18.逃れられぬ思い出
「あー、くっそぉまた手札事故って負けちまった」
男の悔しそうな声が落ち着いた室内に静かに響く、天井から吊るされたランプが暖かい光で照らす室内は木目調の美しい家具で統一されたバーで、客はバーカウンターに座る二人の男しかいなかった。
「お前は相変わらず変なデッキばかり使うな、そんなものばかり使ってるから勝てないんだ」
そんな二人組の客の片方で、リゼリアの保護者であるザビメロは、呆れながら場に展開された自分のカードをデッキに戻して切り直す。バーカウンターは落ち着いたレトロ調だが、カウンタートップには酒の他にもカードのパックなども飾られており、カウンターもホログラムパネルのゲームマットが出る仕組みになっているという、カードゲームを楽しむことを目的としたバーだということが窺える仕様となっていた。
「いいじゃねえか、俺はこういうデッキしか作れねぇんだよ」
「ふふ、相変わらず楽しそうね」
二人の他愛のないやり取りに割って入るように、カウンターの奥からウェーブがかった茶色混じりの黒髪を束ねた、泣きぼくろが大人の色香を出している店主らしき女性が出てきた。
「戻ったのか愛海奈、トマトジュースはあったか?」
「ちょうど入荷してたわ、ちょっと待ってね、今作るから」
「ああ頼む」
「しっかし、アル管の連中に呼ばれてたと思ったら、長ったらしい尋問に管理タグまでつけられてよぉ、やつらのミスでなんで俺たちが割り食わねえといけねえんだか」
「そう言うな、接触禁止カードが保管されている封印室に異常が見つかったんだ、それで原因が分からないとなれば奴らがピリつくのも無理はない」
「でもよぉ、だったらなんでこれからの警備に俺たちを使うんだよ。一度怪しんだやつ使うとかまともな判断じゃねえだろ、それにこれから一ヶ月は行動の監視が付いて交代で封印室の警備をしろとか、文句が出ねえ方がおかしいくらいだ」
「はい、ブラッディメアリーよ。平間くんも熱くならないの、ザビメロさんに言っても仕方ないじゃない」
「ありがとう、だが鷹典の言う通りだ。マルティーヌも行方不明の状況で、ランカー全員の負担になることを強いられたら文句が出るのが普通だ」
そう言って、ザビメロはコップの縁をスパイスで飾り付けられたブラッティメアリーに口をつける。
「お前ってさ、いつも思うけどほんとよくそんな変わったの飲めるよな」
「フッ、まあ変わり種なのは否定しない。だが実際にどんなものか試してみたら、お前自身もハマるかもしれんぞ?」
「まあな、そこは体験主義でいろんなカード使ってる俺からしたら否定できない部分だ」
「それより、ザビメロはその封印室の警備に入るつもりなの?」
愛海奈の突然の問いかけに、ザビメロの手が止まる。
「ん?何故そんなことを聞く?未知数の異変に対してある程度の戦力を整えたいと向こうが言ってくるんだ、行くしかないだろう」
「だって、聞いた話だと女の子の世話をしてるんでしょ?今コロニー中で話題になってるわ」
「あいつは優秀だからな伸び代を感じてアルカネラを教えてるんだ。もうすぐにでも俺を追い越していくはずだ」
「おい、ちゃんと聞いてたのか?姐さんが言いたいのはそんな娘がいるってのに、わけわかんねえことに時間使ってていいのかってことを聞いてんだ」
愛海奈の問いに頓珍漢な返答を返すザビメロに、平間が眉間の皺を深くしながらツッコミを入れる。
「仕方ないだろう、これもランカーの務めだ」
「……ザビメロ、ただでさえその子を自分の都合で振り回してるのなら、せめてそばにいるべきよ」
「自分の都合だけじゃないさ、あいつ自身アルカネラをやりたいと言い出したんだ」
「そういうことを言いたんじゃないの、もしその子を引き取ったのが姉さんのことを引きずってのことなら、もう過去に囚われないで欲しいの。貴方は、今回の事件もその子のこともほっとけなくて板挟みになっている、それが見ていてわかるの」
「……別にそんな事はない」
「素直じゃねえなー、京葉さんのような強気な女の子はほっとけない、でも禁止カードによる悲劇も繰り返したくない……不器用がすぎるぜ」
「…………」
「ザビメロ、私は何度も言ってるでしょ、あれはあなたのせいじゃないわ、だから自分を追い詰めないでって……やっぱりその子のそばにいるべきよ」
「…………」
愛海奈の言葉に何も返せず、ただ沈黙するザビメロ。
(俺は……リゼリアにあいつを重ねてこんなことをしているのか……?)
(だが……思い返せば確かにあいつの面影を感じる、未だに戻らないあいつの……)
そんな空気を変えるかの様に、ザビメロと平間の端末が鳴り出す。
「ん、なんだ?……もしもし」
「あ!ザビメロさんですか!?アルカネラ管理運営局の方から通達があったんです!すぐにランカーに連絡してくれって!」
「なに……?」
「私たちも詳しくは聞いてないんですけど、何やら腕の立つ解明者を数人連れてきてくれとも言ってました!」
「分かった、すぐに準備して向かう」
二人はほぼ同時に端末を耳から離し、渋い顔をしながら愛海奈を見た。
「もしかして緊急事態でも起きたの?」
「さあな、でも戦力持って来いなんて指示飛ばしてくるって事は、それなりのことを覚悟していく必要がありそうだ」
平間が肩をすくめながら席を立ち、すぐにどこかへと連絡をする。そんな彼を見習いザビメロもすぐに行動を開始した。
本日のカード紹介コーナー
赤 ブラッディメアリー 2
オブジェクト カクテル
このカードが出た時、一つを対象にする、それに3点のダメージを与える。
このカードを破棄:自分は3点のライフを回復する。
フレーバー:ウォッカとトマトジュースとレモンジュースを割って、スパイスや調味料で味を整えた冷製スープのようなカクテル。
カクテル言葉は「私の心は燃えている」、「断固として勝つ」。




