0046バーベキュー事件05☆
「ふん、どうせ逮捕されるなら、せめて目的を達してやる。ガキめ、胸を張って死ねや」
英二は俺たちに気付いているようだ。片目を閉じてみせる。それが合図だった。
次の瞬間、俺と純架はそれぞれ男たちに躍りかかっていた。
「何っ!」
俺と純架が相手のボウガンを蹴り飛ばしたのはほぼ同時だ。俺は拳で、純架は投げで、各々相手を攻撃した。
「こ、こいつらっ!」
男たちは虚を突かれた上、日頃運動していないのかろくに反応も出来ず、俺たちの強襲にあっけなくひねり潰される。純架が投げで床に叩きつけるのと、俺が拳でノックアウトするのとは、数秒の誤差もなかった。
視界の端で英二がボウガンを拾い上げる。男たちにその鋭い先端をことさら誇示した。余裕に満ちた笑顔を花咲かせる。
「残念だったな、お前ら。動いたら殺す。俺は本気だぞ」
男たちは敗北を悟ったのか、両手を挙げて降参の意を示した。黒服たちが続々と集まってきている。
純架がため息をついた。そして胸に手を当て、いささか場違いな台詞を発する。
「以上がこの事件の全貌だよ、楼路君」
かくしてバーベキューに関わる今回の事件は収束した。名づけるなら『バーベキュー事件』か。命懸けだったわりに、なんとも気の利かない題名だ。
犯人四名は警察に御用となった。毒で危篤状態にあった沢渡さんは一命を取り留めたらしい。回復を待って事情聴取となる予定だそうだ。
一方今回の暗殺計画を企てた「能面みたいな男」の行方は杳として知れず、警察は特定に手間取っている。「成功すればめっけもの、程度の感覚だったんだろう」とは純架の推測だ。
一時期気力で毒の効果をねじ伏せていた英二だったが、さすがに無理がたたって入院を余儀なくされた。それでも回復は早かったようで、翌日には退院したとの報せを結城がもたらした。
事件から一週間後、『探偵部』はバーベキューの仕切り直しに、俺の家に集まっていた。何をするでもなくただ喋るだけだったが、意外にも英二は顔を見せた。奴の性格なら「くだらん」と一蹴するのが自然なのに。
「この仕切り直しは近いうちにさせてもらう」
お袋が出した安い菓子を粛然と食べながら、彼は反省したかのようにそう言った。
「私、本当に怖かったんですから!」
日向は当時を思い返すたび背筋が凍るという。今も脳裏に再生しただけで涙ぐんでいるようだ。
「まあ、命を狙われるなんてこと、あんまりないからね」
奈緒は勇敢なのか鈍いのか、今回の一件にさして恐怖を抱かなかったみたいである。
「それより三宮君がスタンガンで結城ちゃんを打ったときの方が驚いたよ」
結城は気品あふれる手つきでティーカップを傾ける。薄っすら笑みを浮かべていた。
「さすがは我が主、英二様です。必要とあらば私をも黙らせる。なかなか半端なご主人様ではございません」
純架は英二に楽しそうに切り出した。
「そういえば楼路君から聞いたよ。三宮君、君は楼路君にこう言ったんだってね。『親睦ってのは、結城みたいに、命を差し出す覚悟で向き合って初めて深まるものだ』と」
英二は黙然とアイスコーヒーをすする。純架はその顔を覗き込んだ。
「僕らは命懸けで助けを呼びに行ったし、命懸けで君の窮地を救ったんだ。それでもまだ、親睦って奴は深まらないかね?」
純架がいたずらっぽく笑った。
「どうなんだい、『英二』君」
英二はあからさまに不機嫌な顔をしてコーヒーを飲み干した。溜め息と共にカップを置く。
「馴れ馴れしくするな」
そして深々と息を吸い込むと、時間をかけて吐き出した。頬を赤らめる。
「ま、助かったよ。ありがとな、『純架』。それから『楼路』」
俺たちの視線に耐えられないとばかり、彼はそっぽを向いた。俺は苦笑しつつ、英二の肩に肘を載せた。
「『英二』、改めてよろしくな。『探偵部』、頑張っていこうぜ」
英二はこちらへ嫌そうに面を向けると、はにかんだ、いい顔をした。




