眷属のタヌキがメンヘラで、僕の命が危ない
一番の問題だった漆黒の超越者(パチモン)が手に入った。
これでルイス=ストレイとしての物語を進めることが出来るだろう。
だがもう一つ、重大な問題が残っていた。
「ねぇ、君。今後裏切る予定とかない?」
「ありませんよ!?いきなり何を言うんですかご主人!!」
「ほらなんだか最終決戦ぽい雰囲気の時、親友と殴り合いの決闘をして、拳で互いの本音を語り合い、なんだか和解出来そうだなって雰囲気になった際に後ろからグサって…」
「ありませんよ!?何で妙に具体的なんですか!!」
「そっかぁ、ないのか…」
「だから何で残念そうなんですか!!」
本来ルイスを裏切るはずだった魔王―――曰く負の感情が消えた。
それ自体はありがたいことだ。元々魔王に殺される展開を回避したかったのだから。
そういう意味では最重要課題を意図せず解決でき喜ばしいと呼べるだろう。なのだが―――
「ちなみにさ、魔王としての残滓的なものは?」
「はい、おかげさまで綺麗さっぱり完全に消滅しました。
3日間徹夜した後にする水浴びぐらいにはスッキリしてます」
「完全に消滅したのかぁ……」
タヌキも徹夜するのか、という疑問はありつつもそれ以上の問題が頭を過った。
魔王の残滓が消え完全に消えた、その事実による致命的なシナリオの崩壊がある。
(あれ……これ主人公たちが旅に出るきっかけが無くない?)
学園編から始まるビヨンド・ザ・ファンタジー。
そこに通っていた主人公が魔王を討伐するきっかけになったのは、魔王復活の兆しを宮廷魔術師が知覚したからだった。
調査クエストから始まり、魔王幹部との接触、負けイベントの後に王国内の争乱といったぐらいに話が進んでいったのだが……。
「あのさ、いい感じに魔王だった時の残滓とか出すこと出来ない?
ほらなんかスッゴイ上級の魔術師が薄っすらと、気のせいかもなぁ?一応調査だけでもしとこうかな?って気持ちになるぐらいの残滓感とか」
「どういう注文ですか!?ないですよ、まったくこれっぽっちも無いです!!完全に浄化されましたから!!」
「そこを何とか、タヌキさま!!」
「あっ、またタヌキって言った!!いくらご主人だからって怒りますよ!!
私にはグラ――、私には名前がないのでご主人が付けてください」
「あったよね、絶対!!」
もしかしたら魔王時代の名前とかだろうか?
原作では特に名前とかはついていなかったけれども。
確かに魔王が負の感情に支配された状態ならば、浄化された今同じ名前を使うのは少し恥ずかしい気がするのもわからなくもないが―――。
「だってぇ…ご主人に名前を付けて貰った方が飼われているっていうか、支配されている感じがして…にへへぇ」
「やだ怖い!!このメンヘラペット!?」
そう言いつつもせっかくなので名前を考えてみる。
魔王の残滓で白色のタヌキ……うーん、イマイチピントこない。
ならば注目すべきは魔法のほうだろうか。
「漆黒の超越者の力なわけだし……」
「ご主人、シャイニングですよ!!」
「いやダークネスだ。シャイニングなんて認めてない」
「無駄に強情ですね!!ダークネス要素、もう微塵もないですよ!!金ピカですよ!!」
「その為の色彩調整だ。僕は今後もダークネスを名乗り続けるよ」
というわけで白タヌキの名前は漆黒の超越者のカッコいい部分から取りたいわけだけども……。
「あのご主人……。もしかして名前にまでダークネスとか―――」
「【ザ】とどうだろうか?」
「まさかのそこですか!?もっといい取り方あったでしょ!?」
「いやだって【The】って部分が一番カッコいいよ?
そこがなかったら、ビヨンド・ダークネスだよ?カッコ悪くない?」
「ご主人の感性がまるでわからないんですが!!」
ただビヨンの言い分も確かにわかる。
1文字だけというのは呼ぶ方も呼ばれる方も困る。
前世の僕も何とか呼ばれたと思って振り返ったものの、たまたま似た単語だったみたいな経験があるし。
「となると残りだと……ビヨンとか?」
「どうしてその部分が最後になるのか理解できませんが、いい名前ですね。
ご主人、やればできるじゃないですか」
「ただTheが入ってないし……Theビヨン?」
「なんの拘りですか!!大人しくTheを元あった場所に返して来なさい!!」
「そんなぁ、こんなに懐いてたのに……」
僕は大人しく【The】に別れを告げる。
元気でな……いい人に飼ってもらうんだぞ……。ぐすっん。
「それでは名前も貰ったことですし、正式な契約をしましょう」
「そう言えばそれっぽいことをまだしていなかったね」
漆黒の超越者を取り込んだ時には結んだものの、ビヨンとはまだ契約を結んではいない。
「これからよろしく、ビヨン」
「はい、ご主人。これからよろしくお願いします」
僕とビヨンは静かに握手を交わした。
白いタヌキと人間の少年という絵面はやや間抜けだが、そこはルイスの顔面偏差値が全力でカバーしてくれていることだろう。
本来、契約はこれで終わりのはずだった。
この世界での眷属契約というのは意外とあっさりしていて、口頭のやりとりと意思の一致だけで成立する。
魔法陣も儀式もない。代わりに信頼と尊重が重んじられるのだ。
そのはずだったのだが―――
「では最後に、ご主人。後ろを向いていただけますか?」
「え? こう?」
何が最後なのか気になりつつも、素直に背中を向けた。
するとその瞬間、ふわりとした重みが背中に乗った。
どうやらビヨンが跳び乗ったらしい。
「えいやっ」
「ん?」
首の裏あたりに、ぷにぷにと柔らかい何かが押し当てられた。
感触としては、タヌキの小さな前足……いや、もしかして鼻先か?
そのまま何かぺちょっとした感触が残った。
「……今の、何?」
「正式な契約です!」
ビヨンは誇らしげに胸を張った。どこか満足げな顔だ。
「これで僕は、ご主人の正式な眷属です。誰よりも忠実に、誠実にお仕えします」
「……おぉ、眷属―――ペット……眷属だ」
「今ペットって言いましたね!? いいですけど!!」
相変わらず情緒の変化が早い。
「でもさ、その“えいやっ”ってやつ、契約と関係あるの?」
念のため聞いておく。
口頭契約で終わりなはずなのに、明らかに変な儀式っぽい動きだった。
もしかして根源魔法は通常の契約とは違うのだろうか?
「いえ、本来は必要ありません。形式としては、口頭で魔力の所有を許可するだけで十分です」
「あれ、そうなの? じゃあさっきの何さ?」
純粋な質問だった。だったのだが―――。
「……痕を、……つけときました」
ビヨンは少し視線を泳がせた後、小さな声で答えた。
「痕?」
「はい、ご主人の首の後ろに、ちょ―――っとだけ魔力を込めた印を。
ほら、他の眷属が寄ってこないように……」
「……」
「僕だけのご主人、っていう証になればいいなって……」
「あのさぁ……さっきから思っていたんだけどさぁ……」
僕は言うか悩んだ言葉をぐっと飲みこんだ……。
そして覚悟を決めた。
今後、ビヨンの前で他の動物を可愛がったら……まず間違えなく殺される。
それはもう最終決戦で漆黒の超越者がルイスを裏切った時と同様か、それ以上の演出が待っていることだろう、っと。
「どうされました、ご主人?」
「いっ、いや何でも」
魔王の残滓。浄化されてなお、ルイスの一番の障害になりかねない存在だったのだ。
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