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容量制限付き魔術師と激重チート

もう一人のボクは一刻の影に包まれた。

だが次の瞬間、覆われていた影は消え再び姿を現す。


目の前に現れたのは元のルイスの髪色とは似つかない黒髪。

この世界では見られない、だが元の世界では溢れかえっていた制服。


「せっかくなので今度からはこっちの姿で行動しますね。

 もう一人のわ・た・く・し様」

「その恰好は…」


女性の姿だった。ルイスよりも一回りほど背格好も年齢も上の女性。

漆黒の髪色は確かに漆黒の超越者ビヨンド・ザ・ダークネスを映えさせる。


俗にいうTS(トランスシフト)(性別反転)をしているのが非常に気になるが……。


「君が異世界転生した存在なら、私のコンセプトは異世界転移者。

 元の姿のままこの世界にやってきた日本人―――という気持ちで姿を決めました」

「それにしても―――どうしてその見た目なのさ」

「一つ目は女性であればルイス=ストレイとの関係性をより断つことが出来る点。

 二つ目は女性であった方が、相手の油断を誘いやすいから―――交渉の場面など武器の無い状態では、女性はナメてくれますからね」

「なるほど、確かに理由が―――」

「三つ目は君への嫌がらせだ」

「嫌がらせかい!!」


確かに元自分の姿をした人間が女性に変身するというのは―――ものスッゴイ複雑な気持ちになったけどさ。


勿論、元が僕の魔法で作られたのだから性別とか関係ないのかもしれないけれど、だけどいくらなんでもこの見た目というのは―――。


「もしかしてまだ根に持っている?

 ほら、良い感じに和解したじゃん」

「いやいやそんなことありませんよ?

 創造主に追放された常闇常夜はチート魔法【漆黒の超越者ビヨンド・ザ・ダークネスで無双する。今更魔力を返せといってももう遅い―――とか」

「めっちゃ根にもたれてる!!

 あとお前ぇ……僕の厨二ノートの中身を!!」


僕が最高にカッコいいキャラクターとして設定した、常闇常夜トコヤミ・トコヨ。通称トコちゃん。

いや今見てもカッコいい。かっこいいんだけど、今こうして目の前で名乗られるのはさ……。


「僕は君と同じ記憶を持っているのさ。

 だから君のセンスに引っ張られる。

 とても活かした名前だろう?」

「やっ、やめろう!!」


本人は自分自身だからカッコいいと思っているかもしれない。

けど僕は強制的に客観視されてしまうんだ。

絶対に後悔する。恥ずかしい。街中で、とことこちゃんなんて呼ばれる姿を耳に入れたくない。他人のフリをしたい。いや端からそのつもりだけどさ!!


まさか自分自身の生成にこんなデメリットがあるなんて……。

穴があったら入りたい。むしろ作ってやろうか、穴……いや魔力がないや。


非常に不満を持ちつつも、僕は手を差し出した。


「それじゃあ、気を付けてね。常夜。」

「創造主―――いやルイスもお元気で」


軽い握手を交わした後、振り向くことなく手を上げて去っていった。

一陣の風が吹くとまるで風に攫われたかのように姿は消えてしまった。


僕の半身―――いや九身との別れ。

ある意味僕にとってもっとも理解者。


次に会う時には僕とは違った人生を歩み、価値観も変わっていることだろう。

古き良き友人として話し込みたいものだ。


「それよりご主人、ホントによかったのですか?」

「ん?魔力のこと?」


現在の僕の、もう一人のボク―――常夜に魔力の9割を渡した為、最大魔力量は1割に満たない。

元々の魔力量が多いとは言え、一般的な魔術師と同等程度にまで魔力が減ってしまった。

漆黒の超越者ビヨンド・ザ・ダークネスを使用できる回数も今日の10分の1と考えると心許ない気はする。だけど……


「さっき言った通りだよ。僕のこれからの人生はしばらく温室育ちだ。

 今日みたいな命の危険なんてそうそう起こらない。

 対して彼女は常に身の危険のある立場だ。合理的に考えて彼女に魔力を渡すべきだと僕は考えたよ」


戦場や魔物が跋扈する場所で生活するならいざ知らず、王都での生活をするだけだ。

魔術学園に入学したとしてもこれぐらい魔法が使えれば十分だろう。


ならば下手に魔力を余らせるぐらいならば彼女に渡した方が、セシリアを襲った犯人を捜すという意味でも、僕の罪悪感という意味でも合理的だろう。


「ご主人がいいのならいいんですが…」

「?」


ビヨンが未だ煮え切らないような表情を浮かべる。

流石にその様子に違和感を覚えた。


「今日は魔法を使い過ぎたからあれだけど、10分の1の魔力でも節約しながら使えば―――」

「それなのですが…ご主人…」


ビヨンは大変言いにくいことなのですが、っと言わんばかりに器用に前足をつんつんとくっつけながら言った。


「……ご主人の今の魔法量なのですが……元の100分の1です」

「……はぁ?」


頭が真っ白になる。聞き間違えか?それとも僕が割り算を出来ていないだけか?

だけど流石に10分の1と100分の1を計算間違えするはずは…。


「ご主人は勘違いしていますし、ぼくもこんなことになると思ってなくて説明していなかったのですが…。

 漆黒の超越者ビヨンド・ザ・ダークネスという魔法を使用している時点で一定の魔力を常に占有しているわけなんです。

 それは本来のご主人の魔力量なら微々たるものなのですが…10分の1しかない今のご主人にとっては…」

「何それ聞いてない!!」


占有?つまりは固定で一定の魔力を消費しているってこと?

しかも割合ではなく固定の消費量で?


頭がこんがらがってきた……。


「えっと……つまり。あまりアプリを使わないからと思って容量の少ないスマホを買ったら、システムアプリの所為で容量一杯になって動作不良を起こす……的な話かな?」

「“なに”の“なに”が“なん”ですか!?

 たとえ話をされてるはずなのに何一つ知っている単語が無かったんですが!?」


ビヨンの嘆きを無視しつつ、現状を頭の中で整理する。

すまない、今は相手してやれるほど余裕がないんだ。


えっと、元々10分の1の魔力で日に数十回の漆黒の超越者ビヨンド・ザ・ダークネスが使用できる計算だったのだけど……それが10分の1になるのなら?


「もしかして…1日に片手で数えるほどしか、漆黒の超越者ビヨンド・ザ・ダークネスを使えない?」

「使用する魔力量とか規模とかにもよりますが、そうなりますねご主人」

「……」


それはー、えっと……


「もう一人のボク!!今更だけど魔力をもう少し返してくれないかな!!

 創造主大ピンチなんだけど!!」


頭を抱えて地面に跪く。

ビヨンがその肉球で頭をぷにぷにと慰めてくれる。


「ビヨンも言ってよぉ……

 僕が『これは贖罪だ‼』的なこと言った時、何を思ってさのさ」

「流石ご主人、魔法縛りで魔術学園編に突入するんだぁ、流石ボクのご主人だぁ……カッコいいなぁ……って思ってました!!」

「止めてよ!!」


せめてもう1割……いや0.5割でも魔力があれば……。

もう一人のボクぅ……近くにいないかなぁ……。


ていうかマジでどうしよう、魔術学園編。

質はともかく数を使えないのは魔術師としては致命傷だ。

魔術学園編で節約学園編始めないといけないのさ!?


何か対策を取らなければ。

それとも1年遅らせての入学を……いやあまり原作から遠ざかると予想外な出来事も……


「ルイス様、こちらにいらっしゃいましたか」

「!?」


背後からの声に僕は慌てて衣装を整える。

振り返るとそこに立っていたのはシイナだった。


いつものことながら音もなく忍び寄るの辞めて欲しい。

あとサムライなのか、忍者なのか……いやメイドだった。


「セシリア様がお目覚めになりました」

「…そうか、すぐにいくよ」


セシリアとの1日ぶりの再会。

―――無事だといいのだが。

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