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アラサーOLが転生して王子様キャラを気取った結果  作者: クマン蜂兵衛


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深海乙姫 中編

「考え事をするのも良いけど足元には気を付けてね?」


 女の子をちゃんと立たせてやり少し乱れた衣服を整えてやる。

 よしこれで綺麗になった。一度転びかけたのだし次からはもう大丈夫だろう。


「じゃあ私は」


 これで、と離れようとしたその時である。

 女の子の両手が私の肩をガシリと掴んだのだ。

 突然のことに目を白黒させる私に彼女は言う。


「見つけた!!」

「は、はい?」


 見つけた? え、私が探されてたってこと?

 いやそんなことはないでしょ。だって初対面だし。

 流石の私でもこんな可愛い子と面識あったら記憶に残ってるはずだ。


「え、えーっと」

「ごめん! ちょっと私に着いて来て!!」

「あ、ちょ」


 手を引かれ元来た道を引き返す。

 一体どこへ連れて行かれるのか。

 その手を振り解くことは簡単だけど、


(……こんな必死な顔してる子を邪険にするのもなあ)


 という気持ちが邪魔をして私は成すがままになっていた。

 予定は狂ってしまったが致し方ない。

 困っている誰かの助けになれるのは良いことだと割り切ることにした。


(おぉ? これっていわゆるロケバスってやつでは?)


 連れて来られたのは駐車場の隅っこに停められた大きなバスの中。

 これがロケバスならこの子は芸能人……いわゆる子役?

 ヤバい。滅茶苦茶ワクワクして来た。サインとか貰えないかな?


「監督! この子! この子どうでしょう!?」


 バスの中で何やら難しい顔で話し合っていたおじさんに声をかける女の子。

 おじさんはよっぽど集中していたようで今ようやく気付いたらしい。


「どうしたの乙姫(つばき)ちゃ……おぉぉおおおおおおおお?」


 最初に女の子――乙姫ちゃんを見て次いで私に視線を向けた。

 すると眼鏡の奥の瞳が大きく見開かれる。


「おいおいおい、どこの事務所の子だい? え、乙姫ちゃんどこから連れて来たの?」

「いや多分一般の方だと思います。普通に撮影の見学に来たのかと」


 あらやだ監督さんたらお上手ね。

 美形の自覚はあるけど芸能人と思われるのは悪い気分ではない。

 他のスタッフさんたちも口々に褒めてくれるものだから木に登っちゃいそうだ。

 そして乙姫ちゃんは鋭いね。一言一句違わずその通りだ。


「えーっと」


 だがそれはそれとして状況を説明して欲しい。

 少しわざとらしく困惑してますよ私? というリアクションをしてみる。

 するとそこで我に返ったらしく二人は軽く咳払いをした。

 そして監督がお先にどうぞと乙姫ちゃんを見ると彼女は小さく頷き口を開く。


「いきなりこんなところに連れて来られて困ったよね。本当にごめんなさい。

それとさっきのお礼もまだだったかな。助けてくれてありがとう。お陰で怪我をせずに済んだよ」


 何というか振る舞いが実にしっかりしているな。

 子供ながらにこういう業界でやっていくならこれぐらいは当然ってことなのか。


「どういたしまして。謝罪もうん、しっかり受け取った」


 事情を説明してもらう前にまずは自己紹介でもどうだろう?

 そう提案すると頷いてくれたので先ずは私から名乗った。


「私は間宮要。要で構わないよ」

「深海 乙姫(ふかみ つばき)。乙姫で良いよ。よろしく」


 握手をして改めて事情を説明してくれた。

 やっぱり乙姫は子役で今回ここで撮影するドラマの出演者らしい。

 監督のおじさんに軽く視線をやると彼は小さく頷いた。


「橋の上で悩んでたのは急に私と同じ子役の一人に欠員が出ちゃったからなんだ」

「欠員……」

「一出演者でしかない私に何か出来るとは思わないけど、ね?」

「ああ、うん。不安に思うのは仕方ないよね」


 監督や他のスタッフの顔を見るに何とな~く問題がありそうな欠員っぽいな。

 下衆の勘ぐりと言えばそれまでだが子役の側が……みたいな感じかもしれない。

 そこらの事情をぼかしたのは好印象だ。

 部外者に話すことではないと言えばその通りだけど陰口みたいになっちゃうからね。

 聞く側としても反応に困るし私は気遣いと受け止めた。


「そしたら要さんに出会って、ああこれだ! って思ったの」

「これだっていうのは……その欠員が出た方の代役にってことかな?」


 うんと乙姫が大きく頷いた。

 まあ私、顔だけは良いしな。テレビ映えするかしないかで言えばするだろう。

 と、そこで監督が話に入って来る。


「間宮さんは撮影の見学に来たんだよね? 僕らがどんなものを撮るかは知ってるかい?」

「いやそこまでは。父にドラマの撮影があると聞いてミーハー気分で足を運んだだけですので」

「なら軽く説明しておこう。今回の撮影は夏に放映するオムニバス形式の怪談ドラマの一話でね」


 あらすじはこうだ。

 乙姫含む子供たちがこの公園に遊びに来るところから物語は始まる。

 仲の良い友達と一緒に日が暮れるまでたっぷり遊び家に帰った乙姫たち。

 そこで気付く。


『あれ? 何か人数多くなかった?』


 と。

 翌日学校え遊びに行った面子で話し合う。

 知らない子が混ざっていなかったかと。すると全員が私も思った俺も思った同意を示す。

 薄ら寒いものを感じつつその日も一緒に日が暮れるまで遊んで解散。

 だがここで異変が起きる。一人だけ家に帰っていないという連絡が回って来たのだ。

 警察も巻き込んでの大捜索。しかしその子は見つからない。

 子供たちの一人が言う。


『あいつだ。あいつが連れてったんだ!!』


 実は行方不明になった子供は少し前、山で罰当たりなことをしていたのだ。

 あの日居た知らない誰かは犯人を見つけるために混ざっていた。

 そして見つけたから行方不明になった子を攫って行った。

 子供たちは必死に訴えるが大人は当然、信じない。


『なら、私たちで助けよう!!』


 子供の蛮勇だ。

 そしてホラー特有の展開で一人また一人と消えて行き遂には乙姫だけになる。

 自分が怪異に攫われる番になり彼女は真実を知る――あの子じゃなかったと。


「“ごめんなさい”。そう呟いたところで助けに入るのが……」

「謎の子供ってことですか」

「そう!」


 そこから謎の子供に導かれ二人で怪異に立ち向かい紆余曲折を経てハッピーエンド。

 朝焼けの中、喜び合う子供たち。乙姫は改めて御礼を言おうと振り返るがあの子はもうどこにも居ない。

 それでもきっとどこかで見守っている気がした。

 だから、


『ありがとう』


 そして後日、近所の祖母にその話をすると祖母は言う。

 それはきっと山の神様かもしれないね、と。

 神様は寂しがり屋で時々子供たちの輪に入って一緒に遊ぶのだという。


『きっと神様がお礼をしに来てくれたんだよ』


 そんな感じで物語は幕を下ろすそうだ。

 王道のストーリーラインで良いと思う。


「……私はその謎の子供役ということで?」


 ただ気になるのは……。


「うん。いや本当にイメージそのままの美少年で驚いたよ。

浮世離れした美形で、それでいて柔らかな笑みがよく似合う感じで」


 美少年……美少年ね……。

 監督は少し興奮気味に麗句を並べ立てているが私のやる気はもう底を尽いちゃった。

 子供なら良いけどさ。大人にやられると萎え――――


「ちょっと監督失礼ですよ! 女の子に向かって!!」

「「え」」


 と私と監督の声が重なる。

 乙姫はあれ? という顔で少し不安気に口を開く。


「えっと、間違ってた?」

「いや合ってるよ。私は女の子さ」


 そして尽きかけていたやる気が一気に回復した。

 監督が気まずそうに謝罪しているがもう良い。


「私で良ければ代役、務めさせてもらうよ。ああ、乙姫への恩返しだ」

「……恩?」


 さて、恩返しをすると決めたがそれはそれとして……。


「聞いた感じ重要な役どころのようだけど私、お芝居の経験なんてないよ?」


 ある意味、今の振る舞いがそうと言えなくもない。

 こんな容姿に生まれ付いたのだから冥様みたいに、と。

 でもすっかり板について演技してるとかそういう意識はないんだよね。

 というかそもそもからして真似たのは外面的な振る舞いだけだし。


(性格を変えようとするのはハードル高いしね。私じゃあんなイケメンハートにはなれんわ)


 私が芝居についての不安を口にすると、


「勿論分かっているとも。そこは僕らがフォローするさ。ね、乙姫ちゃん」

「はい。こちらからお願いしてる立場だもん。全力でサポートするよ」

「それに重要な役ではあるが台詞自体はそう多くもないしね」


 いやそれはそれでハードル高くないかな。

 重要な役なのに台詞が少ないってことは表情とかで魅せるってことだろ?

 どう考えてもそっちのが難しいのではと指摘すると彼らはほう、と軽く目を見開いた。


「そういうところを理解してくれているなら尚更、安心だよ」

「いや分かったところで」

「いやいや間宮さん。理解するとしないでは大きな差があるんだよ」


 道具の使い方を知る人間と知らない人間では作業にも差は出る。

 それはお芝居も同じだと監督は言う。


「ま、そこはこれからということで……幾つか聞きたいんだけどゴールデンウィークの予定は?」

「特には……え、あ、撮影って今日だけじゃない感じですか?」

「ああ。連休いっぱいはだね。そうか、そこは知らなかったのか」


 父のリサーチ不足、というのは酷か。

 まあでも特に予定はないので撮影に関しては問題あるまい。

 レムナントが出た場合だがそこはクロに上手いこと魔法で誤魔化してもらえば良いか。


「それは良かった。親御さんとは今、連絡が取れるかい?」

「取れます。ちょっと待ってくださいね」


 寝てるところを起こすのは申し訳ないけど致し方ない。

 数コールで父は電話に出てくれた。

 少し寝ぼけた感じだったが事情を説明すれば直ぐに理解したようだ。

 じゃあ、とそこでスマホを監督に渡す。


「はい、お電話代わりました黒崎と申します」


 話自体はパパっとまとまった。

 事前に私がやりたいと告げていたからだろう。

 ただ契約関係のあれこれがあるのでこれから監督が直接、家に出向くらしい。


(ちょっと偏見があったのかも)


 いわゆる業界人というのはちょっと上からなのかなとか思ってたところはある。

 ちゃんと保護者に連絡を取ろうとしたこと。

 お願いする立場だから来させるのではなく自ら出向く姿勢を見せたこと。

 当たり前の礼節だけどそこらはちょっと疎かなのかと思ってた。


(うん、反省しなきゃだ)


 情けない限りだよいやホント。


「じゃあ僕はこれから出かけるから間宮さんのことは任せて良いかい?」

「はい。私が連れて来たのでちゃんと責任を持ちます」


 ……ふむ?


「ありがとう。頼むよ」

「はい。要さん、ちょっと場所変えようか」

「了解」


 ロケバスを出て人気のない場所へ移動する。

 そこで乙姫はお芝居について色々とレクチャーしてくれた。


「要さんの役はさっき自分で言ってたように表情とかで存在感を表現するの。

笑顔一つでもそこに意味を乗せなきゃいけないんだけど……漫画とかって読むかな?」


 頷くと乙姫はこう続けた。

 ハッピーエンドを迎えたキャラが最終回で浮かべていそうな笑顔を作って、と。

 ふわっとしたリクエストだが、わりとすんなりイメージは出来たのでやってみる。


「! そうそれ、そんな感じ! いけるいける! うん、これなら大丈夫そうだ」

「はは、お世辞でも嬉しいよ」

「ううん。そんなことはないよ。よし、見立ては間違ってなかった。こんな感じで伝えればいけそう」


 咲耶とはまた違った勤勉さだ。

 あちらが勉学に励む生真面目さならこちらはプロ意識ゆえのってところか。

 この歳で凄いな。頭が下がる思いだ。


「ところで他の役者さんと顔合わせとかしなくて良いのかい?」

「そこは今、スタッフさんが事情を説明してくれてるから後でだね」


 話が終われば改めて面通しをするとのこと。


「ちゃんと私が間に入るから安心して」

「頼りにしてる」


 そこからしばしの間、指導が続いた。

 そしてお昼を少し過ぎた頃、スタッフからお声がかかる。

 昼食がてら顔合わせをということらしい。


「皆、良い子たちだからさ。あんまり緊張しなくても平気だよ」

「ん、ありがとう」


 向かった軽食コーナーでは既に他の子たちは集まっていた。

 大人のキャストも居るのだろうが気を利かせてくれたのだと思う。

 まずは子供同士ということで四人の少年少女が私たちを迎えてくれた。


「やっだ滅茶苦茶イケメン……え、本当に女の子? 勿体ないなあ」

「うわ、僕ちょっと自信なくしちゃうかも」

「え、何お前自分のことそこそこ良い感じだと思ってた?」

「茶化さないの」


 こちらへの印象も悪くはなさそうだ。

 女の子だと事前にしっかり通達してくれたのは監督かな?


「この子が助っ人に入ってくれた間宮要さん。私と同じ地元の子で小学校も同じみたいなんだ」

「乙姫ちゃんと? へえ、さぞやモテモテなんだろうなあ」

「ううん。転校生でちょっと前に越して来たばかりで連休明けにって感じみたい」

「そうなんだ。あ、自己紹介しなきゃだね」


 とそれぞれ自己紹介をしてくれる。

 乙姫以外は全員、芸名らしく本名も合わせて教えてくれた。

 とりあえず現場では芸名で呼んだ方が良いのかな?


「要さんは本当に一般の方だから皆でフォローしてあげてね」

「当然。任せろって」

「分からないことあったら遠慮なく聞いてよね」


 そんなこんなでお喋りがてら食事が始まった。


「要さんは帰国子女でさ。これまで色々な国を回って来たんだって」

「はー、じゃあ外国語も喋れたり?」

「英語とヒンディー語、スペイン語はいけるね」


 食事の最中、乙姫はずっと話を回してくれた。

 全員が嫌な気持ちにならないようにと気を遣ってくれているのがひしひしと伝わって来る。

 何となくそんな気配はしていたがやっぱりそうだ。


(この子、八方美人なんだな)


 皆に良い顔をする。

 これだけだとあまり良い印象は持たれないだろう。

 けど私はそうは思わない。だってそれって努力の結果だもん。


(……こういう業界に居るから、なのかな?)


 こういうタイプは溜め込みやすく中々吐き出せないから少し心配だ。

 ちょっと無理をしてるかなという印象を受けるから余計に。


(うん、よし。せめて私に出来ることをしよう)


 私と二人で話してる時ぐらいは気を抜けるような関係を目指そう。

 それが私なりの恩返しだ。

 乙姫は私を女の子として見てくれた恩人だからね。


(撮影も交流も頑張ろう!!)

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