毒入りケーキとツンデレ妹
セシリアと一緒に朝食をとりに食堂に向かうと、シイナが慌ただしく準備をしていた。
どうやらまだ朝食が出来ていないようだ。
「申し訳ございません、すぐにご用意いたしますね」
「焦らないでもいいよ。
ゆっくりセシリアとお話しているから」
「シイナさん、他のメイドたちはどうされたのですか?」
珍しく朝食を遅れている理由として、他のメイドたちの姿が見えないことがある。
今も一人でテキパキと慣れた手つきでこなしているものの、本来の彼女の業務ではないのだ。
「他のメイドたちは……奥様の……」
「!?またお母さま、メイドたちにも無茶を言って!!
今日という今日は―――」
「いえ、違うのです……。
奥様が手作りされたケーキを食べて……メイドたちが倒れました」
「どういうことですの!?
作った理由も、倒れた理由もまるでわからないのですが!!」
「あれは……うん、仕方ないと思うよ……うっぷ」
思わず昨晩食べた時のことを思い出し、空の胃から込み上げてきたものを感じた。
見た目は普通のケーキだった。だからこそすっかり安心しきってしまった。
自然界の毒ならば、きっと見てわかるほど警告色をしていたはずなのに……。
気づかずに一口目を大きくいってしまった。
他のメイドさんたちも数々の試作や本作で犠牲になってしまったのだろう。
それもこれも主人に美味しいケーキを作ってもらいたいという優しさだったはずなのに……。
「てっきりルイス様も本日は体調を崩されているのかと思ったのですが」
「あぁ……まぁたまたまね」
本当は漆黒の超越者に取り込まれた際に、毒を押し付けられたのだろう。
そういう意味ではビヨンに感謝しないといけない……ぐっすり眠っていたけど生きているよね?
「そういうシイナも食べたんだよね、ケーキ。
体調が悪いなら朝食は無理に準備しなくても」
「いえ、幼い頃から毒の耐性を獲得する修行をしていましたので」
「毒っていいましたよ、兄上!!
雇用主が作ったケーキを!!」
「セシリア、あれは毒だ。紛れもなく」
ハッキリと僕は言った。
朝食を食べながら、セシリアが言った。
「何だかシイナさん、雰囲気変わりました?
いえ、当然魔力器には変化はありませんが……」
セシリアはチラリとこちらの方を見た。
いや当てつけのように言わなくてもさ。
「自覚はございませんが、もしそうだとしたらルイス様のおかげですね」
「兄上が?」
「はい。ルイス様に一生を誓う決意をいたしましたので
この身体はもう、ルイス様のものと言っても過言ではございません」
「過言だよ?」
「……なにやったんですか、兄上さま?」
セシリアはピクリとこめかみを動かし、こちらを睨みつけた。
いやいや、いつもの事だからさ。
「それはもう大立ち回りで私と奥様の仲を取り持ってくださり―――」
「お母さまの?」
「セシリア……戻ってきてたのですね」
噂をすれば影、と昔から言われているように、ちょうど都合よくお母様がやってきた。
だが問題はお母さまの顔色とその姿だろう。
自信の毒にやられたのか、顔面蒼白、顔はげっそりしており、まともに立っていられることも出来ないのか、床を這いずるように食堂の扉を押していた。
僕を敵だと疑っているセシリアがその姿を見て何か考えるか。
「もしかして貴方―――お母さまに毒を!!」
「やってない、自滅だから!!
生物の中には自身の毒で気絶するモノもいるから!!」
「今助けます、お母さま」
食器を乱暴に置いて近づくセシリア。
それは助ける意志を持って駆け寄ったのだろう。
だが近づいた瞬間―――。
ぱふっ―――っと効果音が出そうなほど、強くお母さまに抱きしめられた。
「えっ?」
セシリアはたっぷり十数秒間、沈黙していた。
あまりの事に脳の処理が追いついていないようだ。
それは看病しようとした相手にいきなり抱きしめられたこと。
そして依然の厳格なお母様からは考えられない行動だったこと。
「忙しい中、よくぞ帰ってきてくださいましたね。
いつも公務をお疲れ様。貴方は自慢の娘だわ」
「お母さま……」
お母さまの言葉にセシリアは更に十数分ほと固まることになった。
僕には……いやルイス=ストレイにはその気持ちがよくわかっていた。
かつて僕ら兄妹が欲し続けた言葉であり、行動であり、愛情なのだから。
僕ら両親に愛される為に必死で努力をしてきた。
ルイスが家督を継ぐための勉強であり、セシリアがその特殊な瞳を使った公務だったり。
努力をしなければ愛されないと考えて。
そしてゲームのセシリアはそんな努力をする術すら奪われて―――壊れてしまった。
だけどこの世界では初めて……そんなセシリアの努力が報われたのだ。
セシリアの頬がキラリと光った。
「もう行ってしまうの?」
「はい。公務も残っていますので、これで失礼いたしますね」
朝食を終えるとセシリアは待たせていた馬車に乗り込んだ。
馬車の中には護衛の魔術師と騎士らしき中年の男性が険しい表情でこちらを見つめている。
無理を言って屋敷に寄ってくれたのだろう。
「辛くなったらいつでも辞めていいのよ?
家のことなんて気にしないで」
お母さまの言葉に、そんな護衛の人たちはギョっとしてこちらを見た。
セシリアの公務は国王直々の伝令だ。
もし逆らえば命はまだしも、貴族としての地位は完全に失ってしまうだろう。
それはかつてのお母さまが何よりも気にしていたことだった。
けれど今のお母さまには必要のない肩書なのだろう。
「そう言ってもらえるのは、心の底から嬉しいです。
ですが初めこそ嫌で始めた公務ですが、今はそれなりにやりがいもあります。
自分の力が皆様の為になることを嬉しいと思います」
「そう。楽しみがあるのならいいわ。
しっかり頑張りなさい。そして辛くなったらいつでも戻っていらっしゃい」
「はい。今度ゆっくりと帰省しますので。
その際はお母さまともゆっくりお話しさせてください」
「いいわ、恋バナしましょう!!恋バナ!!
あと枕投げもしましょう!!」
「……はい」
引きつった笑みを浮かべつつ、それを誤魔化すようにセシリアはこちらに向き直った。
「シイナさんに聞きました。
お母さまが柔らかくなったのは、貴方のおかげのようですね」
「うーん、その話については気まずい所もあるんだけどね」
お母さまの目の前で転んだ結果、心配されて柔らかくなった。
僕のおかげと言えばそうだけど―――。
うん、あまり思い出されたくないし、それで持ち上げられるのもなんか嫌だ。
どうせヨイショされるならもっとカッコイイ場面がいい。
「べっ、別に貴方のことを兄上と認めたわけではありませんが、お礼だけは言っておきます」
そう言うとペコリと頭を下げた。
「私たち家族の呪縛を解いてくださりありがとうございました」
(やっぱりツンデレだよ!!この子!!)
疑いをもたれつつも律儀なんだよなぁ、この子は。
「それともう1点。
お誕生日おめでとうございました。あにい様……」
「セシリア……」
ほんの少しだけかもしれないが、セシリアは僕のことを認めてくれたようだ。
それがルイス=ストレイとしてなのか、それとも僕個人としてなのか、未だ判断は迷うが。
それでも、少しでも、僕が転生したことに意味があったのなら嬉しかった。
セシリアを見送り、感傷に浸っていると気配はないのに後ろから声が聞こえてきた。
「ルイス様、ちょっとよろしいでしょうか?」
「!?」
武士口調―――冷淡で今にも暗殺されそうな雰囲気に僕は固まってしまう。
振り返りたくはないが、それでも感じるもう一つの気配に振り返らずにはいられない。
「ルイス様のお部屋を掃除していましたら、こちらが―――」
「あっ……」
そうだセシリアの件で忘れていたが、毎朝のベッドメイキングはシイナの仕事だ。
そして僕の部屋には見られてはいけないそれがあった。
「ご主人……」
「一日たたず見つかったぁ!!」
猫のように首根っこをつままれたビヨン。
一難去ってまた一難、僕の異世界生活はそんなことばかりだ。
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