表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/36

漆黒の超越者と白いタヌキ

「あの……ちょっと……漆黒の超越者ビヨンド・ザ・ダークネスさん……!?」


床に突っ伏した漆黒の塊。かつて漆黒の超越者ビヨンド・ザ・ダークネスこと、魔王の残留思念だったそれは、まったく動く気配がない。

さっきの反応を見るに、ガチのマジで死んでしまった可能性があるのだが……。


「……これ、僕が片付けないとダメだよね?」


いくら残留思念とか言っても、一度僕の口から飲み込まれて、そして吐き出された塊だ。

さすがにシイナに処理をお願いするのは申し訳ない。

ただ問題はこの残留思念は燃えるゴミでいいのだろうか?燃やすと有害な煙が出たら嫌だな……。

シイナに聞いたらわかるかな?


……なんて現実逃避をしていると、漆黒の塊に変化が起きた。

ペリペリっと黒い表面が剥がれ始めたのだ。まるでゆで卵の殻を剥くように。

未知の物体が、中から生まれようとしていた。


(こんな展開、攻略本にも書いてなかったぞ!?)


もともとが魔王という悪の残滓だったことを考えれば、警戒すべきだ。

だが不思議と、僕は“それ”が生まれてくることを好意的に捉えていた。

理由は中から漏れ出る光が暖かく、優しげだったという、何とも言語化しづらい感覚的なものだった。


「これで中から虫とか蛇とかだったら嫌だな……」


なんて思っていたそのとき、塊が大きく跳ね、僕は思わず「ひゃ!?」と情けない声を上げた。


瞬間、塊を覆っていた黒い靄は完全に取れ、中から純白の物質が広がった。

まるで圧縮された綿が一気に解放されたかのように。

気づけば、僕の口に入っていたとは思えないほどの大きさに――軽く抱きかかえられるくらいのサイズになっていた。


それは小さな獣の姿をしていた。

真っ白で、ふわふわもこもこした毛並みに、寸胴でずんぐりむっくりとした体型。

短く丸い尻尾。犬や猫に似ていて、もし前の世界にいたら、ペット界隈で覇権を取れたであろうビジュアル。


犬にも猫にも似ているけど、どちらとも断言しづらい。

それでどこか見たことのあるフォルムは……あっ!!


「タヌキだ!!」

「なんですか、いきなり!?」


タヌキは怪訝そうな顔でこちらを見た。

その姿も愛嬌があり僕から吐き出されてなければモフモフしたいほどだった。


って今、どこからか声が聞こえたような……。


「貴方が、私を救ってくださったのですか?」

「!?」


明確に僕に対して向けられた問いかけ。僕は、二つの感想を抱いた。

一つは、「このビジュアルで普通に喋れるんだ」という驚き。

声色は可愛らしく、魔法少女アニメのマスコットキャラを思わせる中性的な声質だった。


頭の中では完全に“タヌキ”イメージで固定されていたので、喋るとは思ってなかった。

……考えてみれば、靄のときに話しかけてきていたし、喋れて当然なんだけど。


そしてもう一つ。


「僕が……君を救った……の?」


質問に質問で返してしまった。情けないが、僕にはまったく自覚がなかった。

勝手に憑りついてきて、勝手に吐き出されて、勝手に黒い靄が消滅した。


僕がした攻撃と言えば、せいぜい胃液による消化か、吐き出された拍子に絨毯に叩きつけたことくらい。

あれが魔王だと考えると、なんとも呆気ないやら情けないやら。

原作で前座扱いされた報い、ってことでいいなら少しスッキリもするけど。


「はい、貴方様が、悪しき感情に染まり暴走しかけた私を救ってくださったのです!!」


タヌキ型の謎生物は、ペコリとその小さな頭を下げた。

妙な緊張から、僕も「どうも」と反射的に会釈を返す。

傍から見たら、動物に頭を下げてる人間の図。なかなかにシュール。


「自覚がないんだけど……何がきっかけで君を救ったことになったのさ?」


努めて冷静に話しかけたつもりだったが、内心では冷や汗ダラダラだった。

明らかにシナリオが崩壊してしまっている。


かつての魔王が、これから世界を滅ぼしますって魔王が……タヌキに変わったわけで。

しかも“僕のせい”と言われているわけで……。


これがドラゴンとか、そこまで言わなくても狐ならまだ“世界を滅ぼしそう感”はあった。

けどタヌキだ。無理だ、タヌキには。タヌキに滅ぼされたら世界が可哀そうだ。


「あの……何か失礼なこと考えてません?」

「……いやソンナコトアリマセンよ?」


まぁタヌキなのはまだいい。

どっちみち魔王に世界を滅ぼさせる気も、ルイスの身体を乗っ取らせるつもりもなかったのだから。


だが、一番の問題は。

僕が愛してやまない“漆黒の超越者ビヨンド・ザ・ダークネス”の所在だった。

このままでは全ての計画が……僕のカッコよく死んでやる完璧な計画(パーフェクト・プラン)が台無しだ。


原因として考えられるのは、僕が“前世の魂”を持っていること。

1つの肉体に2つの魂が入っていたせいで、魔王の残滓が入り込む“隙間”がなかったとか?


「私の悪しき感情は、貴方の未来への希望と期待によって浄化されたのです!」

「へっ?」


僕の気の抜けた返事に、白タヌキは補足を加えてくる。


「未来への希望。明確な夢と目的意識。それこそが悪しき感情――漆黒の超越者ビヨンド・ザ・ダークネス――の天敵だったのです。

 貴方様の肉体に入ったとき、溢れんばかりの“希望”に、私はすっかり浄化されてしまいました。

 これほどの未来への希望を持つ人間は、この世界に多くありません。きっと貴方様は――」

「うん、わかったから希望希望言うのやめて。恥ずかしいからやめて!!」


そこまで希望を強調されても自覚はない。これも前世の記憶のせい?


――あっ。


このとき、ようやくすべてを理解した。

僕が思い描いていた理想。将来の夢。それは――


(もしかして、“漆黒の超越者ビヨンド・ザ・ダークネス”が欲しすぎるあまり、それで浄化されちゃった!?)


そして概ね間違ってないという確信があった。

確かに手に入ったらやりたいことは山ほどあったけど……まさかその“欲望”が本体を浄化させるなんて……本末転倒にもほどがあるだろ!!


「事前調査では、“漆黒の心”を持つ人間として登録されていたのに……まさかそれすら浄化のフェイクだったとは。

 それとも直前で心変わりされたのでしょうか?

 まるでクリスマスプレゼントの希望を直前で変えられたサンタさんの気分ですよ」

「この世界にサンタいるの!?」

「それと、体内に入ったとき、ドギツい味と臭いの固形物が……。

 最近の人類は、あんなものを食べてるんですか?」

「お母様のケーキ!!」


まさか、魔王の残滓を撃退したのが、母の愛情たっぷりバースデーケーキとは……。

感謝したいような、罪を問いたいような。

なんてもの息子に食べさせてんだ……。


母親の愛情は魔王をも倒す。

うん、それが物理的でなければ美談だったね。


☆印、いいね、ブックマークを押して貰えると励みになります!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ