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海の落とし者と釣り竿  作者: うにまる
第十三章 小山は思ったより大きく池とSUPのコラボ

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第七節 小山は再設計して水面に浮かんだ不思議な光景

 メルカド伯爵邸マナーハウスの小山造成予定地にある拠点ではルクレイがショボーンとしてヴィオナが慰めながら会話が続いていた。


「斜面がきついと直ぐに崩れちゃうんだ。庭園で植えられてる……あの緑の草ってヴィーは名前を知ってる?……知らないかー」


「レイの中では名前がありますよね?」


 ルクレイに庭園にある草の名前を聞かれたヴィオナだが知らないと答えた。そして名前があると察してルクレイから聞き出す事にした。


「……あるけど……えっとね『芝生』なんだけど……その名前で良いの? まぁ芝生を植える予定ね。背の低い灌木もかな。根が張れば土を支えてくれる」


 名前を聞き出せたので満面の笑みを浮かべたヴィオナは侍女にメモさせた。ルクレイに話の先を促して斜面をどれぐらいにするか考えさせた。


 ルクレイはメモ紙とペンを取りブツブツと考え始めた。


「うーん……勾配? 角度? 崩れない斜面……三角関数ってどう計算するんだっけ?……勾配って道路標識でしか見たことないし……」


 メモには乱雑に初心者20度や上級者40度といった書き込みや登るなら30度が限界といった断片が書かれていた。メモには三角の図も描かれていた。


「この『初心者』というのは何ですか?」


 メモを覗き込んでいたヴィオナが指で文字を指し質問した。


「えっ?……あっこれか。これはスキーだと初心者は二十度ぐらいが限界って意味なんだけど……スキーがないような気がする」


 聞かれたルクレイはワタワタしながらヴィオナに答えた。


「んー、『すきー』というのは聞いた事がありませんね。この変なのが二十なのですね。最後の『度』というのがレイの言う『単位』なのですね?」


 ヴィオナの容赦ない追撃がルクレイに刺さった。


「そっ……そうだね。うんうん。スキーは今度教えるね。それと『度』は……分かり難いんだけど……これが九十度で……こっちが四十五度って言うの」


「んー、難しいですね。今度ゆっくり教えて欲しいです」


「分かった。スキーとか数字とか度とかは教えるね。ヴィーと一緒にお勉強って何気に初めてだね。ヴィーとのお勉強が楽しみだな〜」


 浮かれるルクレイに「そうですね」と少し澄ましたヴィオナが答えた。上がった口角と薄っすら赤くなった頬を隠せてはいなかった。


『これが噂の……』『甘すぎです』


 ユミナの変わりに来ている侍女たちは目の前で繰り広げられる小劇場に感動していた。小劇場は色々と痒くなるが見応えはあると聞き今日は楽しみにしていた。


「この『限界』というのが斜面の目標なのですか?」


 ニコニコしたヴィオナが再びメモを指差した。


「ん?……そうか! うん、これは三十度なんだけど普通に登るにはかなり厳しいんだよね。スキーで滑る分には簡単なんだけど徒歩だと厳しい」


 ルクレイの言葉にヴィオナがコテンと首を傾げた。


『ぐはっ……可愛い。めちゃ可愛い。可愛くて息が止まった』


 ルクレイは平静を装ってはいたが『可愛い』に占領されていた。


「そう考えると三十度以内というのが無難なのかな。三十度を見える形……ん?ってカットソーでなんかできそうな気がしてきた」


 ルクレイは席をテーブルから離れた場所に移動した。


『魔力くん、角度を指定してカットソーを飛ばすよ。水平から30度の角度で10mほど飛ばす感じで。切るものは玄ぶ……安山岩で1m立方体でね』


 魔力くんに話しかけ「造石! カットソー!」と発動言語を唱えた。


「チュイーン」「ドゴォーーン!」


 空気に現れた巨大な岩がカットソーで切られ地面に落ちた。


「あれ?……思ったよりも重かった? 綺麗に切れたけど……げっ、片割れで1tを超えてた。安山岩ってかなり重いんだっけ?」


「レイ、ビックリしましたよ?」


「ごめんね。思っていたより安山岩って重かったみたい。邪魔だからどけ……珍しく持ち上がらない。仕方がない」


 ルクレイは素で持ち上がらなかったので手袋に魔力を流し活性化させた。安山岩をヒョイっとルクレイは持ち上げ作った斜面が見えるように並べて置いた。


「これが三十度だよ」


 振り返るとヴィオナと二人の侍女たちはポカーンと口を開けてルクレイを見ていた。ルクレイは首を傾げ「どうしたの?」と声をかけた。


「んんっ……力持ちのレイは素敵よ。でも地面がかなりへこみました。ちゃんと平らにしてくださいね」


 ヴィオナは取り繕いルクレイにお願いをした。席を立ちヴィオナは岩に近寄り斜めになった部分をペタペタと触り「急ですね」と冷静な口調で話した。


「あっ! 小さく作っていけば分度器が作れる」


 ルクレイは前に治具を作ろうとして中途半端なまま放置していた事を思い出した。角度指定して切れば分度器の目盛りが書けると気が付いた。


「レイ、その『ぶんどき』って何ですか?」


 ヴィオナの涼やかな声にルクレイの背中がピンっと伸びた。ルクレイは慌てて工作に使う道具で完成したら説明するとヴィオナに約束した。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 ルクレイは出してしまった安山岩をヴィオナの希望でテーブルの横に置いた。へこんだ場所は土を出して整地してへこみを補修した。


「あー、勾配って平面で見た時の進んだ距離と高さの比率だった」


 切り飛ばして30度と60度になった岩を見てルクレイは思い出した。


「という事は……30度の方は……57.7cmか」


 ルクレイは分析で30度に切った岩の高さを調べメモに勾配57.7%と書き込んだ。そして少し考えて勾配35%と書き加えた。


「んー、これだと面倒か。分かりやすく平面長を6mにして段差を2mにするか。それだと……33%ってとこに落ち着くか。斜路の左右は石壁でも良いから補強……」


 メモに斜線を入れて最終的な斜面の数値を書いた。


 メモを覗き込んだヴィオナが「結果は出ました?」とルクレイに尋ねた。


「出た! 高さ二百単位に対して平面長は六百単位で均せばたぶんイケるよ。小山の横幅が四千単位で片面は半分の二千単位だから計算上は三段だよ!」


 ルクレイはニパッと笑顔でヴィオナに答えた。


「それは良かったです。その斜面に整えれば小山として成り立つのですね。レイが真剣に検討している姿はカッコ良かったです」


 笑顔のルクレイを直視したヴィオナは赤くなりながらも賛辞を贈った。


 元気になったルクレイは精力的に小山の前側の土を奥側に移動した。そしてルクレイは森の入口側に作った丸太置き場で6mの棒材をたくさん切り出してきた。


 一層目の斜面の位置を棒材を刺し奥から土を戻して転圧しながら斜面を作っていった。小さな身体でどんどんと斜面を作る姿はどこか面白かった。


 ヴィオナはテーブルの傍に置いてもらった安山岩を使って鍛錬を始めた。地面に風壁のマットを展開し地べたに座ってドリルビットで穴開けをした。


「この安山岩はとても硬いです。なかなか穴が開きません」


 力を入れても弾かれる場合が多かった。風壁の強度を上げたり手袋に魔力を与えたりしながらヴィオナは鍛錬を続けた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 数日ほど二人は早朝鍛錬とレジン糸を作る時間以外は小山造成地に引き篭もった。ルクレイは順調に一層目を完成させ二層目に取り掛かっていた。


 二層目の構造は小山が楕円形で奥行きがあったので奥側に真円に近い形で二層を作り中央だけ前方に引き伸ばした。ここに駆け登る斜路を設置する事になる。


 二層に平地部が作られたが当面は更地とした。


 小山の中には安山岩で作った石板などを埋め込み補強も行われていた。土と噛み合うように自然石の形も作り惜しげもなく埋め込んでいた。


 ルクレイの小山造成は軌道に乗りコツコツと仕上げも意識した作業となっていた。一層の斜面にはルクレイが『芝生』と名付けた草が植えられ始めた。


 ヴィオナのドリルビットは抜き出た成長を見せていた。小さな穴から大きな穴までかなり自在に穴開けが出来るようになっていた。


 それに伴ってトリマービットやサンダーといったルクレイが考案した工作魔法の効果も上がった。ヴィオナの想いの強さはソフィア王女も認めるほど強かった。


 ただ、カットソーといった面でなく線で切る方は苦手だった。カットソーの鍛錬は別途と諦め面で工作する魔法の習熟に時間を割り当てていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 休憩時間にルクレイはSUP用の板を持ち込んだ。浮力を高めるために内部をくり抜く予定である。またルクレイ的には検証したい事があった。


「池も安定したようですしサップを作るのですか?」


 ヴィオナがルクレイに声をかけた。テーブルには早生から少し経った『爽快の実』が用意されていた。ルクレイは『柿』と気が付いていたが黙っていた。


「そうだよー。これも仕上げてリゾリカさんに簡易版を少し作って貰いたいなーって思ったんだ。水練場を作ったら使いたいんだよね」


 ルクレイの安定した人任せな予定にヴィオナはクスッと笑った。


「レベナはサーフボードをお願いしてるからサップはまだ不要かな。漁船が完成してもまだまだサーフボードで十分なはず」


 ルクレイは『爽快の実』をもぐもぐしてから席を立った。


 SUPの板の上面を5cmぐらいの位置でカットソーを使いスパンと切り分けた。強度確保のため隔壁を残しドリルビットとトリマービットで削り取った。


「バウは湖だから波を無視して絞ってない。海に持ち込む時に絞れるように元の木材を残す形にした。荷物入れは今は保留。後はフィンだけど……ツインだな」


 くり抜き終わったサップをルクレイは組み立てた。


 切り分けた上部と下部は面倒だったのでダボ継ぎで仕上げた。カットソーの亜種としてプラグソーと名付け円柱を切り出してドリルビットの穴に差し込んだ。


 ヴィオナが持ち込んでいた木材を貰いフィンを二枚ほど削り出してサップに作った溝に差し込んだ。最後に持ち手を掘り込み完成した。


 サップが完成したのでヴィオナに声をかけ少し早いが池の拠点に移動した。


「サップは落ちなければ濡れない板なんだ。でもヴィーが心配してたように落ちる時は落ちるよね。まずはこの形でお義父さんたちに見てもらおうと思う」


 ルクレイはヴィオナに「二人で乗るのが楽しみ」と伝えた。そのためにお義父さんとお義母さんの理解が得られるように改良すると宣言した。


「ふふ、凄く楽しみ。二人でプカプカと浮かぶサップの上で夕陽とかも見たいですね。とても『深緑の湖』に行くのが楽しみで仕方ありません」


 ヴィオナが満面の笑みでルクレイに話しかけた。


 池に着きサップを浮かべようとしたルクレイが振り返った。


「リーシュコードとパドルを作り忘れた……」


 情けない顔でルクレイがヴィオナに泣きつき太いレジン糸を作ってもらった。その間にルクレイは間伐木材からパドルを削り出した。


 道具が揃ったルクレイは池の上にサップを置き乗り込んだ。センターにそっと移動してパドルを使い水上をゆっくり移動していく。


 ルクレイが作り出す小さな波がキラキラと水面を跳ねていく。ゆったりと水面を移動していく姿はそれだけで不思議な光景だった。


「あれは……素敵だわ」


 ルクレイに見惚れているのか景色に見惚れているのか分からなかったがヴィオナが小さな声で呟いた。


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