契約その236 Arcを倒せ!
「アーク」、またの名を「アークデモン」という。
一説に普通の悪魔より格上と評される存在である。
格上とあれば、ルーシーといえども容易に勝てる相手ではなかった。
だが有利なのはルーシーの方である。
「お前は結果発表の時間に『高橋』として戻らなくちゃならないだろ!?だがおれはそれを許さない!つまりおれを倒さなくちゃ、お前は舞台上に戻れないんだ!」
「アーク」と拳を交えながら叫ぶルーシー。確かに彼女の言う通りである。
長期戦になれば有利なのはルーシーの方なのだ。
それは「アーク」本人も認める所である。
「確かにお前の言う通り、お前を何とかしなけりゃ撮影には戻れない様だ……。だが……」
すると突然、「アーク」は自分の手のひらをルーシーの方へと向けた。
その瞬間、まるで金縛りにでもあったかの様に、ルーシーの動きが止まった。
「何だこれ……」
「おれがそれに対して何らかの対策を取らないとでも?」
ただ小刻みに体を動かす事しかできないルーシーに、「アーク」は静かに言う。
「油断した……」
焦るルーシーに、「アーク」はこう言う。
「巨大な山を切り崩す方法などいくらでもある……見くびったな……」
そのままルーシーにジリジリと迫ってくる「アーク」。
そんな彼に、ルーシーは問う。
「お前が全部やったのか!?『J's』に対する妨害行為も全部!何でそんな事するんだ!」
「忘れたのか?上級悪魔の価値観を」
「アーク」は心底呆れた様な口調でルーシーに言う。
「人間との契約など、我々にとってはただの娯楽に過ぎないという事だ。人間の破滅する様もな」
「アーク」は、ルーシーにぐいっと顔を近づけながら言った。
「瀬楠由仁も、他の奴らも、『悪魔』であるお前の事などハナから信用していないだろうよ……」
「!!」
それを聞いたルーシーは、体からふつふつと怒りが湧き上がってくるのがわかった。
「そんな事……そんな事ねェ!」
そういう発言だけは許さない。ルーシーは反論する。
「みんなは……おれを受け入れてくれた!悪魔だとか、人間だからとか関係ない!おれだから受け入れてくれたんだ!お前なんかにわかるものか!」
反論された事が心底癪に触ったのか、「アーク」はルーシーの首根っこを強く掴むとこう告げた。
「いくらイキった所で……お前の運命は変わらない……お前は!ここで死ぬんだ!」
「アーク」が腕を振り上げたその時である。
「その言葉……全部許さない!」
何者かの飛び蹴りが「アーク」にヒットする。「アーク」は、すんでの所で腕でガードした。
「アザエル!」
飛び蹴りの主はアザエルだったのである。
「どうしてここに?」
ルーシーが聞くと、アザエルはこう答える。
「バイトは半休取ってきた。おれ様だってユニの晴れ舞台は見たいよ」
だがルーシーの姿が消えたのに気づき、様子を見てきたのである。
「成程、堕天使アザエルか……なぜ堕天使が悪魔を庇う?」
「アーク」が心底不快そうに聞いた。
「恋人が悲しむからな。何よりお前の侮辱、おれ様もルーシーもみんなも!絶対許さない!」
アザエルが毅然と言い放つ。
「堕天使が……おれに勝てるのか?」
「負けようと思ってやる戦いなんかないだろ」
アザエルは指の関節をポキポキと鳴らしながら言う。
「死んでも後悔するなよ?」
「生憎、天使はそれ以上死なない。ただ天に還されるだけだ!」
アザエルはそう言うと、「アーク」へと向かっていくのであった。
一方、楽屋で休んでいるユニ達。
ルアは、これまで一緒に戦ってくれた四人にお礼を言っていた。
「みんなありがとう。お陰で助かったよ」
「何を言ってんですか!まだモミ達の晴れ舞台が始まってませんよ!」
「そそ!思いっきりやらないとね!」
「ウチの神社も懸かってるし!」
「はは……」
そんな和気あいあいとした雰囲気の中、ユニはルアにある事を聞こうとする。
「ルア……」
「ん?どうしたのユニ?」
ルアがキョトンとした顔で聞き返す。
「……いや、何でもない」
聞こうとしたが、今この場ではヤボだと考え直し、聞くのはやめる事にした。
「……さて!みんなの言う通り!最高のパフォーマンスをする為に!最後のリハーサルしちゃうよ!」
ルアはパチンと手を叩くと、明るい声で言うのであった。
その頃。「アーク」の力に吹っ飛ばされ、尻餅をつくアザエル。
「やはりそうか……今のお前に天使の力は使えない。力を奪われ、地上に堕ちてきたわけだからな」
勝ち誇る「アーク」。
「それでも……お前は許さない!ハアハア……」
一方、拘束されたままのルーシーも、拘束を解こうと必死だった。
「アーク」はそんなルーシーを尻目に、アザエルにこう宣告する。
「まずはお前からだ。お前の後、『ルシファー』を殺す。そしてこうなった以上、瀬楠由仁もただでは済まないだろうな……」
「!!」
それを聞いた二人は一瞬青ざめたが、その直後にニヤリと笑った。
「そうか……だったら尚更負けられないな……」
そう言いながら立ち上がるアザエル。
「同感だ……おれ達の負けの先に!あいつの死があるならな!」
ルーシーは気合を入れると、一気に力を解放、力づくで拘束を打ち破ったのだった。
その様子を見て、さすがに驚愕する「アーク」。
「バカな……悪魔には決して破壊できないはずなのに……」
「生憎だったな……こちとら受肉してんだよ!今のおれは半分人間だ!」
完全に悪魔ではないから拘束も破れたと、ルーシーは豪語するのだった。
そんなルーシーに、アザエルはある頼み事をする。
「ルーシー、今のおれ様は天使の力を使えない。だから契約で力を一時的に復活させてほしい」
その願いを、ルーシーは快く引き受けた。
「代償は?」
「キミと力を合わせてあいつを倒す事。勿論、恋人の晴れ舞台に合わせる様に」
それを聞いたルーシーは大きく頷き、そしてアザエルの髪の毛を一本むしり取って口の中に含む。
「これで契約成立!悪魔の力を媒体に、お前の天使の力を一時的に復活させるぞ!」
ルーシーがそう言った途端、アザエルの肩甲骨から大きな白い羽が生える。
さらにアザエルの着ていた服が白く、そして神々しく変化し、最後に天使の輪っかが頭に浮かんだ。
これが、アザエルの天使としての姿であった。
「久しぶりの感覚だ……!おれ様達二人なら!」
「ああ!あいつに勝てる!」
悪魔と堕天使、異色のタッグは、人を弄ぶ狡猾な悪魔にその狙いを定めるのであった。
悪魔との契約条項 第二百三十六条
悪魔との契約は、人間以外とでも結ぶ事ができる。




