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悲報:漆黒の超越者、無事死亡

妹不在の誕生日会を終え、僕は眠りにつこうとしていた。

いや、厳密に気づけばベッドの上で横になっていた。


脳裏にあるのは、誕生日会の最後に起きた“あの出来事”。お母さまお手製のケーキらしき何かを食べた瞬間、意識が飛び――気づけばベッドの上だった。


時間がすっぽり抜け落ちたかのような感覚。

胃の中には得体の知れない不快感が残っているが、意識すれば吐きそうになるので無視することにした。

何よりも僕の思考はある一点の事に支配されていた。


漆黒の超越者ビヨンド・ザ・ダークネス

ルイス=ストレイの代名詞にしてこの世界の理から外れたチート魔法。


前世で読み込んだオフシャルガイドブックによれば、それが宿るのは12歳の誕生日の夜、つまり今日だ。

魔王の残滓は接触し、自身の復活を助けることを条件にルイスに根源魔法(マスター・ルール)でるこの魔法を与えたと書かれていた。


本来ならば根源魔法(マスター・ルール)は習得されるだけで命を落とすかもしれない禁忌の魔法。

だがルイスは世界への復讐の為、数日に渡り高熱を出し生死の境を彷徨ってなお自分のモノにしたの執念としか言うことができない。


つまり今夜こそが、ルイス=ストレイとしてのその始まりの日。

僕の死から始まる復讐の物語が今始まる―――


「ふふっ、楽しみだなぁ」


僕は思わず笑みをこぼし、枕をぎゅっと抱きしめた。

まるでサンタを待つ子どものように、目を輝かせて。


どのタイミングで来るのかな?0時? 夜明け?

眠っていたほうがいい? 起きて歓迎すべき?


そんなことを考えていたら、興奮して眠気はどこかに吹き飛んでいた。

決め台詞とか考えた方がいいだろうか?


――気がつけば、数時間が経っていた。

屋敷はすでに静まり返り、物音ひとつ聞こえない。

まるで時間が止まったかのように、完全な静寂。

と、そのとき。


満月の光が部屋を照らした。

……おかしい。カーテンは閉めていたはずだ。


なのに、月が――部屋の中に、入ってきた?

カーテンが風で揺れる? 隙間風か?いやそんなはずはない…。

それに、風があるなら音がするはずだ。こんな静寂の中で。


寒気が背中を駆け上がる。

肌にざわりと悪寒。

意識がノイズのように明滅し、満月がまるで――僕に、笑いかけているように見えた。


そして――現れた。


「くくくっ……漆黒の意志を持つ者よ」

「――ッ!?」


天蓋の隙間から、靄のような“それ”が滲み出す。

凍てつくような気配。恐怖の権化のような存在感。


でも僕には“それ”が何者かわかっていた。


(キタキタキタキタ――!!)


喜びを噛み殺すのに必死だった。

推しが目の前に現れたファンの気持ちって、こんな感じなんだろうな。

サイリウムがあれば全力で振っていた。


「くっくっく……この世界が憎いか? それとも、自らの無力さが憎いか?」

「――両方だ。この世界も、自分自身も……全部、憎い。(わーい!!)」

「ふははは!!まさしく我が求めた魂よ。ならば契約せよ。この世界の魔法を根底から覆す“意志”を貸してやろう。ただし――契約すれば、ロクな死に方はできぬぞ?」

「構わん。こんな人生、もうとっくに死んでる。(夢にまで見た展開キター!!)」

「はははは! 見事だ。ならば――くれてやる。我を恨むなよ?」


漆黒の靄が、僕の口から体内へと入り込んでいく。


灼けるような熱が血管を駆け巡る。

魔王の意思が奥へ奥へと、魂を喰らおうとしてルイスの深部へと入り込む。


そして――ルイスの精神に、別の感情が流れ込んできた。

世界への、怒り。憎しみ。

それが魔王の感情だと、本能で理解できた。


吐き気。

拒絶。

体が、異物を吐き出そうして――


「ぐはああああああああああああ!!」


黒い靄が叫びとともに……吐き出された。

ぺちゃっと床に叩きつけられ、動かなくなる。


まるで……ミミズがアスファルトに投げ出されたように、ピクン、ピクン……と震えたあと、動かなくなった。


「……え?」


いや、いやいやいや待って。

こんな展開、聞いてない。


原作通りなら体内に魔王が取り込まれ、数日高熱でうなされ、その後“漆黒の超越者ビヨンド・ザ・ダークネス”として覚醒するはずだった。


それが、まさかの――拒絶!?

まさか魔王が裏切って―――


「おのれ……騙したな、人間……」


最期にそうつぶやき、完全に沈黙した。


(……)

(……え?)

(…………死んでる!?)


「え、なんで!? なんか魔王死んだんだけど!?」


床に転がる“残滓”。

バグか? フラグ管理ミスか?

ていうか今後どうやって物語進めんの!?


僕はしばらく呆然とし、やがて――


「今日の……満月は、綺麗だなぁ……」


全力で現実逃避することにした。



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