表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学園ミステリ〜桐木純架  作者: よなぷー
夏休みの出来事
45/156

0045バーベキュー事件04☆

 すっかり肝を冷やした二人は慌てて目出し帽を脱いで喋りだした。一方はドーベルマンのような褐色の男で、もう一方はカマキリのような手足の長い男だった。前者が震え上がりながら言い訳する。


「……俺たちは素人だ。俺もこいつも、ネットの裏サイトで高い報酬目当てに応募しただけなんだ」


 唇を舌で舐めた。嘘をついているようには見えない。


「電話で呼び出された俺たちは、薄暗い古ぼけたビルの一室に呼ばれた。そこには能面みたいな男が気障(きざ)なスーツで待ち構えていた」


 カマキリ男が唾を飲み下し、後を継ぐ。


「奴は俺らにボウガンを渡し、扱い方を簡単に解説した。そしてこの山に来る、一番背の低いガキを射つよう言ったんだ。一昨日のことだった。報酬は300万という話で、まずは手付金として20万を渡してきた」


 だからボウガンの矢はあんなに下手糞だったのか。純架の尋問は続いた。


「そのバイクは君たちのものかね?」


「いや、男に使うよう押し付けられた。多分ナンバープレートは偽造だと思う」


「どうして僕らが河でバーベキューすると分かったんだい?」


「男に言われただけだ。俺たちは何も知らねえよ」


「君たちは全部で何人だ?」


「四人だ。二人河に残って車を監視してる」


 純架は疲労も隠さず、驚くべきことを言った。


「いや、五人だね。君たちに裏切られた沢渡さんも含めてね」


 男たちは同時に目をしばたたく。俺もびっくりして思わず声が出た。


「沢渡さんがこいつらの仲間? なんでそう思うんだ?」


 純架は長く息を吐く。その目に推理の機械が動き出す模様が映っていた。


「沢渡さんはボウガンの矢に撃たれたとき言ったんだよね。『は、話が……!』と。これは恐らく、『話が違う』と続けたかったんだと思う。沢渡さんが仲間だとすれば、『能面みたいな男』が僕らのスケジュールを知っていたとしても不思議じゃない。三宮君の『護衛は一人でいい』的な発言も渡りに船だったんだろう。恐らく沢渡さんは能面の男に雇われて、今日の手引きを任されたんだ。まさか自分も消されようとするとは思いもよらずにね」


 純架は見るものを(すく)ませるような冷たい目で二人を見下ろす。


「矢に塗られた毒は致死性なのかい?」


 鼻血が止まらない犬男は、まさしく犬のように首を振った。痛そうに顔面の中央を指で押さえている。


「さあ、分からない。『能面みたいな男』は『苦しみ抜いて死ぬよう気をつけて調合した』とか言ってたけど……」


『探偵部』部長は額の汗を拭った。その顔に焦慮(しょうりょ)の色がある。


「外気に触れ続けた毒がどれだけ元の殺傷能力を保持しているかは分からないけれど……。何にしても適切な処置を施されなければ、命に関わるかもしれないことは確かだ」


 純架は突然しゃがみ込み、自分の靴紐を解き始めた。慣れた手つきで取り除く。そうしながら二人に命令した。


「うつ伏せになって手を後ろに回すんだ。ボウガンに撃たれたくなかったら早くしろ」


 男たちは周章狼狽(しゅうしょうろうばい)して急いで言われたとおりにする。純架が彼らの背中に近づき、靴紐でそれぞれの手首を縛り上げた。そして(ゆる)い崖下へ一人ずつ突き落とす。彼らは斜面をごろごろ転がり、木に当たって停止した。


「これで良し、と。バイク借りるよ。さあ楼路君、乗って」


 純架は靴を投げ捨てると、バイクにまたがりエンジンを吹かせる。俺は仰天した。


「純架、お前バイクの免許持ってたのか?」


 純架は頬を綻ばせて否定する。茶目っ気たっぷりに言った。


「あるわけないよ。ただ今は非常事態だ。事故らないことを祈ろうじゃないか」


 俺はボウガンを手にしたまま後部座席に乗った。一応、残り二人の悪漢が下りて来たときに備えたのだ。


「運転中に奇行をやらかさないでくれよ。命に関わる」


「馬鹿だね楼路君、奇行は命懸けだからこそ最高に楽しいんじゃないか」


「おいおい……」


 純架はバイクを発進させた。




 何度も転倒しそうになりながら、純架は俺と乗ったバイクを器用に操り切って、麓まで辿り着いた。時間にして約10分。両足で走っていたのではこの十倍も時間がかかってしまっただろう。連中の追撃は俺たちにとって好都合に働いたのだ。


「どうしましたか、桐木様、朱雀様」


 泥まみれの俺と純架は、少し大きな農家にやって来た。そこに数台停まっている黒塗りの高級車から、黒服たちが出てきて激しく詰問してくる。俺たちを知っているということは、英二のボディガードたちで間違いない。俺と純架はことの次第を語り聞かせた。黒服たちの顔がみるみる緊張をはらんでいく。


高山(たかやま)、警察と救急車を呼べ。内藤(ないとう)福井(ふくい)、俺と一緒に山を登るぞ! 英二様に一大事だ!」


 指示が飛び交った後、黒服たちは一斉に動き始めた。純架と俺は車に乗り込む。今来た道を今度は再び帰っていくのだ。黒服の一人が怪訝(けげん)な顔をした。


「お二人も行かれるのですか?」


「三宮君は友達ですから」


 純架はそれだけ言った。また黒服もそれで黙認した。


 帰りは速かった。卓越したドライビング・テクニックを披露した福井とかいう黒服は、10分かからず俺たちを河の側まで連れて行ったのだ。


「ワゴン車だ!」


 出発したときと寸分たがわぬ位置に無事な車の姿を発見して、俺はほっとした。ますます勢力を増したセミの鳴き声が岩に染み入っている。黒服たちは危険も顧みず車から飛び降り、ワゴン車に殺到した。血相が変わっている。


「英二様! ご無事ですか?」


 ドアが次々開く。頼もしい援軍の到着に安堵してか、日向は泣き出していた。奈緒や結城が外に出てくる。失神しているらしい沢渡さんも運び出された。しかし――


「結城殿、英二様は?」


 肝心要(かんじんかなめ)の英二がいない。車内から忽然と消えてしまっている。黒服たちがざわめきたった。


 結城が――どうしたのだろう、夢遊病者のように――ゆっくり頭を振った。


「英二様は『犯人をおびき寄せて捕まえる。連中の狙いは俺だからな。結城、後を頼む』とおっしゃって、一人車外に出ました。5分前のことです。私は必死に忍耐されるよう懇願(こんがん)したのですが、英二様はスタンガンで私を打ち、もうろうとした私を置いて一人で出ていったのです」


 俺は舌打ちした。あの馬鹿、格好つけやがって。純架が顔色を変える。


「大変だ。捜さなきゃ!」


 とはいえ、まだ二人いるボウガン野郎の危険性もある。結局増援黒服軍団は三名が残り、残る四名で手分けして捜索することになった。


「お気をつけてください、二人とも」


 身を案じてくれる黒服に礼を述べると、純架と俺は山林へ踏み込みながら大声で英二の名を呼んだ。


「三宮! どこだ! 返事しろ!」


「三宮君! 今なら身長が8センチ伸びるシークレットブーツを50万で譲るよ!」


 こんなときに図々しい。


 俺は考えた。英二はどんな道筋を辿るだろう? 車を見張っている凶漢二名にむざむざやられるような行動は取るまい。恐らく森の中へ逃げ込んで、反撃できる場所を探すはずだ。身を隠せて、俺がやったように石でも投げて反撃できそうな場所……


「山小屋だ!」


 ボウガンの矢から身を守るのに山小屋はうってつけだ。沢渡さんが言っていたではないか。三宮家が建てた山小屋がある、と。


 俺の独語に純架は敏感に反応した。


「そんなものがあるんだね。どこだい?」


「確かこっちを指差してた」


 俺は十分くたびれきった体に鞭打ち、走り出した。今日は肉体を酷使する日だ。


 そのときだった。ガラスの割れる甲高い音が、空気を裂いて響いてきたのは。


「あっちだ!」


 重たい足を緩慢(かんまん)に繰り出しつつ走ると、程なく丸太を組み立てて出来たログハウスが視界に飛び込んできた。気品はあるが古さを隠せない建築物だ。1階建ての平屋だった。


 またガラスが粉砕される高音が鼓膜に突き刺さる。俺たちは足音を殺しつつ、慎重に玄関を覗いた。


「もう逃げられないぞ、ガキが」


 低い、しかし余裕たっぷりな声が聞こえてきた。純架が俺に静かにするよう目顔(めがお)で告げ、奥へと忍び足を伝わせる。俺も無音で後に続いた。


 開いているドアから覗いたそこは、広い応接間だった。暖炉とテーブル、柔らかそうな椅子6脚がそこの主役たちだ。窓を背にした英二がこちらを向いている。それに正対するように、二人の男がボウガンを構えていた。


「よくも俺の顔を腫らしてくれたな。何個も石を投げつけやがって……。だがこれでおしまいだ」


 もう一人がけたけた笑う。どこか一本ねじが外れていた。


「山小屋で応戦するとは気が利いていたが、かえって袋小路に追い詰められたな。もう逃げられんぞ。覚悟しろ!」


 英二は両腕を組んでほとんど傲然(ごうぜん)と仁王立ちする。死から自在であるその姿は不屈の威厳さえ伴っていた。いつの間にか毒の影響から脱したらしく、その顔は血の気がみなぎっている。


「観念するのはそっちの方だ。何せ桐木と朱雀が仲間を呼んで戻ってきたんだからな。さっきのあいつらの呼び声を聞いただろう? もう逃れられないぞ、お前ら」


 どっちが追い詰めているのか分からなくなるような、そんな台詞だった。男たちは一瞬(ひる)み、そうした自分に羞恥(しゅうち)したらしい。己を叱咤(しった)するように口を動かした。


「この餓鬼、こんな状況でも勝ち誇ってやがる」


 自暴自棄の粉に(まみ)れた声音だ。バイクの仲間二人が失敗したと分かった今、そうならざるを得ないのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ