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計画通りに

* * *


 全員で戸締りの確認を終えて、五人はそれぞれの部屋へと散っていった。

 リビングには、神崎、黒木、氷室の三人が残った。

 三人は外の様子がよく見えるように、リビングの明かりは最小限にした。ガラス張りなので見晴らしはよい。誰かが建物に来れば、すぐに分かるであろう。三人は暗闇の中にいる。室内の音はほとんどしない。

 吹き荒れる風の音、窓に打ちつける雨の音、木が揺れる音、そしてその合間を縫って時折聞こえる虫の鳴き声。それらの外の音が、不気味にリビングの中にこだまする。

 やがて、暖炉で燃えている薪がバチッと音を立てた。それが合図であるかのように神崎が話し始めた。

「さっきは突然二人を指名して悪かったな。でも付き合ってくれてありがとう。感謝する」

「いえ、私もどうせ寝られないなと思っていたので、ちょうどよかったです」氷室が顔を上げて答える。

 黒木は俯いたまま話す。「いえいえ……しかし、本当に大変な状況になりましたね」

 神崎は答える。「ああ、まさかグリーンライフサミットがこんな状況になるとはな。でも大丈夫だ、必ず生き残れる。皆で意識を強く保ち、支え合いながら、乗り越えていこう」

 氷室は前を見たまま頷く。

 黒木が拳を握りしめる。「ったく……許せない。橋を落とし、食料を燃やし、電話を壊した。我々を殺そうとしているのだ。こんなこと……絶対に許せん」その声には、抑えきれない怒りが滲んでいた。

「気持ちは分かる」神崎が静かに言う。「だが、感情に流されてはいけない。今は冷静に行動することが最も重要だ。犯人を見つけ出すためにも、まずは全員で団結しなければならない」

 氷室が神崎を見る。「神崎さんのおっしゃる通りですね。先ほどは皆がパニックになりそうな中、まとめてくださりありがとうございました」

「いやいや、氷室さんにも助けられた。あの呼吸のおかげでみんな落ち着けた。ありがとう」

 少しの沈黙の後、神崎が口を開く。「私は明日皆に一つ提案をしたいと思う」

「提案とは何ですか?」黒木が聞く。

「決して犯人探しをしないことだ」神崎は強く言う。

「内部に犯人がいるかもしれない。そう思った瞬間に疑心暗鬼の連鎖が生まれ、我々の行動はバラバラになる。それだけは絶対に避けねばならない」

 氷室は同意する。「その通りですね。外部犯の可能性もありますし。仮に内部に犯人がいるとしても、犯行に及びやすい状況を作るべきではありません」

「そうだ。我々が団結して、組織的な行動を続けていれば、たとえ内部犯がいたとしても手出しはできない。犯人は何もできないまま日数が経つであろう。そしてやがて犯人の試みは失敗に終わる」

 神崎は続ける。「ある意味、我々のチームワークが試されている。犯人をあぶり出すためにも、強固な結束をもって、一致団結すべきだ」神崎は言い切る。

 そして、しばらく沈黙が三人の間で流れる。

「しかし、こんなことになったのも……神崎さん、全てあなたに原因があると言えませんか?」黒木が突然、神崎に詰め寄る。

「何を言ってるんだ、黒木?」

「あなたのリーダーシップのもとで、今回のファンドが立ち上がり、そしてあなたの提案でこの山籠もりが始まった。そして何より、そもそもこのファンドの目的は……」

「黒木、よせ。仲間割れこそが犯人の狙いだ。今は力を合わせて生き残ることに全力を注ぐべきだ」神崎が制する。

「しかし、こればかりは……その前だって……」黒木の声が荒くなり始める。

「神崎さんの言う通りです」氷室が遮る。「今はみんなで力を合わせて……冷静に行動を……」

 そこまで言いかけて、氷室の声が震えた。

「氷室さん?」神崎が心配そうに尋ねる。

 氷室は俯き、両手で顔を覆った。肩が小さく震えている。

「すみません……私……」涙が溢れてきた。堪えようとしても、止まらない。「ごめんなさい……冷静にって……分かっているのに……でも……」

 黒木が驚いて氷室を見つめる。

 神崎は静かに立ち上がり、氷室の隣に座った。

「泣いていいんだ」神崎が優しく言う。「誰だって怖い。無理に強がる必要はない」

 氷室は顔を覆ったまま、静かに泣き続けた。

 黒木も声を落とす。「……すみません、氷室さん。私が取り乱してしまったせいで……」

「いえ……違うんです」氷室が涙声で言う。「ただ……ずっと不安だったから……我慢できなくて……」

 暖炉の炎が、三人を静かに照らしている。

 神崎が深く息を吐く。「無理もない、こんな状況だ。でも、こうして皆でいる。お互いを支え合える。それだけでも、希望はある」

 氷室がゆっくりと顔を上げ、涙を拭った。

「……ありがとうございます。少し……落ち着きました」

 黒木も頷く。「よかったです。しかし、犯人は絶対に許せない。負けてなどいられません」

 三人は暖炉の炎を見つめた。炎はゆっくりと静かに揺らめいていた。


── 幕間 一 ──


 やったー、順調、順調。


 橋は落ち、食料は燃え、電話は壊れた。

 赤いスプレーの文字、ちょっと読みにくかったかな、まあいいか。


 これでもう死んじゃうね。

 ここから動き出すよ、計画通りに。

 ふふふ、楽しみ。

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