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缶の水

「それもこれも──父親のかたき、ということか」

「──調査済みね。そうよ。私の父は、サンライズファンドに全てを奪われて、自ら死んだ。私は、初めから皆を殺すために、このファンドに潜り込んだ。わざわざ投資家とのコネクションも作ってね。あいつらは、バカみたいに歓迎してくれたわ。私を虚栄心に満ちた女だと信じて」

「それで三年間、計画のために準備をしていたと」

「七年間ね。コンサルに転職できるまで、そして神崎に近づける実績とコネクションを作るのに、まず四年。そして神崎に雇われてから三年。ずっと準備をしていた。長かったなぁ。一人ずつ死んでも警戒されるから、まとめて皆殺しにできる機会を、ずっとあいつらのそばで待っていたの」

「なぜ、自分で殺さなかった?」

「単純。下等生物に、私がわざわざ手を下す必要がある? 醜く殺し合って欲しかったの。──そうなったけど」

 健は眉を寄せた。「若月さんと森川さんは、あんたの言う下等生物じゃない。ただ巻き込まれただけだ。橋を落として、食料を焼いて──二人まで死ぬかもしれなかった」

「死なないわ」氷室は即答した。「食料は燃やす量まで計算していたし、最後には山を焼くという手が残っていた。あの二人は対象じゃない。だから殺し合いの外に置くように、ずっと運んでいたの。なるべくあの五人と絡まないように。隔離を後押ししたのも、その一つね」


 西日が眩しく部屋の中に差し込んできた。

 健は煙草を取り出し、火を付けた。

 この場には、氷室と健しかいない。

「全部、あなたが仕組んだのか?」

「そうよ」

「橋を落としたのも、食料を焼いたのも、皆殺しとスプレーで書いたのも、通信機器を壊したのも、トリカブトを植えたのも」

「そう」

「前日に、山荘に行ったのか?」

「そう、夜のパーティーには間に合うようにね。機械は全て設置。食料は燃えすぎないように少し離れた場所に置いたわ」

「監視カメラは?」

「さすがに山荘には入れなかったから、当日着いてから設置したわ。皆、二階に行って荷解きなどをしている最中にね」

「何のために?」

「人数が少なくなって、皆が互いを警戒し始めたとき、犯人は内部ではなく外部にいると信じ込ませるためよ。あの『皆殺しにしてやる』のメッセージ──あれを書いた本当の目的は、恐怖心を煽ることではなく、犯人は単独犯と思わせること。単独犯だと信じていれば、ドミノ殺人では自然と全員にアリバイが成立して、犯人は外部犯になるでしょう。そして仲間内の警戒が緩む。保険のつもりだったけど、結果、赤沢はそれで殺されたから、大成功だったわ。嬉しかったなあ」

 健は煙草を缶の中に放り込む。中の水に当たり、ジュっと火が消える音がする。

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