32.決死の脱出
「まひる!大丈夫!?」
リゼリアがすぐにひまるに駆け寄って抱き起こす。既に体力の限界なのか、リゼリアの腕の動きに抵抗せず、ひまるは身体を彼女に預ける。
「なんでウチに構ってんだよ……さっさと行けって……」
「行けるわけないでしょ、ほら背中貸すから乗って」
リゼリアはひまるに背中におぶって立ち上がり、カエルの方を見る。
あの一撃は相当な威力だったようで、完全に壁に埋まっていたカエルがやっと這い出してくると、もうボロボロの状態にも関わらず再び丸まって突進を繰り出してきた。
「ソレア!なんとかして!」
「指図するな!言われなくても生意気なこいつは叩き潰すよ!」
ソレアは翼を羽ばたかせてカエルに突っ込んでいく、ボロボロとはいえ三倍くらい大きなカエルと打ち合って無事じゃ済まないと思ったリゼリアは、放置していたプレートの位置まで駆け足で戻ると、置いてある手札を見てその中の一つを手に取ってプレイする。
「ソレアを対象にして[全力バトル]を発動!対象のユニットは攻撃力が上がって、次に受ける攻撃ではやられなくなる!」
「どりゃああ!!」
ソレアとカエルが全力でぶつかり合い、そして互いに弾き飛ばされる。カエルは氷柱石にぶつかり、ソレアは頭から岩壁に激突する。
「ん?痛くない!さっすが我だな!」
しかし、全くダメージがなかったのか、ソレアは慢心しながらすぐに立ち上がると再びカエルに突撃をかます。
カエルはソレアの姿を認めると、その場で体を振り回して体当たりを行い、直撃したソレアがピンボールの玉のように跳ね、そのまま顔面でスライディングをしてしまう。
「いだあぁぁぁぁ!!?」
「なに無茶してんの!私がフォローしてるから大丈夫なだけだよ!正面からの戦闘は無理だよ!多分!」
「な、なによ!今のはちょっと油断しただけなんだから!」
頬をさすりながらソレアが起きあがり、リゼリアに減らず口を言いながらカエルと向き合う。
「私があんたを強化する、そしたら一気に叩いて!」
「さっきみたいに痛くなくしてくれるの?なら早くして!もう来るよ!」
カエルが最後の一撃を与えようと、体を丸めて突っ込んでくる。それと対峙するソレアを見たリゼリアは、手札を見て一枚のカードを抜き出しプレートに置いてプレイする。
「スキル[奇襲]を発動!これで決めて!」
「ん?おお!これはイイね!よっしゃあ!こっちからいくよ!」
対象一つのフィジカルを+1するスキル、それによってソレアは溢れ出す力を感じたのか、手の鱗がパキパキと破れるのも構わず拳を強く握り、全身に炎を纏ってカエルに突撃する。
丸まったカエルとソレアの拳がぶつかる。その時発した白い閃光がリゼリアの視界を閉ざし、思わず顔を隠してしまい、何が起こったのか分からないリゼリアは恐る恐る目を開いた。
視界のその先、そこにはひしゃげたカエルの上に立ち、拳を上げて勝ち誇るソレアの姿があった。
「やっ……たぁ!!私たちの勝ちだよひまる!」
「あ〜……これはお前が倒したんだよ……ウチはまともに戦えなかった」
「そんなわけない!三人でいたから勝てたんだよ!だからこれは私“たち”の勝利なんだ!」
「なにを騒いでいる?ほら見るがいい、我が倒した獲物だぞ」
ひまると喜びを分かち合おうとするリゼリアに、ソレアがカエルの舌にあたる部品を持って側にやってくる。その言い回しからして、倒した事を褒めてほしいことが伺える。
「もちろん、ソレアのおかげで勝てたんだから、ほら偉い偉い」
「ばっ……!頭を撫ぜるな!」
頭を撫でられ、思わず赤面しながら後ずさるソレア。そんな彼女の大きいリアクションも気にせずリゼリアはユナゼラムを取り出してカエルの残骸に当てる。
赤 燃ゆる月 ギサユノン 6
4/5 オンリー・ユニット グロブスタ カエル
【突破】【貫通】
このユニットが攻撃するたび、相手のユニット一つを選ぶ、対象になったユニットは−2/0の修正を受ける。
このユニットが破壊された時、対象一つを選びそれに4点のダメージを与える。
リゼリアはカードになったそれを確認してしまうと、二人の元へほくほく顔で戻っていく。
「で、どうしてこうなったのか我に説明してくれるんでしょ?さっさと説明しなさいよ!」
嬉しそうなリゼリアに対し、ソレアが近くの氷柱石を叩き潰しながら説明を求める。そんな脅迫的な態度を見ても、リゼリアの表情は明るい笑顔のままだ。
「まあ落ち着いて、私の連れが危ないからここから離れてから説明するよ」
そう言って、プレートからカードを取り出してデッキケースに戻すリゼリア。するとソレアの抵抗虚しく、「あ〜れ〜!」と言いながら彼女は再びカードに戻っていった。
そして下ろしていたひまるを背負い、リゼリアが出口を目指して歩き出す。
「いいって……もう借りを作られるのは勘弁……」
「良いわけないでしょ、それに借りがあるのは私も同じだし」
そう言って歩き出すリゼリア、彼女自身もそこそこボロボロだったが、それでもひまるよりは動ける為、なんとか自力での脱出を試みたのだ。
「と言っても流石にキツイね……ん?」
しかしこんな状況で脱出できるのか自信のない彼女は、息を切らせながらなんとか別の方法がないか視界と思考を巡らせる。すると、自分が使っていたタクティカルプレートが視界に映った。
(これってビュンビュン飛び回ってたよね?もしかして人乗せても飛べたりする?)
プレートは自力飛行可能であり、尚且つ所持しているカードプレイヤーの思念によって操作が出来る。ならそれは人が乗っても出来るのではないか、そう考えたリゼリアはプレートを地面スレスレの位置にくるよう操作して、それに足を乗せる。
意外にも二人の体重でも浮いた状態を維持したそれは、置かれたものを卓上で固定するシステムによって足が自然と離れなくなった。
「これイケる!なら……」「んぐぐ〜……ちょっと!」
喜ぶリゼリアにデッキから這い出してきたソレアが文句を言いたげに叫ぶ、未だに状況がわからないまま進んでいることが気に入らなかった彼女はなんとかデッキから出ようとしたが、まだカード化したばかりの体は上手く扱えないようで、カードから出てくるのもやっとのようだった。
「分かってるって、でもまずはひまるを治療しないと……」
そこでリゼリアの言葉が途切れる、不審に思ったソレアがリゼリアの視線の先を見ると……先ほどのカエルが再び起き上がっていたのだ。
とはいえ、流石に崩壊寸前の状態であり、全身を燃やしながら体からパーツをこぼして歪に歩くその姿は、目の前の存在を同じ姿にすることだけに執念を燃やしているように見えた。
「ソレア、行くよ」「え、まっ、ギャンッ!?」
リゼリアは静かにそう告げると、プレートに両方の足を乗せて出せる最高速度でプレートをかっ飛ばす。
一方、いきなり飛び出されたことでカードから離れたソレアは、自分のカードに引っ張られてプレートに引きずられるような状態となってしまう。
「距離は離れた!もう……ッ!?」
最高速で飛ぶホバーボードと化したタクティカルプレートを乗りこなし、なんとかその場を離れたリゼリアはカエルから逃げられたと安心して確認のために振り向く。
だが、業火の鉄球と化したカエルは回転しながら真後ろまで来ており、少しでもスピードを緩めるか、そうでなくとも徐々に近づいてくるそれに今のスピードでは追いつかれて、そのまま潰されてしまうことは明白だった。
「ぜ〜は〜……ぜ〜は〜……いきなり飛ばすな!」
「ソレア!しっかり掴まって!」
なんとかプレートまで到達できたソレアに一声かけるとリゼリアは意識を集中させ、少し前のめりになりながら無理を承知でプレートを更に加速させようとする。
すると、もうこれ以上スピードが出ないと思われたプレートが更に加速し、トップスピードで洞窟内を駆け抜けていく。
そして、火影の洞窟の出口である光の漏れる空間の割れ目がついに見えてきた。
「いけえぇぇぇぇぇぇ!!」
プレートの後方がカエルとぶつかり火花を散らす、そしてもう少しでクラッシュ寸前というところでリゼリアは空間の割れ目から外に飛び出した。
グロブスタはダンジョンの外に出られない。カエルは割れ目にぶつかると大爆発を起こし、今度こそ完全に沈黙した。
「やった……!なんとかなった……!これで……」
そこでリゼリアは緊張が解けたのか、そのまま気絶するように倒れてしまう。
顔面に感じる荒野の砂とソレアの自分にかける声を遠くに聞きながら、リゼリアは意識を失った。
本日のカード紹介コーナー
赤 全力バトル 3
スキル
ユニット一体を対象とし、そのユニットに+2/0の修正を加える。対象のユニットはこのターンに場を離れない。
フレーバー:傷ついてもいい!この戦い、最後まで諦めない!