目を閉じて
「……毒が入ってると、最初から知っていたのか?」
「もちろん。神崎なら、あの『皆殺しにしてやる』のメッセージを見たら、私か桑原を疑うと思ったわ。私に対しては出方を窺うかもしれないけど、そこまで慎重ではない桑原なら、すぐにでも殺しにいく可能性がある。なるべく、誰が殺したかは分からない方法でね。案の定、神崎がトリカブトの存在を知って一人で山荘に残った日、戻って葉巻を確認したら、開けた形跡があったわ。だから桑原には忠告していたの。『いつ誰が毒を仕込むか分からないから、気をつけましょう』って」
「兄が生きていたほうが、都合がよかったのか」
「でないと、赤沢を殺す人がいなくなっちゃう。自殺しようと勝手だけど、赤沢を殺してからにしてほしかったわ。どうせ抜け殻のような人生だから、別に自殺しなくてもよかったけど──やっぱり死んだよね。もともと癌で、もう半分諦めていたようだけど」
健は、勢いよく煙を吐いた。
「兄は、なんで赤沢が白石を殺したと信じた? 外部犯の可能性もあったんだろう?」
「赤沢はマヌケよね。白石が水を飲んで毒殺されたのに、自分は平然とコーヒーを飲んだ。自分のコップは安全だと分かっているのは、犯人だからに決まっているでしょう。そう言ったら、お兄さんも納得していたわよ。神崎の部屋の荒らし方も下手で、かえって内部犯の仕業と疑われていたわ。……そういえば、赤沢が犯人だと信じ込ませるために、念のためカロリーメイトも買っておいたんだけど、使わずに済んだわ。白石はいつもカロリーメイトを持ち歩いているから、赤沢の荷物に忍ばせれば、赤沢が白石を殺したと疑わせられると思ったのだけどね」
健は、しばらく目を閉じた。そして目を開けて、言った。
「白石は? なんで黒木が犯人だと信じた?」
「白石は、黒木から聞き出したのよ。私が彼女に吹き込んだの。アイスピックで人を一突きにできるのは、医学部出身の彼だけ。怪しいから、夜、部屋に行って聞いてみたら。神崎さんの死の真実を、知りたいでしょう、って。神崎を嫌いになったフリをして、『殺してくれてありがとう』って言えばいい、とも教えたわ。そうすれば女好きな黒木なら、鼻の下を伸ばして認めるはずだからね」
「神崎を黒木が、黒木を白石が、白石を赤沢が、赤沢を兄が殺す。そして時間差で一周回って、兄を神崎が殺す。この五つのドミノは全て計画通りだったと」
「その通りよ。五つ目は、おまけだけどね」




