契約その237 アイドル・on the stage!
アイドル甲子園は「J'S」の優勝で幕を下ろした。
この結果が面白くないのは、「J'S」以外の優勝を逃したアイドル達である。
その楽屋での雰囲気は、まさに最悪だった。
(何で私達が負けたの……?)
(悪魔に魂を売ってまで引きずり下ろそうとしたのに!)
やはり、アイドル達は最初から「アーク」と繋がっていたのである。
とはいえ彼女達もプロである。表向きは勝者を讃えなければならないのである。
(というか、どこにいんのよあの悪魔!)
コンサートまでまだ時間はある。まだ妨害は間に合うと彼女達は踏んでいた。
だがその思惑は、「アーク」が今現在足止めを食らっている事で叶わないものになったが……。
一方その頃の「アーク」と対峙したルーシーとアザエル。
ルーシーは、「アーク」にこんな提案をする。
「ここじゃせまい。場所を変えようか」
「せまいのなら……デカくすればいいだろう」
「アーク」はそう言い放つと、構わず二人に襲いかかる。
それを二人は何とか受け止める。
「ここで暴れるなと……」
「言ってんだろ!」
「場所を変えるぞ!アザエル!」
ルーシーはそう言うと、アザエルと一緒に「アーク」を取り押さえて天井を突き破り、その勢いのままどこかの採掘場へと落下した。
「ここなら存分に暴れられる……!」
二人は「アーク」に狙いを定める。
そんな中、アザエルがルーシーに聞く。
「ステージが始まるまであと何分だっけ?」
「あと10分。そのうち1分は戻る時間に費やされるから、実質あと9分だ」
スマホの時計を見ながらルーシーが答える。
「ハッハッハ!上等だな!天使と悪魔が揃ってるんだ!負けるわけがない!」
高笑いしながら言うアザエル。
「話してる時間も勿体ねェな……。よし!」
ルーシーは自分の顔を手のひらで打って気合いを入れる。
「時間内に倒すぞ!」
そして二人は、「アーク」に向かって行くのであった。
一方のユニ達にも、そろそろ準備をする様に言われる。
「もう何回も反芻した……。大丈夫だきっと!」
ユニもまた気合いを入れる。
「さっき大きな音聞こえたけど、あれ何だろ?」
疑問に思うアゲハ。
それは先程悪魔達が天井を突き破った音であり、スタッフも確認をしたのだが、異常なしとの事である。
天井を突き破った後、ルーシーが去り際に天井を修復したのだ。
「大丈夫だよきっと。おれ達はおれ達の事をやればいいんだ。彼女達も、きっとそれを望んでる」
ユニが真面目な顔をして言う。
「望む?誰が?」
アゲハはキョトンとした顔をしながら聞いた。
だが、その事を伝えるには時間が足りなさすぎる。
「よし時間だ!行こう!」
ユニは誤魔化す様にみんなを鼓舞するのであった。
一方のルーシーとアザエル。
「ウラァ!」
二人同時の右ストレートが「アーク」の胸部にヒットすると、次いで左足のキックも同時に命中させる。
「ぐ……何て力……。今日初めて共闘したクセに……」
思わず膝をつく「アーク」。
「当たり前だろ」
そんな彼に、ルーシーはこう言い放つ。
「おれ達は、同じ人間を愛してんだ。そんなおれ達が、お前に負けるはずがない!」
「行くぞ!これで終わりだ!」
二人は勢いよく助走をつけ、高くジャンプする。
「トドメだ!」
そして二人は、「アーク」へ向かって飛び蹴りを叩き込むのであった。
「!!?」
そのまま吹っ飛ばされ、岩盤に叩きつけられる「アーク」。
「ハアハア……成程……それがお前らの……力……か……」
「アーク」はそう呟くと、そのままうつ伏せに倒れるのであった。
「……あとはおれの母さん達が何とかしてくれるさ」
ルーシーはそう言うと、アザエルを急かして会場へ戻るのであった。
一方のユニ達。みんなでプールサイドに立っていた。最後のリハーサルをしているのである。
「大丈夫。必ず成功させる!」
ユニはそう意気込むのであった。
高橋がいない中、ようやく本番が始まる。
その直前になって、ルーシーとアザエルが合流した。
「どこ行ってたんですか。始まりますよ!」
萌絵が言うと、二人はごめんごめんと謝るのであった。
ステージに立つユニ達を、恨めしそうに見るアイドル達がユニの目には映った。
その光景に顔を引き攣らせるユニ。
そんなユニに、ルアはこうアドバイスをする。
「目を逸らさないで。私達は彼女達の思いも背負ってここにいるの。どんな時も笑顔でね。それがアイドルだから」
まもなく、ユニ達が立つステージ上にライトが照らされる。
「楽しもうみんな!私達のステージを!」
溢れんばかりの光に包まれ、ルアが笑顔で言った。
それが素人なんか太刀打ちできない、トップアイドルの姿だった。
それからしばらくの時間が経った。
ユニはジョニーに、駅前のカフェに呼ばれた。
「フフ……お疲れ様。いや……もう気づいているのね」
ジョニーは不機嫌そうに用意されたお冷を飲んでいたユニを見ながら言う。
「どうしておれ達を貶める様な事をした。おれ達がアイドルになってテレビに出るなんて、本当はウソだったんだろ」
ユニはぶすっとしながら言った。
「いつから気づいていたのかしら?」
ジョニーが聞く。
「最初からおかしいとは思ってたよ。いきなり『J'S』として『アイドル甲子園』に参加しろなんて。それに……」
他のメンバーはインフルエンザと言っていたが、いくら何でも1、2週間も隔離されているのはおかしいとユニは指摘する。
「確かにそうね……。順を追って説明するわ。あなたには全てを知る権利がある」
ジョニーはそう言うと、店員を呼んでスペシャルパフェを注文する。どうやら奢りらしい。
ジョニーはユニに今回の一件についての経緯を話し始めるのであった。
まずそもそもの問題として、ルアが他のアイドルからやっかみを受けていたという点がある。
ただそれだけなら芸能界でもよくある事、悲しいが仕方がない。
しかし先日、ルアに向かって大道具が入ったダンボールが落下するという事故が発生した。
「ルアの代わりに『アル』が仕事をやったって言ってたやつ(契約その163参照)か……」
それを聞いたユニはそう呟いた。
そして捜査の結果、ただの事故ではなく何者かが故意にやった「事件」であり、犯人が別のアイドルである事が判明したのである。
そこで製作陣は、業界の自浄も兼ねてニセの「アイドル甲子園」を開いた。
つまりユニ達は、ルアを守る「盾」として雇われたのである。
「ごめんなさいね。危険な目に遭わせて……」
ユニは、やってきたパフェを食べる手を止めて聞いていたが、一つ気になる点があったので聞いた。
「その事、おれの彼女達は知ってるか?」
「ルア以外は知らないわ」
「そうか……それならいい」
ユニはそう言うと、一気にパフェをかき込み、ごちそうさまでしたと言ってからカフェを出た。
「まさか悪魔が関わってたなんてね……」
ユニの後ろ姿を見送りながら、ジョニーはそう呟いた。
かつての傭兵時代、彼も悪魔と契約をした。それゆえに、悪魔の力の影響を受けづらいのである。
「アイドル甲子園」は、その後撮り直された上で放送された。
あの後アイドル達の解散や脱退が相次いだからである。
「やっぱりルアは、そうやってキラキラ笑ってる方が似合ってるなあ……」
テレビの中で思い切り楽しむルアを見て、ユニはそう思うのであった。
悪魔との契約条項 第二百三十七条
かつて悪魔と契約をした者は、悪魔の力による改変の影響を受けない。




