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タヌキと刀と家庭内審問

「というわけでこちらのペットを飼ってもよろしいでしょうか?」


セシリアを見送った直後、僕は自室で正座していた。

正面にはシイナが同様に正座をしてこちらを見つめている。


僕の正座は拷問を受けている罪人。

それに対してシイナの正座は凛としていて、礼節が正しく―――やっぱり武士だよ、このメイド。


理由は単純明快。シイナに白タヌキことビヨンが見つかったからだ。


「飼うか許可をする前に、こちらのおタヌキ様は、いつからどこで飼い始めたのですか?」

「昨日の夜、窓を開けたら飛び込んできたんだ。

 そのまま泣きくずし的に部屋にいついたから……。」


うん、嘘は言っていない。

実際には入ってきた時は黒い靄れたとか、実は魔王の残滓だったとか、漆黒の超越者ビヨンド・ザ・ダークネスの契約の一環だったりとか。

ややこしい事情があるわけだが、嘘は言っていない。説明していないだけ。


幸いシイナにはビヨンが芸の細かいタヌキにしか思われていないようだ。

この世界では魔力が高い動物とは意思の疎通が出来る。

通常は精霊と呼ばれる生き物だが、稀に野生動物でも魔力の高い個体は生まれる。


ルイスの知識でも、タヌキの野生精霊は見聞きしたことはない。

けど絶対にいないとも言い切れない―――そんな絶妙なラインだった。


ましてセシリアと違い魔力を見ることの出来ないシイナには、漆黒の超越者ビヨンド・ザ・ダークネス根源魔法(マスター・ルール)の存在まで予想することはできないだろう。


「ルイスさまの気持ちはわかります。

 誕生日の日に現れた魔力の高い野生動物。

 見た目も可愛くて運命を感じてしまうのも頷けます」

「ご主人!!僕に運命を感じてたんですか!?

 やっぱりご主人と赤い糸で繋がっていたんですね!!」


ビヨンがデレデレと破顔させた。

本来なら強く否定したい所だが、シイナに飼う許可を貰おうとしている手前否定することが出来ずもどかしい……。

かと言って肯定するとこのタヌキが何を言い始めるかわかったものじゃない。


「それに魔術学園に入学するのに、契約動物がいた方がいいと思うんだ。

 シイナとの授業ではまだやったことがなかったでしょ?

 その点、この白タヌキは意思の疎通も出来るから、練習相手としてもとても良いと思うんだ」


契約動物とは、魔法を使い動物と意志の疎通を図る職業の人達だ。

小さな所だとサーカスなどの曲芸。

大きな所だと軍事や政略への利用。


ゲームでは専用のクラススキルであり、ルイスは使用できないタイプの魔法だった。

だが知識としての練習という意味ではシイナを説得することが出来るやもしれない。


「そうですね……。

 魔術学園で習う内容を予習しておくことは良いことですし…。

 何よりルイスさまの向上心を折ることは断罪すべきことですしね」


シイナも納得してくれた。若干物騒だけども。

彼女としても、別に全てを否定したいわけではなく、あくまで内緒で動物を飼っていたことを咎めたいだけなのだろう。


再度僕の方をみて、念押しをした。


「ちゃんとお世話できますか?動物を飼うというのは命を預かるという行為です。

 生半可な覚悟で飼うわけではありませんね?」

「うん大丈夫。動物も人間も同じ命だもんね」

「ご主人、僕は動物じゃなくて精霊よりなのですが……」

「ちゃんと一人でお世話できますか?ご飯あげれますか?トイレの躾けだってできますか?

 途中で投げ出しても私はお世話をしませんからね」

「大丈夫―――ちゃんと自分でお世話するよ!!」

「お二方!?お世話ってなんです!?ご飯は魔力で要りませんし、トイレも自分で出来ますが!?」

「なんか思ってたのと違うとか言っても、捨てたらいけませんからね」

「うん、大丈夫。

 それはもう済ませたから」

「済ませたってなんですか!?

 ご主人、思ってたのと違うとか思ってたんですか!?」

「あとは浮気はしたらいけませんよ。

 他に可愛い動物がいても、変えたりはできませんからね」

「……うん」

「そこはちゃんと宣言してくださいよ!!

 浮気は許しませんからね!!

 ていうか声聞こえてますよね!!喋れてますよね!?コミュニケーションをとりましょうよ」


「あとは、あとは……」

「それは、それは……」


僕とシイナが確認をしていたが、隣の白タヌキが声を上げた。


「話が出来るんだから話を聞け!!」


ビヨンが突然叫び始めて、まるで猫が威嚇するかのように立ち上がる。

全く真面目は話をしているのだからちゃんと話を聞いてて欲しい。

白タヌキが立ち上がったところで、可愛いだけなんだからさ。威嚇になってないよ。


「申し訳ございません、ですが大切な確認事項でしたので。

 そしてルイス様の確認が終わりましたので、今度はおタヌキ様のほうです」

「あっ、はい。何でも聞いてくださいませ」


シイナの表情に先程までの威勢はどこへやら。

ビヨンは固まっていた。


「ビヨン様でしたね。

 貴方様もルイス様に飼われる覚悟はございますか?」

「はい、勿論です」

「それはストレイ家に飼われるという覚悟ですよ?」

「……」


ストレイ家は王国有数の名家だ。

その品位は当主子息だけではなく、使用人、果てはペットにまで適応される。

それが言葉の通じない動物ならまだしも、言葉の通じる動物ならなおのことだ。


「品位……についてはごめんなさい。わからないです。

 僕は元々育ちが良い方ではなかったので……貴族の嗜みとかはわかりません」

「それはストレイ家に飼われる覚悟が無いと言うことでしょうか?」


シイナは冷たく言い放つ。

だがそれが彼女の優しさであることを僕は知っていた。


先程シイナはお世話をしないとは言ったが、立場上でも性格上でもシイナはビヨンのお世話をする。

その過程で叱ることも多々あるだろう。それが動物であるビヨンに良いことなのか確かめているのだろう。

安全であるものの規律の多い生活より、不安定ではあるが自由な生活の方が良いのではないかと。


「ですが……それでも僕はご主人と一緒にいたいんです。

 ご主人には助けてくれた恩がありますし、魔力の相性がとても良いんです。

 もうこんな運命、何度世界が生まれ変わってもないんです」

「ビヨン……」


愛が重いとは思っていたものの、そこまで思っていたとは……。

その気持ちは素直に嬉しかった。


「わかりました。ビヨン様がそれほどまでの覚悟でしたら、私からは何も言いません。

 元々主の行動を咎めること自体、出すぎた真似でしたので」

「シイナ……」


シイナに認めて貰えた。

とても感動できた。だけど……。


「というわけでもしルイス様が出すぎた真似だと感じましたら、この刀でどうぞ―――」

「何がどうぞなのかな!?」

「それとビヨン様。

 もしルイス様を裏切ることがありましたら―――わかっていますよね?」

「イエッサーーー!!」


こうしてビヨン裏切り&黒幕説は完全に消滅した―――少なくとも現時点では。


【ビヨンが正式にストレイ家パーティーに加入した】



<どうでもいい話(ビヨン視点)>

「ちゃんと一人でお世話できますか?ご飯あげれますか?トイレの躾けだってできますか?

 途中で投げ出しても私はお世話をしませんからね」

「大丈夫、ちゃんと自分でお世話するよ!!」


ビヨンは思った。


(トイレの躾けをご主人にしてもらうのって……なんだかいいなぁ)


流石に脱線しすぎてしまうのであえて口には出さなかったが……。

自分の性癖に新たな1ページが追加された。


後にビヨンは思う。多分口に出したら切られていたと。


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