31.カードプレイヤーの連携
求めていたカードが突然手元に現れた事に困惑するリゼリア、それがどんなテキストなのか確認しようとするが、そこで凄まじいビープ音が鳴り響き反射的にそちらを向く。
そこには先ほどの暴走した機械ガエルのグロブスタが口から炎を噴き出しながらこちらを見えおり、今にも襲いかかってきそうな雰囲気を出していた。
「くっそ!今度はグロブスタかよ!リゼリア早くカード使え!」
「え、あっ!ごめん!プレートからデッキ外したから展開し直さないと!」
逃走のためにデッキを外したことで生成されていたECは全て消滅してしまっており、再展開する必要が出てリゼリアはプレートを前に出すと、デッキが置かれた瞬間から再びプレートがECコアの外殻を生成し始める。
カードプレイヤーは常にプレートを展開していればいつでもカードをプレイできるのに何故しないのか?と疑問に思われる事が頻繁にある。
しかし、その根源であるECコアとは、SF粒子を元にして作られた仮の容器にエーテルを保持した即席のエネルギー源であり、その保存期間は5分と短く、更にプレートはECコアを合計で10までしか管理出来ない為、常に貯め続けていればいくらでも使えるわけではない。
それならばプレートを展開し続けていればいいと思うかもしれないが、カードプレイヤーとは撹乱型ではなく自陣防衛型をイメージした専門職であり、周囲の環境をスキャンして空間のエーテルの含有量を参照して効率よくECコアを生成しようとする為、位置が大きく変わると生成に不具合が起きてしまい、そもそも常に生成し続けると故障の原因になってしまう為、それを防ぐために自動的にプレートが停止してしまう。
なのでカードプレイヤーは一回一回プレートを起動して、状況のリセットを行わなければならない。
「はぁ!?なんだよそれ!じゃあそのクソみたいなプレートを早く起動して!」
「もうしてるって!それより時間を稼いで!」
それを聞いたひまるは呆れたように剣を抜き、時間稼ぎの為に構える。
「おおい!?さっきからワタシのこと無視しないでよ!どういうことなのこれ!?」
混乱を極める状況に、リゼリアもひまるも目の前の危機に必死になってしまい、ドラゴンが少女になるという一番奇想天外な事に対するリアクションが後手になってしまっていた。
それに対して竜の少女は、自分でも分からない状況で放置されたことに憤り、とにかく納得出来る説明を求めてリゼリアに突っかかる。
「ご、ごめん!とりあえず戦って!えーと……」
『マイスターカードを確認、マイスターゾーンに置く場合はデッキカラーの確認をしてください』
「よくわからないけど、とりあえず置く!」
プレートの右側にデッキを置き、それの反対側にあるマイスターゾーンという場所に、リゼリアが手に入れたマイスターカードを置く。
「え?え?なんだか体が……え、ええ〜!!」
すると、少女の身体がカードに吸い込まれていく。そしてプレートがいつもと同じ起動音を鳴らした。
『マイスターカード解析完了、《紅蓮姫竜 ソレア》、能力登録、テキスト効果反映、裁定の仮設定、オールクリア。コンバットプレイでの使用可能です』
「とりあえずよし!いくよ、デワース!」
リゼリアの宣言と共にECコアが4つ充填され、手札が五枚補充される。
それを見計らったかのように、カエルは再び身体を丸めると二人目掛けて突っ込んでくる。
「リゼリア!お前のカードでなんとか出来ないのか!?」
「そう言われても……あっ![電撃戦術]を発動!これは対象二つに【迅速】を付与する!対象は私とひまる!」
カードをプレイしリゼリアがそう宣言すると、急に足取りが軽くなるのを感じたひまるがカエルの突進を回避する。リゼリアは彼女とは正反対の方へと避けていた。
「出た時に攻撃できる【迅速】を付与するカード、ガチの戦いだと素早く動ける効果に変わるって聞いたけどほんとみたいだね」
「憶測で発動したとか最高かよ、もし当てが外れてたらぶん殴ってたわ」
睨みの効いた目をリゼリアに向けながらひまるが皮肉を言う。そうしていると避けられたことで壁に激突したカエルが、のそのそと壁から這い出してひまるの方を向いた。
「ひまる!私がサポートするから攻撃して!」
「ってもウチの剣じゃあ、露出した関節とか狙わないと切れねえんだよ!」
それを聞いたリゼリアが再びカードをプレイする。
「ならこれ![燃やすなら芯火まで!]を発動!対象はひまる!」
対戦では対象に+2/+0の修正を加えるカード、コンバットプレイでは仲間を強化するそれをリゼリアがひまるに使用する。すると、ひまるの全身から赤いオーラが溢れ出す。
「あはっ、これいーじゃん!」
剣を握る手に一際力が入ることに歓喜しながら、ひまるが満面の笑みでカエルに突進する。
ダメージが大きいカエルは対応に遅れ、ひまるの斬撃をモロに受けると、金属で出来ているはずの外殻が大きく切り裂かれた。
「これなら時間を稼げる……!あとは……」
「ちょっと待てー!どういうことか説明しろって言ってんでしょうが!」
「あいた!?」
状況を有利に運び、ECが貯まるまでに次の一手を考えるリゼリア、そんな彼女の頭をカードから現れた竜の少女が叩く。どうやら仮の姿のようで二等身のちんまりした半透明の姿だったが、物理的接触はできるようでリゼリアが叩かれた頭を抑える。
「ちょ、ちょっと待ってって!説明するにも先ずはこいつやっつけないと話もできないって!だから協力して!」
そう言ってリゼリアがカエルを指差し、なんとか状況を理解してもらおうと説明する。
「ふんっ、あの程度の魔物なら、我一人でも十分だわ!」
竜の少女はカエルを一瞥すると、空中であぐらをかきながら腕を組んでそう自信満々に言ってみせる。
「その割にはさっき吹っ飛ばされてたじゃん」
「なっ!?う、うるさい!とにかくアレを倒したら説明してくれるのよね!?だったらこの体の拘束を解きなさいよ!」
二人がいざこざを起こしている間も、ひまるはカエルの後ろ脚を破壊してなんとか足止めをしつつリゼリアの準備ができるまでの時間稼ぎをしている。
「おい!ふざけてる場合じゃねえだろうが!早くなんか出せよ!」
リゼリアのせいで気が散り一瞬の隙を見せてしまうひまる、それが仇となり不意に暴れ出したカエルの体当たりを受けてしまう。
「あっぐっ……う!?くっ……」
「ひまる!!」
そのまま彼女は弾き飛ばされて壁に激突してしまい、激痛から動けない彼女に再び丸くなったカエルが迫る。それを見て流石に焦ったリゼリアが自分の背後のECコアを見る、個数にして3個、まだマイスターカードに書かれたコストに届いていない。
「……っ!なら……!」
リゼリアは素早く突進するカエルとひまるの間に割り込み、カードをカエルに向かってプレイする。
「[ラッシュ]を発動!これはこの戦いで使ったスキルが多いほど威力の上がるカード!」
複数の赤い塊や刃がカエルに振りかかるが、それでもまだ止まる様子はない。
「ならば、[拳闘の波動]を発動!」
墓地にあるスキルの数がそのまま威力になるスキル、戦闘では[ラッシュ]とほぼ同じ効果な上、1コストで何もしなくても威力が担保されている[ラッシュ]の方がこの場合では強力なのだが、今の手札ではこれを使わざるをえなかったのだ。
しかし、スキルのヒットを少し左にずらすことで軌道を逸らし、カエルは右に曲がってそのまま壁に激突した。
「ばっ……!おい無茶すんな!てめぇは後ろでユニット出しとけばいいんだよ!」
「今のはこうしないとあんたを守れなかったの!それより今のでEC使い切っちゃった」
壁にめり込んだカエルが、すぐに抜け出し再び二人をロックオンする。
「このままじゃ……ん?このカード……ねえ、ひまる」
「なんだよ!」
「ECが三つ貯まるまで、時間で36秒耐えて、そしたら逆転できる」
「36秒!?お安いご用意だよ!じゃあさっさと引っ込んでな!」
リゼリアにそう返事をすると、ひまるはすぐにカエルに突進する。
「借りを作られたまま終わってたまるかよ……!」
ひまるはそう呟き、気合いの入った連撃を剥き出しの関節に浴びせる、流石に装甲で守られていない箇所には攻撃が通じるようで、カエルは体勢を崩して勢いが殺され動きが鈍る。
「あと24秒、私も加勢する!」
リゼリアは銃を取り出すと別の剥き出しの部位に銃撃を仕掛けるが、弾かれてばかりであまり効いているようにみえない。
「クソッ、これじゃ力不足か……」
「お前は自分のことに集中しろ!ウチがなんとかする!」
カエルの攻撃をいなしながらそう叫ぶひまる、しかし流石に疲れが出てきたのか、彼女の動きは攻撃を躱すのがやっとのようだった。
「あと12秒、もういい!逃げて!」
「はっ!ここで逃げたらあんたの借りを返せねえだろ、最後までやってやるよ!」
そう啖呵を切るひまるだったが、暴走して無茶苦茶な動きをするカエルの動きを読めず、ついに吹き飛ばされてしまう。
「EC三つ、来た![再燃焼]を発動!これはグロウゾーンから5つECゾーンに置く!バトルではグロウゾーンからカードをデッキに戻してECコアを生成する効果になる!」
ECコアが三つになった瞬間、リゼリアはスキル[再燃焼]をプレイした。
「おうそうか……良かったな、ウチはここまでだからあとがんばれよ……」
既に体力の限界だったのか、激突した壁に寄りかかったまま、ひまるがそう伝える。おそらくもう一歩も動けないのだろう。
そんな彼女にカエルは勢いのままに丸くなってひまるに突っ込んでいく、今度こそ避けられない状況にひまるは覚悟を決める。
「冗談じゃない!あんたの死体を担いで出るなんて嫌よ!重いし!だから……いくよ!」
リゼリアはすぐにマイスターゾーンのカードを取ると勢いよく場に叩きつける。
「来い!『紅蓮姫竜 ソレア』!!」
リゼリアのプレートから赤い閃光が走る、それはプレートを飛び出しひまるの方へと飛んで行った。
「ちっ、また潰されんのかよ……」
カエルが眼前まで迫り、潰される事に対して愚痴を呟くひまる。そしてもう潰されるという寸前、カエルと赤い閃光が交差し衝突した。
その閃光は見た目からは想像のつかない質量でカエルにぶつかりべゴォッ!という音を立ててカエルが吹き飛んだ。
「やれやれ、小難しいことはよくわかんないけど、傷もなくなったし意外と力出せるし、この体も悪くないわね!」
閃光は人型の形を作り徐々にその姿を変えていく。そして、そこから拳を突き出した竜の少女が現れた。拳の先からは煙が立ち、その一撃がカエルを吹き飛ばした事を表していた。
「さあ、ここからは我の番よ!」
この話を見て、「カードプレイヤーって専門職微妙じゃね?」思った方は正しいです。
理論上はなんでも出来る専門職ではありますが、主に「運の要素がある」「戦闘開始から立ち上がりまでが遅い」「戦闘メインなのに本人は基本丸腰」等々、さまざまな理由でストレンジフィールド内では人気の無い専門職です。
また、デッキを毎回シャッフルするのはカード一枚一枚にエーテルを循環させる為の動作であり、何故かどれほど制御しても乱数になってしまう為、運の要素が絡んでしまうという煩い設定があります。そのため積み込みとかも出来ません。
ちなみにシャッフルはこのストレンジフィールドの世界で唯一の人為的に起こせる完全な乱数です。




