契約その248 ユニのfirst Odyssey!
ユニとエリーを乗せたロケットは、成層圏を抜けてついに宇宙へと辿り着いた。
「ここが……」
「はい。宇宙です。と言っても地球の衛星軌道上ですが」
小さなモニター越しにエリーが答えた。
「そこにあるから人工衛星なんだろう。そうだ。これ言っとかないと」
「?」
何か重要な事があるのかとエリーは思う。
「宇宙……」
そんなエリーをよそに、ユニはそう言いながら力む様なポーズをして力を溜める。
そして思い切り両腕を上げながらこう叫んだ。
「キター!」
「何ですかそれは」
ユニの奇行に呆れた様に聞くエリー。
「これか?おれもよくわかんないんだけど、宇宙に行くんならやってくれってアキに頼まれてたから」
「成程、約束を果たしたというわけですね」
アキが頼んだ事なので、きっと何か元ネタがあるのだろう。エリーはそう考えると、ユニに注意を促す。
「間もなく着陸体制に入ります。衝撃に備えて下さい」
「もうか。早いな」
よく考えてみれば、無人とはいえ一つの人工衛星が数時間で所定の位置に到着する程度の距離である。
ユニはエリーの指示通りに衝撃に備える体勢(飛行機に乗る際にビデオで説明されるあの体勢である)を取る。
着陸と言っても、ロケットの入り口を「アイク」の緊急出入り口に接着するらしい。
エリーは、見事な制御技術で出入り口に接着してくれた。
(これ、出入り口は開くのか?)
ユニは心配になった。ここの出入り口も例のパスワードでロックされている可能性があったからである。
しかし、その心配は杞憂だった。
ものの数分で、ロケットの出入り口と一緒に「アイク」の出入り口も開く。
どうやら直接ここまで乗り込んで来る事は、「真の黒幕」も想定していなかったらしい。
(いや、ここまでやる奴がここのセキュリティだけお留守にするはずがない。まさかわざとか……?)
ユニは訝しむ。
だが今は、「アイク」の停止が最優先である。
ユニは、恐る恐る「アイク」の中に足を踏み入れるのであった。
中は地球と同程度の重力が働いており、体が浮き上がる事はなかった。明かりは灯っており、光の心配はない。
しかし、とても地球の外とは考えられない雰囲気である。
「では、再びミッションの説明をします」
ユニが持って来ていたタブレット端末に、エリーは自分を移し替えてから説明を始める。
「まず、『アイク』の中央部にあるメインコンピュータを目指して下さい。そこに手動でパスワードを打ち込めるキーボードがあるはずです」
そのキーボードを使ってパスワードを入力し、エンターキーを押せば「アイク」は止まる。
言うのは簡単である。
「それで、そのメインコンピュータっていうのは一体どこに……」
「『アイク』のちょうど中心ですので、直線距離にして約15kmになります。ルートはわたくしが案内します」
「15キロか……結構遠いな」
直線距離でそれなのだから、実際はもっとかかるだろう。
「はい、ですが時間もないので、マスターはあなたにある贈り物をしてくれました」
「贈り物……これか」
ユニは自分の靴を指差しながら言った。
今のユニは、全身を包むボディスーツの様な服に長靴というファッションだった。
あまり宇宙服とも言えない様なデザインだが、ファスナーを上まで閉める事で密閉され、短時間の宇宙遊泳も可能にする。
曰く、今後宇宙旅行を身近にしていく上で必要な、量産型の宇宙服らしい。
今回はその実験も兼ねているのである。
そしてユニが履いている靴は何なのかというと……。
「それはマスターの発明品の『ヘリクツ』です。側面のスイッチを押す事で自在に空中を飛ぶ事ができます。さすがに使う必要はありませんが、悪魔の力による性能の強化もできますよ」
「ああ知ってる。練習したからな」
宇宙に行く前から、「ヘリクツ」を使って移動する事はすでに知らされていた。
宇宙に行く前の訓練というのも、主にこの「ヘリクツ」に慣れる為のものだったのである。
ユニは、エリーの言う通りに靴の側面のスイッチを押す。
するとユニの体が宙に浮かび、その身一つで縦横無尽に空を飛び始めた。
「よし、宇宙でも難なく使えるな」
ひと通り空を飛び、ユニはその感触を確認した。
「では急ぎましょう。猶予はせいぜい5時間、余裕はありません」
エリーの言葉に、ユニは強く頷くと、エリーの先導でメインコンピュータを目指すのであった。
10分程「ヘリクツ」で移動し、ユニとエリーは大きな扉の前に辿り着く。
今まで通って来た場所とは違う雰囲気に、ユニは確信する。
「ここがメインコンピュータか」
「ええ。この扉は自動ドアになっているので、力尽くで開ける必要はありません」
エリーの言う通り、ユニが近づくと扉は自然と開いた。よくある自動ドアと変わらない様だ。
そしてドアを開けてユニ達の目の前に現れたものとは……。
「これがメインコンピュータ……でっけェ……」
ユニが目にしたのは、巨大な真四角の機械だった。その機械から何本も管が通り、天井へと繋がっている。
そしてその機械の前に、パソコンがちょこんと置いてあった。
そのパソコンも、この機械とコードで繋がっている様だ。
しかし、仰々しい巨大な機械の真ん前にありふれたパソコンが置かれている状況は、些かシュールである。
「成程、ここに打ち込めばいいというわけか。何だかやけに用意がいいな」
呆れた様にユニが言う。
「普通ここまで来ませんから。対策が疎かになったのでしょう」
自らの憶測も含めつつ、エリーが答えた。
しかし呑気に構えている時間はない。ユニは早速、パソコンの前で膝立ちになってパスワードの入力に取りかかる。
さすがと言うべきか、ユニは慣れた手つきでスイスイとパスワードを入力していく。
仮にまったく覚えずに逐一エリーに教えて貰っての入力になると、こうはいかないだろう。
数十分経って、ユニはようやく全てのパスワードを入力し終わる。
「よし。あとはエンターキーを押せば停止できるぞ」
ユニは、人差し指で勢いよくパソコンのエンターキーを押すのであった。
「果たして……!」
パソコンの画面を凝視するユニの目の前に映し出されたのは、「Password is incorrect」という英文だった。
「何だと……!」
ユニは青ざめながらそう呟く。
というのも、ユニにはその英文の意味がすぐにわかったからである。
その意味とは……。
「パスワードが……違うだと……!?」
悪魔との契約条項 第二百四十八条
条件を整えれば、人は誰だって宇宙へ行ける。
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