お使いのチート魔法が消滅しました。代わりにタヌキがついてきました。
「改めてになりますが、本当に助けてくださりありがとうございました」
白タヌキこと魔王の残滓さんはぺこりとタヌキらしからぬ行儀の良さで頭を下げた。
僕の欲望とお母様の“伝説のケーキ”によって浄化されたからか、魔王としての荘厳さはどこか鳴りを潜めている。
「あのまま暴走していればきっと世界を滅ぼしかねませんでしたので」
「そっか…滅ぼしてもらいたかったなぁ…」
「ん、今なんと?」
「いやなんでもない。こっちの話」
意図せず黒幕を倒してしまい思わず本音が漏れ出てしまう。
僕は誤魔化すように矢継ぎ早に疑問を投げかけた。
「それで根源魔法としての漆黒の超越者はどうなったのさ?」
「なんと、貴方様は漆黒の超越者を御存じなのですか!!」
「ん?あっやっば……」
あまりに普通に話が通じるから、原作知識をそのまま口に出してしまっていた。
そうだ、この世界では根源魔法は禁忌の魔法として扱われている。
うっかり口に出すだけで異端審問にかけられてもおかしくない。
「知っているというかぁ!?さっき体内に入り込まれた時に知識が流れ込んだ~的な?名前がカッコ良かったから覚えてたんだよね!!」
「そう……ですか。てっきりこの時代でも……」
白タヌキはどこか寂し気に顔を伏せた。妙に哀愁を誘う表情。
しょんぼりタヌキとしてSNSに上げたいほど可愛らしかった。
「ともかく漆黒の超越者についてですね」
それこそが一番の問題だった。
漆黒の超越者は僕がこの世界で超絶カッコよく死ぬ為に必要な絶対条件とも言える魔法だ。
だが魔王の残滓が浄化され消滅した今、2度と手に入らない可能性だって十分に考えられた。
僕はダンジョンをくまなく探索するタイプであり、消耗品のレアアイテムだって最後まで取っておいたまま使い所を見失うタイプだ。
こんな痛恨のミスで、僕がもっとも好きだった魔法が手に入れられなくなるのは悔やんでも悔やみきれないのだが―――
「ご安心を。漆黒の超越者は完全に消滅しました。
もう世界の脅威となることはないでしょう」
「そっか…」
無慈悲な宣告に僕は絶望した。世界を憎み、自分の無力さを憎んだ。
それはもう今の状態ならばさぞ漆黒の超越者の宿主として適正があることだろう。
膝から崩れ落ちた僕にタヌキは近づいた。
そしてぷにぷにの肉球を膝にぷにゅっと押し当てた。えっ、なに、可愛い。
「ふっふっふっ。ですがご安心ください。
漆黒の超越者とは負の感情が暴走して現れた紛い物の姿。
そして真の根源魔法が顕現したのです!!」
「おぉ!!よくわからないけど何かカッコいい!!」
熱い…とても熱い展開ではないだろうか!!
チート魔法だと思っていてなお、まだ制限された姿なんて。
リストバンドからお守りを外すような、最終形態だと思っていた姿に更に進化があったような、そんな熱さを感じさせた。
僕のわくわくをみて白タヌキも心底満足しているようで…
「ふふふっ、気になりますか?」
っと妙に勿体ぶる。
「教えてくれ!!一体どんな力なんだ!!
真の力、本物の根源魔法とはなんなんだ!!」
「聞いて驚くことなかれ。取り戻した真の力」
ゴクリっと生唾を飲んだ。
一体どんな魔法が……どんなカッコいいネーミングの魔法が―――
「その名も【栄光の到達点】と――――」
「…却下、ダサい」
「酷くないですか、ご主人!!」
白タヌキはプルプルと身体と瞳を震わせながら、肉球を押し当て抗議してきた。
可愛いなこのタヌキ。やっぱりペット業界に激震が走る可愛さをしているよ。けどその名前は許せない―――
「んっ?」
あまりのネーミングセンスの無さに意識を持っていかれたが、今何か不穏なことを発しなかっただろうか、このタヌキ。
「さっきご主人とか言わなかった?」
「はい、今日から貴方様は僕のご主人様です!!
そして栄光の到達点の後継―――所有者です!!」
「えぇ…」
何だか知らないうちに白タヌキの飼い主に認定されてしまった。
いや飼いたい可愛さとは思ったけど、まさかペット側から言われるとは…。
もしかしてこの世界のペットは自ら売り込んでいくスタイルなのだろうか。
良いか悪いか漆黒の超越者の真の姿を自称する魔法まで手に入ったけど……シャイニングかぁ……。名前がなぁ、光属性っぽいのがなぁ……。
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