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アラサーOLが転生して王子様キャラを気取った結果  作者: クマン蜂兵衛


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9/11

私の魔法

 魔女になって初めて迎える日曜日。

 インド風に言うならラビワールと称するべきか。

 気力体力共に完全回復を果たしたので魔法のレッスンをすることになった。

 場所は町の外れにある人気のない空地。結界とやらのお陰で誰かに見られる心配もないので安心である。


「魔法かあ。何だかドキドキするね!」

「うん。正直、前日は眠れないぐらいワクワクしてたぐらいさ」

「へえ、カナもそういうことあるんだ」

「そりゃね。私だって夢見るお年頃の女の子だよ」


 というわけで、


「よろしく頼むよクロ。いや先生と呼ぶべきかな?」

「呼び方は別に何でも構わないが……」

「何だい?」

「何故、彼女がここに?」


 クロの視線はアーシャに注がれていた。


「え、駄目だったの? カナに誘われたんだけど」

「おい」

「いやだってさ。クロはアーシャの記憶を消さなかっただろう?」


 不幸に見舞われた挙句、記憶まで奪われてしまうことを憐れんだのかもしれない。

 だがそれはアーシャならば口外はしないだろうという前提ありきのものだ。


「なら、良いじゃないか」


 大の大人でさえ不思議な世界に触れてワクワクするのだ。

 子供のアーシャならば尚更だろう。だから私は今日、彼女を誘ったのだ。


「空想の何かに触れる経験なんてそうあるものじゃない」


 大多数の人間は知らずに一生を終えていくはずだ。

 でもアーシャは違う。もう既にファンタジーな世界を体験した。


「けどそれは化け物に殺されかけるってロクでもないものだ」


 それは幾ら何でもあんまりだろう。

 私はこれから魔女としての人生を歩み始めるのだ。


「なら私が最初に使う魔法はアーシャに素敵な思い出を贈るものでありたい」


 煌びやかで夢に溢れた、そんな魔法を見せてあげたいのだ。


「カナ……ありがと。その気持ちだけで十分嬉しいよ」


 だからその、邪魔なら帰るし安心して?

 おずおずと告げるアーシャにクロはいや、と首を横に振る。


「……要の言う通りだ。これは私の配慮不足だったな。謝罪しよう」

「えぇ!? いやいや、全然大丈夫だし!」

「子供が遠慮をするものではない」


 ただ、とクロは難しい顔で唸った。


「煌びやかで夢に溢れた魔法か……いや、その手のものもあるにはあるが」

「私には使えない?」

「分からない。そこらも含めて軽く説明しようか」


 クロがぽむぽむと前足で地面を叩くと良い具合の椅子が出現した。

 立ち話も何だし座ってということだろう。アーシャと二人、ありがたく座らせてもらった。


「魔力はそれ単体では意味を成さないただのエネルギーだ。

それをイメージで加工し指向性を与えたものが魔法と呼ばれている。

だがただ想像するだけで何でも思い通りになるような便利なものではない」


 限界だってあるし、加工にもコツが居るとのこと。

 そりゃそうだ。思うだけで何でもその通りになるなんて神様じゃないんだから。


「魔法の規模が大きくなるほど加工も難しくなるから駆け出しの魔女見習いは簡単ところから始めるわけだが」

「だが?」

「君の場合、既存のやり方で良いのかどうかが分からない」


 何故? と首を傾げる私にクロは続ける。


「空、海、大地と魔女には属性があるのは説明しただろう?」

「覚えてるよ

「各々の属性に沿ったイメージほど魔力の加工はやり易くなるのだ」

「例えば大地の魔女なら花を咲かすとかそんなところから練習し始めるわけだね」

「その通り」


 クロの言わんとしていることは理解した。


「カナはどこの魔女なの?」

「それがねアーシャ。どうやら私はその三つに分類されないみたいなんだ」


 だからクロも既存のやり方で良いものかと悩んだわけだな。

 別に試してみれば良いじゃんと私は思うがそれは素人考えなのだろう。

 レアケースだからこそ下手なやり方で何か影響が出ることを懸念しているのかもしれない。


「とりあずは身体強化だな。君の希望からは外れてしまうが」

「練習だからノーカンだよ。アーシャに贈る魔法はまた別」

「それで良いのか……」


 良いんだよ。


「ってか使えてたって言っても無意識だからやり方分からないんだけど」

「そこは私が誘導しよう。まずは目を閉じて。そう、自分の五感を少しずつ絞っていくんだ」


 知覚を狭めていけば自然と魔力を感じ取れるようになるとのこと。

 言われた通り目を閉じ、水の中に沈んでいくように集中力を高めていく。


「……お腹が温かい」

「そう、それだ。それが魔力だ。飲み込みが早いぞ」


 クロは言う。

 血液のように魔力を全身に巡らせながらイメージをしろと。


(アーシャも見ているんだ。カッコ悪いところは見せられないぞ)


 想像するのは超人。

 ひとっ飛びで屋根を飛び越え、拳を振るえば岩を砕く、そんな自分を思い描く。

 すると、あるラインを超えたところで体がカーッ! と熱を帯びた。


「はは、出来た」


 ぴょんぴょんとその場で飛んだり跳ねたり回ってみる。

 転生してからは運動神経も良くなっていたが、素のままじゃ絶対無理だ。


「すごいよカナ! カッコいいし綺麗!!」

「いや、はは……照れるね。うん? 綺麗?」

「うん。ティンカーベルみたい」


 言われて気付く。

 私の体から黄金に縁取られた黒い光が鱗粉のように散っている。

 確かにこれは綺麗だ。冬場とか良いイルミネーションになりそう。


(この夜空を閉じ込めたような光をそのまま花にして差し出せたらカッコいいのになあ)


 存在しない幻想の花を咲かせプレゼントするのだ。

 きっとアーシャも喜んでくれると思――――うん?


「む!?」

「わぁ……すごい……」


 一人と一匹の視線は私の掌の上で咲く夜の花に注がれていた。

 キラキラ輝くそれはどう考えても自然の産物ではない。

 というか私が思い描いた幻想の花、そのまんまだ。

 そう長くは持たないけど一日、二日なら体感的にいける気がする。


「とりあえずはい、アーシャにプレゼント」

「ありがとう! 嬉しい、本当に嬉しいよ!!」

「喜んでくれたなら何よりだ」


 アーシャを笑顔にする魔法を使う。

 その誓いは果たせたわけだが、


「要、どうやってそれを?」

「どうやっても何も……」


 ふと、脳裏をある可能性がよぎった。

 殆ど思いつきのようなもので確証はない。


(……でも、もしかしたら。試すなら、そうだな)


 小さく息を吸い、指揮者のようにゆったりと腕を振るう。

 私の動きに合わせて寄り集まった光が河となり空間を塗り潰していく。

 そして数分ほどで隔離された空地は魔法のプラネタリウムと化した。


「――――」


 目を輝かせ言葉もなく見惚れるアーシャ。

 これは、多分、そういうことだよな?

 私の適正が分かったかもしれない。


(私がカッコいいと思う物や行いほど魔力の加工が容易ってこと……?)


 カッコいい魔法に適正がある。

 文字にしてみると何ともアホだが思いついてしまった以上は仕方ない。

 あれやこれやと検証を繰り返してたのだがどうにも当たっていそうだ。

 その結果、


「……天才、か」


 クロが主人公の成長に感嘆する師匠キャラみたいなこと言い出しちゃった。

 いや違うからね。

 天才というか単なる……単なる、何だろうこれ。ナルシスト亜種?


「恐ろしい才覚だ。属性が存在しないことといい君はつくづく規格外だな」

「い、いや……クロに教えてもらった魔法も全部使えるようになったわけじゃないし」


 カッコいい魔法に、なんて正直に言えない。あまりに恥ずかしいから。

 なのでそこらは私にもよく分かってませんで通したんだが代わりに酷い勘違いが生じてしまった。


「……何かこう気分的にノレないのは全然使える感じしないし」

「むしろその方が天才っぽくない?」

「確かにな。フィーリングが大きくパフォーマンスに直結するというのは天才肌、芸術家肌のそれだ」


 いや別にそんな大したものではないよと謙遜するが、


「気分が乗れば高度な魔法も使えるが乗らねば簡単なものも使えない。正にという感じだが?」


 クソッ!

 やってしまった感はあるが今更カッコいい魔法適正なんて言えやしない。

 もうそれで通すしかないかと私は小さく溜息を吐く。


(アホな適正ではあるけど、まあ好都合っちゃ好都合か)


 私がカッコいいと思うことが重要なら、だ。

 そんなもの簡単に思い描ける。冥様が実際に使った技を参考にすれば良い。

 あとは妄想で冥様ならこんな技使っても絵になるだろうなーってのもいけそうだ。

 どれ一つ試しに、


「おぉ?」


 魔法を発動しようとして軽くふらついてしまう。


「……何だこれ。どっと疲れが」


 子供の頃の夏休みを思い出す。

 朝から休みなく遊び続けてクッタクタになった時の疲労感。

 夕飯を待てず畳の上で沈んでたあの頃の私だ。


「それはそうだ。魔法を使えば魔力のみならず体力も消耗するのだから」

「そこも最初に言っといて欲しかったな」

「まずは体で覚える方が良い」


 と一刀両断。

 まあでも一理あるか。

 この手の失敗は実際に痛い目を見た方が学びとしては大きい気がするし。


「にしてもこれ体力を消耗してるってことはダイエットとかにも使えそうだな」

「あ、確かに。その場から一歩も動かなくてもカロリー燃やせそう!」

「ああ、それは魔法界の法律で禁じられているから違法だぞ」

「「法律で禁止されてんの!?」」


 思わずギョッとする私とアーシャ。

 クロは右の前足で顔をくしくしやりながら説明をしてくれた。


「うむ。まあ体に害があるなどの理由ではないがな」

「じゃあ何でなの?」

「一言で要約するなら“美を舐めるな”これに尽きる」


 あー、とアーシャと二人で頷く。

 何となくニュアンスは伝わった。

 美しくなるってそういうことじゃねえだろ。安易な手段に頼るなと言いたいわけだ。


「たゆまぬ努力の末にこそ、真の美しさは宿るというのが当時のトップの信条でな」


 ただ魔法を使うのが全面的にアウトだったわけではないらしい。

 脂肪を燃やし易くする魔法薬などを開発するのは許されていたそうな。

 知恵と工夫を凝らして作り上げたものならOKってわけね。


「ちなみに私の御主人はそうやって美容に心血を注ぐ者らを陰で小馬鹿にしていたな」

「何でバラしちゃうの?」

「クロは御主人様に恨みでもあるの?」

「いや事実だし」


 名誉! 死後の名誉!

 ……まあ真面目に考察するなら、愛ゆえなんだろうけどさ。

 こんな人が居たのだと誰かの記憶に残したいから語ってるんだと思う。


「今風の言葉を使うならあんなんに時間やお金かけるとか意味分かんない。

タイパもコスパも悪過ぎ。そこまでしてモテたいとかウケる(笑)みたいな冷笑系。それが私の御主人だ」


 御主人さん……。

 というか硬い口調のクロがちょっとギャル入った喋り方するの面白過ぎる。


「そんなこと言いつつ胸という自分が持つ女の武器を誇ってたりもするのだからどうしようもない」

「良いだろう胸を誇っても。何が悪いんだ」

「何でカナちょっと怒ってるの……?」


 そりゃ、ねえ? シンパシーですよ。

 今でこそ王子様系ロリに転生したが前世はデカデカ地味女だったからな。

 そこらの男よりも背が高い上に顔もパッとしないし愛嬌もない。

 そんな私でも唯一誇れたのがデカ乳だったのだ。


(……思い出すな。高校の頃、男子がコソコソ話してたの)


 え? アイツが良いの? まあでも確かに胸やべえかんな。

 そうそう。それに案外、付き合ったら良い感じになれそうかなって。

 何だよお前、じゃあ告れよ~。いや、それはほら……なあ? 恥ずかしいじゃん。

 みたいなやり取りでどれだけ心が救われたか。

 私の女としての自尊心はあそこで満たされたと言っても過言ではあるまい。


「まあ君の怒りはともかくだ。まだ余力はあるだろうがそろそろ切り上げようか」

「あ、待って。最後に一つやりたいことがあるんだ」

「……? 危なそうなら止めるぞ」

「勿論」


 先生の許可は下りた。

 少しだけ休憩をして体力を回復させてから私は今日最後の魔法を行使する。

 手のひらを軽く上に向け、ふっと息を吹きかけると光の鱗粉がアーシャに纏わりつく。

 突然のことに目を白黒させる彼女に私は言ってやる。


「念じて御覧。私を空を飛べるって」

「ふぇ?」

「言っただろう? ティンカーベルみたいだってさ」


 あ、という顔をしてからアーシャは嬉しそうに何度も頷いた。

 私がやれないなんて露ほども思っていない。

 その信頼が嬉しくて嬉しくて、これに応えられなきゃカッコ悪いなんて話じゃないだろう。


「あは! 飛んでる! 私、飛んでるよカナ!!」

「ああ」


 にしても良かった。今日のアーシャ、スカートじゃなくて。

 流石にね。それだと私もこれは出来なかったもん。


「…………他者への飛行魔法付与。つくづく出鱈目だね」


 感心を通り越して最早呆れているらしい。

 悪いねクロ。君にも手伝ってもらうよ。


「認識阻害みたいなのはクロに任せて良いよね?」


 ウインクしながらそう言えばクロは小さく溜息を吐いた。


「やれやれ、仕方ないな」

「ありがとうクロ。恩に着るよ」


 でも、その顔はどこか嬉しそうだし良いよね。


「では行こうか、ウェンディ。さ、お手を拝借」

「ティンカーベルじゃなかったの?」

「ピーターパンも兼任ってことで一つ」


 そして私たちは勢い良く空へ舞い上がった。

 感想? そんなものは聞くまでもない。アーシャの横顔が何よりもの答えだ。


(やっぱ、魔法ってのはこうじゃなきゃね)

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