二人暮らし
二人は、また話し始める。
「お母さんと、二人暮らしなんだな」
「そうよ。父が自殺したから」
「何も知らなそうだな」
「父が死んでからは、ずっとあんな感じよ」
「あなたが今、生きている理由が分かった気がする」
「……それで──なぜこのドミノ殺人が上手く行くという確信を持てたのか、だったわね」
健は、氷室の目を見て強く頷く。
氷室は軽く頷き返して、話し始めた。
「まず前提として、みんな狂っている、ということよ」
「狂っている?」
「そう。五人とも詐欺集団。人から喜んで金をだまし取るような連中よ。表面だけ見れば、グリーンライフファンドは選ばれたエリート集団かもしれない。でも、その仮面の下は、他人を何とも思っていない、狂った醜い人間の集まりでしかない」
「確かに、詐欺集団だからな。まともな人間ではない」
「普通の人間が常識として持っている倫理観が、ないの。困っている人を助けないし、相手を騙して泣かせても、涼しい顔ができる。いえ──できる、というより、それが素の顔なの。相手から奪って当然、という心理。それをベースに、それぞれが、自信、正義、狂愛、拝金、傍観、そういう尖った面を持っている。この五人の利害が絶妙なバランスで釣り合っていたのが、あのファンドよ。もともと、興味のない他人の価値なんて高くない。ある日突然いなくなっても、死んでも、何とも思わない。むしろ、殺したいと思っていたりもする。そういう人間の寄せ集めでしかないの」
「自分たちの倫理観の延長で考えてはいけない、ということか。確かに、兄もそういう面はあったのかもしれない」
氷室は、平然と続ける。
「次に、極限状態を作り出したということ」
「極限状態?」
「飢えて死ぬかもしれない、そして、殺されるかもしれない。その二つの恐怖を与えたことよ」
「飢えと殺人、二つ同時に、か……」
「飢えは人を獣にする、って聞いたことある? 遭難して食べ物がないとき、常識では考えられない行動をする。そういう凄惨な話、聞いたことあるでしょう。一日目は耐えられるかもしれない。でも二日、三日と事態が好転せずに、食料が減っていったら? 助けは来ない。食料は無くなる。そうなれば、まともな人間でも、『相手が死んでくれれば自分の食料が増える』と考えてしまうものよ。そう思える量に、調整したわ。八人で一週間分程度。少なすぎず、多すぎず、じわじわと苦しむようにね」
「まったく、恐ろしいな」健は、少し唖然とする。




