54・違う未来を
那智の騒動が終わった直後。
那智の祖母宅を出立し、アパートに戻る頃には日が西に傾いていた。
朝に出て、夕刻には戻るというハードスケジュールだったのでかなり疲れている。
今日はもうシャワーを浴びて早めに寝てしまいたい。
そう思いながら自分の部屋に戻ろうとすると、廊下に幼女が転がっていた。
座っていたとか、立っていたとかでなく転がっていた。布団に簀巻きにされた状態で。
幼女はこちらに気づくと、瞳を輝かせて芋虫のようにもごもごと動いて近づいてこようとした。
近所迷惑にならないようにか、ご丁寧に口に猿轡まで噛まされている。
今がまだ日のある時間であってよかった。でなければ真っ暗な中でずりずりとこちらへはいずってくる姿を見ることになっていただろう。
こんな怪しい幼女なんか私は知らない。
そう言いたかったが、その姿にとても見覚えのある気がして、思い当たった瞬間に額に手を当ててうめき声を上げた。
顔は可愛らしい異人顔。さらさらと流れる髪は絹糸のようだ。その瞳は丸くクリンとしていて、目元を縁取る長い睫毛がその愛らしさに輪をかけている。
銀色の髪とか、エメラルドの瞳とか……すごぉく記憶に当てがありすぎる。
夢幻の世界では神々しく見えた光はそれこそ鳴りを潜めているが、かもし出す雰囲気がそれ以外にはありえないと告げている。
神々しさの中にある間の抜けた感じ――、これはもしかしてもしかしなくても、
「……女神?」
呟くと嬉しそうにこくこくと頷かれた。
何でここにいるのかとか、どうしてこんな状況なのとか、色々と問いただしたいことが脳内に続々と浮かんでくる。
けれどカタンとどこかの扉が開く音がして、慌てて彼女を抱きかかえて部屋の鍵を開けた。
今にして思えば置き去りにしても良かったのにと思う。
いったん開けて入れてしまっては後の祭り。押し売りなどは玄関に入れたが最後、買い取るまで出て行かないものなのだ。
猿轡を外すと、「大変、大変、とにかく大変なんだよぅ!」と女神は堰を切ったように語り出した。
前愛梨の経歴から今の愛梨ができるまでを。どれだけの間違いを彼女が起こしたのかを。
より子という少女が非業の運命の中命を落としたことは同情に値する。
救いは確かに必要だったのだ。
だが、それとこれとは話が違うだろう。
「結局あなたが手を出さなければ良かったというだけの話じゃないの」
呆れすぎてため息を吐くのはこれで何度目になるだろうか。――思っていた以上に馬鹿だったのね、この女神様は。
まるで子供のすることだ。発想からしてそうだ。手段も、力があればなんでもして大丈夫なわけがないだろう。割を喰うのは目をつけられた人間たちなのだ。
しかも救いついでに、ゲーム風にしてアレンジしてみたと悪びれることなく言ってくる――呆れてものも言えなくなるとはこういうことか。
運命の分岐点をイベントと称して楽しく見ていたと聞いたときには、みんなを代表して頭にげんこつをお見舞いしておいた。
わかってた。わかっていたけど、改めて聞かされると苛立ちがハンパないのよっ!
「あげくの果てには神様に怒られて下界落ち……。気まぐれで空気の読めない女神だとは思っていたけれど、ここまで馬鹿だったなんて」
こんなのに自分の命を預けていると思うと情けなくて涙が出てくる。
「や、ちょっと待って。私の元の身体は無事なんでしょうね」
今の女神は力を完全に封印されている状態らしい。だとすれば、女神の力で延命している状況の元の身体は今どうなっているというのだろうか。
万一最悪のことになれば、この器に入っている魂が行き場をなくしてしまうという事態になりはしないか。
「大丈夫だと思うよ。兄様は私には扱い酷いけど、人間には同情的だから。私が関与した人間を放置なんてことはしないと思う」
「思う、思うって希望的観測でものを言われても望みなんてできないわよっ!」
慌てて身内を装って病院に電話を入れると、いつものように安らかに眠っていると返答がきた。
「……ええ。少し嫌な予感がしたもので。ご迷惑をおかけしました。はい、これからもよろしくお願いします」
危うく最悪の状況かと思って冷や汗を流したが、とりあえず元の身体のほうは無事でよかった。
「よかったわねぇ。とりあえず私の身体は無事みたいよ」
病院への電話を置いて下を見る。
「あ、愛梨……さん? そんな低い声も出せたんだね。心なしか顔つきも悪いよ」
睨み付ける女神がとびくりと肩を震わせた。――顔つきだって悪くもなるわよ。
色々な面で楽観視がすぎるのだ、この女神は。
見下ろした女神は未だ布団に簀巻きの状態だった。あれこれと話をする中で身振り手振りを示したいのか、ぐねぐねと身体を動かしていたためか汗をかいている。
怒涛の会話攻撃に隙がなかったのもあったが、どうも素直に解いてあげる気になれなかったのだ。
散々人の運命を捩れさせまくってきた女神だ。これくらいのことで文句を言ってくれるなと思う。
だが、簀巻きの状態の本人があまり困っていない様子なので、溜飲が下がったかと問われれば否と応えてしまうだろう。
どこか人とズレているのは女神だからこそか――。
神に人のことわりは理解できない。ふとそんな言葉が頭に浮かんだ。
「それで、大変というのは自分が下界落ちになったことだって言いたいんじゃないでしょうね」
「うん、それはもう仕方ないかなっていうか、一度来てみたかったから棚からぼた餅的というか」
「そう。貴女は観光気分ってことね。もうしばらくその状態でいなさい」
言うと、「えぇっ、何でぇ!?」と芋虫状態で寄ってこられた。
せっかくの可愛らしい外見なのに、動きがもうサーカスのピエロにしか見えない。
縄を解いたのは、それから数分に渡る「お願いだからぁ」という言葉の連発に耳が耐えられなくなった頃だった。
※ ※ ※
翌日は日曜日だったが、女神の来訪にゆっくりすることもできず、週明けの今日は授業が三限目に差し掛かる頃に登校することになった。
何故なら、あの女神様に人間界での最低限のイロハを叩き込んで、いや教え込んでいたためだ。
なにせトイレの使い方からしてわからないのだ。
「この駄女神っ!」
そう柄にもなく叫んだのは両手の数は超えていただろう。
「だって、天上では必要のないことだったんだもん」
見ていたから出来るというものでもないらしい。女神にとって人間の世界は所詮テレビ越しの異国のようなものなのだ。
さぁ暮らしてみろ、と言われて出来るものではないのだ。
お風呂に入れてもシャンプーとリンスの違いもわからない。温度調節で遊んで水を出してしまい悲鳴をあげていた。
テレビのリモコンのボタンの意味も当然知らない。電源ボタンを押すだけで指が震えていた。初めてのものに触れる子供のようだった。
自分がいない間に温かいものを食べられるようにレンジの使い方を教えたのは甘すぎる処置だったろうか。
冷たいご飯でも我慢して食べろと言いきることのできない自分を責めたい気分になる。
ある程度の使い方を覚えさせる頃には時間は深夜をとっくに過ぎて、空が明るくなり始めていた。
今頃は布団にくるまって深い眠りについていることだろう。
現在の女神の状態は人と大差ない状態らしい。
女神としての力は封じられ、遠くの場所で起こっている出来事を見ることも思念を飛ばしてメッセージを送ることもできなくなっているということだ。
出来ることといえば、これまでの記憶を語ることだけ……。
記憶媒体としての用途を抜きに考えると、居候として愛梨の世話になるしかない幼い子供なのだ――本当に駄女神ね。問題は山積みだというのに。
教室のある三階までの階段を上りつつ、はた迷惑な女神が告げた「大変」の内容に頭を押える。
――妨害、されているよ……か。
たゆたうことのない真っ直ぐな瞳でそれは告げられた。
これまでの那智の能動的行動から生まれた事象以外に、何らかの妨害をしている者があるらしい。
「妨害って、誰に?」
「わかんない。でも妨害は絶対にされてる」
女神の言葉によると、偶然などではありえないことが実際に生じているという。
これまでも何らかの干渉を受けているような感覚はあったらしい。だが本当にわずかなものだったので気に留めず放置していたという。
恭平の母親からの早期の接触に那智の祖母の件。
各人の気まぐれと言われればそれまでだが、人の辿る運命は何度繰り返そうとあまり大きな変化は訪れないはずなのだと女神は言った。
それも那智のようなイレギュラーならまだしも、影響の少ないと見える人々がいつもと明らかに異なる行動を取ったのだ。
「はっきりと原因を探ろうとしたら途端に靄に隠れて見えなくなるの」
それこそ神のみわざというべきものではないのか。
仮にも女神と名のつく者の目を欺くことができるとなると、それくらいしか思い浮かばない。
「うーん、そうだとは思うよ。でもね、実際に人の行動を変えるのって本当に難しいんだ。たとえ神であってもね。人の心をどうこうすることは無理なんだよ」
ではこの身体に染み付いている魅惑の力はどうだというのか。
この肉体が笑えば皆が見とれ、言葉を口にすれば皆がそれを真実だと惑わされるというのに。
「神の造った器は愛されるようにできているんだよ」
それでも魅惑は一時的な効果なのだという。
対象に与える印象を普通の人間より良くしているというくらいのものらしい。
相手がこちらを信用し好意を抱くようになるには、それなりの言葉と行動を伴わなければならないのだと女神は説明した。
「だからこの身体を見ても、置かれた状況がおかしすぎて愛梨は好意を抱かなかったでしょ?」
女神のその姿もまた神の造りだした器であるという。大抵の人間は可愛らしい見かけに無意識に愛情寄りの印象を覚えるらしい。
それにしても状況の異常さは理解していたのか。
されていることの恥ずかしさなどの感情はないのだろうと勝手に思っていたが、そうでもないらしい。
「だからね、直接干渉を与えることはできないんだよ。できることは少しだけ気分を変えたりすることとか、かな。えーっと、例えば……別れ道でどちらに行こうかとその人が悩んだとき、右へ行くか左へ行くかの助言、しかも本人にとっては思いつきくらいのもの、はできるけど、それ以上はできないの」
その人が明確に「右へ行く」という意志を持っていればそれに干渉することはできないということらしい。
これは以前、那智が体育倉庫に閉じ込められたときに委員長を校舎下に向かわせた状況に例をあげられる。
委員長は部活を終えたばかりで、明確に「家に帰る」という意志を持っていなかったために女神の干渉できる範囲にいたのだ。
何か用事があって「これをする」という意志があれば干渉は叶わなかったという。
「人の心だけはどうにもできない。耳元に囁きかけて恭平の母親から恭平に連絡を取らせるとか、そういうことは神様にだってできないんだよ」
それから思考は堂々巡りを始める。
現実に妨害を行えるとしたら誰なのか。
女神は「妨害」と明確に言葉にした。偶然ではないと。ならば当てはなくとも、そう捉えるべきなのだろう。
ならどうして妨害してくるのか。妨害してくることの利とは何か。
神なら女神にお灸を据えるためとも取れるが、それがこの世界に存在する人間なのだとしたら、何かしらの意図があってしかるべきだ。
――たとえばこの世界に存在する人が進んで妨害をしていると仮定して……多分、その人は妨害することを楽しんでいる。
はっきりとしたものではないが、そんな予感がしてならないと自分の奥底から訴えかけてくるものがある。
――そして多分、その人は私の好きな人たちのことが嫌いなんだ……。そう、嫌い……本当に、そう?
頭に浮かんだ「嫌い」という言葉に付随する感情に覚えがある気がして立ち竦む。
記憶の奥底からチリチリと焼け付いていくような感覚が広がっていく。
うぅん、この感情は嫌いなんて可愛らしいものなんかじゃない。
放逐された魂。新しい生。同じ時間への転生。叶えられた希望。お膳立ては十分に整っている。
彼らを害して喜ぶのは誰か? 那智が泣いて喜ぶのは?
焦げ付いた感情。今までただの記録の集合体としか捉えていなかったこの身体に残る過去たちに、激しい感情という色が伴っていく。
それが誰かなんて一人しか思い浮かばない。その人以外に誰がこんなことを望むというのだろうか。
女神が語った彼女との会話で出てきた「大嫌いだから」という言葉には、もっと深い意味がある――。
この身体が覚えている。
染み付くほどに心を蝕んでいた感情。これは怨嗟だ。
知りたいと願ったからか、次々と浮かんでくる負の感情が生々しく全身を巡っていく。
抜け出しがたいループ。与えられる愛と言う甘い毒。相手を変えど繰り返す世界。積み重なっていく記憶。
渇ききった心に比して与えられたものは甘すぎたのだ。彼女は変質してしまった。砂糖を溶かしきれずに濁って、正しい屈折率を失ってしまった水みたいに。
やがて広がっていく孤独。不安。怯え。必ずそこにいる真っ白なあの子……。
渦巻く、自分とは違う記憶の中にある黒い感情に胸を押える。
階段の踊り場にある鏡の中に映り込む自分の顔。
そこに触れるように手を置いた。冷たい表面。手の平の熱がじわじわと鏡に吸い込まれていくのがわかった。映る世界は暗く、灰色がかって見えた。
「そう……。妨害を行っていたのは貴女ね」
幸せな世界に浸っていられたのは何回くらい? そう多い数じゃなかったでしょうね。
私だってこれが一度目なのに、独りきりの時間になると以前のことを思い出して不安になるんだもの。
この世界はリアルだけど、貴女にとっては全然リアルなんかじゃなかったんだ。
嘘の世界で与えられる愛だと思うと、満足感なんて得られないよね。……少しでも手を抜いてしまえば、あの孤独な日々に戻ってしまいそうで、苦しかったんだね。
そんな中で大切にされるあの子のことが、貴女は憎かった……。
胸が苦しい。記憶の中にある真っ黒な感情に侵食されてしまいそうだ。
だってわかってしまうのだ。不安になる気持ちも恨んでしまいそうになる気持ちも。
種類は違えども、辛い日々を送ってきたことは同じだから。
幸せな時間を知って、かつて自分がいた時間を恨んだよね。何で自分だけって。私にも覚えがあるもの。
自分以上に時間を繰り返していた彼女は、最後には全部を呪って、もう何を恨んでいいのかわからなくなっていたのかもしれない。
それでもあの子から目を離さなかったのはおそらく――。
『せ・い・か・い』
一瞬、鏡の中の顔が歪んで唇がそう形を作って笑った。瞳は冷たく、澱んだ光を放っていた。
驚いて身を引くも、瞬きのうちにその表情が消え去る。映り込むのは再び今の自分の不安げなものになった。
消えた幻影に視線を強くする。自分の意志を明確に示すように。
「でもね、……私はあの子のこと大切にしたいの」
だってあの子は何度も泣いたのよ――。
兄に手を離されたときにあの子は泣いた。
暗闇に独り残されて、助けを求めても来ない人にあの子は泣いた。
ときには自分から手を離したこともあった。手を離そうと決めて、それでも呼んでしまう自分をあの子は弱いとなじった。
愛を与えられる見返りにあの子に冷たく当たった人もいた。
みんなに好かれる人たちに嫌われて、学園中から阻害されたこともあった。休み時間のたびにクラス中から冷たい言葉を吐きかけられたこともあった。
何度孤独に追いやられたことだろう。
立ち上がる気力を削がれ、地面に伏して、わずかに持ち上げようとした心すら踏みつけられた。
絶望に手首を切りつけ、校舎の屋上で空中に足を伸ばしかけたことは数え切れないほどだ。
それでも、あの子は光を見ていたのよ――。
拳を握りこんで鏡に打ち付ける。
痛みを知っているはずの貴女が何故、と問いかける。だが返ってくるものは何もなかった。
流れ込んでくる吐き気を覚えるほどの強い感情を伴った記憶。自分とは違う意識の毒に肩が震えた。
見つめる鏡の中には目を真っ赤に張らした少女の姿があった。
「貴女は、あの子を知るほどに……憎んでいったのね」
それ以上自分の顔を見ていられなくてまぶたを強く抑える。まるでかつての彼女がそうしてきたかのように。
――でもね、人は弱いままで成長しないわけじゃないのよ。
強く抑えると、まるで暗がりを落ちていくような感覚に陥る。
あぁ、きっとこの器に入っていた女の子は幸せを知るほどに絶望を覚えていったんだろう。そこに差す光を捉えることができなかったんだとそう感じた。
「愛梨ちゃん?」
聞こえた声に顔を上げると、まぶしい光に一瞬めまいを感じた。
それほどに強くまぶたを抑えていたのだとわかる。
これは突然の光に目がチカチカしただけだ……。
光の先にいる彼女は、心配そうにこちらを覗き込んでいた。そこに――記憶にあるような――泣いて甘える彼女の姿はなかった。
ねぇ、貴女。そう、この身体からいなくなった彼女に語りかける。
――私は貴女とは違う。私は、この光を愛しいと思うのよ……。
「大丈夫? やっぱり体調が悪いんじゃない? こんな時間に来るくらいだもん。家に帰ったほうがいいよ。そうだ、諒ちゃ、いや木村先生を呼んでくるからここに」
「いいの。お願い、少しだけこうしていて」
しゃがみこんでいた彼女の身体を引き寄せて抱きしめる。
伝えられない真実の変わりに、愛しさを伝えられるように。
しばし困惑していたように空をかいていた手は、しばらくしてからおずおずと背中に回された。
※ ※ ※
再びの時間の逆流の中で、傷付き疲れた那智の魂は悲鳴をあげていた。
――もう戻りたくない。戻るくらいなら消えてしまいたい。
それはできないと女神は言った。そこにあるべき魂がないことは世界を改変するに等しいことだから。
次は違う彼女を用意したから、今度こそ大丈夫だからと告げる女神に那智は訴えた。
誰かを変えても意味がない。自分が変わらなければならないのだと。
――できるならもっと前からやり直したい。あの日に返っても元の私のままでしょ……。
泣き虫で、誰かに助けてもらわないと一人で立つこともできなくて、愚図で甘えたがりの自分はもう嫌だと那智は叫んだ。
女神は悩んだ。
もしもっと以前に戻ってしまえば、今の彼女の性質が損なわれることになるかもしれないからだ。
運命の流れのまま義理の兄妹となっても、兄に好意を抱かず、最悪互いに憎み合ってしまうこともありうると。
それくらい人の感情は確かではないのだ。
――消えてしまえばいい。こんな弱い私なんか……。でもどんな私になったって、私は恭平お兄ちゃんのことを憎んだりしない。たとえ次の時間で恭平お兄ちゃんに嫌われてしまったとしても、私は……。
※ ※ ※
結局女神は桂木兄妹の出会いの場面まで時間を戻した。
宣言通り、那智は強くなって懸命に今を生きている。
それは那智が望んで得た光だ。
那智の変化は女神も意図しなかったこの世界のイレギュラーだ。それはこの世界の彼らを善い方向に導いている。
ならば助けよう。最悪に変わってしまった彼女から変わり得た彼女を。
どれだけ目にまぶしく映ろうとも、この強く変わることのできた女の子のことを自分はどうしたって憎むことはできないのだから。
――だから……私は、貴女とは違う未来を望むよ。
理解はしても同意はしない。
得た状況は同じでも、得られた感情は違った二人。




