どうやら私は追加戦士枠④
一つ深呼吸をして改めて自分の状態を確認する。
体にフィットしたインナー風のボディスーツにゆったりとしたフードつきの黒いローブ。
こんなピッチりと張り付いてるのに圧迫感や違和感はゼロ。
フードも結構な厚手で装飾もあって重そうなのに全然重さを感じない。
(力が溢れて来る……今なら何でも出来そうだ)
高揚感に呑まれそうになるが何とか踏み止まる。
調子乗ってやられる雑魚にはなりたくないし何よりやらねばならないことがあるのだ。
「クロ、ちょっとゴメンね」
未だ呆然としているクロの額にそっと手を添える。
その瞬間、私とこの子の間で見えない何かが繋がった。
どういう理屈かは分からない。多分、これも彼女の置き土産だ。
(漫画やアニメの知識で考えるなら多分、クロは使い魔とかだったんでしょうね)
使い魔を維持するためには主からの魔力なり何なりの供給が必須。
だが主である彼女が死んだことでそれが絶たれてしまった。
それでも生きていたのはあのリボンだ。あれが外付けバッテリーみたいな役割を果たしていた。
「……普段は気が利かない癖に、こういう時だけ」
クロが泣きそうな顔で呟く。
今、その胸中には彼女との色々な思い出が溢れ返っているのだと思う。
(邪魔はしたくないけど)
何時までもこうしているわけにもいかない。
だが何と声をかけたものかと考えあぐねていると、
「いや、今は良いな。要、結界を解除するが戦えるか?」
「勿論」
あちらから声をかけてくれた。
今五体を満たす不思議な力の使い方なんてまるで分からない。
でも、何とかなるような気がするのだ。
クロは一つ頷くと空中に数字を表示した。カウントというわけだ。
視界の隅に数字を捉えつつ、未だ攻撃を続けている怪物を睨み付け前傾姿勢を取る。
「3、2、1――――ゼロ!!」
クラウチングスタート。右腕が肥大化した猿にぶちかましを敢行。
ガリガリと地面を削り幾つも建物をぶち抜きながらひたすら前進する。
(今のクロなら、あっちは大丈夫だろう。素人の私はコイツに集中させてもらおう)
勢いが弱くなって来たところで奴が手を出すよりも先に手を離し軽く背を逸らしてブレーキ。
立ち止まると同時にバク転の要領で猿の顎を蹴り上げてやった。
(……すごいな。最初に飛び蹴りした時は足が壊れるかと思ったのに)
だが、素手では倒せそうにない。
武器か何かあればとそう思った瞬間、
「!」
しゅるると装飾のリボンが解けて細身の剣が形成された。
柄を握る手を守護するように張り巡らされた茨が何ともお洒落だ。
「……変身ヒロインみたいだね」
ただどう考えても初期メンではない。
初期メンは素直に可愛い系のデザインだろうからね。
こういうカッコ良さを押し出した美麗寄りの変化球を配置するなら追加戦士枠だ。
そう、私の推しキャラである冥様のような。
(最初はこのデザインで正式加入したら今の意匠を残しつつ可愛い感じにアレン……っと!)
馬鹿なことを考えていたら猿の攻撃が飛んで来たので受け止める。
爪を剣で止めているが凄まじい力だ。
(単純な膂力では不利だな。ならば!)
脱力。
巨大な腕が私を圧し潰そうとするが崩れ落ちながら剣の腹で滑るように受け流す。
攻撃が逸れると同時に足を前後に大きく開き上半身を滑るように動かしながらその勢いで剣を振るう。
顔面を狙った切り上げ。軽く目を切り裂くだけに留まったが少しは怯ませられた。
互いに距離を取って、再度打ち合いが始まる。
「無作法で悪いね。剣の心得はないんだ」
剣だけでは足りないと思えば手も足も出す。
決着は焦らない。時間が私の味方でないとしても焦る方が危ない。
小さくコツコツとダメージを刻み、
(――――来た)
上から大振りの一撃。
真横に避けると同時に振り下ろされた拳が地面を砕く。
隆起する地面の勢いを利用して怪物の頭上に跳躍しざま脳天に刃を突き刺し、
「もういっちょ!!」
空中で体を捻りその柄に全力の蹴りを叩き込み深く押し込む。
着地と同時に距離を取り様子を窺う。
怪物はびくびくと痙攣した後、その場に崩れ落ちて消滅した。
「素人とは思えないような立ち回りだな」
緊張の糸が切れたからだろう。
息を荒げその場に立ち尽くしているとクロの声が聞こえた。
近くの屋根の上で寝転がる様子を見るにあちらは完封だったらしい。
「色々私に問いたいこともあるだろうが」
「まずは向こうに戻って落ち着いてから、だろう? 分かってるとも」
特にアーシャ。早く顔を見せてあげたい。
あの時の行動を悔やむつもりはない。あそこではあれが最善だった。
心の傷になってしまうだろうとも理解した上でやったことだ。
けどこうして生き残れたのなら無用な心の痛みは早く取り去ってやりたい。
「……ただ裂け目は自然発生だからどうしようもないんだよね」
「いや今の私ならば道を開ける。少し魔力を貰うよ」
「ん……」
言うやクロと繋がる見えないラインが励起し力があちらに向かって流れ出す。
少し虚脱感を覚えたが、これで戻れるなら安いもの。
数秒ほどで裂け目は出現し、私は迷うことなく飛び込んだ。
「! か、カナ……? 嘘、じゃないよね? ほんとのほんとに、カナ、だよね?」
元の世界に戻ると地面に座り込んでいるアーシャを発見。
彼女を外に出した場所とは離れていたはずだがクロが気を利かせてくれたようだ。
「ああ、私だとも」
「~~ッ、馬鹿ぁ! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿! カナの馬鹿ぁ!」
「っと」
体当たりするように飛び込んで来るやカナはぽかぽかと私の胸を叩き始めた。
……まあ、致し方ない。この責めは甘んじて受け入れるべきだろう。
「何で、何であんなことするの……わたし、わたしぃ……」
「ごめんよ。君を傷付けてしまった」
「違う! わたしはカナが自分を大切にしないから!!」
「ああ、そうだね。そこも反省しなきゃだ」
しばらくそんなやり取りが続き、ようやくアーシャは許してくれた。
「……ね、ねえカナ。これ、どうしよう? 皆、すっごく心配してるよね……?」
落ち着いたところで現状を思い出したようだ。
私もそこは頭の中にあったが、これはもうどうしようもない。
「……言っても信じてもらえないだろうし、沢山叱られるしかないね」
「うぇぇ……私、帰りたくないんだけど……」
それはそう。
ただもう辺りは真っ暗で既に結構な騒ぎになってるはずだし、どうしようもない。
私たちが軽く絶望していると、
「私が何とかしよう。事情が事情だからな」
「「え」」
「何、この手の誤魔化しは魔女の基本スキルだ」
そう言ってウインクするクロはかなりのイケ猫だった……雌だけど。




