“漆黒の超越者”と根源魔法の代償
「我が手に顕現せよ、漆黒の超越者!!」
掛け声と共に決めポーズを行うといつの間にか僕の右手には漆黒の長剣が握られていた。
禍々しい邪龍の装飾があしらわれた剣は僕がイメージしたそれだった。
見ているだけで心躍る、そんなロマンのあるおしゃれ度MAXな剣。
「ご主人…ですから栄光の到達点ですって。
言われた通り黒色の光を纏わせますけど無駄ですってこれ…」
ビヨンは呆れたように僕の足元でため息を吐いた。
タヌキ異端審問の後、僕とビヨンは屋敷の庭で魔法の練習をしていた。
本来ならばシイナと訓練の予定だったのだが、他のメイドやお母さまの看病でそれどころではない。
漆黒の超越者の練習もしたかったこともあり、自主練の名目でこっそりと魔法の仕様を確かめていた。
「い・や・だ。僕は絶対に認めない。僕のこの力は絶対に漆黒の超越者だ。
それにダークネスって呼んでも出るから別にいいじゃん!!」
「そりゃ別にいいですけど…ていうかそんな大層な口上とかも別にいらないですからね?無駄ですからね?
即断即決、一瞬の隙が命取りになる戦闘でそんな高らかに叫ぶ場面とかないですからね?」
「さっきから無駄無駄って―――君は時間でも止めるつもりかね」
「どういうことですか!?今の僕では魔力が足りませんよ」
「止めれるの!?」
衝撃の新事実に僕の興味が持っていかれたが、どうやらビヨンとしてはまだ不満がある用でそれ以上は答えてくれなかった。
「第一なんですか、この量の剣!!
どんだけ生成しているんですか!!」
ビヨンの目線の先にはいくつもの長剣が地面に無造作に置かれていた。
どうせなら地面に突き刺した方が絵になったなと後悔した。
「仕方ないだろ、これらは失敗作だ。
ほら、ここの邪龍の装飾、少し丸味を帯びてて威厳が減るだろ?」
「わかりませんよ!!どうでもいいですよ!!
別に邪龍が蛇でもタヌキでも性能に差はないんですから!!」
「タヌキはちょっと…」
「タヌキのどこに不満なんですか、ご主人!!」
ぷんぷんといじけるビヨン。
すぐ拗ねるんだよな、このタヌキ。
「仕方ないだろ?気になる部分があるんだからさ」
漆黒の超越者はイメージを具現化する魔法。
だがそれには法則が存在していた。
まず空想上の物に関してはしっかりと頭の中で描かなければ、実際に生成される物体は不自然な描写ミスが起こること。
逆に実際に見て触ったことのある物に関しては、不鮮明なイメージでも生成した際にはちゃんとしたものが出来る。
それはルイスの記憶でも、前世の僕の記憶でも同様だった。
前世で購入していた剣に龍が巻き付いているキーホルダーを生成した際はしっかりとした完成度で出力された。
だがその剣をモチーフに剣を生成した場合は、上記のなんとも言えない剣となった。
仮説としては、実際に触ったことのあるものに関しては、イメージではなく過去の記憶を呼び起こして生成されるのだろう。
「生成の使い方はわかった。
次は付与魔法を試してみようか」
生成した物質に好きな能力を与える力。
前者でも禁忌と呼べるほどにこの世界の魔術体系と異なる魔法だった。
だが後者の付与魔法。
ゲームでの使い方を知っている僕からすると、間違えなく禁忌の“それ”だった。
新たに作りだした小型のナイフを握り締め、念じた。
瞬間、自分の魔力がナイフへと流れていったことが感じ取れた。
そして目の前にそびえた立つ庭木に目をやる。リンゴの木だった。
既に収穫し終えたのか、その実はあまり残っていなかったが、取り忘れか、それとも高くて収穫を断念したのか。
枝先に数個だけ果実がついているのが目に入った。
そのうちの一つに目をやり、そして―――ナイフを投擲した。
傍目から見ても素人な投擲。
イメージでは暗殺者のように刃先が真っすぐに進むつもりだった。
だが実際にはゆっくりと回転し、とても目標に届かない推進力で進んでいた。
だが―――
サッ―――と枝葉をかき分け目標だった果実へと命中した。
途中弧を描く不自然な挙動と明らかな加速。
ナイフは果実に突き刺さったまま、重力に沿って自然落下した。
「百発百中の付与魔法ですか?」
「うん、そう。まさかフォーミングまでするとは思わなかったけどね」
物理法則を度返しする魔法の中でも、更に法則を書き換えた魔法。
込める魔力さえあれば、ナイフで山を分断することも、相手を意のままに操る針を作ることも、野生動物と全く変わらない生物を生成することも出来る。
実際ゲーム内のルイスはこの力を使い世界と対等に戦うことが出来た。
決して消すことの出来ない漆黒の業火。
刃先に触れたものを何でも切り裂く剣。
触れた魔法を無力化するマント。
付けるだけで周囲の認識を阻害する仮面。
この国の兵士でも倒せない魔獣など、ありとあらゆるものを作りだしていた。
1人の青年が世界と渡り合う力を持つなんて、まさしく禁忌だろう。
一般に知られていいはずがない。
同時にそれは、僕が漆黒の超越者の所有者であることを周囲に知られてはならないことを意味していた。
僕は落ちたリンゴを齧りながら、次の果実を目掛けてナイフを投擲した。
ぼーっとその挙動を見ていたものの―――投げられたナイフはUターンした。
「ご主人!?」
「あっぶな!!」
そして僕が手に持っていたリンゴに再び突き刺さる。
何なら勢いの所為で数個の破片へと砕けてしまっていた。
「ご主人、付与魔法のやりかたを間違ったようですね。
これでは100発100中でこのリンゴに刺さるナイフですよ」
「何そのバグ挙動!?
実用性無いはずなのに、ゲームの裏技で使えそう」
どうやら付与魔法のほうも癖のある魔法のようだ。
なによりも―――
「漆黒の超越者って思ったより燃費が悪いね」
僕の身体は疲労感を覚えた。
全身が血液が抜かれたような疲労感。
肉体を動かしたこととは違う、魔力を使ったことによる“それ”だった。
だがルイスとしてはこの感覚を覚えるのは非常に珍しい。
自分の魔力量を把握する為に、魔法を一日中使い続けてやっと感じたぐらいだ。
というのもセシリア曰く、ルイス=ストレイの魔力総量は非常に多いかららしい。
一般魔術兵士の10倍。一般人からするとおよそ100倍。
色々な武器を何度も生成していたとは言え、こんなにも早く魔術疲労を感じたのは初めてだった。
それほどまでに燃費が悪いということなのだろう。
「ご主人が変なデザイン……特に無駄な色合いをしなければここまで燃費は悪くないですからね」
「なら解決策はないわけか……」
「……」
ビヨンが何か言いたげにこちらを見て来るが、僕は明後日の方向こと右斜め上方向へと目線を逸らす。
今日も空は晴れ渡り、太陽の日差しは肌寒い空の下でも暖かい。うん、暖かい。
現実逃避ついでに再度自分の身体の違和感に向き合った。
魔術疲労ではあるものの、依然感じたそれとは違う何か……。
魔術疲労が血液を抜かれる貧血なのだとしたら、まるで肉を削がれ命を削られるようなそんな……。
うーん、上手く言葉に出来ないけど、このまま使い続けると取り返しがつかなくなる。
そんなに“何か”を感じさせた。
「燃費が悪いこと自体は否定しませんが、今回の場合だと使う順番も理由ですね」
「使う順番?関係あるの?」
ゲームのイメージ通り、通常魔法はどの順番で使用しても消費MPはさほど変わらない。
集中力が乱れると余計に使うとかの程度だ。
「栄光の到達点は今の世界に流通している魔法と根本から違いますので」
「根本から?」
「はい、魔力器を使用する魔法なのです!!」
深淵の瞳をもつセシリアが言っていた単語、魔力器。
まさかビヨンの口からも出て来るとは思わず、何かそこ知らない深淵を感じさせた。
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