺が当主のグレアルだ。マルセリオとフィリクスの訪問を心から歓迎する」
「私が妻のフェリアよ。二人の事はリドルからたくさん聞いていたけれど聡明でとても可愛らしいわ。これからもリドルと仲良くしてね」
「「リドにぃは大好き!」」
双子はニコニコしながら答えた。
◇ ◇ ◇ ◇
「これはリドル様、工房までわざ――「いつも通りね」……はい。本日は視察で来られましたか? 厄介草は順調に処理が進んでいますぞ」
ナンニル製糸工房のナンニル工房主は笑顔で状況を伝えた。
「今日は紹介と魔道具の話で来たよ」
リドルが立ち位置を横にズレて後から付いてきていた双子を前に出した。
「メルカド伯爵家長男マルセリオ」「次男フィリクス」「「よろしくねー」」
マルセリオとフィリクスは自己紹介をした。
「これは! ヴィオナ様の弟様ですか? わざわざのおこ――「「いつも通りね」」……はい。まさか我が工房にお越し頂けるとは嬉しい限りです」
ナンニル工房主は笑顔で双子を歓迎した。ルクレイがナンニル工房主にヴィオナを自慢気に紹介した効果が双子の歓迎に繋がっていた。
リドルはナンニル工房主に大型乾燥魔道具と大型加熱魔道具を渡し工程の中で活用する話をした。魔石は子爵家から配布される件も伝え検証を頼んだ。
◇ ◇ ◇ ◇
リドルと双子は今日も工房巡りと浜焼き場の視察という名の昼食をたかる流れで一日が終わる。浜焼き場は大量に食べ物が集まるため注意が必要だった。
既にリューウェンではマルセリオとフィリクスは人気を得ていた。ルクレイの義弟というのもあるが明るく気さくな性格が街人たちに気に入られていた。
「ちょっと食べ過ぎたかな。まだあまり空腹になってない……。母上にまたチクチクと刺されそう」
「「リドにぃはタコを食べ過ぎた!」」
浜焼き場で昼食をたかった三人は馬に揺られて坂道を上がっていった。初日に会った騎士二人と女性騎士が常につき前席が定位置になっていた。
三人が雑談しながらラウンジに入ると人が多かった。入口で固まっているとレグルスが顔を出し「リドル久しぶり」と軽く挨拶をした。
「レグルス! こっちに顔を出しに来てくれたの? 王都を出る時はバタバタしてて公爵邸に顔を出せなかった。黙って移動してごめんね」
リドルはレグルスに近寄り握手を交わした。
「問題ないよ。だってあの頃はバストリアにいた。それを言ったら僕の方が先に不義理になっちゃうよ。クラウスやレオナールと良く移動してたからね」
レグルスはリドルに頭を掻いてどっちもどっちと伝えた。
「「リドにぃ」」「僕たち」「紹介して」
マルセリオとフィリクスがリドルに紹介を強請った。
「あぁごめん。彼らはメルカド伯爵家のマルセリオとフィリクス。彼はレグルス。友達なんだけど……アル兄さん、アルフォンスの弟なんだよ」
「「おぉぉ」」「異変の英雄」「僕たち知ってる!」
レグルスの紹介に双子は驚きの顔をした。
「あと……ティアーヌおばさんお久しぶりです」
ラウンジにはレグルスの母親であるティアーヌもいた。初顔合わせだが『涼風の旋律』のパーティーメンバーもいた。双子は挨拶の暴風に翻弄された。
◇ ◇ ◇ ◇
「まさか『涼風の旋律』とルクにぃたちが会っているとは思わなかった。しかも涼風の旋律がメルカド領に向かうなんて思わなかったね」
「ルクにぃは魔法が得意? 変? だから頼られるのは分かる」
フィリクスの言葉にマルセリオとリドルが吹き出した。まったく褒め言葉に聞こえなかった。ただ二人もフィリクスの言葉には同意していた。
「なんか人の関わりが凄くゴチャゴチャしてるような気がする。ルクレイさんの事は僕も耳にしてる。アル兄を挟まないで絡まってるのが面白い」
レグルスは面白そうに思った事を言葉にした。
「それは言えてるね。ルクにぃはなんだかよく分からない程にアル兄さんの関係者に関わってる。それはヴィオナ嬢もだね。何らかの縁なんだろうな」
リドルも不思議そうな顔をしたが縁という言葉は口にして腑に落ちた。アルフォンスが動き縁が広がり多くの人たちが形は違えど異変に関わりを持った。
「僕はレグのお母さんが冒険者ってのに驚いたよ? それにヴィオ姉様とルクにぃに会いに行くとか楽しそうだよね」
マルセリオが言葉を挟んだ。
双子とリドルはレグルスも伴って日課の工房巡りをしていた。多くの工房に双子は歓迎されリガレアやレベナの工房で起きている事を伝え刺激を生んでいた。
カンコール工房主はリベラン魔道具工房に入り浸り魔道具談義を行い船舶風壁魔道具の基盤を描く手伝いなどもしていた。
ボリアナ製材工房ではルクレイが木材を乾燥魔道具で乾燥させていると聞きリベラン魔道具工房に駆け込んでカンコール工房主も巻き込まれたりしていた。
そんな賑やかな数日が過ぎた時に王都から特使と魔道具がノルド家の連絡船でやってきた。子爵邸に緊張が走った。
「これは特使殿。久しぶりですな」
グレアル子爵がにこやかな笑顔で王宮の特使を迎え入れた。グレアル子爵と握手を交わした特使も「お久しぶりです」と返した。
ノルド子爵家に王宮の特使が来るのはおおよそ五年ぶりである。前に来たときは『西方探索』の協力要請だった。ノルド家とアルフォンスの最初の接点である。
この接点がリサリアの運命を大きくアルフォンスに近づけた。
リサリアは三歳から領務や財務の勉強を始め五歳の頃には実際の領務に手を出していた。七歳を過ぎた辺りからグレアル子爵から領務を奪っていた。
そして八歳の時に特使から受け取ったアルフォンスが書いた西方探索の報告書を目にして『今のわたしには書けない』と同い年の報告者に興味を持った。
そこから王立学園で出会うまでの四年間は王宮から回ってくる報告書を通してアルフォンスという平民の少年を追い続けた。
アルフォンスとの婚約は小さい少女だった頃からの夢だったのかもしれない。
◇ ◇ ◇ ◇
「はぁ?……『名付けの賢者』とか面白すぎだろ。これ陛下の仕込みだろ? 通達と噂が同時とか王都にだけ先出しで情報を流して育ててるだろ」
特使が持ってきた通達は名付けに関する物だった。ルクレイが付けた名前が並んでいた。アルフォンスの分も入っていたがルクレイが付けた事になっていた。
そして名付けたのがルクレイと明記されていた。
そして特使がノルド家の連絡船で来たのもヴァルディス国王が行き来してるから乗って行けと特使に指示したからだった。二つ名を耳打ちして送り出した。
一緒に来た魔道具は工房用の製糸魔道具だった。こっちはなぜか公爵家がバストリアから王都に運びノルド家が頼まれた形になっていた。
「魔道具の輸送に公爵家が関わった意味も分からんしうちに流れた理由も分からん。この流れを自然に作れるのはグラナート殿ぐらいだろうな」
アルフォンスの師匠であり親友でもあるグラナートは王国の伝説的な魔道具師である。ある意味で悪友だろうとグレアル子爵は思っていた。
「二つ届いて一つはうちの分は良い。もう一つがレベナ行きでナンニルが勝手に発注してるとは思わなかったぞ。うちも助かるから送るけどな」
翌日には通達と魔道具が連絡船でレベナに向かった。
特使はヴァルディス国王にノルド子爵にメルカド伯爵家に宛てた通達を渡せば良いと指示されていた。通達を他家を経由して届けるなど異例だった。
「陛下はニヤニヤするために手配したんだろうな」
ノルド子爵はヴァルディス国王の悪戯に段々と慣れていく事に気が付いていた。特に困らないので悪戯の軽い手伝いをする事にした。
そして工房巡りと浜焼き場を堪能した双子とリドルにレグルスが加わり四人が明るくなった桟橋に到着した。カンコール工房主は一足先に帰っていた。
「探査船用の桟橋が連絡船用に変更されてたのは知らなかった。確かにこの辺りは海風でも出港できる。アル兄さんは良く色々と気がつくなぁ」
リューウェンの港は陸風が吹く早朝に連絡船たちが出港する。海風になると帆走で出港できなくなるためである。唯一この辺りだけ出港が可能だった。
アルフォンスに指摘されたグレアル子爵が試験的に運用していた。
双子はいつも前席に乗せてくれる騎士と話しながら連絡船に乗った。二人の騎士は護衛という形でレベナまで同行する。双子の鍛錬相手でもあった。
アユナは女性騎士にお礼を伝え連絡船に乗り込んだ。
リドルは相棒のヘラムを連れレグルスも相棒のグリムを連れて連絡船に乗った。レグルスにとって初めて向かうメルカド領にワクワクしていた。
リドルと双子は入手したばかりの新作噂話を持ち帰ろうとワクワクしていた。




