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フォーチュン・ライト  作者: おじさま
第二章 愛を伝えよ、白銀の獣龍 〜辿り追う者の意志〜
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第四十八話 愛の巣窟、憎の揺り籠

 あの濃密な一日が終わってから、三日が経過して。とうとうサイト達はギルド長であるフロスティアの執務室へと訪れていた。

 執務室にメンバーが揃うのを確認し、フロスティアが口を開いていく。


「集まったね。それじゃあ、早速だけどメンバーを言っていくよ。洞窟組は――――」


 それから、メンバー分けは決められた。


 洞窟組。何が起きるか分からず、激化する戦闘が確実とされる所のメンバーは『サイト』と『ソウジ』に『グラディス』、そして『ランス』が向かう事に。

 残りのメンバーは『アリス』と『エーテル』、そして『コルヴァス』がラヴィーネに待機する。

 組を分けた後、フロスティアはある道具を手渡す。


「それと、これ。『通信の氷鏡(ひょうきょう)』も渡しておくね。スノウステイルの区域ならどこでも通信できる、私たち龍族とボーデンのギルド長、そしてヒノモトの技術屋が編み出した手鏡さ。何かあったら、これで連絡を頼むよ」


 そして、フロスティアは最後に一つ言葉を残していく。


「今回の一件、どうにもきな臭い。厳重注意し、油断無く作戦に取り組んで頂戴。分かったかい?」

「「「はい!」」」 「「了解です」」 「分かりました」


 個々人それぞれの返答をして、作戦開始の鐘は鳴らされた。

 それぞれが抱える想いを胸に、自分に出来ることを全力でやるだけ。

 サイトとアリスは、両者共にその様な事を考えていた。

 そして、それを見守るソウジ。

 彼の表情は正に、幼子を見つめるような。そんな慈愛に満ちた視線を向けていた。


 ――――――――――――――――――――――――――――


 洞窟組は、ラヴィーネの城門前でランスと待ち合わせをする。


「へぇー、グラディスはランスと知り合いなのか」

「あぁ。俺はあいつとよく模擬戦で戦ったりもしたが……強いんだよな、あいつ。それに加えて、都の奴らにも不器用ながらに優しく接したりしててよ。見てると、こっちも頑張らないとなって思えるんだ。ランスは俺が出会った誰よりも信頼出来る奴だって思ってるぜ」

「ふーん、なるほどなぁ。まっ、とにかく今回もランスは活躍してくれるかもな」

 

 ソウジとグラディスは軽く談笑をして緊張を解しつつ待っていたが、サイトはそんな中でソワソワとしていた。

 そんなサイトの様子に気付き、ソウジは一つ緊張を解いてやろうと何かを言おうとした、そんな折。ランスがやって来る。

 気付いたグラディスが、手を振って迎えた。


「ランス! こっちだこっち!」

「あぁ、グラディス。相変わらずそうだな。ソウジも……サイトも。元気そうだな」

「あぁ、お前もな。……ところでランス。あんた、サイトと何かあったのか? ちょっと、間があったろ?」


 ソウジはランスの微妙な違和感に目敏く気付き、フォローの意味も込めてそう尋ねる。

 そんなソウジの言葉に、ランスは視線を真正面から受け止めてはっきりと口を開いた。


「うむ。特段、困るような事は起きていない。寧ろ、良きことが俺達の間には繋がっている。そうだろう、サイト?」

「あっはは。うん、そうだよ大丈夫! 全然問題ないからさ!」

「ふーん……? まぁ、二人がそう言うならこれ以上は何も言わないけどよ。んじゃ、グラディス。出発、するか?」


 何が起きたかは詳しく話されなかった故に、ソウジも特に追求することなくグラディスへと話を振っていく。

 その言葉に、グラディスも頷いて答えた。


「あぁ、んじゃアルブス・レノ(白トナカイ)が引くソリに乗るぞ。まぁ、今から行く洞窟は結構入り組んだところにあるから、途中で歩いて行くことになるだろうが」


 そうして、彼らはソリへと乗り込みラヴィーネを出発する。

 白のトナカイは走り出し、積もった雪をかき分け進んでいく。

 すぐに都市は遠くなって、景色が真っさらな白銀の世界へと様変わりした頃。

 各々がキャビンの中で談笑をしていたその時に、ランスがグラディスへとある質問をする。


「グラディスは、見ていないか? 俺と同じ白の体毛に黒の体毛が混じっている獣龍種、ハスタ。あの後に目撃情報がないかどうか俺も調べてはいたんだが、全く目星がつけられなくてな」

「いんや、俺の方も全くだ。そもそもラヴィーネに帰ってきてること自体びっくりな事なんだ。情報だって全く集まらなくてもなんら不思議じゃねぇだろ」


 グラディスは考え込む仕草を取りながら、その様に話す。

 

 ――――やっぱり、ランスさんはハスタさんにまた会いたいんだろうな。どうにかして、話をしたいと思ってる。


 その様に思考を巡らせるサイト。並々ならぬ想いを抱えているのを、しっかりと聞いているからこそ、己のことのように悩んでいく兎の少年。

 そうして悩むサイトの傍ら、ランス達の会話にソウジも混ざっていく。


「ランス、兄貴がいたのか? どんな人なんだ?」

「……俺の、兄さんは。強く、気高く、人を魅了する何かを持っている。だが、今は……」


 ソウジの言った事に、ランスは口籠りながらも答えていく。

 しかし、その途中で今の兄の現状を……自身と深い関係にあるフィデーリス家と険悪な仲である事を思い出し、眉間に皺を深く刻んで押し黙ってしまった。

 そんなランスに困惑を見せるソウジは、耳をへたり込ませて慮るように手を差し出していく。


「もしかして、兄貴と喧嘩中だったのか? それなら、その……悪い、嫌なタイミングで聞いちまったな」

「あー、いや。ランス、すまんな。こいつのお兄さんも、こいつ自身もちょいとワケありなんだよ。昔に、ちょっとな」

「その様子だと、尋常ならざる出来事だったみてぇだな。昔のことは、ちょっとやそっとの事じゃ忘れらんねぇもんなぁ。仕方ねぇ事だよ、本当に」


 ソウジは腕を組みながら、うーんと唸っていく。悩ましげに、場の空気が悪くなりすぎないように少しだけ戯けたような声色で。

 そんな彼の気遣いに、ランスは昂ぶった気を落ち着かせていく。

 暫くの沈黙がキャビン内部を包む中、グラディスがランスの背中をバシバシと叩いた。


「っ、っ……! グラディス、何のつもりだ」

「いんやぁ? ちょっと落ち込んでるランスに喝を入れようと思ってな。なぁ、こいつらには話してやってもいいんじゃないか? サイトとは特別何か気が合ってるようだし、ソウジは口がちゃんと固そうだし」

 

 ランスはその物言いに少しだけ眉間にシワを寄せるも、一つ息を吐く。

 そして、ゆっくりと口を開き話し出す。


「……五十年程前に起こった事件、とある屋敷での火事。それは、貴族の者が俺とハスタを焼殺する為の仕掛けだったんだ。俺達は屋敷で火の海の中にいて、その最中に俺は意識を失い……目が覚めると、俺は診療所のベッドの上に横たわっていた」

「そんな、事が……」

「フロスティアに話を聞けば、ハスタはそれ以降行方が分からず仕舞いなのだと言っていた。そして、その話の中で……兄は火事を仕掛けた者達を皆殺しにしたとも、聞いた」


 悲痛な表情の中で、ランスは語り切った。

 サイトは、顔を悲痛な色に染めていく。何も言えない……辛く苦しい出来事に、かける言葉がすぐには出てこなかった。

 ソウジはソウジで顔を顰めさせて、事件の話に嫌悪感を示している。

 グラディスは悔しげに顔を歪ませるランスの代わりに、事件の詳細についてを語っていく。

 

「コイツが被害に遭った事件は、ラヴィーネの中でも特に陰湿で加害性の高い事件だったんだ。なにせ、コイツとそのハスタの二名だけを狙い撃ちした、狡猾で姑息で計画的な犯行でな。今でも語り草な事件だよ。……ほんっとに、胸糞わりぃぜ」

「ハスタさんは、それで貴族の人達を恨んでて。でも、ラヴィーネに戻ってきた理由はまだ分からない。ただ、良くないことをしそうなのは、何となく分かる」

「……そう、かもな。犯人達を皆殺しにした後に行方を眩ませた……あまり考えたくはないが、何かの準備をしていたとも考えられるし、な」


 キャビンの中は、どんよりと重い空気になっていく。

 これから先、何か恐ろしい事が待ち受けている様な感覚にサイトは襲われる。

 そんな、空気の中で。

 

 ――――パンッ!


 と、手を叩く音が鳴り響いた。

 音を発した主は、ソウジ。

 彼はムスッとした表情を携えたままに、サイト達へと語りかけていく。


「あのなぁ。お前ら揃いも揃ってどんよりしすぎだろ! んな後ろ暗い空気の中で、作戦が上手くいくと思ってんのか? しゃんとして、切り替えろ!」

「……ソウジ」

「悲しむなとまでは言わねぇよ。けど、引きずりすぎんのも良くねぇ。思考の沼に沈んじまったら、後戻りも難しいからな。難しい事は後で考えりゃいい! それに、俺らが助けにもなるし。だからランス、そんなに困った表情してんなよ」


 最後にニッカリと笑いかけながら、ソウジはそう締めくくった。

 場の空気が一転するのを、サイトは感じ取る。

 少なくとも、先程までのどんよりとした空気感は無くなっているのだ。

 そんな良くなりかけた空気に乗っかるように、グラディスも豪快に笑い出していく。


「はははっ! そうだなぁ、その通り過ぎるな! 後ろ暗くなってる暇があるんなら、前向かねぇといけねぇ。うっし、気張っていこうぜランス!」

「……あぁ、そうだな。すまない、お前達」

「分かったんなら、いい。んじゃ、作戦に備えつつ緊張を解していこうか! 好きな食べ物の話なんだが――――」


 そうして、ソウジ達は談笑を再開していった。

 重苦しくなった空気を、すぐに切り替えたソウジ。

 そんな彼に対し、サイトは改めて尊敬の念を抱いていく。

 

 ――――凄いなぁ、憧れる。……強い人、だ。

 ――――彼がいるなら、安心だ。

 

 気持ちはどんどん溢れ出てくる。それら全ては、肯定(ポジティブ)な気持ち。

 だからこそ彼は、ソウジにこう話す。


「ソウジ。今回も、頑張ろう」

「おう、頑張ろうな! ……まーだ少し緊張してるかーサイト? うりゃうりゃ、ちゃんと解せよ〜?」

「わっ、やめろって!?」


 サイトのフードを被った頭をソウジが撫で回す。解れる雰囲気の中で、ソリは目的地である洞窟より少し離れた村までやって来た。

 御者の話では、ここまでで近づくのは限界らしい。

 である為に、後はサイト達が自分の足で歩いていかなければならないのだ。

 

 そうなると、魔獣の存在が厄介になる。

 

 積もった雪の中を掻き分けながら、吹雪く視界の中を彼らは進んでいく。

 周囲に警戒を向けて、着実に目的地(洞窟)へと進んでいっていたのだが。

 ふと、ランスが呟いた。


「……魔獣の魂が感じられない?」


 その言葉に、サイト達は眉根を寄せていく。

 最初にその疑問に返事をしたのは、グラディス。

 

「どういう事だ、ランス。ここら一帯は魔獣がよく活動してるはずじゃあねぇのか?」

「あぁ、その筈なんだが……どうしてなのか、気配が無い。魂の色が、どこにも見えない。視界の悪さ云々を差し置いても、どこにもいないし感じない」

「……とにかく、気をつけて進もう。何が起きるか分からないのは、変わらないんだし」


 サイトがそう締めくくり、彼らは再度歩みを進めていった。

 そして、魔獣に襲われる事もなく目的地である洞窟にたどり着いたのだ。

 そのまま彼らは、洞窟内部へと足を踏み入れていく。

 一抹の不安を、各々が抱きながら――――。


 ――――――――――――――――――――――――――――


 洞窟の内部。そこは薄暗く、どこか不気味な静けさを纏っている空間。

 寒冷地であるから、だけではない生理的な嫌悪感から来る悪寒が背筋を伝いながら、サイト達は奥へと進んでいた。


「……ここにも、魔獣はいない。他のものらしき気配も、今のところは感じ取れないな」


 ランスがその様に報告をしながら、周囲へと警戒をしている。

 魂を読み取れるランスでさえ、一切の気配を感じ取れない空間内。その事実は、(みな)の警戒心を引き上げていくのには十分だった。

 少しずつ、着実に薬の出処へと近づいていく。

 一歩、二歩、三歩、四歩、五歩……地面から響く足音が、何度なった頃であろうか。

 彼らは、洞窟の奥地へと足を踏み入れた。


「これは……?」


 そこは、何かの巣のように感じられた。

 黒い繭がそこかしこに顕在しており、大きく脈打ちながら上部に繋がる管へと何かのエネルギーを送っているようだった。 

 木製の机や椅子もあり、その上には紙が何枚か散見され、更にはケースの中に小さな珠の様な物が何個か転がっていた。

 この空間だけ、明らかに異質。

 彼らは調査の為に、中を探索していく。

 

 その過程で、薬は見つけられた。木製の箱に何十個も詰められていたのだ。

 しかし、人の影はまるで無い。もぬけの殻。

 薬を製造した跡はあるのに、人の出入りがないなどあり得ない。

 謎が深まる。

 どこに行った?

 それに珠の用途も気になる。

 これは何から生まれた物なのか、何の為に存在しているのか。

 各々がそんな思考を深めていった――――その時。


「っ、全員避けろ!」


 いち早く気配を察知したランスが声を張り上げる。それに反応したサイトとソウジ、グラディスは即座に後方へと飛び退いていく。

 すると、立っていた所に氷の柱が勢いよく生成された。

 体を全て覆うような氷。それはまるで、サイト達を捕らえようとした様にも感じられる。

 そして、サイト達が次に注目したのは、敵意の放たれる前方。そこには黒い渦が巻き起こっていた。


 ――――これを、俺は知っている。


 心の中で、サイトはそう呟く。

 これは、この敵意は。

 あの時出会った、黄色い一本角の獣龍種(ドラコティアノス)

 名を。


「ハスタ……!」


 ランスが歯を噛み締め、黒い渦を睨みつける。

 そんな渦から、件の人物は姿を現した。


「やはり、来るのならお前達だと思っていたぞ。勇敢な少年、そして……ランス。我が愛しき弟よ。そして、もう我の名はそれではない。今の我の名は……ダハーカだ」


 そう名乗った彼は、圧倒的な闘気と敵意をサイト達に放ち続けている。

 戦いの火蓋が、切られる――――。

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