契約その238 あくまでもinterviewです!
「面白い話ですか?」
「そうなんだよ!何かないかな」
藤香に「面白い話」を聞かれている風月。
藤香は漫画のネタに困っていて、何かネタになる様な話を風月に聞いているのである。
「あまりそういうのはわかりませんけど……」
風月はそう言いつつもしばらく考え込むと、あ!と何か思いついた様な顔をした。
「ありました!『面白い話』が!」
「本当?教えて欲しい!」
ワクワクしながら聞く準備をする藤香。
「全身が真っ白な犬の話です!」
「まさか『尾も白い』っていうの?」
「うっ!」
どうやら図星だった様である。
風月はそれ以降黙ってしまった。
しかし、こうしていても仕方がない。
藤香はスックと立ち上がると、こう言う。
「やっぱりやるかな……取材!」
翌日。紫音はユニを誘って都内にある水族館へとやって来た。
誘ったら二つ返事で来てくれたのが幸いした。
「いやー久しぶりだなー!藤香と二人でデートするのは」
水族館の建物を前にしてユニが言う。
ユニは半ズボンに白いTシャツという比較的ラフなファッションでデートに臨んでいた。
本当はしっかりした服装でいきたかったらしいが、藤香自身に「普通でいい」と言われたからである。
「デートじゃない。あくまで取材だ。漫画のネタ作りの為の」
そうは言いつつも、藤香は大きなベレー帽にロングスカートに踵が低い靴を履いており、しっかりおしゃれをしていた。
これは「せっかくのデートなんだからおしゃれしないと」というアゲハの厚意である。
「ユニの事は勿論好きだけど、強いて言えば僕はマンガに恋している身……デートじゃないんだけどな……」
だが、何となく悪い気はしなかった。
受付でチケットを買い、中へ入る。
中に入った二人を待っていたのは、大きな水槽のトンネルだった。
「うわー!キレー!」
自分の上をジンベエザメが泳ぐ様に、ユニは驚きの声を上げる。
そんなユニの隣で、藤香はしきりに首からかけたカメラを向けていた。
「やっぱり水族館デートは定番中の定番……定番ゆえに盛り上がりに欠ける事も多い……どう盛り上げるか……。絵で魅せるか?」
どうやら書くネタは「水族館デート」に決まったらしいが、カメラを向けながらブツブツ言う姿はあまりに怪しい。
「魚が驚くからって理由でフラッシュを焚けないのが残念だな……」
そう呟きつつズンズン前へ進んでいくので、ユニは彼女について行くのが精一杯だった。
水槽のトンネルを抜けると広い場所に出る。中央に休憩用のベンチがあり、それを丸く囲む様に水槽が設置されている様だ。
水槽のそばには、魚の説明が書かれたプレートが設置されている。
どうやら深海魚を主に展示しているらしい。
「成程成程……キャラクターデザインに使えそうだな……」
そう言いつつ、藤香は中央のベンチに座ると、持ってきたスケッチブックに魚の絵を描く。
意外と写実的に描く様だ。
「魚の生態を……設定に活かして……それなら……」
「ねえ藤香」
「ん?」
一通り魚の絵を描き終わった事を確認してから、ユニは藤香に話しかける。
「……屋上でイルカショーやるらしいから行こうよ」
「イルカショーか……」
イルカショーなら、イルカがジャンプした衝撃で水が飛び散るだろう。
スケッチブックが濡れるから断ろうと思ったが、わざわざ付き合って来てくれているのである。
その厚意をムダにはできない。
「……わかった」
藤香は、ゆっくりと頷くのであった。
二人は、屋上のステージを目指す。
夏休みシーズンなだけあって、ステージには家族連れが多く訪れていた。
勿論カップルの姿も。
「スケッチブックが濡れるのがイヤなら、奥の席に座ろうか」
藤香が渋っていた事を、ユニは当然知っていた。
だからせめて、藤香が望む席に座らせようとしたのである。
だが藤香は違う。
「大丈夫だ。こっちに描く」
藤香はカバンからタブレット端末を取り出しながら言う。
勿論水場でも使える特別防水性(紫音制作)である。
「どうせなら臨場感のある前方で観察したい」
よく考えてみたら近くでイルカを観察できるいい機会である。
飛び散る水飛沫も、きっと貴重なサンプルになるだろう。
二人は前から二番目の席に座るのであった。
程なくしてイルカショーが始まる。
飼育員のお姉さんが岸に立ち、イルカ達が挨拶をしてくれた。
「カイル君とナミちゃんっていうらしいな」
さっき調べたと、ユニはスマートフォンを藤香に見せる。
「成程つがいなんだな……」
スマホの画面を見ながら、藤香はそんな感想を漏らした。
「あ!始まるぞ!ほら!」
ステージの方を指差すユニ。
流れる音楽に合わせ、二匹のイルカは思い切りジャンプをするのであった。
「わーすごーい!」
タブレット端末でも写真を撮る藤香。
そんな時である。
イルカが着水した衝撃で、大量の水が二人に襲いかかった。
「危ない!」
ユニは、身を挺して藤香を水から守った。
「濡れなくてよかった……」
「でもあなたが……」
その代償として、ユニは全身がびしょ濡れになってしまった。
「いや、大丈夫だよ。いずれ乾く。あまりおしゃれしてなくてよかったな。キミのお陰だ。ありがとう」
びしょ濡れのユニは、笑いながら藤香に語りかけるのであった。
一通り水族館を満喫した二人。帰る時にはすでに夕方になっていた。
「どうかな?ネタには困らなさそう?」
ユニの疑問に対して、藤香はグッとサムズアップして見せた。
「それならよかった」
笑顔で答えるユニ。
「さて!帰ったら原稿だな!」
そう言いながら、藤香は少し早歩きになる。
そんな中、ユニの少し前を歩いていた藤香が突然振り返る。
「ユニ……」
振り返った藤香は、そのままユニの方に自分の唇を持っていって……。
「……今日のお礼だよ。……最近、やってなかったからな」
少し照れながら言う藤香。
目を逸らし、自分の横髪を弄りながら言っているのが可愛らしい。
藤香と付き合い初めて約二年、彼女の髪も肩にかかるぐらいまで伸びてきた様だ。
「でも……へへっ!これもまたマンガのネタにできそうだ!」
藤香はそう言うと、はにかんで見せるのであった。
2、3日後。藤香は担当編集者からその週のエピソードの評判を聞いていた。
「アンケートで一位!?」
目を丸くしながら驚く藤香。
「そうなんですよ!人気作の『手術海鮮』を押さえてのトップです!」
おめでとうございます!と、担当は拍手して祝ってくれた。
「手術海鮮」とは、その名の通り魚の世界を舞台にした新感覚医療マンガである。
作品としては佳境を超えている「初恋エターナル」を超えて掲載誌(週間少年チャンプ)の次世代看板作品と据えられる事が多い。
その作品を今週は超えたという事である。
「いやー面白かったですねえ。何より先生が楽しそうに描いてるのが伝わってきて!」
「みんなのお陰ですよ」
作業机に向かいながら藤香が答える。
担当は、藤香のある変化に気ついた。
「何か最近の先生、おしゃれにも気を使い出した様な気がしますね」
「それって僕がいつもおしゃれに気を遣ってないって事ですか?」
事実ではあるが、藤香は少し担当をからかう。
いえいえそういうわけでは……と否定する担当。
「マンガに恋してる僕ですけど……浮気をしたんですよ。先日ね」
藤香はそう言うと、再びペンを走らせるのであった。
悪魔との契約条項 第二百三十八条
「恋」は、人を強くする。
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