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契約その211 史上最強のrobot!

「わたくし、人の役に立ちたいのです」


 ユニ達が修学旅行から帰って来た翌日、不意にエリーが言い出した。


「へぇ……。そういう姿勢は立派だと思うぞ。やればいいじゃん」


 リビングのソファーに寝っ転がりながらルーシーが言う。


「ですので、何かできる事はございますか?」


 エリーがルーシーに聞いた。


 ルーシーは少し考えてから言う。


「じゃあ、とりあえずマッサージして貰おうかな」


「承知致しました」


 エリーは、ソファーにごろんと寝っ転がったルーシーの体をスキャンし、その凝り具合と、そして一つ余計なものを把握した。


「成程バストは……」


「余計な事しないでくれる!?」


 久しぶりに自分のコンプレックスを刺激されたルーシーは少し怒った。


「すみません。ではまずはここから……」


 エリーは、ルーシーの体をゆっくりとマッサージし始めるのだった。



「ギャアアアス!」


「何だ何だ!?どこからか怪獣の叫び声が……」


「か……怪獣じゃ……ねェよ……」


 ルーシーの叫び声を聞いて集まって来たユニ達に、息も絶え絶えのルーシーが言う。


「おれがマッサージして欲しいなんて言ったからだ……」



 紫音から「簡易レントゲン」を渡された風月がルーシーの診断を行う。


 アイロンの様な形の物体を背中に押し当てると、リビングのテレビにレントゲン写真が映し出された。


「おそらく……軽い捻挫ですね」


 レントゲン写真を見た風月が言う。


 風月は、ルーシーの患部に湿布を貼り、しばらく安静にしてる様に言うのだった。


「何とか大事に至らなくてよかった……」


 胸を撫で下ろすユニ達。


「安心したら喉が乾いたな」


 アキが言う。


「ではわたくしが淹れましょう」


 エリーが名乗りを上げるのだった。


 エリーがそう言うので、アキは彼女に任せる事にした。


「しかし、メイドさんに淹れて貰うコーヒーか……。一体どんな味なんだろう」


「や……め……やめておいた方が……」


 うつ伏せのまま安静にしていたルーシーが忠告したが、あまり大きな声が出せなかったので届かなかった。


「できました」


 エリーがコーヒーカップを乗せたお盆を持って来て、アキに渡す。


「おお、ありがとう。じゃあ……」


 では早速と、コーヒーを一気に飲んだアキだが、その直後後悔する事になる。


「ぬるい!砂糖も多い!」


 アキはそう叫ぶとコーヒーを吹き出した。


「コーヒーの淹れ方、まだわからないのか?」


 アキはゴホゴホと咳き込みながら聞いた。


「はい。申し訳ありません」


 それなら仕方ないか……とアキはそれ以上言うのを諦めた。


「やはりみんなに迷惑をかけてしまうか……」


 失敗続きのエリーを見ながら、紫音はため息をつきながら呟いた。


「じゃあさ、おれがそばについて色々教えるよ。だって成長していくAIなんだろ?」


 確かに、以前紫音は自分でそう言っていた。


「わかった。任せるよ」


 紫音は少し考えてから言った。



「それじゃあエリー、おれと一緒に散歩に行こうか。どこかに困っている人がいるかも知れないだろ?」


 ユニはエリーを誘ってそう言った。


 紫音も行けと肩を叩く。


「お二人がそう言うのなら……」


 エリーはそう言うと、ユニと一緒に外へ出るのであった。


 まだ五月の春でうたた寝でもできそうな陽気だが、意外と蒸し暑い。ユニはすぐに汗だくになってしまった。


 一方、エリーはロボットゆえか汗はかかない様だ。


「いいな、汗かかなくて」


 ユニが羨ましそうに言う。


 それに対してエリーは反論した。


「いえ、汗で体温調節ができない分、熱がこもりやすいのです。一応冷却装置は備わっていますが……その……絵面が悪いのであまり使いたくないというか……」


 エリーはもじもじしながら言う。言っている事はともかく、その仕草はかなり人間らしい。


「色々大変なんだな。ロボットも」


 ユニはそう呟いた。


 間もなく大通りに着いた二人は、横断歩道を渡ろうとする。


 歩行者用の信号が青に変わり、ユニ達も含めた歩行者達が一斉に渡り出した。


 そんな中、エリーは左右をよく確認した上でビシッと右腕を上げてゆっくりと横断する。


 その横を、他の通行人が怪訝そうな顔をしながら通り過ぎていった。


「いやあのちょっと……」


 見かねたユニがエリーに話しかける。


「何でしょうか」


 そう答えながらも、エリーはしっかりと右腕を上げながら横断していた。


「あのさ、幼児じゃないんだからわざわざそんな事しなくても……いや、それが大事なのはわかるんだけど……」


 ユニは、エリーの行動に理解を示しながらも、遠回しにやめる様に言った。


「『横断歩道を渡る時は、左右を確認してから腕を上げて横断する』、わたくしのデータベースにはそう記録されています」


 この融通の効かなさが、エリーがまだ「ロボット」の域にいる証拠である。


「それに……」


 エリーは、右腕を上げながら言う。


「なぜでしょうか。なぜ人間は、成長すると手を上げて横断する事をしなくなるのでしょうか」


「いやまあ……確かにそれはそうだけど……」


 ユニは返答に困ってしまった。


 その時である。


「グアン!」という大きな音が聞こえたかと思うと、何とトラックがユニ達の方へ突っ込んでくるではないか。


「マズい!」


 そしてトラックの突っ込む先には二人の小学校低学年男の子達がいた。


 この非常事態に、ユニは叫ぶ。


「エリー!あのトラックを止められるか!?なるべく穏便な方法で!おれはこの子達を避難させる!」


「承知しました」


 エリーはそう呟くと、トラックの運転手が春の陽気でうたた寝している事を確認、そして五秒後にはユニ達に衝突する事を確認した。


「少々恥ずかしいですが……『エアバック』起動」


 エリーはそう呟くとトラックの前に仁王立ちする。


 そして息を思い切り吸い込んだかと思うと、ボンッという音を立てながら、胴体がまるで風船の様に膨張した。


 一瞬にして数メートル級に膨らみ、エリーはその「巨体」と「弾力」で暴走トラックを受け止めるのだった。


 その隙に、ユニは男の子達を歩道へと避難させた。


 完全に勢いを殺す事はできず、エリーは数メートル引きずられたが、トラックは何とか止まった。


 完全に止まった事を確認すると、エリーは「エアバック」を解除、元のスリムな体型に戻った。


 トラック運転手は、駆けつけた警官に逮捕されたのだった。


 周囲がざわつく中、男の子達を見送ったユニは、エリーの元へ駆け寄って言う。


「助かったよ。ありがとう」


「いえ、お礼を言うのはわたくしの方です。わたくし一人では、あの状況で的確な判断はできませんでした」


 その言葉に対して、ユニも何か思う事があったのか、エリーに言う。


「人の役に立ちたいという心は立派だ。でも、一人でやるのには限界がある。だからおれ達がいるんだよ」


 その言葉に、エリーは感銘を受けた様である。


「マッサージをモミさんに、コーヒーの淹れ方を由理さんから習います。わたくしは、わたくし自身をもっと成長させていきたいのです」


 ユニは、その意気だとエリーを鼓舞した。


「なので今から……」


 エリーが言いかけたその時である。


 エリーの冷却装置が発動、エリーは鼻や耳から蒸気を排出するのだった。


 確かに絵面は悪い。エリーが嫌がるのもわかる気がする。


「あの……あまり見ないでください……」


 エリーは人間らしく、赤面しながらユニに言った。


 悪魔との契約条項 第二百十一条

AIは、人間と共に成長していく。

読んで下さりありがとうございます。

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