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アラサーOLが転生して王子様キャラを気取った結果  作者: クマン蜂兵衛


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深海乙姫 後編

 撮影は順調に進んだ。

 正直な話をすれば戸惑う部分は多々あった。

 例えば時系列。


『え、ストーリーの流れ通りに進むんじゃないの?』

『スケジュールだったりロケ地の都合とかで変わったりするんだよ』


 気持ちの持って行き方が分からなかったりと大変だった。

 それでも何とかなったのは乙姫を始めとする本職の方々の手厚いサポートのお陰だ。

 ただ私は私で完全に足を引っ張るだけでもなかった。


『……間宮さん、ひょっとして体操とかやってたり?』

『いえ特には』


 休憩時間に男の子たちと遊んでいた際のことだ。

 将来スーツアクターを目指しているという子が居てその話の流れで私はバク転やらバク宙を披露した。

 それを監督が見て私がかなり動けることを知り、


『ちょっとシーンを追加しようか』


 そういうことになった。

 自分たちの都合で巻き込んでしまった子供に少しでも良い思いを、なんて理由ではないだろう。

 そこはプロとしての線引きをしっかりしてるはずだ。

 つまりこれは物語をより良くするためのものということ。

 ヒロイックなシーン追加してホラー感薄れないかとは思ったがそこは問題ないらしい。


『元々のストーリーラインが爽やかなハッピーエンドに続くものだからね』


 後味の悪さや怖さよりも盛り上がり重視とのこと。

 あくまでオムニバス形式の一本だからということらしい。

 ホラーらしいホラーは他の担当だと笑っていた。


『そっちは別の監督なんだけどね。実績のある人だから期待してくれても良いよ』

『楽しみにしてます』


 そんな感じで連日朝から晩まで撮影は続き連休最終日。

 このロケ地で撮影する分の撮影は終わった。

 私の出番も撮り終えたので無事、仕事は果たせたと言えるだろう。


「それじゃ皆、お疲れ様!」

≪お疲れ様です!!≫


 そして撮影終了後の夕方、直ぐには解散とならず皆でバーベキューをすることになった。

 私へのお礼と連休を拘束してしまった他の子役たちへの労いだ。

 そうとは言ってなかったが偶然、聞いてしまった。


(……しかし本当に良い男だな監督)


 期せずして盗み聞きしてしまった際に知ったのだがこれどうも監督のポケットマネーらしい。

 こういう気風の良い男って素敵だよね。


「……恋人とか居るのかな」


 指輪とかはつけないけど良い男だし居るだろうなあ。

 なんて考えていると、


「え、何? 要ってば監督みたいなのがタイプなの?」


 共演した子役の一人、由梨花がそんなことを言った。

 何時の間にか近くに来ていたようだ。


「や、別に付き合いたいとかじゃないよ? 単純に良いなって」


 流石にそこはね。中身はともかく歳の差があるから。

 立派な大人にロリコンの烙印を押してしまうのはちょっと……。

 あとそもそも監督にだって選ぶ権利はある。


「それは分かるけどさ。えー? マジぃ? 悪い人ではないけどさあ」


 こまっしゃくれてるな。

 でもこういうちょい生意気な感じもこの年頃だとひたすら可愛いよね。


「顔もまあ、普通だけど何か全体的にだらしなくない? ヒゲとか服装とかさあ」


 査定厳しいなオイ。

 いや言わんとすることは分かる。


「でも逆にそこが良くない?」


 仕事が出来るのは撮影の段取りを見てても疑いようはない。

 そんな男が見せる隙っていうのかな。そういうのわりとグっと来る。


「物好きだねえ。それよりさ、やっぱうちの事務所来ない?」

「いや……良い体験だったとは思うけどずっと続けるのはしんどそうだし」


 ツラだけは良いのが私だ。

 光るものを感じたのか由梨花や他の役者さんを通して事務所から何度かアプローチを受けた。

 嬉しいか嬉しくないかで言えばめっちゃ嬉しい。

 けど今言った理由の他にも、魔女としての責務があるから話を受けることは出来ない。


「そっか。でも気が変わったら何時でも連絡しなさいよ。

あたしと要はキャラ被ってないし、バーターでの出演とかも多くなりそうだもん」


 しっかりしてるなあ……。


(若い内から芸能界でやってくならこれぐらいの強かさは――――あれ?)


 ふと気付く。乙姫の姿がどこにも見えない。


「どうしたの?」

「あ、いや乙姫が居ないなって」

「ホントだ。全然気付かなかったわ」


 常に人の間に立って場の空気を良くしようと立ち回っていたのが乙姫だ。

 そんな彼女が居なくなったというのに私だけでなく他も気付いていない様子。

 よっぽど上手いこと空気を呼んで場を離脱したのだろうか?


(……トイレに行ってるとかなら良いけど)


 ちょっと心配だな。

 由梨花にちょっとお花を摘みに行って来ると告げこの場を離れ乙姫を探す。

 少しして彼女は見つかった。


「や」

「か、要さん!?」


 キャンプ場にある川の上流。

 人気のない岸辺で乙姫はぼんやりと水の流れを見つめていた。


「あ、ごめん。驚かせちゃったかな」

「う、ううん! ……気付かれるなんて……甘かった?」

「?」

「何でもない。心配して探しに来てくれたの? ごめんごめん」


 直ぐに戻るから。

 そう言おうとした乙姫の口にそっと人差し指を押し当て言葉を遮る。


「無理をする必要はないよ」

「……無理なんて」


 その言葉を流して隣に腰掛ける。

 ああ、風が気持ち良いな。とても落ち着く。


「これは私の独り言だ」

「……」


 反応する必要はないと前置きしてゆっくりと語り出す。


「八方美人って言葉があるよね」


 普通の小四なら知らなくても不思議ではないが年齢不相応に大人びてる乙姫だ。

 ドラマの台詞で意味が分からなければ辞書を引いているとも聞いた。

 そんな彼女ならと思い口にしたが反応を見るに当たっていたようだ。


「あれって良い印象を持たれないけど私はそうは思わないんだ」


 何で、と乙姫の唇が形を作ったが声にはしなかった。

 先ほどの独り言という方便があるからだろう。


「だってそうだろ? あれって我慢と努力の末に成立しているんだから」


 皆に良く思われるというのは簡単なことではない。

 合わない人間にも合わせに行くってかなり大変だぞ。


「そう在ろうとする理由が利己的なものではなく誰かのため」


 皆が嫌な思いをしないようにってことなら尚更だ。

 その八方美人を咎める理由はどこにもない。


「むしろ尊敬するよ」

「……」

「でも、ずっとそうしてるのは本当に疲れると思うんだ」


 自分のことも大切にしてあげて欲しい。

 でも、中々難しいのも分かってる。

 そう簡単に止められはしないだろう。


「だからせめて、そういう人が居るなら私の前でぐらいは楽にしてくれたら良いなと思うよ」


 そう言われても少しでも素顔を晒すのは不安だろう。分かるとも。

 だから伝えるんだ。私は嫌いになんてならないよって。


「君が誰かのために頑張れる自分を忘れない限り私もずっと好きで居るよってね」

「……」

「よし、独り言終了。休憩も出来たし私は戻るけど乙姫は?」


 そう尋ねると乙姫は少し顔を伏せてからこれまでとは違う顔で言った。


「ううん。私も戻る。一緒に戻ろう“カナちゃん”」

「……ああ」

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