表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/36

可愛い妹は魔力が見える

「朝か……」


朝日が天蓋を突き抜け、顔をじりじりと照らした。

普段よりも日差しが強いと感じたのは、カーテンが開いたままだったせいだろう。


軽く伸びをした瞬間、足から腰にかけて鈍い痛みが走った。

理由はすぐに察せる。僕の股のあたりに、白いタヌキ―――ビヨンが見事なドヤ顔で鎮座していたからだ。


「ごしゅじん……いみがわかりませんぞ……むにゃむにゃ……」

「……」


少し身体を揺すってみても、ビヨンはピクリともしない。

今も心地の良い夢の中をふわふわ漂っているのだろう。とても、かつて世界を滅ぼす予定だった魔王には見えなかった。


(実家の猫を思い出すな……)


前世で飼っていた猫も、よくこうやって睡眠を邪魔してきた。

それがまた可愛くて許してしまうのだが―――さすがにビヨンの頭に顔をうずめてモフモフする勇気は、まだない。出会って間もないし、モラル的にアウトだろう。


できれば足元じゃなくて頭の横で寝てくれればいいのに。

……いや、ペットが飼い主の睡眠を妨害するのは使命のひとつなのかもしれない。


僕は軽く衣服を整え、洗顔のために部屋を出た。

扉の先にシイナが待ち構えていないか、少し身構えたが――今日は静かだ。

それより問題は別にある。

……ビヨンをどうやって説明すればいいんだ? そもそも、この屋敷でタヌキを飼うのは許されるのか?


そんなことを考えていた時だった。


「おはようございます、あにぃ様」

「!!」


突然かけられた声に、心臓が飛び跳ねた。

振り返ると、そこには銀髪と赤い瞳を持つ少女が立っていた。

ドレスの裾を上品に摘み、ペコリとお辞儀する姿はまるで人形のように精巧で――

声は小鳥のさえずりのように柔らかく心地よい。


「セシリア……なのか?」

「はい、あにぃ様のセシリアです」


ふふっと蠱惑的に微笑む顔。

前世で見た「ヒロイン」の記憶とは、少し違う。

だが――ルイス=ストレイの記憶が告げている。間違いない、実の妹だ。


セシリア=ストレイ。

主人公が攻略対象とするヒロインの一人。

その可憐さと無垢な瞳に、僕は思わず息をのんだ。


だが、ゲームの中の彼女とは明らかに様子が違う。

一つ目は――彼女がどこか自信に満ちていること。

ゲーム内のセシリアはいつもルイスの後ろを、おどおどとついて歩く印象だった。

年齢が一回り幼く見えるほどに。


その理由は、もう一つの事情に重なる。

二つ目の理由。それは、ゲーム開始時のセシリアが盲目の少女だったことだ。

深淵の瞳(ディープインサイト)――他者の魔力を見る特殊な瞳を、彼女はある犯罪組織に奪われていた。


あの事件こそが、彼女が自信を失う原因となった。

だが、今目の前に立つ彼女は、確かにその瞳を宿している。

ゲームの終盤で瞳を取り戻したとき以来の――あの強い輝きに、僕は少し感動を覚えてしまう。


「あにぃ様? 聞いていますか?」

「ごめん、セシリアがあまりにも可愛くて見とれていた」

「……もう。私になら別に構いませんが……まさか他の女にも同じこと言ってませんよね?」

「……大丈夫だと思うよ?」

「あとでお話があります。あ・に・い・様?」


セシリアは唇を尖らせ責め立てる。

だってゲームの世界で見たヒロインたちを見ると思わず口から漏れ出てしまうじゃな

いか。


「いいですか、あにい様は私と結婚するんですよ?

 ちゃんと昔の約束覚えています?他の女に手を出すのは浮気ですよ?」

「いや僕は既に許嫁がいるからね!!

 あと実の妹と結婚はできない!!」


この世界でも兄妹(きょうだい)での結婚は普通にタブーだ。

しかも恐ろしいのがルイスの記憶を覗いてみると別にそんな約束をしていなかった。

何この子、小悪魔というか……美人局!?怖い……。


「そう……ですか」


セシリアは少し残念そうにそう呟いた。

その姿に違和感を覚える。


「久しぶりに会いましたが……あにぃ様、雰囲気が少し変わりましたね」

「ギクッ」


心臓が一瞬止まる。

……しまった。僕の中身が別人になったことで、違和感を与えてしまったか?


「そうかな? もしそうだとしたら、誕生日を迎えて気を引き締めた結果かも。

 ほら、今年から魔術学園に入学するし、張り切ってるんだよ」

「……そう、ですか」


セシリアは訝しむように真っ赤な瞳で僕をじっと見つめた。

――前世のことは、絶対に話せない。


そんな緊張を抱えながら、僕たちは廊下を歩いていたが――

途中でセシリアがふと足を止め、「少しこっちへ」と人気のない部屋へ僕を引き入れた。


(何の用事だ?)

素直について行ったものの、胸の鼓動が嫌に早い。


セシリアは一呼吸置いてから、周囲に誰もいないことを確認した。

その真剣な様子に、僕も思わず息を呑む。


一拍の沈黙の後――薄い唇が、静かに動いた。


「嘘つき――――」

「えっ……?」


その声には疑念と、不安と、祈りが入り混じっていた。

そして次の瞬間―――


「貴方は何者ですか?

 私の大切な兄上の身体で、何をしているのですか!!」


「うっ―――!」


セシリアに押し倒された。護身術を学んでいるのか、迷いのない綺麗な技だ。

抵抗はできたはずだが――僕は後ろめたさと、妹を傷つけたくない気持ちで動けなかった。


「その魔力の形……貴方は兄上ではありませんね。

 一体、何者なのですか?」


その瞬間、僕は思い出した。

――ゲーム内で、ルイス=ストレイの正体を最初に見抜いた人物を。


セシリア=ストレイ。深淵の瞳(ディープインサイト)の所有者。

この世界で、他人の魔力を“視る”ことができる存在は、彼女を含めてたった二人しかいない。

☆印、いいね、ブックマークを押して貰えると励みになります!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ