まとめるとね
「それと、殺されるかもしれない、という恐怖。あなた、誰かに真剣に『殺すぞ』と言われたことある? そのとき人間には、恐怖心のほかに、闘争心も芽生えるのよ。相手を殺してやるってね。正当防衛、という言葉があるでしょう。自分が殺されるかもしれないとき、相手を殺しても、大きな罪には問われない。人間の本能として当然の反応だし、社会的にも認められている。殺されるくらいなら殺してやる。神崎はそうすぐに思っていたけど、自然なことなのよ。そして誰もが殺しへの抵抗感が小さくなっていたわ」
「確かに、そうなる気持ちも、分からなくはないな」
健は煙を吐く。
「そして最後に、殺人の事前知識を与えることよ」
「事前知識、というと毒物か?」
「そうね。これは単純で簡単。ミステリー小説や、サスペンスの映画をおすすめとして紹介して、毒物を扱うシーンを繰り返し見せればいい。自然と、知識と扱い方が身につく。あとは、用意しておいた本物のトリカブトを皆に見せてあげれば十分。みんな驚いていたけど、内心では、チャンスだと思っていたはずよ」
「……毒殺なら、誰でも簡単に相手を殺せるということか」
「例外は黒木。彼は元医学部で、人体に刃物を入れることに慣れている。だから、アイスピックは目立つところに置いておいたわ」
「なるほどな」
「まとめるとね。まず、狂った人間を集めて、密室に閉じ込めます。次に、飢餓状態にさせます。さらに、殺される恐怖を突きつけます。最後に、殺しの知識と道具を与えます。──そうすれば殺し合うのよ」
氷室は、まるで実験が成功したかのように、半分楽しげに解説した。




