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アラサーOLが転生して王子様キャラを気取った結果  作者: クマン蜂兵衛


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2/11

アラサーが死んで王子様が生まれた 前編

 朝の占いはぶっちぎりの最下位。

 そのせいで朝から気分は最悪。仕事でトラブルなんかはなかったけどモヤモヤは拭えない。

 だから気分転換にと何時もは下りない駅で下りてみたのだけど、


「何だ、嘘じゃん」


 私はそこで占いが出鱈目であったことを確信した。

 元々熱心に信じているわけでもないけど……ねえ?

 今日の運勢は最悪とか言われたら気分悪くなるでしょ。


「うわ、これ、懐かしい」


 立ち寄ったのはローカルなホビーショップ。

 外観はあんまり綺麗じゃないし正直、期待なんてしていなかった。

 だけど店内のショーケースに飾られたフィギュアを見てその認識は一瞬で消え去った。


「……冥様」


 カッコ良さと可愛さが同居した衣装に身を包んだ銀髪の麗人。

 少女戦士スターテイルに登場する追加戦士枠の冥というキャラだ。

 いわゆる王子様系女子で作中のみならずリアルでもファンが多かった。

 かくいう私も冥様が最推しで玩具やパジャマを両親によく強請ったものだ。


「今にして思えばこれが切っ掛けだったのかもね」


 シリーズ終了や成長と共に自然とスターテイルからは距離を置いてしまった。

 けどその後、私がオタクの道に入ったのは間違いなくこれの影響だ。

 冥様に恋をしていたあの頃の私が導いたのだと今更ながらに気付いた。


「小学生以来の熱が戻って来たわ」


 アニメは加入してるサブスクのどこかでやってると思う。

 となると気になるのは目の前の冥様のフィギュアだけど、


「た、高い……いや安いんだけど今の私には……」


 ちょっと前に家電を幾つか買い替えたばかりで節制中の身なのだ。

 少し悩んだが結局、買うことにした。


「……お昼のグレード下げれば何とかなるわよね」


 二十年近い時を経て再会した初恋のキャラクター。

 再会初っ端から今日一日の憂鬱を吹き飛ばしてくれた変わらぬ王子様っぷり。

 これで買わないなんて嘘だ。見た感じ一つしかないみたいだしこれもう運命でしょ。

 冥様をお迎えし意気揚々と帰途につこうとしたのだが、


「何か騒がしいわね」


 駅に向かう道すがら路地の奥で何やら言い争うような声が聞こえた。

 冥様をお迎えしたことで少し気が大きくなっていたのだろう。

 私の足は自然と路地へと向いていた。


「やめ、てください……!」

「何で邪険にするんだ! 話ぐらい聞いてくれよ!!」


 眼鏡をかけた大人しそうな女の子が神経質そうな男に絡まれていた。

 痴話喧嘩、というわけではなさそうだ。

 女の子の目には怯えと嫌悪の色が滲んでいた。

 逆に男の方は苛立ちと支配欲、のような薄汚い色が見える。


「ちょっとあんた、嫌がってるでしょ。止めなさいよ」


 見て見ぬ振りは出来なかった。

 男が振り向き、私を見てその表情を醜く歪める。


「関係ない奴が口を挟むな! これは僕とコイツの問題だ!!」

「そうね。確かに無関係よ」


 何も知らないのはそう。

 けど、


「それが何? あんたみたいなのに絡まれてる人を無視はないでしょ。人として」


 知らない誰かが困っているだけだから見捨てるのか?

 それも間違いではないと思う。

 下手に首を突っ込んで火の粉が降り掛かることもあるのだから。

 けど首を突っ込むのだって間違いではないはずだ。

 何が正解かを選べるのは自分で、私は関わることを選んだというだけの話。


「女の子の肩をそんな風に握るなんて最低よあんた」


 離しなさいと男の腕に手をかけると、


「触るな!!」

「づっ……!?」


 殴るように腕を振り払われた。

 頬が痛い。口から鉄の味がする。これで名目は得られた。


「そっちがその気なら警察に通報するわよ」


 スマホを取り出し110番を打ち込む。

 あとワンタップで繋がるだろう。


「……どいつも、こいつも」

「大人しく引き下がるなら私も」


 事を荒立てるつもりはない。

 そう言おうとして、


「ふざけやがって!!」

「ぁ」


 腹部に焼けるような熱を感じた。次いで激痛。

 男が取り出した刃物で刺されたと気付いたのは数秒、遅れてからだった。


「あん、た」

「お前が悪いんだぞ……僕を馬鹿にするから……」


 とんでもないことをしでしかしてしまった。

 そんな感じのリアクションではない。

 むしろその逆。箍が外れてしまったような……。


(相当、危うい状態だったわけだ)


 パンパンに腫れ上がった風船のような。

 そんな状態だったのだろう。

 急激に頭が冷えていく。直ぐに動かないとあの女の子が危ない。


「そう、そうなんだ。あんたはそういう奴なのね」

「……何が言いたい?」


 昔の同級生。

 底意地が悪いけど、何でか私には優しかった一軍女子をイメージする。

 多分、これが一番効くはずだ。


「見れば分かるわ。あんた小学生から大人になるまでずーっと周りから疎まれてたでしょ。

卑屈な癖に自尊心は高くて常に責任を自分以外に求めてる。その子に付き纏ってる理由も分かるわ。

大人しそうで押せば行けるとか思ったんでしょ? 見え見えなのよ。本当に気持ち悪い。

挙句何? 思い通りにいかないからって刃物ちらつかせて無関係の人間を刺すとか救いようがない。

そんなキショイ男が誰かに愛されるわけなんてないでしょ? 身の程を知りなさいよバーカ」


 激痛で今にも意識を失いそうだが何とか堪えて罵倒をぶつける。

 今ここで私が倒れればその白刃はあの子に向かう。

 目で必死に逃げろと訴えかける。女の子は動かない。怖がっているし心配している。


「い、言わせておけばお前ぇええええええええ!!!!」

「ぐ……!?」


 今度は胸を刺された。

 何をやっているんだろうと思う。

 でも、やらずにはいられなかった。


「巨乳舐めんなクソが!!!!」


 スマホを取り出し男の頭部を殴り付ける。

 少し怯んだが更に激昂し、また刺されてしまう。


(ああこれ駄目だ。私、ここで死ぬ)


 恐怖はあるし後悔もある。

 でも何だろう。極限まで追い詰められてるからかどこか他人事のように思えてしまう。

 好都合だ。ネガティブな感情が私を縛り付けて動けなくなる前に、やるべきことをやろう。


「どうせ、死ぬなら……前のめりに……!!」


 もう立っていられない。

 なら、倒れてしまえば良い。


(ただし、お前もだクソ野郎……!!)


 体重をかけて男を押し倒す。

 今日ばかりは自分が乳も背もデカい女で良かったと心から思う。

 倒れた勢いで刃物が男の手から離れた。これはチャンスだ。

 咄嗟に刃物に手を伸ばし男の足を何度も何度も刺す。

 これで、追えない。あの子は、逃げられる。


「――――私の勝ちだ。バーカ」


 最後に残った力で刃物をめいっぱい遠くへ放り投げ勝利宣言。

 視界がぼやける。意識が遠のく。


(私も、冥様みたいに……)

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