三日目の夕食
最後に、二人は管理棟へ向かった。
衛星電話の破壊状況を確認する。
デスクの上に、壊れた衛星電話が置かれていた。
白石が手に取る。
ケースは粉々に砕かれ、内部の基板も破壊されている。
「やはり徹底的に壊されています」氷室が呟く。「修理は不可能ですね。基板を一から作らないと……」
白石が記録する。
「犯人は、私たちを完全に孤立させるつもりだった」氷室が静かに言う。
白石は注意深く周囲を調べる。「残念ですけど、指紋も何も見当たりません」
「はい、なんの痕跡もない……相当入念に実行したようですね」
二人は正午までに全ての証拠を記録し、リビングへ戻る準備をした。
* * *
正午。全員がリビングに集合した。
皆、お腹が空いているが、一日二食のため、昼食はない。
神崎が中央に立ち、各チームの報告を受ける。
「まず、食料管理チームから。森川さん、報告を」
森川が立ち上がる。
「在庫確認が完了しました。米五キロ、パスタ五キロ、缶詰四十個、レトルト三十二個です。配給計画を立てました。一日二食、最小限のカロリーで……」森川が説明を終える。
「おいおい、かなりギリギリの量だな」桑原が唸る。
「これだけ切り詰めて十日分です。これ以上は限界かと」
全員が沈黙。重苦しい空気が、その場に降りた。
神崎が深く息を吐く。「次に、捜索チーム。これは私も同行した。東側を捜索したが、残念ながら何も見つからなかった」
桑原が補足する。「痕跡も、隠れ場所も、不審な物も。何ひとつなかったな。犯人は間違いなく東側にはいねえ」
氷室と若月が唾を呑み込む。白石が不安な表情を浮かべる。
「午後に北側を回る予定です」赤沢が続ける。「西側は範囲が広いので、明日になるかと」
「南側はどうですか?」白石が心配そうに尋ねる。
「南側は吊り橋があった場所だ」桑原が説明する。「崖沿いで、人が隠れるような場所はねえと思うぜ」
森川が同意する。「はい。南側は身を潜められるような地形ではありません」
神崎が頷く。「では、最後に証拠収集チーム。白石さん、報告を」
白石が手帳を開く。
「吊り橋も食料庫も、時限式の仕掛けです。橋にはワイヤーを切断する装置、食料庫には着火装置。どちらも事前に据え付けられ、私たちが夕食を取っている時間に作動しました。つまり犯人は、この施設に我々が到着する前に来ていた」
氷室が頷く。「特に吊り橋の装置は大がかりでした。あれを谷の上で組み上げるとなると、私たちが到着してからでは時間も足りません」
神崎は森川を見て聞く。「橋の点検は三日前と聞きましたが、その後で、犯人がこの敷地に忍び込んで細工をした可能性は考えられますか?」
森川は頷く。「はい、私もそうとしか思えません。そんな大がかりな装置を橋に据え付けるとなれば、事前に来ない限り不可能です」
神崎は考えて言う。「そうなると、外部犯はこのグリーンライフサミットの話を聞きつけた後、我々が到着する前日あたりに一足先にこのエリアに入り事前準備をした」神崎は犯人と言わずに、敢えて外部犯と言う。犯人という言葉を使うと、内部犯の可能性も含んでいるので避けている。
森川も呼応する。「はい。そして、その外部犯は森の中にいる可能性もあると思います。私たちが到着したときには既に森に籠っていた」
神崎は続ける。「そこまで用意周到な外部犯だ。きっと万全の装備をして山に籠っているであろう。油断はできないな」
桑原が大きく頷く。「おーし、午後も徹底的に森を捜索すっぞ。隅から隅までな」
「それと、一つ報告があります」氷室が言う。「トリカブトが生えているのを見ました。管理棟の裏手です。間違って食べることはないかと思いますが、念のためお伝えしておきます」
「トリカブト? そんなものが? 本当ですか?」森川が驚く。
「はい、間違いないと思います。こちらです」白石が採ってきたトリカブトを見せる。
「確かに……。あの映画に出てきたトリカブトとそっくりですわね……」赤沢が言う。周りも頷く。
「間違いなくトリカブトです。ですが、こんなものはこの山にはなかったはず……」森川が驚いて言葉を失う。
神崎が冷静に言う。「これは驚きですね。ただ食べなければ大丈夫。間違っても口にしないようにしよう。氷室さん、白石さん、報告どうもありがとう」
「しかし、食料不足は困ったな。間違ってトリカブトでも食べてしまいそうだぜ」桑原は投げやりに言う。誰も笑わない。
森川が前のめりに言う。「私も午後は捜索班に合流します。食料のチェックは終わりました。犯人捜索と合わせて食べられそうな山菜などがないか探してみます」
「そいつは助かるな。山菜が取れたらデカすぎるぜ」桑原は気を取り直して言う。
若月も手を挙げる。「私も捜索します。山菜には多少の知識があります。お役に立てるかと」
続けて、氷室と白石も頷く。食料問題は深刻であり、皆、危機感を持っている。
神崎は頷く。「みんな、ありがとう。それでは午後は全員で捜索するようにしよう。ただ私は山荘に残って、整理してくれた食料や証拠品の確認、また他に通信手段がないか念のため調べてみたい。あと今後の行動計画を検討したい」
赤沢が頷く。「承知いたしましたわ、神崎さん。いつもと同じですわね。私たちで外回りをいたしますので、神崎さんは戦略を練っていただければ」
神崎は静かに微笑んだ。
* * *
そうして午後の捜索が開始された。
外部犯に備えて、七人はひとまとまりで行動し、北側の捜索を始めていた。七つのレインコートが固まって森の中を動いている。
「神崎さんを一人にして大丈夫ですか?」若月がふと聞く。
桑原は問題ないと手を振る。「大丈夫だ。見ての通り、神崎さんは筋肉質。寝込みや油断したところを襲われなければ、相手の方がやられると思うぜ。それに山荘は外を見張りやすく、セキュリティもしっかりしている。山荘の中にいれば神崎さんなら問題ねえ」
「しかし、食べられそうなものは、本当に何もございませんわね……」赤沢が声を落として言う。午前中からの疲労が取れていないようだ。
「まだ始まったばかりです。それに犯人が潜んでいる。気を抜かずに行きましょう」黒木の声には気合が入っている。
そうして午後、七人は北側を全て捜索した。
しかし、犯人も食料も見つけられなかった。山荘に戻って神崎と合流し、わずかな夕食を取った。明日の行動計画は、全員での西側の捜索に決まった。そして、早々に就寝した。
夜の見張りは神崎と森川と若月が担当した。神崎は二日連続だったが、午後は山荘にいた分、体力は回復していた。
翌日、西側を八人で徹底的に捜索。
結果、犯人は見つからず、また、得られた食料もごくわずかであった。
八人の疲労はピークに達していた。
そして三日目の夕食の時間を迎えた。




