同じ方向を向いた
キーを叩く音。
映像が、再生される。
画面に映し出された日付を見た瞬間──誰もが目を見開いた。
日付は──全員が到着した、あの最初の日から始まっていた。
「誰が、何のために──」若月が呟く。
五人は無言で画面を見つめた。
カメラには、ソファ、暖炉前、テーブル、玄関方向の廊下──リビングの全てが、鮮明に記録されていた。
映像は一日目の夜九時。衛星電話が壊されたのを全員で見て戻ってきた頃から始まっていた。八人全員がくっきり映っている。
「マジかよ」桑原が言う。「これで犯人が分かるかもな」
「ええ、皆できちんと見ましょう」赤沢が言う。
一日目の夜中──
神崎、黒木、氷室の三人がリビングに座っている。神崎が静かに語り、氷室が頷き、黒木が顔を上げる。その動作の一つ一つが、ひどくリアルに見えた。
神崎も黒木もまだ生きているのが不思議な感じがした。
「よーし、早送りしながら、どんどん見ようぜ」桑原が言った。声が少し、かすれていた。
全員が、迷わず頷いた。
二日目の午後──
皆で捜索に出掛けている中で、神崎だけが山荘にいた時間帯。誰も映っていない。神崎もリビングにはいなかったようだ。
二日目の夜中──
神崎、森川、若月の三人がリビングで過ごしている。若月がくすくす笑う声が、ノートパソコンの小さなスピーカーから聞こえた。何の話をしていたのか、もう思い出せない。ただ笑っていた。この頃はまだ誰も死んでいなかった。
三日目の日中──
全員で外で捜索をしていた日。午後三時に人影が映る。赤沢と森川だ。赤沢がソファで少し横になった後で、森川が離れる。
「この日は体調が悪くなった赤沢さんを連れて先に山荘に戻っていましたね。そしてその後で念のため異常がないか、三階までチェックしてました」森川が説明する。
その五分後に赤沢がリビングを離れる。
「ちょっと吐き気がして、外に出たのよ。その後、皆さんご存知の通り部屋に戻ったわ」赤沢が説明する。それ以降、何も不審なものは映らなかった。
三日目の夜中、神崎が殺された夜──
リビングに残る赤沢、桑原、白石の三人が映っていた。
全員の体が前に傾いた。
三人はリビングに座り続けている。赤沢と桑原が外を見張っており、白石が手帳を広げて読み返している──
しばらくして、白石がリビングを出た。
全員が息を止めた。
しかし──二分で戻ってきた。
「二分で犯行は無理だな」桑原が言った。声に安堵が混じっていた。
映像は続く。
白石がソファで眠り込む。首が傾き、手から手帳が落ちる。そのまま──四時間以上、画面の中で動かない。桑原はずっと座っていた。赤沢も眠ったが、リビングから出ることは一度もなかった。
夜に見張りを開始してから、朝になるまで、映像の中の三人は、静かに、ただそこにいた。そして、森川の叫び声を受けて初めて、三人は二階に向かった。
神崎が喫煙所で殺された夜、ずっと三人はリビングにいたことをカメラは映していた。
「──桑原さんが言った通りですね」氷室が静かに言った。
「三人とも、無実が証明されましたわね」赤沢が息をついた。
桑原がため息をつきながら言う。「残念ながらリビングしか映ってねえから、犯人が誰かは分からねえな。とはいえ、無実が証明されてよかったぜ。次の夜は、はっきり覚えてる。俺も氷室も一歩もリビングを離れてねえから見てみてくれ」
四日目の日中。この日は皆で山荘にいた日。怪しいものは何も映っていない。そして、黒木が殺された夜、四日目の夜中が再生された──
桑原と氷室が将棋盤を前に座っている。画面の右下に刻まれた時刻は、深夜の二時を過ぎている。駒が動くたびに、二人の手だけが小さく映像の中で揺れた。
氷室が何か言う。桑原が頷く。また駒が動く。
二人がリビングを長く離れることは一度もなかった。トイレに立つことはあっても、二階へ向かう姿は、どこにもない。
夜明けまで──ずっと。
「──これで私たちも無実ですね」
氷室が小さく言った。
「このカメラはデジタル加工もできません」森川がカメラを見て言う。「SDカードへの連続記録でございます。フェイク動画ではありません。タイムスタンプも連続しており、カットや差し替えがあれば必ず痕跡が残ります。しかし、なんの痕跡もない。この映像は偽りのない真実でございます」
赤沢が宣言するように言った。
「完璧な観察者ですね。この観察者によって我々全員の無実が証明された」
その言葉が、部屋に響いた。
張り詰めていた何かが、薄れ、そして消えていく。
緊張してこわばっていた五人の表情が一斉に緩んだ。
「外部犯だ」桑原が普段より一際大きい声で言った。「他に説明がつかねえ」
「ええ。神崎さんの部屋の窓──外部からの侵入痕──全て繋がります」そう言って赤沢が頷く。いつもより声がワントーン高い。「この山荘に来る前から、誰かが準備していたのだわ。私たちの誰でもない、外の誰かが」
氷室が頷きながら言う。「思えば黒木さんも白石さんも、犯人がキッチンに忍び込んで、無差別に毒を仕込んだのかもしれませんね。そうとは知らずに、二人とも部屋にコップを持っていってしまった。しかも黒木さんは鍵をかけ忘れていた」
「この監視カメラも、その犯人が仕掛けたものに間違いないですね」森川が力強く言った。「私たちを監視するために。残念ながらワイヤレス接続はできず、監視カメラの役割は果たせませんでしたが」
「そして三人が死んだ」若月が小さく言った。「全部、その誰かが──」言葉が続かなかった。
赤沢が立ち上がって言った。ゆっくりと、しかし迷いなく。
「これで、すっきりした」
皮肉に聞こえるかもしれない言葉だった。しかし赤沢の声に揺らぎはなかった。「あとは五人で、外部犯から身を守りながら生き延びることを考えましょう。その一点だけを」
「食料計画を見直しましょう」森川が言った。「五人分で再計算すれば、もう少し余裕が出るはずです。また先ほど見つけた白石さんが持っていたカロリーメイトもあります。今日は六日目です。ペースを守れば、あと十日間以上、耐えられるかもしれません」
「十日間以上か。それなら助けは絶対に間に合いそうだな」桑原がガッツポーズをする。
「早速、食料計画を皆で見直しましょう。あと外部からの侵入を防げるように、守りをもっと固めましょう」赤沢が皆に言う。
テーブルに食料リストと山荘の見取り図が広げられた。五人がその周りに集まり、頭を寄せ合う。
犯人の探り合いはもうしなくていい。犯人と勘違いされるのではないかと、もう怯えなくてもいい。
生き残るために何をすればいいか、純粋にそれだけのための話し合いが始まる。
疑いが晴れたことで、空気が軽くなっていた。怖いことには変わりない。見えない脅威はまだ、この敷地のどこかにいるかもしれない。しかし──隣にいる人間は仲間だ。それだけで、呼吸が楽になったようだった。
五人がふと窓の外を見た。
雨がまた降り始めている。物静かな森が変わらずに佇んでいる。
外部犯という見えない敵はまだそこにいる。しかし五人は今初めて、同じ方向を向いた。
そんな気がした。
* * *
「まず、入口を全部確認しましょう」赤沢が言った。「窓、玄関、裏口──外部から入れる場所を全て把握する」
二階の窓は全て点検した。既に割れていた神崎の部屋の窓には、森川が厚手の板を備品倉庫から持ってきて、釘で打ち付けた。ただそれでも少し心許ない。
「そもそも二階全体を封鎖しませんか?」若月が言う。
赤沢が同意する。「確かにその方がよろしいですわね。個室の窓も破られる可能性があるなら、安心して眠れません。寝具も全て一階に持っていって、一階だけで共同生活するようにしましょう」
「賛成です。一階の階段の入り口を閉鎖すれば大丈夫そうですね」氷室が頷く。
それから五人で階段を閉鎖した。幸いにも玄関にある本棚が階段の入り口を密閉するのにちょうど良い大きさだった。その本棚を移動させたあとで、熊の剥製を重ねるように置き、さらに角材で補強し、大きな釘で周囲を打ち付ける。
作業後、五人とも肩で息をして、しばらく動けずにいた。ろくに食べていない体には、重労働だった。
「これなら誰も二階から入ってこれねえな。無理やり開けようにも時間もかかるし、音もする」息を大きく切らしながら、桑原が満足げに言う。
「裏口、鍵はかかります。でも──ちょっと不安な気がして」若月がそう言い、森川が確かめる。確かに施錠はしっかりとされていた。しかし古い木製のドアで、外から思い切り力をかければ、鍵ごと外れる可能性もある。
「ここも、もう封鎖いたしましょう」森川が言った。
近くにあった重い食器棚を全員で引きずってきて、ドアの前に押し当てた。さらに角材をドアの取っ手と床の間につっかえ棒として斜めに固定した。
「これで蹴っても押しても、まず開かねえぜ」桑原が体重をかけて確かめる。びくともしなかった。
次に、夜間の見張り体制を確認した。
「引き続き二人一組で、必ず二人が起きている状態にします」赤沢がホワイトボードに書き込みながら言う。「一人になる時間を作らない。トイレも声をかけてから行く」
「完全に一人にならない、ということですね」氷室が確認する。
「そうです」
五人でリビングのソファや椅子を壁際に寄せ、中央に毛布を敷いた。全員が見渡せる場所で眠れるようにする。
「念のため食器類は全て消毒いたしましょう。毒が付着しているかもしれません」森川がそう言って、皆で手分けして煮沸消毒を進めていった。
窓の外では小雨が降っている。
「これで共同生活の準備、整ったな」桑原が腕を組んで部屋を見渡した。「五人で絶対に乗り切ろうぜ」
全員が少しだけ笑顔で頷いた。
それから二日間、五人は山荘の一階で共に過ごした。
外には一切出なかった。見張りを交代し、食事を分け合い、夜を暖炉の前で過ごした。会話が弾む時もあった。長い沈黙が続く時もあった。ただお互いを監視し合うという緊張感からは解放されて、五人でいることが一種の心地よさを与えていた。
そして少しずつ、警戒心が緩み始めていった。




